アブソリュートVSアブソリュート
朝丘緋夜さんのキャラ七緒明日輝VS有和良春夏秋冬です。
キャラの能力欄はあとがきにて後述。
+ の記号が見える辺りまでは茶番長し。ではどうぞ。
「アセロラジュースひとつ」
「わるいね、アセロラ置いてねぇンだ」
「じゃあ石榴ジュースひとつ」
「わるいな、読みふってくんねぇか、読めねぇわ」
意味のわからないことを口にして、居酒屋の主人は禿げた頭を掻いた。有和良は溜め息をついて、ひらがなで「ざくろ」と机に指で書く。店主は理解してくれて「あるよ」と言うと有和良の腰掛けるカウンター席にことりとグラスを置いてくれた。アセロラないのに石榴あるのかよ、という奇妙さに驚きつつ、口に運ぶ。なぜかカウンターの隅にあった地球儀を回しながら、追加で親子丼を頼んだ。
その昔知人から奪ったミリタリージャケットに身を包んだ有和良春夏秋冬は、ぼさぼさの短い黒髪を掻きむしりながら、カウンターに突っ伏した。目つきがすこぶる悪いが、身長は低いのでさほどの威圧感はない、至って普通の少年である。本来なら十六という年齢的に、一人で居酒屋のカウンターに座ることなど、まずないだろう。
だが、いまは事情がちがった。狭い店の中のさらに狭い片隅で、肩幅を狭くとってちびちびとグラスをあおっている。彼の目線の先には、古めかしいブラウン管テレビ。画面に映し出されているのは、二メートルを超える巨躯の、学生……に見えなくもない男と、くるぶしまで届く長い金髪をなびかせる、ドレス姿の妙齢の美女。
有和良の、母親である。
「まじか……」
「にいちゃんどうした、なんか会いたくない知り合いでもいたのか」
「よくわかるね。大正解だよ」
「ははあ、この闘技場ってやつぁランダムにいろんな世界から人間を呼ぶらしいからなあ。そういう嫌な偶然ってのもよくある話なんだよ」
ちなみに俺は対戦抜きでただ居酒屋開くために呼ばれたっぽい、と店主は語る。元の世界では「安楽苑」という名前で店を構えているそうだが、住所を聞いたら有和良の知らない県の名前が飛び出してきた。どうやら、同じ日本人でも有和良とはちがう世界から招かれているらしい。並行世界というやつか。考えながら、また地球儀に手をかけた。
「あの……ところでいろんな世界、ってさ。時間軸とかもちがうの?」
「んー、まあそうみたいだな。闘技場ってな趣旨の集まりだから、だいたいは本人が最盛期の状態で呼びだしてるらしい」
「記憶は?」
「記憶は精神に結びついてる。精神は肉体のポテンシャルに影響する。ってぇことで、本人が戦闘に際して一番モチベーション高い時期と、肉体の最盛期とに折り合いをつけて呼びだしてるそうだから、だいたいが見た目通りの時期の記憶を持ってるそうだぜ」
有和良はもう一度テレビに目を映す。画面の中の彼女、マリアには……左腕が、ある。つまり、まだ有和良の父、彼女の元夫との戦いの前であり、有和良と戦う以前の姿である。はあ、と深く溜め息をついた。地球儀の上の、ルーマニアを指で押す。
「俺はもうあの人と二回戦ったあとの時間軸だってのに……父さんと戦う前のあの人ってことは、見つかったら問答無用で四肢くらいは潰される」
「おっかねぇな。昔のコレかい?」
「小指じゃないよ。むしろ親……っていうか俺、こういうのに巻き込まれるの二度目じゃないか? なんかすっかり忘れてたけど、そうだよなんかちょっと前にも、ある日突然太陽が真っ黒になって、白衣着た錬金術師みたいなのと戦う羽目になった気が」
「メタなことぁ言わぬが華ってやつだよ」
「ベタ?」
「いやなんでもねぇや。まあとにかくにいちゃん、隠れてたいなら協力はしてやるよ。戦闘に駆り出されるときはさすがにかばってやれないけどな」
「呼ばれないといいな……さっき控室で会った眼鏡の人とかの相手がいいな。あの人分別ありそうだったし、戦っても勝てそうだし」
「あ、おい。そういう戦いに消極的なこと言いなさんな、悪いこと言わないから」
「……たしかにデスゲーム参加者で真っ先に死ぬ人の言葉だな。ひょっとしてフラグたてちゃっ」《かぶるのって良くないと思いませんかー!!》
二人の戦闘中継がおわったテレビから、少女の絶叫が響いた。音が割れて、きいんと耳に痛い。なんだ、と思いながら店主、有和良、そのほかの客の視線が、テレビに向く。
画面にどアップで映し出されたのは、レンズに頬をこすりつける少女、出有珠・X・蒔苗だった。蒔苗はレンズから離れると、マイク片手に指を振っている。心なしか、有和良を見ているような、そんな気がした。
《たとえばギャルゲープレイしてて! 五人のヒロイン中二人くらいが! 同じシチュで告白とか、萎えませんかー!!》
「でんせつのさくら」と書かれた、明らかに安っぽい段ボールづくりの樹のセット前で、蒔苗が上目遣いしながら言う。その横に、さらに二人の蒔苗が現れる。二人はおとなしめな顔立ちと、すこし釣り目の顔立ちの、二人――というか、二属性に分かれていた。
《萎えます》
《萎えるわね》
《えっと、この僕たちは並行宇宙から召喚した同時間軸不完全同一存在なのであまりお気になさらず。いやー進行に際してさすがに身一つですと進捗はかばかしくなくてですね。つい銀の鍵で召喚しちゃいましたよ。……おいおまえらドッペルゲンガー召喚してみろよ捗るぞ、みたいな! ……んでですねぇ、とぉにぃかぁくっ、僕的にかぶるのは萎えるってことなんですよぉー!!》
また音割れしたが、今度は客も店主も有和良も予測できていたので、耳を塞いだ。
奇妙な連帯感が生まれ、あたたかな雰囲気になった。だがまだ蒔苗の茶番は続いていた。
《ヒロインの名前が母親とかぶる!》
《ご自愛メソッド乙》
《死去したモブキャラと同じ名前の自分!!》
《下手にモブへ名前付けたのが悪いわね》
《クラスでの呼び名「ガリ勉佐藤」「無勉佐藤」!!!》
《どっちでも悲惨です》
《挑発キャラとかクールキャラ気取ってる中二かぶり!!!!》《わたしか》《わたしですか》《いやあんたらはむしろ中二かぶれ》《いいかげんにしろ》《どうも、》《ありがとうございましたー》
すすす、とセット端へ三人が消えていった。
店内には、飲み会の一発芸で滑ったようなうすら寒い空気が流れた。しばらくの間ブラウン管は、じじじじと動いていることを示す音だけを流し、それがかろうじて、時間の経過を感じさせた。
三十秒ほどで三人はうつむいて戻ってきた。
《……え、ちょちょ。けっこうよくできたと思ったんだけどなあ。なに悪かったのかな》
《間?》
《勢い?》
《えーでも僕、声は通るほうだよ》
《緩急と抑揚よ必要なのは》
《そういう抽象的な言葉は逃げです、姉さん》
《じゃあどうすんの》
《テイク2でわたしたちの力を証明しましょう》
《いや無理よ。わたし次は立ち直れない》
《でもお客さん待ってるよ?》
《ならあんた行きなさいよ、怖いの?》
《え~でもぉ~ちょっとタイプじゃないっていうかぁ~》
《ギャルか》
《わたしもそういうタイプではありません》
《じゃあどういうタイプなのよ》
《はがね/エスパーとか》
《あっ、日本語通じないわこれ》
《いまどきグロス?》
《好きな奴で強くなってなにが悪いんですか》
《なにが嫌いかよりなにが好きかで……》
話している途中だったが、店主がボリュームを下げて消音状態にした。これ以上楽屋ネタに耳を傾けるのは辛いものがあったのだろう。次第に、客も注目しなくなり、店内にはふたたび普通の居酒屋としての雑多な会話が漂う。
あるべき姿に戻った。有和良も、頼んでおいた親子丼を店主から受け取り、食べることに専念しようとした。
「――というわけでぇ!」
がらっと店の扉を開けて、ぜえはあ息を切らしてきた蒔苗は、びくついて箸を持ったまま固まる有和良に向けてダーツを向けた。
「二つ名かぶりも、許しません! 真理はいつもひとつ! 戦いの場に――いってらっしゃい!」
ダーツが地球儀の日本に刺さる。有和良の体が浮いた。
+
転移させられた先は、ぱっと見た瞬間に理解した。
京都。清水の舞台。古き良き日本の建築の上に、椅子ごと足を下ろしていた。
遠く京都タワーを望む観光名所に、いまは二人しかいない。
「清水寺か」
《しみず寺です!》
「……いや読み方まちがってるって。きよみずだよ」
《コピーで作った場所なのでしみず寺です! さっき命名しました!》
ああそうなの、と理解を放棄した有和良は、とっさに持ってきてしまった箸の刺さった親子丼と、グラスに入ったジュースを足元に置くと、天から響く声にツッコミを入れるのをやめて、有和良は立ち上がった。
「で……相手は、そちらか」
影が立ち尽くしているような、そんな出で立ちだった。
長く伸びる黒髪の中にまとうのは、黒のロングコート。ボトムスやマフラーやグローブもすべて黒く、そして身にまとう全てが、なにかガスでも放っているかのように、黒く輪郭をぼやけ、にじませている。身長は有和良より五センチほど高いが、体格はガタイの良いほうでもない。武術の心得があるような、体幹の確かな様子もない。
けれど不気味な迫力があり、なんらかの異能を操るものであることは、気配から察することができた。思考を巡らし、眼前の敵とどう相対するかをはかっている、そういう視線がある。
《さあやってまいりました古都の名所! お帰りの際にはぜひ帰り道の坂で八つ橋なんかお買い上げいただきたい場所ですが、なにはともあれ戦っていただきます! 今回のカードはぁ、闇の真理・ダァァァァクアブソリュゥゥゥゥトッッ!! バーサァァァスゥ、》
「ちょ、やめろ! 名前出すなマリアにバレる!」
《絶対為る真理・アブソリュゥゥゥゥトトゥルゥゥゥゥスッ!!》
願い虚しく、有和良の異名は高らかに宣言された。ああ、と早くも崩れ落ちる有和良だが、まったく意にすることなく蒔苗は試合の前口上を続ける。
《はからずも真理の二文字を二つ名に持つ二人! しかぁし! 真理はいつもひとぉつッ! 雌雄を決して真に真理を名乗るに相応しい真価を魅せる人間はどちらなのか?! いま戦いの幕開けです!! それではカウントダウン――三、二ぃ、い》
ち、と言葉が続く前に、闇の真理と呼ばれた男は距離を詰めてきた。爆発的な加速、驚異的な脚力。全身に影をにじませる彼の手には、いつの間にやら一振りの直刀が現れていた。
「〝無名〟」
詠唱か、漏らした言葉と共に切っ先を後方に向け、振るう。この刀身もまた、彼の全身に合わせたように、漆黒に塗りあげられている。
「もらうぞ!」
ひゅ、と風切る音と共に、右片手で横薙ぎに振るわれる。これまで幾多の剣遣い、刀術師との戦闘経験がある有和良だが、闇の真理の剣はそれらにひけをとらない動きであった。
なんの準備もしていない通常の有和良なら、ひとつの対処もできず、首を落とされていたろう。
「せっかちだなぁ――」
通常の有和良なら――だ。上半身を反らして一閃をかわした有和良は、そのまま右手を床につき体をひねって、左足刀で闇の真理の首を狙った横蹴りを繰り出す。振るった右腕を上げることでこれを防いだ闇の真理は、その場に持ち堪えた。有和良は左足を当てたまま、床につく手を素早く左に入れ替え、体を反転させると変則の右後ろ回し蹴りで追撃する。さすがに、闇の真理は後退して、たたらを踏んだ。
「――意識に剣が追いついてないよ」
つぶやく有和良の体は、すでに戦闘へ向けて状態を切り替えられていた。
グラスに残っていた、石榴ジュース。この静かな水面に移る己の目を視ることで、有和良は幻覚の暗示を施していた。『己の体は人狼であり、人体など遥か凌駕する身体能力を持つ』と。この認識により、有和良の体は極限を越えた動作、火事場の馬鹿力を常に発揮できる状態となる。
異名の由来となっている彼の魔眼、〝絶対為る真理〟。吸血鬼である彼が生来持つこの魔眼は、目視を交わした相手に強力な暗示をかける幻惑の眼である。左右ひとそろいで真価を発揮するこの異能は、右目で相手の「Aに対する認識をBに対する認識に変更」し、左目で「認識を確定」することで、相手は「Aは最初からBであった」と認識するようになるというものである。
ゆえに幻術にかかったことにすら気づけず、効果が続く間その認識をぬぐい去ることは出来ない。ただし、AとBについて相手が正確な知識を身につけていないと発動せず相手がどちらか片方でも知らなければ、術にかかることはない。蟻を象に視せるような、大幅なサイズ変更もできない。また、固体・液体・気体の三態を入れ替えるような認識変更も不可能だ。あまりに、世界の理として大きすぎるためである。
……ずぐり。頭の中に、認識を変えられたことへの違和感を訴えるような、鈍く大きな音が響く。
(さて――、魔眼の限度はあと三回。どこまで、戦えるかな)
一度の認識変更が持続するのは約五分。うまく使っていかないとな、などと考えつつ、有和良は得物を構えた闇の真理と、一刀一足の間合いを保つ。
諸手下段に構えなおしていた闇の真理だが、構えには若干の隙があり、到底武術を修めた動きではない。身体能力の高さは人狼の暗示を駆使する有和良より上かもしれないが、余分な動きや大きな予備動作、踏み込みの際の体幹のぶれなどが、回避させるに足る甘さを生んでいた。とはいえ、苛烈な攻撃は一撃もらえば戦闘不能に追い込まれるだけの威力を発揮するだろう。厄介な相手であることには変わりない。
(でもなんか……そういう甘さとか、ぶれが、意識的なものにも見えるんだよな……それに)
考えつつ、右半身に構えて、右手を下ろし気味にする。視界を広くとって、相手のわずかな挙動も見逃さないように。闇の真理はこれに応じて切っ先をあげようとしたが、これに目端を利かせた有和良は問う。
「あのさ、なんであんた、刃引きした刀使ってるんだ?」
問いかけに、男は少し驚いたらしかった。ややあって、マフラー越しのくぐもった声で、ぼそりとささやく。
「なぜ、わかった」
「風切る音でわかるよ。真剣の音は、もっと鋭い」
「……ご明察だ、絶対為る真理。加減すべく、基本は刃をつけていない……ところでひとつ問うが、お前は、英雄ではないのか」
「英雄? いや……そんな風に呼ばれたことないな」
むしろ対極だろう、との思いが一瞬頭をよぎるが、言葉にしてはならないし、思ってもいけないことだと有和良は己を戒める。闇の真理は有和良の言葉にそうか、と納得とも安堵ともつかない言葉を口にし、また刀に意識を集中させていた。
「空間創造……いやこれほど大規模なものを行える奴は、いないな。やはり、なにも英雄庁とも関係ないか……」
「なにぶつぶつ言ってるのさ」
「こちらの事情でな。最初はお前が英雄――俺の敵かと疑ったのだが、そうではなく、一般人であるなら……」
「でも戦わないとここ出られないっぽいぞ。俺、前も似たようなことに巻き込まれたから知ってるんだけど」
「そう、か」
呆気にとられた様子で、また闇の真理の意識が、刀から逸れたのがわかる。剣心一体、などとは流派によっては剣術における極意であるが、こうも得物から意識が逸れるところを見るに、この男は刀を武器にするだけで、使いこなしているわけではないのだろう、と有和良は推察した。もしくは、本来的に刀など必要ない戦闘を行うタイプなのか。
「まあ、模擬戦みたいなもんなんじゃないかな」
「そうか」
「急な事態だし戸惑うだろうけど。気楽にやろう」
「……気楽な蹴りではなかったがな」
「いや反撃に気を抜けるレベルじゃなかったから」
「かもしれないな。こちらも状況についていけずいた部分がある。いまは、だいぶ慣れてきたが」
「じゃあ仕切り直しますか」
一寸、間を置いて、闇の真理は髪の間からこちらを見ていた。品定めするような、少し品のないような、そんな視線であったが、やがて、
「ああ。本気で、模擬戦をさせてもらおう」
含みのある笑みを漏らして闇の真理は構えを解いた。同時に気配が変わる。先ほどまではどこか、一線引いた位置を目指して攻めてくるような、遠慮のある気配だったが――研ぎ澄まされて、境を踏み越えてくる威圧感が付随した。やはり、あの甘さは演技込みのものであったらしい。
「実力隠してたとは、役者だね」
「悪役、だよ」
微妙な、そしておかしな訂正のあとに、闇の真理は直刀を消滅させる。あの、体からにじみ出る靄のような霧のような気体の中へ、解けるように消え去った。魔術、超能力、あるいは異能としての彼の能力は、あの気体を操るのだろうか。観察しながら、有和良は低く、突撃へ向けて重心を移動させる。
「いくぞ――〝捨名〟」
次に取り出したのは、左右の手に四振りずつの、黒い匕首。やはり先ほどの直刀と同じく、気体の中からあらわれているように見える。その四振りずつの構えに、有和良はかつて己の宿の従業員と戦闘を行った記憶を思い出し、う、とうめいた。
闇の真理はまず左手の四刃を投擲した。指を離すタイミングをずらすことで、攻撃の位置と拍子を変えた投擲は、先刻までの攻撃よりずっと滑らかで加減のないものだ。本当に、本気にさせてしまったらしい。
「ふっ」
息を吐きながら、有和良は前へ進む。かわすために横へ跳ぶのでは、残る右手の四振りに串刺しにされると判断した。乱れ飛ぶ刃の中、体に触れそうな二つだけをはたき落とし、身を黒刃の下に滑り込ませる。
と、嫌な感触があった。人狼の暗示により逆立った全身の毛が、わずかな気流の乱れに揺れ、鋭敏な肌の触覚が知覚した。この感覚も、その従業員との戦闘中に感じたものに近い。慌てて急ブレーキをかけた有和良は、後ろに体を倒し、反転し、床を這うような体勢に変える。
同時に頭上で黒刃の動きが変化し、乱れ落ちた。念動力かと思うが、ちがう。もっと単純な仕掛けだ。四振りの匕首には、柄頭に細くたなびく、黒い糸が結わえられている。糸の先端は、彼の手の中に。
「外したか……」
そのまま無為に突っ込んでいれば、糸にからめとられた隙にやはり、串刺しであった。狙いを読まれたと勘付いた闇の真理は、舌打ちして右手の四振りを投擲する。人狼として持つ特性、四足獣としての動きで低く走ってこれをかわし、大腿部に力を込める。
「っらァッ!」
両足で地面を蹴ることで加速し、瞬時に闇の真理の視界を横切る。人間ならば着地を上手くこなせないが、人狼としての動きを可能としているいまの有和良ならば支障ない。両手で着地してそのまま勢いに乗り、足を振り上げると側転しながら文字通り背後へ回り込む。
足の着地は左右で間隔を広くとり、低い構えで有和良は左拳を突きだす。背後を向こうとする動きの途中で、闇の真理を覆うにじんだ黒の陰影が、うごめいたように見えた。構わずに、まっすぐなキドニーブローを放つ。
だが有和良の手の内に残る感触は、かんばしくない。威力を殺された、にぶく緩い振動があった。瞬時に動いた闇が……衝撃を内部まで伝えさせなかった。そして反撃の手が迫る。
「〝闇の波動〟」
左掌が有和良の正面をとらえた。陰影……彼の言うところの〝闇〟が集まっていく気配を悟り、出していた左手で掌を上に弾く。掌からは人の頭ほどもある黒い球体が生成されて、音もなく虚空へ放たれた。次いで、右掌が向く。
「〝闇の奔流〟」
今度は集まった闇、が、掌に呑みこまれるように一瞬消える。次の瞬間には鉄砲水のように闇が噴出されて、圧力で有和良の足が止まった。
「ぐ、おっ」
「穿て」
振り下ろされる左手。同時に、上空に停滞していた闇の球体が軌道を変え、山なりに有和良を襲う。たまらず、奔流に乗って後方へ下がろうとするが、掲げられた右掌から斜め下方へ噴出されているため、耐えること、膝を屈することはできても、後退することができなかった。足を、縫いとめられている。
迫る黒球。回避の不可能を悟った有和良はその場で踏ん張り、丹田へ力を込めた。そして、なんとか首を固めると、頭頂部に直撃を受けた。見た目以上の重さと硬さがあり、ぐらりと意識が揺れる。そこで奔流が止まった。逃れようと横に倒れんとした有和良、しかし胸にも球体を喰らって、後ろへ吹き飛んだ。とっさに右肘を内側へ抉るように突きだして防御したが、骨が砕けるのをヒビ割れ程度に軽減したのみだ。
「一発、だけじゃ、」
「だれがそう言った? 〝闇の波動〟――」
息詰まり、肺が潰れそうになりながら叫ぶと、返礼はさらに四発の球体でやってきた。だが動きが止められていなければなんとかかわせる速度で、間を抜けていく。狙い澄まし、両手を交差させた闇の真理は、またも詠唱する。
「――〝捨名〟――」
広げた両手から匕首が、八つの軌道で有和良の進路を塞ぐ。四発の球、八つの刃。ここまで動きを縛れば、あとは止めがくる。振りかざされる両手の間に、闇が集う。
「――〝奪名〟!!」
柄から刃までが緩い曲線を描く、流麗なる黒き大鎌が現れる。今度は刃引きされてない、と冷や汗を流して風切り音を聞き、柄の中ほどを右、柄尻を左で握られた大鎌が、頭上から振り下ろされるのを見る。
回避はできない。左手から匕首と共に飛び、足に絡みついた闇の糸が原因だ。鎌を振り下ろす動きに連動して上がる左手が糸を引いているせいで、下手な動きは足を滑らせ、身動きとれない仰向けの死に体をさらすことになってしまう。かといって得物もなしで防ぐには、鎌の重い一撃に耐えうる肉体など持っていない。迫る刃を前に、髪を振り乱した闇の真理を見て、有和良は――目を見開き、笑んだ。
先ほどは奔流に呑まれてできなかったが、目を合わせることさえ、できれば。
「――『識れ』ッ!!」
相手の認識を狂わせる。
鎌の刃に両手を向けて、捉えようとする。あわや、両手の指がまとめて寸断される、その寸前で。
刃が消失し、黒き鎌はただの物干しざおと化した。
「っ!?」
「悪いね」
〝鎌〟の認識を〝物干しざお〟の認識へ。
彼は、直刀を刃引きしていたことについて有和良に問われた際、「加減をするため」とつぶやいた。そして彼の異能は、彼を覆う闇より、なんらかの物体を作り出すものであると映った。……ならば、認識が変われば作り出す物体も彼の思考・思念に沿ったものになると判じたのは、間違ってはいなかったらしい。
無造作に柄をつかむ。白刃取りと呼ぶのもおこがましい。だがたしかに、防御に成功していた。そこから人狼の膂力を利して得物を右後方へ引き寄せた有和良は、引っ張られて宙に舞う闇の真理に向けて、頭を刈るように左上段回し蹴りを繰り出す。
瞬時に、闇の真理は虚空を蹴った。それで、彼の体は移動して見せた。度肝を抜かれて困惑する有和良の蹴りは空振り、物干しざおと化した〝奪名〟を消滅させた闇の真理は、空中を滑るように転がり、立ち上がった。空中に、足場も無く――いや、集まった闇が、足場を為しているのか。なるほど、このような常識の埒外にある能力なら、常人の学ぶ体術などあっても意味が無いのかもしれない。
「けど空中戦かよ……」
言いつつ、有和良はこちらを無防備に見ている闇の真理に、またも絶対為る真理を発動する。今度は、〝闇〟を〝霧〟だと認識させるように。三度目の魔眼により、脳髄が軋むような音が頭の中にこだまするが、これで相手の攻撃手段もすべて封じられる、と考えた。
だが、なにも起こらない。いぶかるように闇の真理を見つめる有和良だが、起こらないものは、起こらないのだ。けれど相手が認識変更を行われる対象物A、Bについてまったく知識がない場合と、三態の変更・大幅なサイズ認識変更などいくつかの例外を除いて、この魔眼に侵されない認識は少ないはずだ。
明らかに気体に見えるが、まさか液体なのか。だがそれを確かめるには、残り一度の魔眼を使わねばならない。愛用の片刃剣・血肉啜る牙痕を携帯していない現状、有和良には距離を空けられた場合の攻撃手段がないというのに。
「……どのような能力かは知らないが、俺の奪名をあのように封じるとは。驚いたぞ、絶対為る真理」
こっちは焦っている最中だ、とは言い返せず、ただにらみつけて拳を構える。しかし、向こうも向こうで中距離・遠距離戦においては決定打となる技がないと見える。匕首も、球体も、止めに用いるには威力・速度・射程どれも足りていない。だからこそ闇の奔流で動きを止めたり、糸を絡ませるなどの細工を施すのだろう。
となれば。
「ひとまず」
遁走を開始した。素早い動きで舞台の端までたどり着き、痛む胸をおさえて、一気に柵を越え飛び降りる。
よもや清水の舞台から飛び降りる、を現実に実行することになるとは思わなかったが、意外と死者の少ない飛び降り場所である。人狼の暗示を得て、なおかつ落ちる途中で柱を蹴るなどして勢いを止めた有和良ならば、簡単に降りることはできる。そうして通路へ出ると、道を下って音羽の滝へ走った。
「逃がさん」
空中を走れる闇の真理は、有和良の居場所を見つけるとすぐさま下降してくる。飛び道具なしじゃ厳しいことについて改めて畏怖の念を抱きつつ、滝の横に走り込んだ有和良はそれをつかんだ。そして、匕首を投げんと振りかぶっていた闇の真理の懐へ向かうべく水面を駆け、壁、水の流れ落ちる石造りの水路、と三角跳びで視線の追尾・狙いの集中を避けて、斬りかかる。
「――な、」
驚愕に表情を崩した闇の真理は、見る。
有和良の手の中にある、
「――〝無名〟だっけ?」
闇をにじませた、直刀を。すんでのところで飛びのき、放てなかった匕首を構えながら後退する闇の真理に向けて、にやりと笑った。
「どう、やって」
「盗んだ。相手の能力を鏡映しにする、相手の真理を奪い取る、それが絶対為る真理だ。さっきの鎌も、もう俺のものだ」
勝ち誇る笑みを強め、切っ先を向ける。たじろいだ闇の真理は、けれどまだ投擲の体勢を崩さない。上空二メートルのところに立ち尽くす彼と、相対して滝下の水の中にいる有和良。彼我の状況にはさほどの変化がなかったが、奇妙な能力に対する違和感が、闇の真理の追撃を留めていた。
もちろん有和良は盗んでなどいない。そんな能力を、彼は有していない。
ただ、闇の認識を変えることができないのなら。他のなにかを闇だと認識させればいいのではないか、と考えたのだ。幸いにも、闇の真理は己の得物、あるいは技に固有の名称を与えている。有和良は舞台から飛び降りる前に、あるものを彼の〝無名〟への外見認識に、変更しておいたのだ。
音羽の滝から流れる水をすくうべく使う、長い柄杓。これを無名の認識へ変更し、有和良は慣れない得物で水中を掻き、いい加減な脇構えをとりながら、相対した。
「あんたの〝闇〟の防御力、大したもんだけど。同じ〝闇〟をぶつけられたら、どうなのかな」
もちろん実際にぶつけるのはただの柄杓だ。砕けて落ちるに決まっている。しかし、相手の思考によってあの闇がうごめくのを、有和良は確かに見ている。ならば、相手が弱気になり、「防げないかもしれない」とでも思えば、闇の防御は薄くなる。そこを突けば、勝機はある。
「……たとえ盗めても、」
そこで闇の真理は、さらに距離をあけた。
「当てられなければ、いいだけの話! ……〝闇の波動〟ッ!」
匕首に加え、球体を生みだす。若干ではあるが水に足をとられる有和良を、完全に中距離から仕留めにかかるつもりだ。得体のしれない無名には、触れずいるつもりなのだろう。
一斉射撃が始まる。匕首が空を裂く残光と化す。糸をからめて、確実に次の黒球を当てる算段だろう。その前に、と、有和良は匕首を弾こうとしながら、膂力を振り絞り柄杓を振るった。体に触れそうだった刃のうち三つを、横薙ぎに弾こうとする。
「甘い」
途端に刃が出鱈目に、軌道を変化させる。左手に残した糸を引くことで連動して刃が動き、わずかだが柄杓の軌道を逸れる。先読みされて柄杓は空振り、有和良の左腕と右足と右肩に、匕首が刺さる。おまけに糸で絡めとられ、柄杓は封じられた。策が成功したと気づく闇の真理は残る刃にも糸の操作を与えようとしたか、腕と指先をうごめかす。けれど攻撃は、中断せざるを得ない。
まったく予期せぬタイミングで、眼前に投石が出現した。
「……な、ぜっ!?」
水中をすくう動作の際に、柄杓の先端で石ころをすくっておいたのだ。振るった瞬間に、それが放たれた。だが柄杓を無名と視ている彼には、そんな小細工の存在は気づけなかった。
さすがに目を失うわけにもいかないのだろう、糸を手放した右腕で防ぐ。そうして視界を狭めてしまい、腕を下ろして視界を元に戻したときには、跳躍した有和良が目前に迫っていた。
得体のしれない「盗んだ」との能力への警戒、そこから中距離戦へ移行しようとする相手の心理状態。これらを逆手にとって奇襲の根幹をなし、有和良は己が間合いを取り戻した。
右手刀を振り下ろして叩き落そうとしてくるが、その前に有和良の左肘が、高く掲げられ二の腕に当たり攻撃を止めた。そのまま左半身でするりと滑り込み、肩甲骨から背骨にかけてをもたれさせるように、密着させた。どこで身に付けたか本人も覚えていない、鉄山靠の動き。
「く、〝闇の」
つぶやこうとしているが、それよりも有和良の動きは断然早い。
空中では踏み込めない。つまり、地面の反作用を利した発勁は使えない。ただ、有和良は匕首を投げる際も闇の真理がしっかり踏み込んでいることを観察していた。つまりこの空中移動は浮遊などではなく、やはり確たる足場を生みだす能力なのだ、と。
ならばその足場を使わせてもらえばいい。確実に足場があるのは――相手の、足の裏だ。
背を向けるようにして両足を、闇の真理の足の上に載せる。体を覆う闇が、いくら防御する性能が高くとも、零距離の密着状態で受ける衝撃までは殺しきれまい。重心を落として発生させた反作用による沈墜勁を強靭な脚力による脚の伸長で喰らい尽くし、腰を入れる動きにて内部で纏め上げた運動エネルギーを、体当たりとして叩きこむ!
「〝徹甲〟」
衝撃が振動として伝播する感覚を背に受け、次いで、有和良は呼吸を止めた相手の重みを、感じることとなった。ふ、と足元が消えるように軽くなり、闇でできた足場も霧散したことを知る。
ばしゃんと派手に水しぶきをあげて着水、というほどでもない深さの水場へ帰還した有和良は、ほうと溜め息をつくと、水場から出て肩の荷を下ろした。闇の真理の、纏っていたコートが端から崩れ始めていた。長髪も先端から消え始めている。
「ぜんぶ、闇で作った装備だったのか」
静かになって滝の音しかない場所でつぶやき、有和良は気になったので長髪が消えるさまを見届けようとする。目はともかくとしてあまり顔は見えなかったが、どんな顔をしているか、気になった。
いよいよ髪はセミロングにまで後退し、口許を隠していたマフラーもほつれ消えかけている。そうして、鼻筋が見え、白いまぶたが目に入った瞬間――ぐわっ、と目が開いた。
目。目なのか、これは。闇そのもの、先ほどまでと違い、白目がなくがらんどうの眼窩。不気味すぎるそれを見て、臆した。途端に、マフラーの消えた口元が動く。
「〝闇の、波動〟」
がんっ、と後頭部を殴られた衝撃に、意識を刈り取られた。
+
なんとか身を起こした闇の真理――七緒明日輝は、空中に停滞させたままだった残り四つの球体を消滅させ、ごほがはとむせたような音を響かせた。
白目を黒く染めた技〝闇の鼓動〟による自傷というべき痛みは、まだ内臓を荒らしている。ぎりぎりで発動が間にあったその技は、血液中に闇を具現させ、操るというものだ。心臓部へのダメージで迷走神経反射性失神などを起こさないよう、七緒は心臓周辺の体内にも、闇による防御膜を敷いた。
これが功を奏したか、息も出来ないほど辛いものの、なんとか七緒は意識を保つことに成功した。そして足場だけ崩すことで完全にノックアウトされたと見せかけ、反撃のための闇の波動のみを、空中へ停滞させておいたのだ。
「……ったた、でもやっぱり、アバラは折れたなぁ」
戦闘時よりいくぶん柔らかな口調でぼやく七緒は、長髪を失い通常通りになった頭を掻いて、立ち上がる。
「あーあ、労災申請もできない戦いで怪我するのはいやだね」
普段もそんなに変わらないか、などと言って、懐から取り出したラッキーストライクに火をともす。深く一服して、存分に煙を堪能したあとで、吸い殻を携帯灰皿に収めた。
「まったく、最後の一撃はどうしようもない幸運の一撃だよ」
どちらに対して言ったのか自分でもわからず、でもとりあえず自嘲気味に笑った。
『七緒明日輝(悪役時はダーク・アブソリュート)』
全体ランクA
体力:B
知力:B
攻撃:A
防御:A
運勢:D
敏捷:A
精神:B
キャラ:半未来、半異世界の日本が舞台の拙作『僕の仕事は悪役です。』の主人公。亜悪と呼ばれる犯罪組織の幹部だが、実は悪役を演じるアルバイトの公務員。普段は大学に通うごくごく普通の大学二年生。やや伸びた赤錆色の髪で童顔、若干垂れ目。身長は一七〇センチ。ラッキーストライクを愛煙している。
普段は柔らかい口調で、気性も穏やかであり真面目、いつも微笑んだような表情をしている。一人称は「僕」だが、仕事の時になると一転「俺」になり、感情の一切を隠して全体の目標のために行動する冷徹な悪役になり切る。
特殊能力:
ニューセンス「具現思念」
・想像したものを闇という形で創造する特殊能力。戦闘時はこの闇でコートとマフラー、黒髪の長髪、グローブとブーツの衣装を創り出す。戦闘のほとんどをこの能力に依存する。また、必ず武器名、技名を口にする。
『使用武器』
「無名」
・闇で作った刃のない刃渡り九〇センチの直刀。手から常に闇を送り切っ先から排出することで、傷ついても即時修復可。基本的に打撃、防御用。
「捨名」
・同じく闇で創った、刀身が太く短い匕首。柄頭と指先が闇の糸で繋がっており、投擲後もワンアクションだけなら操ることが可能。左右四本ずつで使い、投擲用。
「奪名」
・同じく闇で創った、全長二メートルを越す大鎌。SとLの中間のようなフォルムで、右手は順手で柄の真ん中、左手は逆手で柄尻を持ち腰溜めに構える。本気の近接戦闘用。
『技』
「闇の濁流」
・右手から無形の闇を怒涛の勢いで噴出す。飲み込まれたら数秒身動きが取れなくなるがほとんどノーダメージ。目くらまし、撹乱用。無名と同時に使うことで月牙天衝!も夢じゃないが、威力はほぼなし。
「闇の波動」
・左手からバレーボール大の闇を創り打ち出す。まともに当たれば確実に骨が折れるレベルだが、投射速度があまり速くないため見切りやすい。同時に五つまで作成可能。
「闇の軌跡」
・闇を手足に絡めることによって身体能力の強化が出来る。空中、水上も歩行可。戦闘時は常に使用しており、金属バットぐらいなら簡単にへし折れる。見た目は身体の周りが黒く滲んだように見える。
展開:講義中に突然呼び出されかなり困惑。更に出有珠のキャラに圧倒され、なかば自棄になり戦う。初めは適当に終わらせようと引き気味で戦うも、途中から訓練だと思い本気になり始める。
攻略法:明日輝は主に中距離で相手の出方を伺う「後の先」タイプです。まず無名で相手の戦法を読み、状況に合わせて戦い方をコロコロ変えます。攻撃、防御、敏捷と平均的に高いためどんな相手でも引けを取りませんが、負ける戦い方が身体に染み付いているため、力を出し惜しみし止めを刺しに行きません。また、平均型なので一点特化型に弱く、圧倒的な何かを繰り出されると距離を取る癖があります。
『有和良春夏秋冬』
全体ランク:A
体力:A
知力:B
攻撃:A
防御:B
運勢:E
敏捷:A
精神:B
キャラ:
現代が舞台の「宿屋主人乃気苦労日記。」より、とある事情で宿屋主人を勤めることになった十六歳。異能はびこる世界に暮らしていたわりには常識人。だが吸血鬼。ぼさぼさの黒髪と目つきの悪さ、中肉で一六四センチしかない身長と、一見普通に輪をかけて普通な少年。
しかし卓越した戦闘能力を誇り、かなりの手練。だが基本的に加減するタイプなので、模擬戦のほうが強い場合も多い変な奴。一人称は俺。口調はゆるい。服装はミリタリージャケットにデニム地のボトムス。
特殊能力:
『甘き痛み』
吸血鬼の牙が持つ特殊な毒。噛みつくことで相手の体に毒を打ち込み、足腰たたない恍惚状態に出来る。連続使用は出来ず、毒を再び溜めるには一時間ほど間を置く必要がある。名前の由来は〝吸血鬼は生涯の伴侶からしか血を吸わない〟という伝承。
『絶対為る真理』
吸血鬼の持つ魔眼の一種。彼にとっては異名ともなっている。視線を合わせると発動する。右目で相手の「Aに対する認識をBに対する認識に変更」し、左目で「認識を確定」することで、相手は「Aは最初からBであった」と認識するようになる。ゆえに幻術にかかったことにすら気づけず、効果が続く間その認識をぬぐい去ることは出来ない。ここでは精神判定があるキャラはランクSであっても問答無用で術中に落ちる(ロボットなど無機物は無効化)。
ただし、AとBについて相手が正確な知識を身につけていないと発動しない。相手がどちらか片方でも知らなければ、術にかかることはない。蟻を象に視せるような、大幅なサイズ変更も不可能。また、固体・液体・気体の三態を入れ替えるような認識変更も不可能。効果持続時間は約五分。発動回数は日に四回が限度で、それ以上使えば脳への過負荷により有和良は失神してしまう。
基本的な使い方は相手の得物を他の物に視せて動揺を誘う、または鏡や刀身に映る自分の目を見て自身の肉体を人狼だと認識させることで人体のリミッターを外し、限界を越えた身体動作を可能とすること。要は火事場の馬鹿力。なので戦闘終了後はひどい筋肉痛に悩まされる。人狼の認識が保つ間は野生の狼並の俊敏性と跳躍力と勘、並びにヘビー級ボクサーを凌駕する攻撃力を得る。
※思念の物質化である闇に対しては、七緒の世界でも概念としての定義ができないため認識変更ができなかった。無名は七緒自身の中で形状を定義してあったため、外見認識のみを変えられることで発動した。
『とある拳士から習ったなんかよくわからん体術』
有和良は身長の低さからリーチが短いので、蹴り技が主軸。絶招は《徹甲》要は寸勁。零距離の密着状態から腰を落としつつ半歩踏み込み、その震脚による作用反作用で生じた上方向への運動エネルギーおよび送り足を伸ばしたことで生じる前方への推進力を堅牢な足腰を介して伝達、体を外側へ開く動きを通じて、拳や肘で以て力の全てを相手に突き入れる技術。沈墜勁と十字勁を基軸としている、とか。普段の攻撃では纏糸勁を意識しているらしい。
特に瞬発力に優れる人狼の動きで懐に入って打ち、鎧相手でも、衝撃だけは貫いてダメージを与える。