5前半
前半後半に分けます
大陸で最も魔術が盛んであるツバィトラという国は、内陸に位置しているが、隣国であるアーバレッフェルと王族同士仲が良いためこの二国間では貿易も人も多く行き交いし交通も発達している。
他国より進んだ魔術の技術を持つツバィトラ、また豊かな海に面し他国と貿易の盛んなアーバレッフェル。
内陸にあるツバィトラはアーバレッフェルと密接であることで他国の珍しい物品を取り入れる事が出来た。
それは新たな魔術技術の向上を促した。
ここはツバィトラの首都であるナノイから西へ少しずれた場所に位置するイメルトという街である。
イメルトも首都に近いことで魔術の店が首都程ではないが多い。
バーレ探偵事務所から下へ下へ降り、人気のない路地へ入った所に、人目を避けるようにひっそりと佇む魔術師専用の薬品や植物また輸入品を扱っている店。
アルフはよくこの店を利用するのは、この店の取り扱う品数が多いのと、店主の人柄がそれに一役買っていた。
人付き合いが苦手なアルフであるが、店主から得られる情報は魔術師にとっては貴重な情報ばかりでいつの間にかこの店の常連になっていた。
同じような理由で人気のない場所に構えているにも関わらず、多くの魔術師がこの店を利用する。
アルフはよく客の足が遠退く時間帯に足を踏み入れ、薬品と材料を買い、店主と少し話す。
今日もそのつもりでこの店にやってきた。
木の古くさいドアを開け、中へ入ると店内にはふわふわと浮遊する南瓜の灯籠が複数店のあちこちに散らばっていたのが、ドアのベルが鳴り客が入ったと知るや否や一斉に此方を向き「いらっしゃい」と口々に言った。
南瓜は目と口がくり貫かれたハロウィンの灯籠である。
店内の様々な薬品や鉢に入った植物やアイテムなどをぼんやり照している。
この店には、店主の趣味が店内所々施されていてこれも店主の趣味の一つである。
薄暗い店の奥のカウンターから男が現れ「いらっしゃーい」と笑顔で客を迎えた。
紫色の長髪、紫色の瞳をしていて、魔術師にしてはカジュアルな服を着ていた。
アルフは「ああ」と頷き男のいるカウンターへ歩いて行くと、なんだなんだと南瓜がアルフの周りに集結した。
一気にアルフと男の周りが明るくなった。
「この前頼んでいたものを頼む」
「はいはーい。もう袋に入れてあるよー」
間延びした語尾が男に間抜けそうな印象を与えるが、彼はこの店の店主マルック・ヴェサ・ヴァンスカである。
ドサリとカウンターに置かれた紙袋の代金をカウンターに置いてアルフは紙袋を受け取った。
「んーで、今日も何か聞きたい?何か思うところがあるみたいだねー」
彼は客とよく話をするので彼には様々な情報が入る。
マルックの醸し出す話しやすい雰囲気と、真剣に相談等にも乗ってくれる優しさが客から色々な話を引き出させるのだった。
アルフは早速何か感ずかれた事に流石、と感心しながら少し重い口を開く。
「…悪魔関して詳しかったよね」
「ん、まーね!奥さんからも色々聞くし。悪魔に興味が?」
「いや…悪魔召喚に成功したのはいいが、生まれたてを召喚したらしい」
それを聞いてマルックは驚いた顔をした。
今回は最近召喚した悪魔について、話をきくつもりであった。
アルフは正直そこまで悪魔召喚が得意ではない。
探偵所のあの二人より召喚術に対して技量があるが、召喚術は自分が召喚したい悪魔に寄って魔力量を変えたりする事が最大の難所であり、魔力量調節技能や知識が必要なのだ。
魔力量調節についてはアルフは問題なかったが悪魔召喚には失敗することも多い。悪魔によっては召喚者が気に入らないと魔界に帰る悪魔もいる。
契約は短期契約なら二三度あるが、悪魔に関しての知識はあまりない。
それに対して店主であるマルック・ヴェサ・ヴァンスカは悪魔召喚が大変得意であることが良く知られており、これもまた珍しい事であるが召喚した悪魔を妻にしている。
今は妻である悪魔は悪魔である事をやめ人間となり、多少魔力は落ち半永久的寿命は人間と同じになったが、元悪魔は魔界には行けずとも悪魔と未だに交流があるらしく店にアルフが来る時間帯は居ない事も多い。
まあ、店主であるマルックは悪魔について知識はあるに違いないので、あの悪魔にしては能天気な気質の持ち主であるメルについて幾らか薬品を買うついでに質問してこようと思ったのである。