4決心
ショタコンについて変態やら何やら暴言吐いてるキャラがいます。
ご注意下さい…。
私は一人で先ほど通された部屋にいた。アルフは何か用事があるようで外に行ってしまった。
契約者がいない寂しさに引き留めそうになってしまったが、ぐっと堪えた。
木製の床に質の良さそうな絨毯が部屋の真ん中に敷いてあって、その上に牛革の黒いソファーが向かい合い、その間には茶色い机。
そのソファーと机の右側、部屋の奥には社長みたいな机と椅子。
社長の椅子は回転式で椅子の背後には大きな窓。
窓の向こうには、日本では見かけないロンドンっぽい町並み。
社長椅子からこの街を一望出来るなんて素敵だなあと、窓にへばりついて眺めていると、ドアの向こうからライナーさんと背の高い青年が現れた。
背の高い青年は暗い緑色でアルフやライナーさん程華やかな容姿ではなく一見地味であるが、顔は整った青年である。
首にはカメラが掛かっていた。
あれ、カメラあるんだ。
最近のカメラは小さくて軽いものが多いが青年が下げているものは大きめのカメラであった。
青年は手のトレイに4つカップを乗せている。
「もー!さっき帰ってきたばっかりの俺を労らずにコキ使うんですね所長はー!
お茶くらい自分で淹れて下さいよー」
「ははは、悪い悪い。お前の淹れて茶が一番いいんだ。
お前もゆっくり後輩に挨拶したいだろ?」
「えーっまあそうですけどー…」
と言いながら背の高い見知らぬ青年とバチンと目があった。
先ほどまでの拗ねたような表情が消えて破顔し、青年が人の良さそうな笑顔を私に見せる。
「あ!こんにちは、始めまして。所長から君の事聞いてるよ。俺はイザーク・トゥロン。この探偵所では情報収集を担当してます。メルヴィン君だっけ、よろしくね!」
中央の机にトレイが置かれ手を差し出され、私はそれに応えた。
「えっと…メルヴィンです。どうぞよろしくお願いします」
情報収集とはどういった事をするんだろう、なんだか凄い世界だなあ。
あとイザークは人柄が結構良さそうだ。
私はイザークを見上げ少し笑顔を作った。
「へぇーこれは可愛いですね。これだけ顔整ってたらあのジジィも気に入るでしょうね、っていうかタイプでいえばドンピシャですよ」
「ほう、そうなのか。顔は綺麗めにしたとアルフが言っていたがアイツの好みと一致するとは…こりゃ仕事が早いかもしれないな」
一体何の話をしているのやら分からず首を傾げたら「うわー!これはイイ!」といってパシャパシャ私を撮り始めた。
まあこの容姿だ。
無理はないが撮られているのは所詮私である。
微妙な気分になった。
ところで仕事とは今回の契約に関わる事だろう。
そういえば契約の内容について聞いていないので教えてほしかった。
わざわざ可愛らしい可憐な少年に変身させたからには何か訳があるのだろう。
私はパシャパシャ撮るイザークさんを横にライナーさんに話しかけた。
「あの、ライナーさん。私契約内容を聞いてないんですが何をすればいいんですか?」
「ん?ああ、アルフは説明してなかったか…」
スタスタとライナーさんは社長机の方に歩いていき、引き出しから書類と写真を取り出した。
そのうち写真の方を私に渡す。
写真は白黒だったがそこに写りこんでいたのは、何やら太った厳しい表情をしたおじいさん。
スーツ姿で歩いている姿を撮影したらしいが、厳つそうな人や細いけどローブを着た人が彼を囲っている。
ボディーガードか何かだろうか。
ガタイのいい人はボディーガード、ローブの人は魔術師か何かかな。
多分彼はお金持ちなんだろう。
私はライナーさんの顔を見上げた。
「この人…?」
「そいつが今回のターゲットだ。名前はキリル・マルコヴィチ・ペトレンコ。
代々古くから続いてきた貴族の家柄を誇りにもち、プライドが高く高飛車。
息子に家督を譲ってからは庶民が羨むような豪遊生活を楽しんでいるとか。
娘が皇帝の正妻になってから政治に口出しし始めてな。
何かと邪魔に思う貴族様が多い。
そこでこの探偵所に依頼があった」
「依頼、ですか」
「ああ、ヤツの失脚を手伝う材料が欲しいとの事だ」
ライナーさんは書類をパラパラ眺めて社長椅子にドカンと座り長い足を組んでにんまりした。
その表情に口がひきつった。
嫌な予感がする。
「…その材料って、な何なんですか?」
「それはだな――」
「このジジィは変態趣味なんだよ!顔の造型の美しい少年を誘拐・監禁して良からぬ事をしてるんだ!」
興奮気味に話すイザーク。
横から邪魔が入られたライナーさんはジトリとイザークを見るがイザークは私に事の詳細を話す事に必死だ。
「手下を使って美少年を誘拐させて監禁させてるらしいんだよ。最近、この街の至る場所で少年が消える事件が多発しているんだ。これはまだ調査中で騎士団や国の役人だとかが調べてる最中だから、ペトレンコ氏と結びつけるにはまだ尚早だけど、俺の情報網は逃さない!
最近、ペトレンコ氏の屋敷のメイド達が屋敷の地下の方から子供の声がするって怖がって噂してるのを俺がキャッチしたんだよ!
俺の勘が告げてるんだ!犯人はこの…キリル・マルコヴィチ・ペト…いっっ!?」
「はーいはい、一応アルフが結界防音の魔法かけてくれてるから探偵所ではいいが、盗聴はいつ何処で行われてるか分からない。
あんまり外で犯人がどうこうを大声で喋らないように普段から気を付けろー?イザーク」
「イ、イエス。ボス」
イザークさんはライナーさんに耳を引っ張られていた。
イザークさんは涙目で赤くなった耳を擦っている。
ふうと息をついてライナーさんが髪をかき揚げて苦い笑みを見せた。
「まあイザークに先に言われてしまったが、これで君は君のすべき事求められている事を理解したと思う」
「はぁ…」
アルフが始めに整った顔の少年姿を固定するように言った謎が解けた。
私は自然と顔の筋肉がヒクヒクとひきつらせていた。
アルフは美しい中性的な赤い目に銀髪という人間離れした容姿だが、少年にしては育ち過ぎる。
顔は少年っぽい幼さがあるが背が高く少年には見えないイザーク。
もちろんライナーさんは大人の爽やかな男性である。
成る程、事実を確認するためには少年が必要だったんだな。
それで強制で悪魔を召喚したのか。
短期契約という形からこの依頼が遂行されれば私は用済みであるとわかる。
私は悪魔らしいので契約が済めばアルフとは離れる。
そうなると多分もう二度と会えないんだろう。
私は知らぬ間に片手をぎゅっと握りしめて俯いていた。
それを見て、私が貴族の元に誘拐される事を不安に感じていると思ったライナーさんは、屈んで私の頭に大きな手を置き下から除き込んで言った。
「あー…、まあ心配するな。お前に危険が及ぶ前にアルフやイザークに突入して助け出すようにするから、な?」
ニカッと笑ったライナーさん。
その隣で心配そうに此方を気にするイザークさん。
そしてここにはいないアルフ。
可笑しな事に恋愛をまともにしたことない私は契約者であるアルフに一目惚れをした様だった。
これまで召喚されてからもあまりまともに話さなかった契約者。
あんな綺麗な人に一目惚れするなんて、私は多分不運なんじゃないかな。
振り向いてくれるはずないのに。
心配してくれるライナーさんてイザークさんほっぽってアルフの事を頭に浮かべるなんて笑えない。
私はすぐ用無しになるのに。
私は日本人のごく普通の女のコ。
それなのに悪魔になって今は姿さえ違う。
もし召喚したのがアルフじゃなかったらこんな風な気持ちになんてならなかっただろう。
これは恋かそれとも憧れかはわからなかった。
でも彼にしてあげれることって、やっぱり今回の契約を悪魔である私が守ることだ。
「契約内容を聞かせなかったアルフ先輩が悪いですが…。了解して契約結んだ以上…やはり実行してくれないと…」
「あ、あのイザークさん、ライナーさん」
「え?あ、どうしたのメルヴィン君」
私はイザークさんとライナーさんの顔を見上げ、決心していった。
「私…やります」
「おお!メルやってくれるか!」
「メルヴィン君!」
「はい…でも危険になったらすぐ助けて下さい。生まれたての悪魔なので」
「任せといて!アルフ先輩は強いから!」
「あれ…そこイザークさんが助けてくれるんじゃないんですか?」
「俺は情報収集担当だからね!強くないよ!」
「威張ることではないと思います」
メルヴィンは決心しました。