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3二の名




「始めまして。君がアルフの契約魔だね。俺はライナー・アロイジウス・バーレ。このバーレ探偵事務所所長だ」



そういったのは、茶髪に青い瞳のこちらは線の細いアルフとは違い、男らしい筋肉が服の上からでもついていると分かるガッチリした人だった。


かと言ってムキムキではなく丁度よい男らしい均等のとれた体に、精悍な顔立ち。


恐らく20代後半。

これは…格好いい。


爽やかな風貌で大層女性にモテるであろうことは想像に容易い。


私も爽やかな男性は好きだ。


好き……なはずだったが…。




「…あ、はじめ…まして」



あれれ…おかしいな。

美形にドキドキしない…。

アルフで耐性が一気に付いたか?


爽やかな笑顔を向けて、大きな手を差し出すライナーさん。


私は何の感慨を覚える事なくぎゅっと、――今は少年の姿なので当然小さい手を握った。


私は軽い人見知り。そして軽くだが男性が苦手である。


女子が多い中で育ったので、男性に耐性がないのである。


男性と、しかもこんなに格好いい人と話す時は緊張して逃げてしまいたくなるのに。



まさに大人と子供の手の違い。


暖かく大きな手で私の手は包まれてしまった。


緩く上下に振られる。




「ところで少年の名前は?」




あ、そういえば。


自分の感情に気をとられて名乗ってなかったことに気づいた。


とはいえ今悪魔である私は容易に名乗る事が出来ない。



悪魔召喚での悪魔との契約において、契約内容に悪魔側が納得すれば、その後お互いの真名を告げることで契約は成立するらしい。


長期的な契約になれば血の交換やら何やらをしなくてはならないらしいが、今回は短期契約らしい。


っていうか私は契約内容よく知らないや。アルフは目的が果たされれば契約は終了だと言っていた。


なんか、使われて終わればポイッなのか。


しゅん、としてしまった。






私はアルフと居たいのに。










「ああ、そういえば。おい、低級悪魔、二の名は?」




急にアルフに話しかけてびくぅってなった。

っていうか。



「…二の名って?」


「……」


「……」




あ、れ…アルフもライナーさんも黙っちゃった。

おかしいこと言ったかな。




「…おい。アルフ、コイツ本当に生まれたてか?」


「………」




はぁ…とアルフが呆れた、とため息を吐く。

呆れられた、のか私は。

とはいえ私は悪魔になった記憶がない。


「私は知らないうちに悪魔になっててさっきまで人間だったんだからしょうがないじゃん!!」


とムッとして怒鳴り散らしたくなる気持ちと、アルフに呆れられた、という事実に非常に悲しくなって、気持ちが一気にぐちゃぐちゃになった。


気づくと目の前が歪んでぽたぽたと木製の床にシミを作っていた。





「な!?」


「あーあ。アルフ泣かせたー」


「な、泣かせたってコイツが勝手に…!」


「本当に生まれたて召喚したんだなー。まあ理性のない低級悪魔よかよっぽどいいだろ。教えれば済むことだし。

そもそも短期契約だ」


「………」


「お前も契約したんだからきちんと必要なことは教えてやれ。なに、これも経験だ」


「………」




爽やかに笑顔で諭すライナーさん。

はあ、とアルフの薄い唇からため息がもれ、それに申し訳ないという気持ちが膨れて更に私は縮こまった。


おかしいな、普段はこんなに…人見知りじゃないのに。




「…二の名とは契約者以外に真名を教えない為の二つ目の名前だ。真名は悪魔を縛りつけるからね」


「……偽名、なの…?」


「…まあそうだとも言える。

二の名は悪魔が自由に名乗る事の出来る名前だ。

悪魔は、契約する度に毎回二の名を変える必要がある。

以前の契約時に使用した二の名は使わない」


「…そ、そうなんだ」


「お互いの真名はお互いしか知らない。

普段は僕の事をアルフと呼べと言ったのはそういう意味だ。

…二の名はお前が好きにつけたらいい」




好きに付けたらって言われても…。

アルフに名乗った名前は確かに私の真名だ。


日本にいた時の私の名前だ。


何の違和感もなく名字と名前教えたけど…そういえばアルフにアルフと呼べって言われてたな。


コッチの人は皆真名と二の名を持ってるんだろうか。





それだったらコッチの人々の名前に合わせた方がいいよね…。

私が思い付く二の名に違和感あっても嫌だし…。




「…あの、アルフ」


「なんだ、決まったか」


「あ、いや…その…ア、アルフに、二の名を付けてほしい、です」


「…僕に?」


「あ、はい!コッチの人の名前…どういったものがいいのか知らない、ので」


「………」




アルフは面倒だという顔を隠さずに眉を潜めたが、顎に手を置いて少し考えてくれた。


顎に手を置く仕草、でまた某探偵を思い出したが、アルフは綺麗なので大変様になっている。




ちらっとアルフは此方を一瞥して、期待に満ちた私の顔を見て気まずそうに顔を背けた。


地味にショックである。





「…メルヴィン、なんてどうだ」


「…!」


「ほう、メルヴィンか。いいんじゃないか?響きもいいしな」




メルって呼ぶぜ、と笑ってライナーさんは私の肩をポンと手を置いた。


アルフにしてはいい名前を思い付いたじゃないか、と爽やかにライナーさんが笑って、それにアルフは恥ずかしそうにツーンとした表情で返した。


アルフはツンデレらしい。




というわけで私はメルヴィンとなった。


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