2悪魔
私は少年になっていた。
一見凹凸のない、白くスベスベの肌をしていて女のコのように見えたが、一応下は男の子である。
契約最中、あの男と向かい合っていた時は思念体のようにぼやあっとした姿をしていたらしく、今は美しい少年の姿になっている。
契約完了後は特定の姿を取るのが悪魔なのだとか。
どんな姿がいいか契約者である男に聞けば、10歳くらいの少年になってほしいと頼まれた。
「顔はなるべく整った顔にしてくれ」、との意味のよくわからないリクエストにお応えして美少年に姿を固定した。
因みに美少年から違う姿に変身することも可能らしかった。姿を変えられたのは何故かわからないが、私の想像力が豊かだからだろう!と思うことにする。
若干契約者の顔と似てしまった事には深く突っ込まないでほしい。
仕方がないのだ目の前に見本があるのだから。
さらさらの金色の髪に緑色の瞳。
うむ、天使である。
にこにこと笑顔を作って、背の高い姿見の前で遊んでいると、背後の扉が開き契約者である美しい男が部屋に入って来るのが鏡の中に見えた。
「…おい、服…置いとくから着替えておけ」
「…!?」
鏡の前でニヤニヤしている私を気味悪そうに見る契約者―アルフ。
しまった!みられた!凄く恥ずかしい!
「あ!あっああああありがとうござ…ございますっ!」
「………」
恥ずかしさに顔を真っ赤にしてどもりながらお礼を言ったことによりさらに恥ずかしくなった。
さっき契約を交わしたとはいえ、人見知りの私である。
契約者アルフとどう接すればよいか分からない。
だが人見知りでなくともこんなとこ見られたら赤面するんじゃないだろうか。
赤面する私に対してアルフが訝しげに此方を見つめている。
「お前…本当に悪魔か?」
「いやいや!貴方が呼び出したんじゃ…?」
「………お前みたいな能天気な頭の軽そうな悪魔知らない」
「頭の軽いって……ひど…」
契約者のアルフは大変毒舌で神経質そうな一人称僕の美青年である。
アルフは魔術師で、探偵さんなんだとか。
え…普通に魔術師でよかったんじゃ?
何故探偵になったかと言えば、魔術学校の先輩に誘われたらしい。
面倒くさそうに話してくれました。
なんだか私の想像してたファンタジーとはちょっと違うみたいだなぁ。
探偵とかが入ってくると、某小学生探偵のアニメとかを思い出す。
私の頭の中でファンタジーと探偵があまりにイメージがかけ離れてて溶け合わない。
まあ探偵業があっても不思議じゃないかあ、と納得した。
アルフが持ってきてくれた少年の服に着替えることにする。
白いシャツにサスペンダー、黒い半ズボンに黒い靴。
何だか本当に外国の少年の気分だ。
新品ではなかったようなので、誰かのおさがりなんだろうな。
アルフのかな?
それだったらちょっと嬉しいな。
鏡の前で自分を見つめていると、服を部屋に置いた後何処かへ消えてしまっていたアルフが帰ってきた。
「…あ…あの…」
「着替えたなら来い」
それだけ告げてアルフは出て行ってしまった。
付いて来いって事なんだろう。
私は慌ててアルフを見失わないよう背を追って走る。私にはアルフしかいない。
アルフが居なくなるのがとても不安に思った。
鏡の中の自分を見つめて思った。
私は、もう人間じゃない。
私は人間じゃなくて悪魔になってしまった。
鏡の中の私は真っ赤な目をしていた。
もう私は帰れないんじゃないかって思った。