1契約
ふと目が覚めると、真っ暗な狭い部屋に召喚されていた。
私は緑とも白ともつかぬまばゆい輝きを発する魔方陣の上に立っていた。
真っ暗な部屋には、何やら怪しげな薬品や植物が棚や壁に掛かっている。
しかも私の目の前には黒いローブを被った男が立っている。
その男に目をやると、ローブの男の容貌は作り物のように美しく整っていた。
男は美しい顔を歪めて笑う。
薄暗くて分からないが魔方陣の光に照らされ、男の美しい顔は更に人間らしくなかった。
暗闇でも狂気を宿したように輝く赤い瞳がやけに目につく。
「僕と契約をしろ」
契約って何のこっちゃ。偉そうだなあ。
そんなもん誰がするかいと思ったが、契約でもすると何かメリットがあるんだろうか。
こういうファンタジーな場面で呼び出されるのは、悪魔とかだよね。
しかも男はノリノリなようだ。
「……あなたと契約を結んで何のメリットがあるの…?」
そういうと男は顔を歪めて鼻で笑った。
「…さっき生まれたばかりの底辺悪魔が偉そうだね。
ふん、まあいい。
お前のほしいものを僕がやる。魂でも体でも血でもなんでも持っていってくれ。まあ、君が持っていけるなら…だけどね。
契約し僕の目的が達成された後に渡すことになる。
僕の目的が達成されるまでの短い間契約しろ。
まあ拒んでも契約は強制だけどね」
美しい男は、今度は人を見下したようにそう言いはなった。
持っていけるなら…て私が低級であるから
男の魂を奪えない…といっているように聞こえる。
あれれ私は悪魔なの?
私は平凡な人間であったような気がするけどなあ。
ふと男を見ると、すっとその瞳に引き込まれた。
赤く輝くルビーのような美しい瞳には、一見冷たい色が灯っているが狂気と共に寂寥や絶望の色が深く深く根付き、彼を支配しているように見えた。
普段は人の感情に疎かったりするが、この時は赤い瞳が珍しくてまじまじと観察してしまったからかもしれない。
いやいや、契約とか怪しすぎますからやめときます。とか言うつもりが考えてしまった。
契約、してほしいものが貰える。んだったら…。
大体は魂を寄越せとか言うところなのだろうが、彼の瞳が気になった。
彼の目的が何かは分からない。
でも何でもいいと言ってくれてるんだから、わがまま言ってもいいよね?
私が寂しかったからかもしれなかった。
でも気付いたらこう口にしていたのだ。
「私がいいと言うまで、私と一緒にいてほしい」