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窓と屋上  作者: 宮夢露
8/12

第八話 窓からの桜並木 side碧

時雨が退院して早2週間が経つ。

そして芙蓉さんに蒼龍さんも退院していった。

そしてまた俺は一人になった。


「先生…やっぱ俺、個室にするわ。」


刻谷先生に相談し、俺は今まで過ごした病室の隣にある個室にして貰った。

個室はなにかと不便。だが、やっぱり人の気を遣わなくていい。


季節は4月中旬。


窓からは桜並木が明るく咲き誇っている。

その桜を見に、入院している人の殆どは散歩に行ったりする。

一方俺は、個室のベットの上からその風景を眺めている。

看護婦さんに車椅子を押して貰っている人。

はたまた、家族の人に押して貰っている人。

車椅子ではなく、松葉杖をついてる人も居る。

そんな風景を見ていると少し心が痛い。

何故…?

病気のせい…?

それ以外の何か…?

それを今の俺には理解が出来ない。


コンコンとドアを叩く音がした。

「おい、澄那岐。たまには気分転換に『永久の坂』にでも散歩に行ってくればいいんじゃないか?」

『永久の坂』とは、あの桜並木の名称らしい。

「いや、俺は見てるだけで十分です。」

窓の外をずっと眺めている俺に先生は溜息を吐いた。

行け、と言っている様なものだ。

「解りました…。少し散歩に行くことにします。」

そう言うと、先生はそうか、と呟き部屋を後にした。


この桜並木は窓から見るのと間近で見るのとでは格別に違かった。

俺は桜並木の中で一番大きな桜の木の根本に腰を下ろした。

なんとなく前を見るとこっちをチラチラ見てくる女の人が何人か目につく。

何か変なことを俺がしているわけでもない。

でも俺はあえて気にしないで居た。

すると女の人が近寄ってきて、俺の前で立ち止まった。

見上げるとそこには桜花さんが立っていた。

桜花さんとは初めて会ってからもよく、俺がギターの練習をしているときに屋上にやってきていた。

しかしそれ以外の場所では会ったことが一度もない。

「屋上以外の場所で会うのは初めてですねぇ〜。」

「そうだな…。」

うんしょ、と言いながら俺の隣に座る。

「潮風が気持ちいいですねぇ〜。」

「ああ…。」

「私もうそろそろ退院なんですよぉ〜。」

「そうか…。」

「碧さん…聞いてますか?」

「そうだな。」


ペシ、全然痛くないが頭を叩かれた。

「ちゃんと聞いてください!」

「すまない…。」

確かに今のは俺が悪かったな…。

「お祝いの一言くらい言ってくださいよぉ〜。」

「おめでと。」

「少ないですよぉ〜!」

こうしてみると、桜花さんは可愛い。

怒っている顔が可愛い。

別に恋いをしているわけではない。

正直にそう思っただけ…。

「………あまりジロジロ私を見ないでくださいよぉ〜…。」

気がつくと桜花さんは体育座りで膝に顔を埋くめている。

長い髪の毛で顔は見えなかった。

俺は一人立ち上がり、

「俺、もう行くな?」

「ハイ♪」

いつもそうだった…。

桜花さんは俺を見付けるとすぐに近寄ってくるが、俺が何処か他の場所に移動しようとしても付いては来ない。

「それじゃ退院するときに呼べよ。」

その一言で驚いたのか、桜花さんは凄く嬉しそうだった。

俺は桜花さんに背を向けて、微笑んだ。

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