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窓と屋上  作者: 宮夢露
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第五話 夕日の音色 side樹碧

もう……。

眼を覚まして勇気を出して碧くんにおはようって言いに行ったのに……。

なんでもう居ないのよ!

勢いよく机を叩いてしまった。

「どうした?!何事や!」

起こしちゃった……。

しかし芙蓉さんは大きな音にも気付かず、未だ眠り続けている。

「どうしたんだよ、樹碧ちゃん。」

蒼龍さんはベットから心配そうな顔をしてこっちを見ていた。

「あ、い…いえ、何でもないんです。起こしてすみません。」

と言って、頭を下げた。

「そっか、いよいよ気にしないから。んじゃもう一眠り。」

「もう朝食時間ですよ?」

蒼龍さんは朝食のことを思い出し、バッと上半身を起こした。

私も碧くんを待つついでに朝食を待つことにした。


しかし朝食を食べ終わっても碧くんは戻っては来なかった。

時刻はそろそろ9時を廻る。

探しに行って見ますか。

何処にいるかな〜、と考えつつドアの前に立つ。

「待ってれば来んだろ。」

振り向くと、後ろに蒼龍さんがご飯を食べながら話しかけてきいた。

「何で分かるんですか?」

「勘だよカ・ン。」

勘って…。

「いや、でも心配だから探しに行ってみます。」

「なにか?碧のこと好きなんか?」

「んなッ!」

私の顔がどんどん熱くなっていく。

「ちち、ちが…違いますッ!」

あたふたと、手取り足取り説明している私に蒼龍さんは大爆笑した。

「アハハ!クッククク…あ〜ハラ痛ェ〜。無理せんでもいいよ。樹碧ちゃんの気持ち分かったからさ。」

私はドアの前で立ち尽したまま赤くなっていた。


ガラッ

後ろのドアが開いた。

振り向くと…。

「あ。」

碧くんだった。

スラッと背が高い。180あるかないか位。目の少し下位まで伸びたサラサラな髪の毛。綺麗な顔立ち。多分この顔で口説かれたら間違いなく女の子は落ちるかもしれない・・・。

「えっと。ちょっといい?通りたいんだけど…。」

碧くんの顔を見て、見とれてしまった恥ずかしさで私の顔はさらに熱くなっていく。

「大丈夫?顔赤いぞ。」

「もう…、知らないッ!」

そう言って私は自分のベットの中に頭を隠すように潜り込んだ。

「どうしちゃったんです?」

多分碧くんが蒼龍さんに聞いているのだろう。

お願い、ホントのことを言わないで!

「お年頃ってやつだよ。」

「ハァ……。」

よく分からん、と小声で言った後ベットの軋む音がした。


お昼ごはんを食べた後から記憶がない。

寝ちゃったんだ。

外からは、夕日が差し込んでいて、窓から見える海は仄かに赤に染まっていた。

辺りを見渡すと、芙蓉さんと蒼龍さんのベットはカーテンが仕切られており、寝息が聞こえて来る。

碧くんのベットはカーテンが開いており、勿論碧くんの姿は見られない。

探しに行ってみますか。

そっとドアノブに手を掛けてドアを開ける。

廊下は窓から差し込む夕日で真っ赤に染まっていた。

私は病院中を歩き回った。

何故かいつもより廊下が広く感じれる。

碧くんが行きそうな場所を探し回って、気が付くと私は屋上に登る階段の前に立っていた。

残る場所はここだけ……。

ゆっくりと、ゆっくりと、私は会談を登っていく。

登る度に誰かの歌声が聞こえてきた。

優しい、それでいて暖かい歌。

アコースティックギターの音色に乗せて男の人のテノール声。


このドアを開けたら誰だか分かるの?

このドアを開けたら顔を見れるの?

このドアを開けたら……。


キー…とドアが軋む。

逆光が眩しくて目を開けていられなかった。

逆光から眼を両腕で隠し、再び瞼を開く。

眼に最初に入ったのは潮風に仰がれる白いシーツだった。

その仰がれるシーツの隙間には、ベンチに座った男の人の背中が見えた。


しかし、歌は既に終わっていた。

あの人が…歌を……。

今までにも聞いたことがないような綺麗な声。

もう一回、聞きたい。


私は近寄り、声を掛ける。

「あの……。」


声を掛けても振り向かずに、

「なに?」

とだけ答える。

聞いたことがある声…。

「歌。上手いですね。」

また振り向かずに、ありがとう、と言った。

「…なぁ、時雨。何でここが分かったんだ?」

時雨。私の名前。何でこの人が知ってるの?

「ま、いっか。」

立ち上がりこちらを振り向いたのは……。

澄那岐 碧だった…。

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