第二話 問い続け・悪夢 side碧
俺は全くと言って人との関わりを避けていた。
なぜ?それはもうやだから。
なにが?それは人が死ぬのが。
なんで?言われなくても解るだろ。……怖くて、苦しいからだよ。
俺の家族はもう1人すら残っていない。俺以外の家族全員は俺の目の前で死んでいった。事故じゃない。
病気だ。
そしてその魔の手はとうとう、俺にまで回ってきたらしい。
病気の名前は知らない。つーか聞いてもいない。しかしこの病気は珍しく、最近発病した最新の病気だそうだ。なので治療法は無い。症状は見た目は変わらず、痛みもない。がしっかりと体は弱っていく。そして余命の2ヶ月前くらいに症状が悪化し、急に辛くなる。体が言うことを聞かなくなる。
それは、父さんがそうだったから。そして母さんも……。これから俺も………。
そんな俺の余命だけは無理矢理聞き出した。
今は2月。
後、持って。
………10ヶ月…………。(ってことは10月辺りで体が動かなくなっていくのか……。)
そう。
俺はもうちょっとで死ぬ。一年も持たずに。
この世ともお別れ。
この事実を知っているのは俺と俺の担当のドクターで、この病院の若院長の刻谷 桐谷27歳。この人は俺に良くしてくれる。そもそも原因は、俺の家族全員の死に立ち寄った唯一の先生だからだ。
別に頼んでもいない。先生が勝手にやらせてくれって言ったからだ。
前まで俺は個室だった。しかし先生が個室よりはこっちの方がいいだろう。と言って俺は今の病室に居るわけだ。でもその病室にはまだ誰1人と患者が居なかった。
先生に聞くには、
「お前、年寄り嫌いだったろ?だから今度若い子が入ってきたらここにいれるんだよ。」
先生曰く、三十路以下だけの病室にする。…そうだ。
別に老人を嫌いと言った覚えは全くないのだが、俺は何の支障もないと思い、
「俺、この部屋でいいよ。だけど……一番窓際がいい。」
そんな容易いお願いは簡単に叶った。
ホントは個室の方がいいかなって思っていたが、別にどうでも良くなってきた。
そしてこの部屋には何人もの患者が入退院を繰り返していった。しかし俺は誰にも話しかけず、カーテンを閉め切っていた。
そう。
俺はこの一室の一角にある、カーテンの中でこの心臓が止まるまで過ごすんだな、と本気で思っていた。
別にいい。
誰も悲しまない。
俺が死んだって。
いや、先生は泣いてくれるのだろうか?
看護婦の人も泣いてくれるのだろうか?
いや、俺なんかが死んだとしても先生達は、泣かないだろう。
なにせ、今までどれだけの『死』に立ち会って来たことだろうか。
そう。俺はその中の1人として加わるだけなのだ。
そして俺は重くなった瞼を閉じた。
ふと気が付くと、目の前に誰かが立ってこっちを見ている。
その人は少し透けている様に見えて、まるで幽霊の様だった。
『泣いてくれる人が欲しいの?』
いきなり話しかけてきた。
「いや、そんなんじゃない…。」
『怖いの?』
「別に………。」
『ホントに?』
「本当に………。」
『じゃあ何が怖いの?』
「だから怖いもんなんか……………。」
『人と話すのが?』
「違う……。」
『人と触れ合うのが?』
「違う………。」
『死ぬのが?』
「違うッ!怖くなんか無いッ!」
『怖いくせに…………』
「!!?!?!!?」
勢いよく起きあがった俺は無駄に息を乱しながら胸の奥の痛みを紛らわせる為に、左手は右肩に、右手は左肩を思い切り握った。
ほのかに肩に痛みが走ったが、胸の痛みも少しずつ治まってきた。しかしまだ息は乱れていた。
「ハァハァハァ……、夢?……か。」
そうか、俺は寝てただけか。
あの夢のせいで俺の服はビッショリと汗で濡れていた。
俺は上着を脱ぎ、近くに掛けてあったタオルで体を拭き、その後に新しい上着を着て、再びベットに横たわる。
その夢はまるで俺を壊そうとしているかの様に、次から次へと問い続けてくる………。
いったい……。
頭が痛い。
まだ深夜だろうか、半月の月光がカーテンに仕切られてるベットを鈍く照らしていた。
ふと俺は、
「悪夢……か………。」
と、呟いていた。