第十話 手紙 side碧
「ホントに来てくれたんですか!?」
今俺は、桜花さんの退院を見送っている。
桜花さんが病院に居た理由はただ風邪を拗らせただけだったらしい。
「あァ。退院おめでとう。これからも元気で。」
そう言って俺は手を差し出した。
桜花さんは少し顔を赤くして、俺の手を取る。
「これからも…って、もう会わないみたいじゃないですか!私は会う気満々なのに…。」
「そうだな、また会えたらな。」
桜花さんはニッコリ笑い、
「いつかお見舞い来ますから!それじゃまた会いましょうね!」
と言いながら家族の元に走っていった。
俺は桜花さんが車に乗り、姿が見えなくなるまで見送っていた。
「また…会いましょう……か……。」
「ホントに大丈夫なんだな?何かあったらすぐに電話するんだぞ?たまには俺も顔を見せるからな?」
こんなに心配性に聞いてくる人は刻谷先生。
何故こんなにしつこく聞いてくる理由は、俺が仮退院するからだ。
俺は大丈夫ですよ、と言い聞かせようやく刻谷先生から解放された。
心配してくれるのは素直に嬉しい。
だけどこれ以上俺と関わりを持って欲しくなかった。
理由は簡単。
俺以外にも刻谷先生には、患者は山と居るからだ。
俺にだけ構っていると他の患者を診る時間が無くなってしまう。
それが嫌だった。
俺だけのためで他の人に何かあったら嫌だから…。
「解りましたね?俺はもう大丈夫です。家にも来ないでくださいよ?」
「ホントに大丈夫なの…」
「解りましたよね!?」
「ハイ…。」
まるでどっちが年上なのか解らなくなる様な会話を終え、俺は一人家に向かった。
本音は家になんか帰りたくなかった。
まだ病院に居た方が幸せだった。
誰だってそう思うだろう。
だって家には誰一人として居ないのだから……。
家に着いた俺は玄関のドアの鍵を開ける。
ガチャ
この音と共に俺はドアを開ける。
「ただいま。」
家に誰か居るわけでもないのに呼びかけるように口にする。
『おかえり。』と言葉を返してくれる筈がないのに…。
さて…
家は普通の一軒家で、家賃は払い終わっている。
一応親は金持ちに属していたが、家はこのままが良いと言っていたからリホームすらしなかった。
通帳にもまだお金は沢山ある。
普通に過ごしたら遊んでいても暮らせるぐらいのお金…。
もちろん遊んで暮らすつもりは微塵も無い。
何故かは俺にも解らない。
兎に角俺の両親が残してくれたお金はあまり使いたくなかっただけ…。
俺はその日何もしないまま一日を過ごした。
数日後…。
「これって…。」
そんな独り言と共に俺が手にしたものは…。
親からの『手紙』だった…。
震える手でなんとか中に入っている文章が書かれて居るであろう紙を取り出し、読み上げる。
「愛しい息子 碧へ
この手紙を碧が見付けてくれるかは解りません。
でも見付けてくれると信じ、私達は碧に手紙を送りました。
碧、元気にしてますか?私は多分『あっち』で元気にしています。
私は碧に三つ謝らないといけないよね?
一つ目は学校に行かせられなかったこと…。
二つ目は私とお父さんが碧の小さい頃に旅立ってしまったこと。
そして三つ目は…碧をそんな体に生んでしまったこと…。
ホントにゴメンね…。
でも…でも私は碧のことを愛しています。
死んでもずっと…ずっと…愛し続けています。
だから…生きることに誇りを持って…生き続けてください。」
ここまでが一枚目…。
「私の自慢の息子、碧へ。
碧、お前には色々悪かった。
だがお前は私と紗英の自慢の息子だ。
私は紗英がお前を生んだ後、刻谷先生に呼ばれた。
その時、紗英とお前は不治の病に冒されていたことを聞かされた。
勿論、私も。
新種のウィルスと聞かされた時は私は泣くことしか出来なかった。
自分が死ぬことにじゃない…。
碧と紗英が死ぬことにだ…。
私は現実逃避したいと思っていた。
だが、紗英に「この子の名前…碧って言う名前はどう?」と言われたとき、自分を取り戻した。
紗英が何故「青」や「蒼」と言う字ではなく「碧」を選んだのかは私も解らない。
でも紗英のことだ。ちゃんとした理由が有ったのだろう。
だからお前の名前、お前自身に自信を持て。
私と紗英は先に待っているからな。
最後に一つ。
私たちは碧に、一つ償いをするべきだと思った。
碧の部屋に机が在るだろ?
その引き出しの中に封筒が入っている。
中を確認してくれ。
まだ大丈夫なはずだ。
愛しの、自慢の息子 碧。
私達は先に行って、待っているからな。
そして………私達を幼い笑顔で励ましてくれて………
本当に…有り難う。
碧の母と父。
紗英より
司より」
とうとう十話まで書くことが出来ました。
何人からか、メッセージを受け取ったときは、本当に励みになりました。
だから、この小説の感想とかを書いてくれると助かります。
この小説を読んでいただいた人には本当に感謝しています。
これからも頑張っていきたいと思うので、どうぞ宜しくお願いします。