21. cause of insomnia
「盾?」
なんのことを言っているのかさっぱり分からない。
ルナという名前がどうしたというのだろうか。珍しいものではないのに、ふたりしてこんなに驚いている原因が私には全く想像もつかない。
シャクラもレオンも私の姿を下から上へと珍しい生き物を見るかのように観察しているが、それがなんだかくすぐったいようで私は身体を捩った。
「な、なに?」
私の表情に気がついたのかレオンとシャクラが同時にはっとした顔になる。やっぱり兄弟だ、とまた感じる。
「いや、ただ可能性が微かにできただけだけど……。もうひとつ聞いてもいい?」
聞きたいのはこっちのほうだと心の中で愚痴を言いながらも私は頷いた。
「ティラの家系は代々普通の人間?」
「たぶん……そうでしょ?」
家系なんて私みたいなそこら辺にいる人間が詳しく知っている由もない。
ただ、私の家が妙に大きく近所の住人のみならず遠路はるばるやって来る人がいるほど慕われているのは事実だった。
「私の家は代々薬草屋だもの。シャクラも知っているでしょう?」
シャクラは軽く頷いてから片眉を吊り上げた。
「薬草……辻褄があうな」
レオンが低い声で呟く。
「でも、ただのお伽話さ」
シャクラが顔をあげるといつもの柔らかい笑顔が浮かんでいた。
「なんのこと?」
シャクラはレオンのほうをちらりと見るとレオンも何度も首を上下に揺らした。
「まあな。なに真剣に考えちまってんだよな」
「ティラ、なんでもないよ。それより早く着替えてしまわなきゃ。ここは城の中だから時間感覚がおかしくなっているかもしれないけれど、もう太陽が高いんだよ?」
「えっ?」
夜ずっと起きていたなんて信じられないけれど、その言葉を聞くと私の身体が勝手に溶けていく。
「ふわぁ……。確かに、すごく眠いかも」
「ほら、ベッドで寝る前に夜着に着替えて。セネアさんが侍女に用意させていたから……っと、ここにあるの好きなものを使って」
シャクラはそう言うと部屋の隅にあった大きなクローゼットの扉を開いてみせた。
するとそこには色とりどりの洋服や帽子、靴に髪飾りまで沢山並んであった。
お店顔負けの量に私の中の乙女心がジャンプし出した。
「す、ごいっ」
古風なバルーンドレス、丈の長いスカート、膝上までのワンピース、フリルがたっぷりあしらわれたブラウス、背中が大きく開いたセクシーなドレス……目の前にある洋服はどれも上質な布と技術で作られたことがよく分かる。
眺めていても、手にとっても気持ちのいいものだ。
「夜着はどれにすればいいかしら……」
シャクラは私の洋服を選ぶのが好きだ。シャクラを振り返ろうとするとクローゼットの前にすっとレオンが出てきた。
「これだな」
レオンが取りだしたのは純白の袖のないワンピースだ。
「これ……」
私がレオンと初めて会った時に着ていたものにそっくりだ。
「悔しいけれど、僕もそれがいいと思うな。着心地もきっといいはずだよ?」
それはそうだ。美しい光沢を見せるそのワンピースは私の持っているものよりも何倍も価値のある絹でできているのだろうから。
そういえば、この城の内部も真っ白だ。
一角獣は本能的に純白を好むのかもしれない。
私は結局そのワンピースに着替えるとベッドに潜りこんだ。
シャクラも私の隣に寝転がる。それでも十分広いから驚きだ。
すると反対側にベッドが重さで沈む。
「どういうつもり?」
シャクラは左ひじをベッドに立てると天井を向いている私を通り越して私の隣で横になっているレオンを睨んだ。
「なにがだ?」
レオンは右ひじをベッドに立てシャクラを見つめた。
切れ長の青い瞳とまんまるい茶色い瞳が両脇で睨みあっている。
「ティラを襲う気?」
「お前じゃあるまいし」
「……」
シャクラが無言になるとろくなことはない。
―――ピキッ
案の定ベッドの傍にあった机の上の牛の形をした置物にヒビがはいる。
この現象はシャクラが怒ったときになるもので、私は不思議に感じたことがなかったけれどビビアンやウィルは最初すごく驚いていた……というより怯えているようだったかもしれない。
「ちょ、ちょっと。シャクラ?いいじゃない。ベッドも広いんだし」
私は天井を向いたまま言う。
なんだか変な状況だな、なんて考える。
「広いんだし」
レオンが私の言葉を繰り返す。その様子がすごく可愛くて私はレオンのほうに顔を傾けた。
「レオンと一緒にベッドにはいるのは初めてね」
「ああ」
レオンは私の顔を見て少し微笑んだ。
「ティラ、こっちを向いてよ」
「なあに?」
私がシャクラの方に顔を傾けると口を尖がらせている可愛らしい顔があった。
「好きだよ」
「……っ!?」
急にそんなことを切なげに掠れた声で言われるとお腹の下の辺りがきゅうっと締めつけられてしまう。
シャクラの手が私の右手を握った。しなやかで細い指が私の指に絡まる。
「ティラ……」
「え?」
今度はレオンの方を向く。まだ胸がバクバク言っている。
「俺も……だぞ」
肝心なところが小さな声すぎて聞こえにくかったけれど、微かに聞き取れた言葉に私の身体は壊れそうなくらいに速く血液が流れ、心臓は異常な速度で動く。
そして、レオンは不器用な手つきで私の左手を探しだすとぎゅうっと握りしめた。
骨ばった長い指が私の一本一本の指を探すようにゆっくりと絡まろうとする。
「ちょっと……ふたりとも?」
天井に顔を向けてはみたものの、ふたりの手は離れない。
こんな状況で寝れるはずがない……。
「じゃあな、おやすみ」
「恐い夢を見たら助けてあげるからね。おやすみ」
ふたりは勝手にそう告げると瞳を閉じて呼吸を整え出している様子が分かる。
私が硬直している間にふたりの寝息が聞こえてきた。
「え、えっ……。ねれ……ないです」
私の呟きなんて夢の中の住人になったふたりには届くはずもない。