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平均的な一本背負い

「藤本くん!? な、なんで、かつあげされてるんですかっ。しかも第三ボタン!?」

 鈴木は仰天して、かすれた声を張り上げていた。

「知らないよぉ」と曽良は惚けた顔で肩をすくめ、のらりくらりとこちらに向かって歩き出した。「校舎裏に蜂の巣があるから来い、て呼びだされたんだよ」

「どんな呼び出され方されてるんです」

「一緒にハチミツをとらないか、て誘われたんだよ。来るでしょう」

「来ないでしょう」

「そしたら、いきなり第三ボタンをよこせ、て言われてさ。陛下が来てくれて助かったよ」

 鈴木の前でぴたりと立ち止まり、曽良は満面の笑みを浮かべた。――いや、だから、陛下、てなんだよ? キングじゃなかったのか。その疑問を口にする気力もわいてこない。どうせ、まともな返答はもらえないだろう、とさっきのやり取りで悟ってしまった。

「でも、なんで第三ボタン……」

 ぼそりとつぶやこうとした鈴木を、大きな影が覆った。ぎくりとして顔を上げれば、そこには巨大な壁――いや、リーゼントのラガーマンが立っていた。

「ふ、藤本くん!」

 慌てて叫んで背後を指差すと、曽良は「ん?」と落ち着いた様子で振り返った。その茶色い瞳が、ふりかざされた大きな拳を捉えるのが先か、それが振り下ろされるのが先か――。

「こうなったら、力ずくで第三ボタンを奪ってやる!」

 くわっとリーゼント・ラガーマンが切れ長の目を見開いて、上半身を回転させた。びゅおっと竜巻のような風を起こして、岩のような拳が曽良の顔めがけて振り下ろされる。

「うわああっ!」

 なぜか、鈴木が悲鳴をあげていた。反射的に目を瞑り、顔をそむける。次の瞬間、どすん、と重低音が足元から振動となって伝わってきた。そのときになって、やっと自分が目を瞑っていたことを自覚して、鈴木は慌てて瞼を開いた。

「ふ、藤本くん!」

 がっかりイケメンが、本当にがっかりなことに――パンダのように目のまわりを青くした曽良の顔が脳裏をよぎる。

「だいじょう……ぶ」

 しかし、心配する鈴木の声はしぼんでいった。鈴木は目をぱちくりとさせ、「え?」と目の前の光景に困惑した表情を浮かべた。

 鈴木だけではない。桜の木の前で突っ立っているラガーマン二人組もまた、眼前で起きた出来事を理解するのに手間取っているようだ。声も出せない様子でぽかんとしている。

「まったく、もう」と、呆れたような声がした。「いきなりだったから、手加減できなかったじゃないか」

 ぱんぱん、と手をはらう、すらっとした体つきの美少年。その足もとで、マッスルボディのラガーマンが仰向けに倒れている。彼も自分の身に何が起きたのか分かっていないのだろう、口をあんぐり開けたまま、目を点にしている。

「い、一本背負い?」

 ふいに、誰かがぽつりとつぶやいたのが聞こえた。


 ――運動神経はやばいくらいすげぇらしいぜ。軽々とダンク決めたの見た奴がいる、て。でも体育祭には出てこないんだよなぁ。

 

 とある生徒の証言が鈴木の頭をよぎった。

 まさか、と鈴木は息を呑む。リーゼント・ラガーマンを一本背負いでふっとばしたというのだろうか。自分の二倍はあるかという大男を……。運動神経がいい、の一言で済む話か。

 鈴木は呆然として、「なんて……」と消え入りそうな声を漏らした。「なんてイケメンなんだ」

 どこが『がっかりイケメン』だ。感心するのを通り越して、鈴木は圧倒されていた。

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