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非日常的な誤解

「何しやがるんだ、藤本砺波!?」

「学園のアイドルが番長はったおしていいのかよ!?」

 倒れたよっちゃんを囲み、砺波を睨みつけているはるちゃんと白井さん。が、砺波はそんな不良たちに臆するどころか、「ふん」と鼻で笑って腰に手をあてがう。

「アイドルにはったおされて本望じゃないの?」

「んだとぉ!?」とはるちゃんは拳を握り締め、立ち上がった。「あまりに可愛いからってなんでも許されると思うなよ!?」

「てゆーか!」

 砺波はびしっと人差し指をこちらに向けた。って、こちら? 鈴木はようやくハッと我に返った。

「こいつに金返しなさいよっ!」

「はい!?」

 金? 思わぬ言葉が飛び出して、鈴木は目を見開いた。どちらかというと、そのセリフはこの二年間、自分が砺波に言いたかったものなのだが。

「金だぁ!? 何の話だよ!?」

 はるちゃんは青筋立てて、今にも砺波に殴りかからん勢いだ。嗚呼、怒れる拳と逆立つモヒカンが震えている。

「そういや、さっきも金がなんだと言ってたな。なにを勘違いしてやがる?」

 白井さんが冷静に参戦する。その手に支えられえているよっちゃんは意識が朦朧としているようだ。あごを押さえて唸っているのみ。

 鈴木は未だかつてない『非日常的』な状況に自分が置かれていることに徐々に気づき始めていた。――いや、それは曽良と出会ったあの日からかもしれないが。

「とぼけてんじゃないわよ、面倒くさいわね。こんなすぐ金くれそうな見た目の奴つかまえて、金ふんだくって楽しいわけ!?」

 そうか、自分は『金くれそうな見た目』なのか。なるほど。二年前、学園のアイドルが自分に話しかけてきた理由がようやく分かった気がした。鈴木はちょっと泣きそうになりながらも、「すみません!」と震える声で横槍を入れた。

「あ、あの……ふ、藤本さん、ご、誤解が……」

 砺波の澄んだ大きな瞳がこちらに向けられた。

 目が合い、どきりと鈴木の胸が高鳴った。あの藤本砺波の視界に自分が入っている。それだけで、鈴木は感動すら覚えていた。この二年間ずっと、彼女の死角から憧れの眼差しを向け続けていたのだから。

「なによ?」

 しかし、その唇から放たれたのはなんとも不機嫌な声。想像していたものとは――春の陽気にはしゃぐ小鳥のような声とは、かけ離れている。

 鈴木はたじろぎつつも、「ご、ご、ご、誤解があるようであります」と士官のように姿勢を正して報告した。

「誤解?」

「は、はいっ! あの、別に金をふんだくられていたわけでは……」

「なに言ってんのよ!? ちゃんと聞こえてたんだから。『まだ足りない、もっと出せ』とかなんとか」

「あ! いや、それは……気合ですっ!」

「はあ!? 気合い?」

 砺波の苛立った甲高い声が響き渡った。疑るような眼差しで睨みつけてくる。鈴木はもはや砺波を直視できなくなって、視線をおろおろと泳がせていた。

「そうさ、気合いを入れてやってたんだよ」 

 どうだ、参ったか。――そう言いたげな声が聞こえて、鈴木は振り返った。

 視線の先には、矢をその身に浴びてもなお立ち上がる武蔵坊弁慶……いや、勇ましく立ち上がるリーゼント・ラガーマンの姿。

「よっちゃん!」

 安堵が混じった歓声が上がる。つい、鈴木もそれに混ざりそうになって思い止まった。そこは越えちゃいけない、戻れなくなるぞ。――そんな声が聞こえた気がした。

「はは~ん。なるほどね」

 ややあってから、砺波が悟ったようにつぶやいた。

 ちらりと目をやれば、砺波はにんまりと怪しく笑んでいる。そのふっくらとした頬は、痙攣でもしているかのようにぴくぴくとしているが……。

「さては……チクったらふるボッコにしてやるとかなんとか言って、脅したのね!」

 ちがーう! 鈴木はそう叫んで逃げ出したくなった。

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