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非日常的な校舎裏

 どん、と背中に衝撃が走った。宙からひらりと桃色の花びらが落ちてくる。

「てめぇ、よっちゃんに何しやがったんだ!? 夕べからよっちゃんからメールが返ってこねぇんだよ! ええ!?」

「うちの部室来て、よっちゃんをさらったんだろ。恵理ちゃんが危ない、とかデタラメいいやがってよぉ。よっちゃんの純粋な恋心を弄んで、なにしやがったんだよ!? ええ!?」

「なんとか言えや、田中ぁ! ええ!?」

 とりあえず、鈴木です。ええ。――そう言おうかとも思ったが、そこまでの度胸は鈴木にはなかった。

 名ばかりのラガーマンだが、それでも不良二人組は鈴木に比べればはるかに長身でたくましい体つきをしている。中学三年男子の平均身長、一六五.五センチ、同じく平均体重、五四.七キロの鈴木からすれば、まるで巨人だ。逆ガリバー体験だ。そんな二人に囲まれては鈴木に制空権すらない。

 事実、ちょっと肩を押されただけで、後ろに吹き飛んだ。桜の木が受け止めてくれていなかったら、今ごろ地面にしりもちをついていたことだろう。

「おう、なに、シカトきめちゃってんだよ」

「ひいっ!」

 いきなりモヒカン頭に胸倉をつかまれ、鈴木は震え上がった。誤解されているのは明らかなのだが、それを説明する余裕もない。「いやいやいやいや」と情けない声をもらしながら、顎を高速で上下させるだけだ。

「ふざけやがって!」

 ふざけてはいないのだが、そう釈明する暇も無い。

 モヒカン頭はぐいっと鈴木の胸倉を力いっぱい引き寄せ、右手を振り上げた。――殴られる。鈴木は反射的に目を瞑った。

 痛みに備えて歯を食いしばりつつ、鈴木は既視感を覚えていた。前にもこんなことがあったような気がしていた。校舎裏で、こうして桜の木を背に不良たちにおいつめられて……。

 いや、違う。

 鈴木の頭の中でキラリとあるイメージが浮かび上がった。

 校舎裏。焼却炉の傍ら。桜の木。不良三人組に囲まれ、カツアゲされている少年。

 自分ではない。自分はその光景をのぞいていた第三者。校舎の陰から息をひそめて見守っていたのだ。

 そうだ、昨日の放課後。そうして、あの少年と再会を果たしたのだ。そして、巻き込まれる羽目になった。あの少年――。


「殿じゃないか~」

「!」


 唐突に、のんびりとした声が降ってきた。ぎょっと瞼を開くと、モヒカン頭が「うわあ」と叫んで、鈴木の胸倉から手を離すところだった。

 そのまま、モヒカン頭はボクシングのステップでも踏むかのような軽やかな足取りで後ろに飛び退く。その視線は鈴木よりもはるか上に向けられていた。

 なんだ? と見上げるよりも先に、鈴木の目の前に何かが舞い降りて視界を遮った。ゆるやかな風が足元から吹き上げて、鈴木の鼻を撫でる。

 鈴木と不良の間を阻んで聳え立った屈強な壁。桃色の羽根を散らして、すらりと鈴木の前に立ちはだかる人影。まるで翼を失って堕ちてきた天使のごとく、神々しいその背。短い黒髪が、桜の木が奏でる葉の音に合わせて揺れている。

 鈴木は息を呑んでいた。後姿にさえ見とれてしまう。なんだろうか、一瞬にして周りを飲みこんでしまうような、この圧倒的なオーラは。

 これが、イケメンか。

「おはよう。また会ったね、殿」

 桜の木から落ちてきたイケメンはくるりと振り返り、ニコッと微笑んだ。

「藤本……曽良」

 日本人離れした彫りの深い顔立ち。目の前に不良二人組がいるというのに、ゆるく微笑む緊張感のないアヒル口。そういえば、ハーフだとか、クオーターだとか、そんな噂も耳にしたことがあったが……なるほど、透き通るような瞳も、どこか色が薄く、こげ茶というよりは明るい茶色だ。 

 白馬に乗った王子。そのフレーズがここまで合う人物が、他にいるだろうか。どこからともなく現れて、悪党を退治する――って、ちょっと待て。

「どこから現れた!?」

 鈴木は目が覚めたかのようにハッとした。 

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