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【天使】養殖・第三話(14)

作者: AMAKA
掲載日:2026/03/08

「おおきに、おおきに。助かったわ……」


 ふらつきながら襟紗鈴えりざべるに、ついで少女に礼を言うて、天使長は乱闘の中心から逃れ出、ほんで、ためらいがちに神女しんにょの隣に立つ。


 仮装者の群れが急激にふくれあがり、目の前の通りを大河みたいに轟々と流れていきよる。流れの向こうで天使長の嫁がじいっとこっち見てる。


 襟紗鈴が引き続き手のひら舞わして仮装者らを昏倒させ、今度は痴天使を救い出してよった。


「……おおきに」


 びっくりした顔で言う痴天使(口調は確かに天使長に似てるかもしれん)を、襟紗鈴は無遠慮な目えで眺めて、


「何? 何いな……?」


 そう言われてもさらに眺めてたかと思うと。


 いきなり痴天使の肩を掻き抱いて、


「ぎゃあっ! なにすんのんちかんっ!」


 その股間に手え突っこんで握った。


「なんかそんな気がしたんだよね……」て、襟紗鈴、「あんたやっぱり女の子なんじゃん!」


「じかに訊いたらええやんか……お礼ついでに教えるやん……!」


 痴天使が半泣きで抗議してよる。


「あの、神女はん」て、ためらいがちに天使長が、「どないされます、これから……?」


なむちはどうしたい?」


 問い返されて天使長、顔いがめて、


「こうなってしもたからには……。この平野はもう少々の方策ではどもなりまへん……今は捨て置いて帰るしかないと……」


「であるそかり?」


 圧倒的な美貌を照り光らして神女は答え、


「ならばあれは汝の献策どおりにせむ!」


 変態仮装の奔流からこちらへ、少女と襟紗鈴それに痴天使が上がってくる。


 重度憑依人格の集いと化した目の前の街区。しかも狂乱の渦は刻一刻広がりつつある。


「ごめん」て、襟紗鈴が少女を見て言うた。「あたし、この人たちについていこうと思う。本当のことを知るにはそれしかないって感じるし、何よりあたし、身寄りないから。天涯孤独の自由だから」


「孤独じゃないよ」


 て、少女は笑い、


「自由だけど孤独じゃない。私がいる。いつだってつながっていよう! 襟紗鈴ちゃんの選択、私尊重するから」


 ほんで、対岸からまだこちら見てる始天使アヅマエルを見返して、


「だから私も、私にできることをする。見てて襟紗鈴ちゃん、また会おうね」


 そう言うて、再び仮装の大河へ取って返しよった。


 少女がそのまま始天使の方へ渡っていく。


「よろしおす」


 始天使はかすかに笑ろてつぶやき、


「あんさんはうちの手元に居りよしンジュ……」


 襟紗鈴が身をかがめ、今度は痴天使の方を向いた。


「あんた、ほんとの名前はなんていうの? なんとか天使じゃないやつ」


「そんなんあらへん」痴天使はわびしげに、「マミーがつけてくれたんはこの“痴天使ユデガエル”だけ……」


 そのマミーからも今は切り捨てられた。


「じゃあさ」


 襟紗鈴は明るく声をはずまして、


「じゃあ、あたしがつけてあげるっ!“鈴々音べるりね”ってどう? 私の妹になりなよ!」


 そんなやりとりを聞きながら天使長は空を仰ぎ、


「やっぱり東国やな。日の出が早いわ」


 疲れたみたいな嘆息を漏らしよった。


 赤じそ味のサイダーめいた色した東雲が幾筋も見えてよる。大気中のうるおいが足りてへんせいか、屏風絵みたいに十分たなびききれてへんのがどこか悲しい。


 襟紗鈴は神女と天使長を見比べ、結果、


「天使長さん」


 下っ端の方へ話しかけた。


「あたしに教えてくれる? 関西弁を」


「ええで」


 て、すかさず天使長、


「懇切丁寧に教えたる、かみ日本語な」


 にやりと笑ろて答えよった。(『天使養殖』第三話「もろびとひじりて」完)

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