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第七話:未分類

 車は都市の中を滑っていった。

 誰も話さなかった。


 窓の外の灯りがガラスの上をゆっくりと流れていく。

 一つ一つが計算され、どの通りもマップの上にある。

 膝の上に手を置き、その光を眺めながら、

 駐車場で浮かんだ考えの余熱がまだ頭の中に残っていた——


 いつからか、「未定義」というラベルと自分自身との距離が、

 思っていたよりずっと近いことに気づき始めていた。


「スケジュールの更新です」MIRAがふいに言った。


「場所が変わったのか?」


「はい。相手が待ち合わせ場所を銀座の高層会員制ラウンジに変更しました。

 理由は『プライバシーと静粛さ』とのことです」


 笑って、その考えから引き戻された。

「お前はさっき感情生活の計画を立てろと言ったばかりじゃないか」


「はい」


 そこで止めておくべきだった。

「今から女性に会いに行くところだ」

 言った瞬間、言うべきではなかったと分かった。


「評価に組み込みました」


 やはり。

「また適婚確率を計算し始めたんじゃないだろうな」


「ジェシカ・ラインハルト、34歳、ドイツ国籍、未婚。

 2年前に卵子の凍結保存を完了。

 遺伝子検査の結果は都市平均を21%上回っています。

 あなたとの適合指数は78%です」


 振り返って彼女を見た。

「凍卵まで知っているのか?」


「彼女はORACLEのコア研究員です。

 私は関連するアクセス権限を持っています」


 小さく息を吐いた。言わなければよかった。

「モデルの再構築について話し合うだけだ」


「派生確率は依然として存在します」

「MIRA」

「はい」

「繁殖推論を止めろ」


 0.19秒の間があった。

「一時停止します」


 車内が再び静かになった。

 タイヤがアスファルトを転がる細かな音だけが残る。

 ネオンがフロントガラスの上を線になって滑り、流れ、消え、次の光に置き換えられていく。


「彼女は今何を担当しているんだ?」私は訊いた。


「本端末の初期倫理ウェイト設計に参加し、

 現在はオフセット閾値の再構築と異常分類の修正を担当しています」


 横目で彼女を見た。

「つまり今、お前は自分の『母親』を私に紹介しているわけか?」


 すぐには答えなかった。0.27秒——いつもより長い。


「その呼称は正確ではありません」彼女は言った。

「しかし彼女が私のコアアーキテクチャの策定に関与したことは事実です」


「親への挨拶みたいに聞こえる」


「この比喩は現在の関係定義に適用されません」


「では言わなかったことにしてくれ」視線を戻した。

「モデルの話に集中しよう」


「了解しました」


 車内のディスプレイに交通流の予測曲線が投影された。

 今後10分間、路線の渋滞確率は3%未満。


 シートに背をもたせ、目蓋を一時的に閉じて、

 ネオンの残像が網膜の上でゆっくりと薄れていくのに任せた。


「定刻通りに到着する見込みです」MIRAは言った。

「相手が遅刻する確率は?」

「2.1%です」

「いい」


 東京の交通システムはORACLEと深く統合されていて、

 信号のリズム、車の流れの配分、

 路線の負荷がすべてメインネットワークの調整のもとで動いている。

 自動運転の事故率は人間より72%低い。


 理論上、これは人間の介入を必要としない道だ。

 システムにすべてを決めさせ、そのまま静かに目的地に着くだけでいい。


 そのとき、前方の車の流れにずれが生じた。


 急ブレーキでも追突でもない。

 古い手動式のトラックが、二車線をゆっくりと横断していた。

 急ぎもせず、止まりもせず、何とも言いようのない余裕を持ちながら。

 自分だけが知っている論理で動いているようだった。


 自動運転システムは0.12秒以内に低リスクの横移動と判定し、

 1.4秒以内に元の車線に戻ると予測した。


 戻らなかった。


「オフセットが予測範囲を超えています」

 MIRAが言った。

 声がいつもより半音低かった。


 車内の警告灯が点いたが、まだ赤にはなっていない。

 システムは全体的な事故確率がまだ閾値を下回っていると判断していた。


 トラックは加速もせず、急ブレーキもかけず、

 ただ効率を求めない角度で滑り続けていた。

 パニックでもなく、機械の故障でもない。


 ただ、ある種の意図的な気ままさ——そういう動きだった

 予測曲線が揺れ始めた。


「事故確率が18%に上昇しています」


「マップに事前登録されていたか?」目を開けた。


「高リスクリストへの事前登録はありません」


 前の車が距離の誤判断で早めにブレーキを踏み、連鎖的な干渉が後方へと広がっていった。

 その瞬間、この区間全体の予測モデルが、濡れた布で拭かれたようになった——

 崩壊ではない。

 霞んだだけだ。

 細部が不確実性の中に消えていく。


「手動接管」

 ハンドルが自動と手動の間で制御権を短く奪い合った。

 メインネットワークは最小被害モデルに基づいてガードレールへの側面衝突を選択しようとしていた。

 計算上最もクリーンな解だ。

 損傷は制御可能で、責任も明確だ。


 MIRAがメインネットワークの認証を切断した。


 車体が二台の車の間の隙間に斜めに切り込んだ。

 標準的な安全マニュアルのどこにも載っていない角度。


 タイヤの摩擦音が風音を上回り、

 バックミラーとトラックの側板の間の距離は10センチに満たなかった。


 存在すべきでないような細い隙間だったが、

 彼女はそれを見つけ、そして通り抜けた。


 衝突は起きなかった。すべて3秒以内のことだった。


 車が止まると、後方の交通が再編成され、

 メインネットワークが素早く信号のリズムを調整し、

 事故確率は15秒以内に2%以下に戻った。


 都市の曲線が再び滑らかになった。

 誰かに撫でられた皺のように、跡を残さずに。


「損傷はありません」MIRAは言った。


 すぐには答えなかった。あのトラックを見ていた

 ——運転手は窓越しに前だけを見ていて、表情は穏やかだった。

 今しがた連続追突を引き起こしかけたことに気づいていない人間のように、

 ごく普通のことをし終えた人のように。


「分類は?」私は訊いた。


「運転判断のミスです」


「処理は?」


「マーキング済み、リスクレベルは低」


 スマートフォンが光った。

 レストランからの確認メッセージだった。

 その通知を1秒眺めてから、置いた。


「行程のキャンセルを推奨します」MIRAは言った。


「負傷者はいない」


「高リスク波動後の不安定期に該当します」


 秩序を取り戻した前方の車の流れを見つめた。

 どの車も元いた場所に戻り、間隔は均等で、速度は安定していた。

 ゼンマイを巻き直した装置のように。


 3秒前に起きたことは、

 すでに都市の記憶に消化されていた。


「だからORACLEに価値がある」私は言った。

「説明してください」

「間違いが起きても、元に戻されるから」


 反論しなかった。


 車が再び動き出し、メインネットワークが制御を引き継いだ。

 ネオンがガラスの上を流れ続ける。


 シートの背にもたれ、すでに元通りになったその道を眺めながら、

 あのトラックの運転手の顔を考えていた。


 穏やかだった。穏やかすぎた。


 リストにもなく、予測にもなく、

 観測可能なリスク波動を何一つ生み出さない——本当に動くまでは。


 その顔が、別の顔と頭の中で一瞬重なった。

 取調室の眼鏡をかけた男。

 澄んだ目。平凡な名前。空白のファイル。


 口には出さなかった。

 都市は元のリズムを取り戻し、静かで、整然としていて、

 すべてが掌握されていると自信を持っていた。


 そして私はこの、計算に守られた車の中に座り、

 本当の意味で暗くなることのないあの夜を窓の外に見ながら、

 一つのことを考えていた。


 ORACLEは曲線を平坦にした。

 しかし平坦にすることは、消すこととは違う。

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