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第9章 ― 空軍の犠牲

〈人間のヒューマン・シールド作戦〉。

命令は単純――そして、残酷だった。

民間人の避難を守れ。

たとえ、その代償が自分たちの命であっても。


カズキは作戦説明を聞きながら、胃がねじれるような痛みを覚えた。

その意味を、彼は誰よりも理解していた。

戦争では、いつだって最初に喰われるのは「無辜の者」だ。


十二人のパイロットが志願した。

ほとんどが若者――

目にはまだ、「勇気さえあれば何とかなる」という愚かな輝きがあった。

カズキには、その幻想を壊す勇気がなかった。


彼らは密集編隊を組み、輸送隊を護衛して飛び立った。

まるで――自ら死を選ぶ天使たちのように。

頭上では、雲が鉄と硫黄の色に燃えていた。


攻撃は雪崩のように始まった。

三十機の敵航空隊。

〈死の悪魔デモン・デス〉の意志に導かれた殺戮の群れ。

数の差は、絶望的だった。


味方は、生きた壁となった。

鋼鉄と肉体で作られた――「盾」。


レーダー上の青い点が、ひとつ、またひとつと消えていく。

一人目。

二人目。

三人目。

無線は途中で途切れ、

悲鳴と爆裂音、そして沈黙だけが残った。


四人目のパイロットは、自ら敵機に突っ込んだ。

二重の爆発――一瞬にして、二つの太陽が生まれた。


五人目は弾薬を使い果たし、

自機を誘導ミサイルに変えて突進した。


六人目と七人目は、交差する炎の中で断たれた。

救援を呼ぶ暇もなかった。


カズキは戦場へ飛び込んだ。

〈ブルータル・スピン〉が不可能を回避し、

〈インフェルノ・ブラスター〉が冷徹な正確さで敵を五機、瞬殺した。

だが――それでも足りなかった。


八つ目の青点が消える。

ユウキ・タナカ、十九歳。

両親への別れの手紙は、まだ食堂の机の上に置かれたままだった。


九人目は損傷機で逃走を試みるも、背後から撃ち落とされた。

十人目は損壊した輸送機を庇い、自ら盾となって散った。

最後の映像には――笑顔が残っていた。


十一人目は、都市へ向かうミサイルの軌道を逸らした。

だが、爆風に呑まれ、歓声を上げる間もなく消えた。


十二人目――カズキ以外の最後の仲間――は燃料切れ。

海上で脱出したが、

その姿を見た者はいなかった。


それでも、輸送機は目的地に到達した。

救われた命――三百。

失われた命――十一。

平均年齢、二十三歳。


カズキは無言で着陸した。

祝福も、拍手も、なかった。

基地全体が――沈黙に包まれた。


その静寂の中、〈戦の神〉が告げた。

冷たく、計算式のように整然と。


> 「戦術的犠牲――許容範囲内。」




カズキの内側で、何かが爆ぜた。


> 「彼らは“人間”だ! 統計なんかじゃない!」




神は一瞬、戸惑ったようだった。


> 「戦争とは……残酷な数学だ。

勝利した。」




カズキは答えなかった。

煙と小雨の中、彼は瓦礫の間を歩き、

地面に落ちた何かを見つけた。


焼け焦げた――ヘルメット。

名札だけが、まだ読めた。

〈中尉 ユウキ・タナカ〉。


カズキはそれを拾い上げ、

胸に抱いた。

記念ではなく――重みとして。


その夜、カズキは子供の頃以来、初めて涙を流した。

そして、〈戦の神〉は何も言わなかった。


――破壊の神々でさえ、

時には、悲しみを理解するらしい。



---


つづく

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