第5章 ― 死の悪魔との邂逅
夜明けは、鉄の幕のように重く垂れこめた濃霧とともに訪れた。
視界はほとんどゼロ。
同盟軍の編隊が密集隊形で離陸する。
頼れるのは計器のみ。
カズキは後方を飛び、全身の神経が――見えざる危険を警告していた。
そして、地獄が始まった。
突如、爆発。
空が緑の炎に染まり、編隊長の機体が一瞬で霧散した。
――ミサイル反応なし。
――レーダー警告なし。
次の瞬間、無線が悲鳴を拾う。
> 「高音が……耳を裂くッ……ぐああ――!」
通信が途切れた。
機体は制御を失い、螺旋を描いて海面に消えた。
カズキは攻撃源を探した。
だが見えるのは霧と沈黙だけ。
無線から断続的に響く悲鳴が、圧迫するような虚無を支配していた。
そして――彼は“それ”を見た。
霧の奥で、影が動いた。
既知のどの航空機よりも巨大な存在。
濁った水を泳ぐサメのように、滑らかに。
一瞬、その姿が形を取った。
――黒き機体と、生きた肉体が融合した怪物。
――膜状の翼が脈打ち、病的な黄色の多眼が空を睨む。
〈死の悪魔〉が、物質界に顕現したのだ。
超音波が空気を震わせる。
その周波数は、脳を直接刺すように鋭かった。
カズキの鼻から血が垂れる。
反射的に〈ブルータル・ロール〉を発動。
辛うじて回避したが、三機の仲間が逃れられなかった。
彼らは音もなく、静かに爆炎となって消えた。
空気が裂けた。
彼の前に〈空の深淵〉が開く――
渦を巻く次元の門が現れ、
異界の弾丸を吐き出す。
それらは現実を焼き、色彩の概念すら破壊した。
数秒で、編隊は壊滅した。
カズキは反撃に出る。
〈インフェルノ・ブラスター〉が発射され、
真紅の光線が空を貫いた。
しかし〈死の悪魔〉は〈ファントム・モード〉に移行。
レーザーはすり抜け、影に何の傷も残さなかった。
激しい疲労が全身を襲う。
筋肉が焼け、視界が揺らぐ。
操縦桿が、指の間から滑り落ちていく――濡れた砂のように。
「……今じゃない……」
カズキはかすれた声で呟く。
だが――遅かった。
内なる存在が目を覚ました。
〈戦の神〉が、飢えた笑い声とともに立ち上がる。
> 「――ついに、時が来た。」
カズキは意識の底に沈み、
自らの肉体の囚人となった。
機体と神が融合し、ひとつの“生きた兵器”と化す。
〈テンペスト・スピード〉が起動。
連続する三つの衝撃波が空を裂く。
そして――〈カオス・メテオレイン〉が召喚された。
虚空から炎の破片が降り注ぎ、
空そのものを焼き尽くす。
〈死の悪魔〉は後退を試みた。
だが遅かった。
隕石群が霊的防壁を貫き、
光と火の爆裂が天を呑み込む。
戦場は地獄そのものに変わった。
神と人とが混ざり合う空――
再び、日本の空は燃え上がった。
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つづく




