表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/25

第4章 ― 軍略

作戦司令室は熱気に包まれていた。

ホログラム地図が卓上に投影され、敵軍の進行が赤い線となって脈打っている。

それはまるで生きた動脈のようだった。

将校たちは互いに命令と仮説をぶつけ合い、混乱の中で秩序を取り戻そうとしていた。


カズキは部屋の隅に寄りかかり、沈黙していた。

彼に向けられる視線は――疑念。

そして、尊敬の仮面を被った恐怖だった。


「昨日だけで十七人のパイロットを失った。」

司令官が低く呟く。

「奴は七機を撃墜した……傷ひとつ負わずにな。」

「もう……人間ではないな。」

別の将校が、ほとんど囁くように言った。


カズキはすべて聞いていた。

だが何も反応しなかった。

窓ガラスに映る自分の姿が歪んで見える。

紅い瞳が奇妙な角度で光を反射し、

金の瞳孔が爬虫類のように細まっていた。

冷たいガラスに指を触れ、

心の奥で静かに問う。


――自分が完全に失われるまで、あとどれほど残っているのか。


ブリーフィングが始まった。

ホログラムが新たな敵の拠点を映し出す。

北部山岳地帯に築かれた要塞基地。

攻撃の連携は完璧で、機動パターンも緻密。

それは――訓練された軍の動きだった。


カズキの胃が沈む。

見覚えのある戦術。

幼い頃、兄と共に描いた「戦争ごっこ」の戦略が、今や現実の殺戮として再現されていた。


「……あの部隊の指揮官を知っています。」

カズキは低く言った。


部屋が静まり返る。

全員の視線が彼に集まる。


「――兄です。あのギャングを率いているのは。」


衝撃が走る。

怒り、動揺、そして信じ難さ。

将軍が身を乗り出した。


「説明しろ、パイロット。」


カズキは深く息を吸った。

そして、途切れ途切れの言葉で語り出す。

長年の確執、嫉妬に蝕まれた絆、

そして今、自らの血脈を流れる悪魔との契約のことを。


「……やつと戦えるのか?」

将軍が真正面から問う。


長い沈黙。

カズキは床を見つめ、

やがてホログラムの地平線に目を上げた。


「――戦えるようにならなければならない。」


夜が基地を包む。

兵士たちは弾薬を点検し、装備を整え、

淡い光の下で別れの手紙を書いていた。

カズキは無人の滑走路を歩き、

冷たい風がコンクリートを渡る。


頭上の星々が震えていた。

だが空は、不自然な闇に覆われ始めていた。

天気予報は晴れ――それでも、黒雲が地平を飲み込んでいく。


その瞬間、彼は感じた。

遠く離れたどこかで、兄も同じ星を見ていることを。

――同じ運命の極に引かれ合う二つの磁極。


そして眠りの境で、声が再び響いた。


> 「兄弟とは、最も完全な敵だ……互いの弱点を知り尽くしている。」




カズキはその夜、眠らなかった。

遠くでタービンの轟音が呼んでいた。

夜明けを待たずして、戦争が再び彼を求めていた。



---


つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ