第4章 ― 軍略
作戦司令室は熱気に包まれていた。
ホログラム地図が卓上に投影され、敵軍の進行が赤い線となって脈打っている。
それはまるで生きた動脈のようだった。
将校たちは互いに命令と仮説をぶつけ合い、混乱の中で秩序を取り戻そうとしていた。
カズキは部屋の隅に寄りかかり、沈黙していた。
彼に向けられる視線は――疑念。
そして、尊敬の仮面を被った恐怖だった。
「昨日だけで十七人のパイロットを失った。」
司令官が低く呟く。
「奴は七機を撃墜した……傷ひとつ負わずにな。」
「もう……人間ではないな。」
別の将校が、ほとんど囁くように言った。
カズキはすべて聞いていた。
だが何も反応しなかった。
窓ガラスに映る自分の姿が歪んで見える。
紅い瞳が奇妙な角度で光を反射し、
金の瞳孔が爬虫類のように細まっていた。
冷たいガラスに指を触れ、
心の奥で静かに問う。
――自分が完全に失われるまで、あとどれほど残っているのか。
ブリーフィングが始まった。
ホログラムが新たな敵の拠点を映し出す。
北部山岳地帯に築かれた要塞基地。
攻撃の連携は完璧で、機動パターンも緻密。
それは――訓練された軍の動きだった。
カズキの胃が沈む。
見覚えのある戦術。
幼い頃、兄と共に描いた「戦争ごっこ」の戦略が、今や現実の殺戮として再現されていた。
「……あの部隊の指揮官を知っています。」
カズキは低く言った。
部屋が静まり返る。
全員の視線が彼に集まる。
「――兄です。あのギャングを率いているのは。」
衝撃が走る。
怒り、動揺、そして信じ難さ。
将軍が身を乗り出した。
「説明しろ、パイロット。」
カズキは深く息を吸った。
そして、途切れ途切れの言葉で語り出す。
長年の確執、嫉妬に蝕まれた絆、
そして今、自らの血脈を流れる悪魔との契約のことを。
「……やつと戦えるのか?」
将軍が真正面から問う。
長い沈黙。
カズキは床を見つめ、
やがてホログラムの地平線に目を上げた。
「――戦えるようにならなければならない。」
夜が基地を包む。
兵士たちは弾薬を点検し、装備を整え、
淡い光の下で別れの手紙を書いていた。
カズキは無人の滑走路を歩き、
冷たい風がコンクリートを渡る。
頭上の星々が震えていた。
だが空は、不自然な闇に覆われ始めていた。
天気予報は晴れ――それでも、黒雲が地平を飲み込んでいく。
その瞬間、彼は感じた。
遠く離れたどこかで、兄も同じ星を見ていることを。
――同じ運命の極に引かれ合う二つの磁極。
そして眠りの境で、声が再び響いた。
> 「兄弟とは、最も完全な敵だ……互いの弱点を知り尽くしている。」
カズキはその夜、眠らなかった。
遠くでタービンの轟音が呼んでいた。
夜明けを待たずして、戦争が再び彼を求めていた。
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つづく




