第二十一章 ― 最終対決・第一部
戦いは、廃墟の上空へと昇華していった。
下には死した都市、
上には限りなき空。
高度は常識を超え、
薄い空気が肺を裂き、温度は絶対零度に迫る。
もはや人間の領域ではなかった。
操縦席に残る者たちを支えているのは――悪魔そのもの。
融合は避けられなかった。
カズキと《戦の神》は、完全に一体化する。
人と神との境界は消え去り、
意識が溶け合い、永劫の記憶が人の脳を満たした。
カズキの視界に、あり得ぬ光景が流れ込む。
古代の戦場――無限に広がる死の原野。
人が人を殺し続ける、時の始まりからの輪廻。
そして、その中心に――いつも同じ眼があった。
同じ神の眼。
> 「我らは寄生者だ」
遠雷のような声が響く。
「戦がなければ、我は消滅する。」
その言葉は宇宙の判決のように重かった。
カズキの胸に、氷のような真実が突き刺さる。
――救うために振るう力は、破壊を続ける力と同じ。
だが、もう分離するには遅すぎた。
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一方、リュウもまた《死の魔神》と完全に融合した。
その姿は、人の理解を超えていた。
半ば人、半ば奈落――
腐蝕したエネルギーが肉体を脈打ち、
翼は生きた膜となって黒霧を吐き出す。
もはや二人の兄弟は、人ではなかった。
二柱の神が、成層圏で激突する。
その機動は物理法則を嘲笑い、
速度は超音速の壁を幾度も超える。
一撃ごとに、核爆発にも匹敵するエネルギーが放たれた。
天空は不可能な色で染まり、
地上の者たちはそれを“悪魔のオーロラ”と呼んだ。
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《インフェルノ・ブラスター》対。
純粋なエネルギーの奔流が虚空で衝突する。
結果は――“消滅”。
白い閃光が雲を数十キロ蒸発させ、
衝撃波が大陸の半分を駆け抜けた。
《デス・スラッシュ》対《超音衝撃》。
刃と波動が交錯し、
現実そのものが歪む。
空間が裂け、虚無が姿を覗かせた。
カズキは《高度戦略》を発動。
完全予測。
あらゆる軌道、あらゆる反応――すべてを先読みする。
《インフェルノ・スピン》の回避行動を予測し、
その数ミリ秒前に位置を取った。
そして放たれた――次元を貫く一撃。
レーザーは虚空を突き抜け、
リュウの機体を直撃した。
轟音。
爆炎。
兄の戦闘機は粉砕され、炎に包まれた。
リュウは、限界の瞬間に射出装置を作動させる。
だが――パラシュートは開かなかった。
その身体は暗い空を裂き、
堕天する影のように地へと落ちていく。
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カズキは、考えるより先に動いていた。
機体を倒し、真っ逆さまに追う。
風が機体の外殻を裂き、悲鳴のような音を立てる。
> 「放っておけ!」
《戦の神》の声が脳内に轟く。
「輪廻を完結させろ!」
カズキは心の奥で叫び返す。
> 「あれは――俺の兄だ!」
精神が真っ二つに裂ける。
だが、最終的に勝ったのは人の意志だった。
カズキは操縦桿を握りしめ、制御を奪い返す。
終端速度のまま急降下。
機体が炎をまとい、翼が振動し、今にも砕けそうになる。
そして――最後の瞬間。
カズキはリュウに追いついた。
機体の翼が下に差し込み、
リュウの身体が衝突し、必死に掴まる。
重力との戦い。
カズキは操縦を立て直し、
両者はかろうじて空中に留まる。
ひび割れたキャノピー越しに、
兄弟は互いを見つめ合った。
その瞬間だけ、
すべてが静止する。
> 「……許してくれ。」
カズキの唇が、かすかに動いた。
リュウは弱く笑い、血に混じる涙を零す。
> 「――受け入れる。束の間の、安らぎだな。」
だが《死の魔神》は赦しを拒んだ。
リュウの中に再び侵入し、
肉体を歪め、魂を引き裂く。
リュウは抗う。
必死に、自我を繋ぎ止めようとする。
しかし――指先が、滑った。
力が抜け、
その手が、少しずつ、離れていく。
そして、氷の風が二人の間を吹き抜けた。
まるで――運命そのものが囁くように。




