第13章 ― 戦の神との融合
任務は明確だった。
リュウが立て籠もる山岳要塞を、完全に殲滅すること。
十五機の戦闘機。先頭に立つのはカズキ。
無線には、息づかいだけが響いていた――
地獄の前の静寂。
接近は奇妙なほど静かだった。
レーダーは沈黙し、風さえ死んでいた。
そして――世界が崩れた。
隠された対空砲台が、一斉に火を噴いた。
無数のミサイルが炎の群れとなって空へ舞い上がる。
空は煙と悲鳴で満ち、まるで地獄の口が開いたようだった。
三機が即座に爆散した。
カズキが叫ぶ。
> 「全機、回避行動!」
だが、すでに空は混沌そのものだった。
四番機、五番機――反応する間もなく、十字砲火に引き裂かれた。
そして、暗い雲の奥から――
リュウが姿を現した。
〈死の魔王〉は完全体となっていた。
金属と肉体が融合した、異形の存在。
黒い粘液を滴らせる膜翼。
それは空気そのものを歪ませる。
その眼は、病んだ双つの太陽のように輝いていた。
六番機が、ほんの一秒ためらった。
それで十分だった。
緑色の光線に包まれ、機体ごと蒸発した。
カズキは全火力で応じた。
〈インフェルノ・ブラスター〉が空を裂き、純粋なエネルギーの線を描く。
だが、身体はもう限界だった。
三週間に及ぶ連戦が、彼の肉体からすべてを奪っていた。
手は震え、視界は焼け、反応は数ミリ秒遅れていた。
七番機が爆散。
その衝撃がカズキの胸を貫いた。
八番機が背後を守ろうとした瞬間――撃墜。
無線にはノイズだけ。
その中で、カズキが呟いた。
> 「もう……無理だ……」
そして、聞こえた。
“声”が。
> 『――ならば、我が代わろう。』
封印が砕けた。
疲労という鍵が、強制的に開かれた扉。
〈戦の神〉が、炎の潮のように流れ込む。
カズキは己の中から弾き出された。
意識は遠くへ――水の中から世界を覗くように。
操縦席の中の自分を、他人のように見つめる。
身体はまだそこにある。
だが、それを動かしているのは、もはや彼ではなかった。
機体が変貌した。
金属が軋み、エネルギーが唸り、
空気そのものが燃え上がる。
空は赤に染まった。
まるで世界の血が、雲へと昇ったかのように。
雷鳴のように響く、〈神〉の笑い声。
> 『自由だ――!』
九番機、十番機――一撃も受けずに粉砕された。
味方を識別しない。
敵でも、同胞でも。
〈戦の神〉にとっては、ただの“障害物”だった。
カズキは内なる牢獄で叫んだ。
だが、人の声は外には届かない。
〈インフェルノ・ブラスター〉が再び充填される。
今度は、ただの一撃ではなかった。
“神の光”。
山脈を貫くほどの、灼熱の奔流。
光の奔雷が空を裂き、山を真っ二つに断ち割る。
リュウの要塞は、数秒で蒸発した。
金属も、骨も、声も――すべてが消えた。
十一番機と十二番機が逃走を試みた。
だが逃れられなかった。
〈神〉は笑いながら追い、灰にした。
リュウは辛うじて生き延びた。
〈死の魔王〉が己の形を犠牲にして庇ったのだ。
その反動で、巨大な爆発が起こる。
火の雲が天を突き、成層圏へと昇った。
――そして、静寂。
カズキは意識を取り戻した。
息が詰まり、肺が焼ける。
操縦席は焦げつき、
空気はオゾンと血の匂いで満ちていた。
計器は死に、警報は沈黙。
残ったのは三機だけ――
そのうちの一つが、カズキの機体だった。
十二人の仲間が死んだ。
任務は果たされた。
だが、魂は取り返しのつかないものを失った。
無線の向こうで、誰も言葉を発しなかった。
生き残った者たちは、敵よりも――
カズキを恐れていた。
そして彼自身も、
その恐怖を理解していた。
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つづく




