証券(解説)
細かい点を説明するときりがないため、ここでは2つだけ解説します。知っている人、興味のない人は、読み飛ばしてください。
【解説】
1.代表的な証券化商品
本編では、証券会社に所属するIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)が個人顧客に債券を販売しました。このような証券化商品はたくさんあります。
まず、代表的な証券化商品を列挙したのが、下表です。
【証券化商品の名称と概要】
これらの証券化商品に投資するのは、主に機関投資家です。本編のように個人が投資する場合は稀です。
さて、本編で登場したのはRMBS(Residential Mortgage-Backed Securities)です。個人の住宅ローンを担保とした代表的な証券化商品です。
米国におけるRMBSは、政府系の機関であるジニーメイ(連邦政府抵当金庫)、ファニーメイ(連邦住宅抵当公庫)、フレディマック(連邦住宅抵当貸付公社)により大部分が発行されています。
サブプライム・ローン(信用度の低い住宅ローン)を原資産とした証券化によってリーマンショックが起こりました。
CMBS(Commercial Mortgage-Backed Securities)は、企業・ファンドがオフィスビル、ホテル、商業施設を取得する際の借入金を担保とします。
個人向けの住宅ローンがRMBS、企業向け不動産担保ローンがCMBSの対象です。
次に、CLO(Collateralized Loan Obligation)は不動産担保ローン以外のローンも含まれます。貸付債権であればいいので、RMBSやCMBSよりも範囲が広いです。
CLO > RMBS + CMBS
CBO(Collateralized Bond Obligation)の対象は債券(社債等)です。ローンは含まれません。
CDO(Collateralized Debt Obligation)は負債調達(借入、社債等)が対象です。
CLO+CBO=CDOと考えればいいでしょう。
ちなみに、証券化プログラムでは、実在するローンや社債を原資産にしない場合もあります。架空の資産を対象にしたSCDO(シンセティックCDO:Synthetic Collateralized Debt Obligation)です。
SCDOは、実在するローンや債券ではなく、CDSを利用します。
これ以上説明すると混乱すると思うので、証券化商品の話はここまでにします。
2.ウォーターフォール
本編におけるRMBSはシニア(普通社債)、メザニン(劣後社債)、エクイティ(出資金)の3つのトランシェ(区分け)がありました。
【本編のRMBSのスキーム】
複数トランシェが存在する証券化商品において、ウォーターフォールは超重要です。
ウォーターフォール (Waterfall) とは、発行体の保有する現預金について、定められた優先順位に従って支払う流れです。
本編における普通社債と劣後社債のウォーターフォールは、下図でした。
普通社債→劣後社債の順番で金銭を支払い、同一トランシェ内では償還→利息支払の順番です。
【本編のウォーターフォール】
一般的なウォーターフォールは下図です。
普通社債→劣後社債、利息支払→償還です。シニア(普通社債)が優先されることは同じですが、元本償還よりも利息支払が優先されます。
【通常のウォーターフォール】
何らかの意図があり、通常とは異なる契約になる場合があります。
「優先的に償還されるので安全です!」と言って、個人投資家に劣後社債を販売したのかもしれません。
しかし、契約に不備(弱点)があれば、そこが狙われます。
本編は、失敗を分かりやすくするために、ウォーターフォールを「償還→利息支払」にしました。
実務では、もっと細かい契約上の不備をついて、儲けようとします。債券を発行する際、債券に投資する際には、契約上の不備がないかを確認してくださいね。
ということで、本編3話+解説で、証券会社の債券販売の失敗事例を解説しました。
<おわり>