不動産(解説)
ここでは、本編に出てきた不動産・金融取引について、解説します。
細かい点を説明するときりがありません。ここでは基本的な2つだけを解説します。知っている人、興味のない人は、読み飛ばしてください。
1.住宅ローンと不動産投資ローンの違い
不動産投資をした鈴木さんは、住宅ローンを借入れて購入した中古マンションを賃貸しました。
実際には不動産投資のための借入れなので、契約違反(資金使途違反)です。ただ、「今の物件を処分して、引っ越しますから」と住宅ローンを借りる人もいるでしょう。嘘を吐いても住宅ローンを借りるのは、住宅ローンのほうが多く借入れられて、金利が低いからです。
不動産会社は、買手に住宅ローンを借りてほしいです。理由は、割高な不動産を売れるからです。
銀行も、買手が住宅ローンを借りてくれたほうがありがたいです。同じ物件を購入しても、不動産投資ローンよりも多く融資できます。ただ、銀行は資金使途違反を知っていたうえで、貸してはいけません。
ここでは、住宅ローンと不動産投資ローンの違いを説明しましょう。
まず、住宅ローンは、自宅の購入、増改築のためのローンです。賃貸経営を目的とした物件の購入には使用できません。
一方、不動産投資ローンは、収益物件(賃貸マンションなど)の購入のためのローンです。収益物件を購入する場合には、住宅ローンではなく不動産投資ローンで調達する必要があります。
住宅ローンと不動産投資ローンの違いを、列挙したのが下表です。
【図表:住宅ローンと不動産投資ローンの違い】
※借入比率(LTV)=借入金額÷不動産価格です。不動産の取得において、どれだけ借入金を利用したかを表す指標です。
不動産投資ローンの対象は収益物件(賃貸マンションなど)なので、住宅ローンよりも平均的な借入金額は大きいです。10億円のマイホームを住宅ローンで購入する人はいませんが、10億円の収益物件(賃貸マンション)を購入する人はいるからです。
賃貸マンション1棟を10億円で購入する際に、7億円を借入する。こんな使い方をします。購入額の100%の借入は難しいです(できる場合もあります)。
住宅ローンで投資用物件を購入する人はいます。ただし、金融機関は資金使途違反がないかを定期的にチェックしています。契約違反が発覚した場合には、残債の一括払いを要求されます。最悪のケースは、詐欺罪に問われる場合もあるので、やめたほうがいいですね。
2.実需物件と投資用物件の違い
鈴木さんは五反田不動産と渋谷銀行にカモにされました。ここでは、五反田不動産が利用した、実需物件と投資用物件の違いについて説明します。
実需物件を買うときは、物件利回りよりも、学区、日当たり、住環境を重視します。つまり、物件価格が高くても条件が合えば買ってくれます。予算内であれば、割高でも売れます。
一方、投資用物件は物件利回りを重視します。物件価格が高いと期待利回りを確保できないから、買いません。
だから、同じ物件であっても、投資用物件よりも実需物件のほうが価格は高いです。
実需物件の物件利回りは2~3%です(物件によって違います)。しかし、物件利回り2~3%の物件を投資用に買っても、投資回収ができません。
※例えば、税引前・償却前利回り(NOI)で投資額を回収したら33~50年掛かります。
実需物件と投資用物件の違いは、入居者の有無です。
ファミリータイプの物件は、入居者がなければ実需物件として売買できます。入居者のいる物件は自分が住めないから、投資用物件です。
ファミリータイプの物件は、賃貸すると価格が下がります。
たまに、転勤でマイホームを貸す人がいます。これは、止めたほうがいいです。
そのまま(貸さずに)のほうが、高く売れます。それに、ファミリータイプの賃借人はなかなか退去しません。転勤が終わって自分が住もうとしても、住めません。だから、安値で処分するしか選択肢がなくなるのです。
さて、下図は五反田不動産の中古マンションの仕入と販売を図示したものです。不動産会社は、物件を安値で仕入れ、高値で売るビジネスモデルです。
すなわち、ファミリータイプの物件を投資用物件(2,000万円)として仕入れ、賃借人が退去した後リノベして、実需物件(マイホーム、5,000万円)として個人に販売します。
【図表:五反田不動産の戦略】
これを専門にする不動産会社もあります。上場企業ではインテリックス(8940)やスターマイカ(2975)です。この方法は、不動産会社の仕入・販売の基本的な戦略なので、覚えておいたほうがいいですね。
ということで、今回は不動産業界あるある話を紹介しました。不動産投資をするときは、不動産会社や銀行にカモられないように気をつけてください。
(解説おわり)