表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三人

加奈子、二郎、結城の三人は仲が良かった。

学校では、男女の関係なく遊んだ。






10年後、二郎は東京の商社で働いていた。

中堅とはいえ海外展開も多く、海外への出張も多かった。

その行きつけのシンガポールのバーでのことだった。

取引先と飲んでいると、向こうに日本人女性らしき人が見えた。

同じアジア系が多いシンガポール、

「日本人とよくわかるな」

と思われるようだが、

それがわかる。

駐在員やよく行っている人間にはわかるのだ。

そして、どうしても気になってしまった。

商談そっちのけで注目していて、

もっと驚いてしまった。

彼女は、加奈子だったのだ。


当然、近づいて声をかけた。

加奈子は他の女性、たぶんシンガポリアン、

と一緒だった。

「か・な・こ?」

加奈子は、怪訝な顔でこっちを向いた。

でも次の瞬間笑顔になっていた。

「ジロちゃん」

二郎は学校ではそう呼ばれていた。

犬のようで嫌だったが。


「どうしてここに?」

「出張」

「へえ~、偉くなったんだ。」

「偉くはなってないけど」

「加奈子は?」

「シンガポールエアラインのCAよ」

「え~~~~!あの英語が全然だめだった加奈子があ?」

「まあなんとでもなるものよ。」


そう、なんとでもなるものだ。

実際、二郎も英語が得意ではなかった。

「で、今は日本と往復の日々?」

「そう」

「で、今日はこちら?」

「そう、マリーナベイサンズ」

「え~~~~!あの屋上プールの?」

「そう」

「さすがシンガポールエアラインは違う!」

「会社は別ホテル指名よ。でも差額を払えば、どこでもいいの」

「あの~~・・・ 行ってもいい?」

「大歓迎よ!部屋はだめだけど(笑)」


数時間後、二人はホテルのラウンジにいた。

「やっぱ、違う!別世界だね」

「ははは!」

「ところで結城のこと知ってる?」

「知ってる」

「未だひきこもりなんでしょ」



10年前だった。

三人のいたクラスで泥棒事件があった。

加奈子の前の席の鈴木さんが財布を盗まれたと言うのだ。

一番席が近く、同じ女性で、無くなった時間帯にそこにひとりでいた、

加奈子が疑われた。

そして何よりも鈴木さんが、加奈子が怪しいと言い出した。

当時、加奈子の家庭は母子家庭。決して裕福ではなかった。

しかし事件は意外な方向に進んだ。

結城が、

「すみません、私が盗みました」

と名乗り出たのだ。

逆に結城の家は裕福な家庭だった。

当時の結城が言うには、

「鈴木さんの態度が気にくわなかった」

そうなのだ。



あれから10年。

「結城、あのあとひきこもったんだよな。」

「そう、未だに訳がわからない。」

「私たち何度も行ったよね。」

「そう、俺なんか、

『お前がひきこもったら、加奈子ずっと苦しむぜ』

って何回も部屋の前で言ったのに・・」

「去年、お父さん亡くなったんだ。」

「え?じゃあ、結城に会ったの?」

「ううん、葬儀にも出てこない」

「知らなかった・・」

「私だって偶然知ったのよ。」

「結城んち、あれから交流極力絶ってたもんな」

「ねえ、ちょっと調べてみない?」

「え?」


「なんか刑事ドラマのようね」

「そんなのんきな事言ってられるのも、

今のうちだけかもよ」

「まずはあのころのことを

逐一思い出そう」



10年前、

「ほんまに結城が盗んだんか?」

「・・・」

「うそやろ?」

「あれはもしかしたら」

「・・」

「自作自演やろ」

「・・」

「絶対そうや!」

加奈子と二郎は、鈴木を問い詰めた。

しかしそれが逆に結城を窮地に貶めることとなった。

なぜか、結城が

「鈴木さんの自作自演で加奈子を助けるために言った」

と言っているという噂が広まったのだった。

まだSNSがそれほど広まっていない時代だったが、

少年少女の間の噂の広がりは早く大きかった。

それが鈴木の親の学校への抗議になった。

学校は結城を「退学処分」にせざるをえなかった。



「そういえば、鈴木は今、どうしてるんだ?」

「親父さんの議員秘書のようよ」

「将来の悪徳国会議員か」

「悪徳は言い過ぎでしょ?」

「そうかなあ、性格はそうそう変わらないと思うけど・・

ま、お前より、俺の方がそっちの調査しやすいと思うから、

まかしとけ」


数日後、

「おいおい、すごい事実が出てきたぞ!」



10年前、

鈴木議員と結城家族には関係があった。

新庄(結城の父)は、鈴木議員の地盤から、

次期衆院選に立候補を予定していたのだ。

そんなこと、子供達(ここでは加奈子、二郎、結城)には

わかるはずもなかった。

結局、泥棒事件のなんやかやで、新庄の立候補は見送られ、

鈴木は当選した。



「しかし、鈴木は加奈子を犯人にしたよな」

「それが計画だったとしたら?」

「とにかくもう一度結城に会おう」


結城は今はひとりで住んでいた。

母親も出ていっていた。

「ひきこもりでどうやって生きてるんだ?」

「たぶん母親が援助してる」

結城の部屋の前に来た。

「結城!俺だ!二郎だ!」

「結城くん!加奈子よ!何か言って!」

「結城!結城!結城!結城!」

カタッ・・

「今、音しなかったか?」

「ゆ~う~き~~~~~~!」

・・・

・・・

「お・わ・る」

「え?」

「今、終わると聞こえなかったか?」

「何が終わるんだ?!」

「何が?!」

「まさか!」

二郎と加奈子は最悪のケース(殺人)を考えていた。

しかし、現実はドラマではない。


数日後、

二郎は加奈子を結城の家に呼んでいた。

そして結城に向かって、

「おい!ゆーき!確かに終わったな」

と言った。

加奈子は、

「え?!何言ってるの!」

それを無視していると、ドアが開いた。


鈴木議員は収賄で辞職、

秘書だった娘は逮捕された。

そしてそのきっかけになったのは、

SNSへの投稿だった。

そしてそれを長年追っていたのは、

結城だったのだ。






加奈子、二郎、結城の三人は、

10年ぶりに喫茶店で会っていた。

「よくがんばったよな、ゆ~き」

「ひきこもりと称して」

「10年も調べていたのよね、教えてくれれば協力したのに」

「どこで漏れるかわからなかったんだ、ごめん」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これ、長編にしたら良いのに!
素材はおもしろく、興味もありました 短編なので難しいかもですが、高校時代の盗みのこと 復讐への思いがちょっと詳しく知りたかったですかね…
私も春チャレを投稿した者で、10年以上引きこもっていた身内を助けたことがあるので、何となく親近感を覚えて読んでしまいました。 なるほど、そういうカラクリだったのですね。 しかし、友達というのは不思…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ