第二十話 総体前夜 前編
前回までのあらすじ
貫太郎たちは海風学園高校に入学後、厳しい水泳部の入部試験を乗り越え、正式な部員として新生活をスタートさせた。新人戦に三島アリスが参戦して、チームの士気を上がり、激闘の末に優勝して、アリスは正式に水泳部員となった。やがて、県大会の出場種目が発表され、貫太郎たちはそれぞれの強みを活かし、全国制覇を目指す決意を固める。体育祭の後、貫太郎達は県大会を前に厳しい練習に励み、強豪校との特別合同練習を迎えた。新入生部員は先輩部員の手厚い指導で水泳の技能を磨き上げる中、貫太郎は恵美の知られざる過去を知り、彼女の決意と覚悟を受け止め、愛の鞭の特別指導を受けるが、そこへ挑発してきた特別合同練習に参加していた恵美の現役時代のライバルである強豪校の監督との水泳勝負に買って出るも恵美は敗れてしまう。恵美の敗北で特別合同練習は一日で中止となり、恵美を侮辱された海風学園高校水泳部は悲しみを怒りに変えリベンジを誓った。特別合同練習の中止に伴い、年間のスケジュールに強化合宿の回数が増え、早速南の祖父母の経営する民宿に泊まり込みで、二泊三日で海での水泳強化合宿が行われて、貫太郎達は先輩方から水泳の必勝法を教わり、少しずつでも成長していくのだった。
登場人物:
川名貫太郎:主人公。自由形専門。元々は小中学校の水泳部で全国優勝の経験を持つが、海風学園高校での練習を通して、天狗になったと気付かされる。国語と英語と歴史など文系科目が得意。和田秀樹の著書の勉強法を駆使して勉強中。
佐藤健太:貫太郎の友人。バタフライ専門。水泳とテレビゲームが趣味で、部活動を楽しむタイプ。体育以外の科目は苦手であり、特に国語(主に古文)と英語(主に分詞構文)が苦手。貫太郎に助けを求めることが多い。
山本亮:貫太郎の友人。背泳ぎ専門。科学の本を読むのが好きで、理数系が得意。逆に国語と歴史は苦手だが、貫太郎から歴史の学び方を教わり、国語と歴史を勉強し易くなる。逆に数学が苦手な貫太郎には綾乃と共に勉強を教える。
高木拓也:貫太郎の友人。平泳ぎ専門。アニメと漫画のオタクで、1960年代から2010年代までの作品に精通。特にドラゴンボール、聖闘士星矢、ガンダム、エヴァンゲリオンが好き。主要科目の国語と数学と英語が苦手で、いつも貫太郎や綾乃に助けを求める。
三島アリス:貫太郎の同級生。自由形専門。国内でも名の知れた大企業「三島コーポレーション」の社長令嬢。幼い頃から厳しい教育を受けてきたが、その中で水泳だけは自分自身で選んだ趣味であり、全中水泳大会で個人の部で優勝経験を持つ。とある事がきっかけで貫太郎に恋心を抱き、新人戦に飛び入り参加して、遅れながらも水泳部に入部を認められる。
中村美枝子:平泳ぎ専門。ファッション愛好者で、将来は高級ブランドのバッグを手に入れるのが夢。国語と英語が苦手で、授業後に貫太郎に教えてもらうことが多い。貫太郎に想いを寄せており、アリスとは貫太郎を巡る恋敵ではあるが、喧嘩するほど仲が良い友人関係でもある。
小林綾乃:背泳ぎ専門。クラシック音楽や美術が趣味で、ベートーヴェンやバッハを愛する。水泳のスポーツ推薦で入学し、成績もトップ。英語は得意だが、それでも理解できない箇所は貫太郎に教えて貰う。数学は得意で苦手な貫太郎に教えることが多い。貫太郎に想いを寄せており、アリスとは貫太郎を巡る恋敵の関係ではあるが、時には同じ金持ちの娘同士と言うことで助け合うこともある。
斉藤南:バタフライ専門。スキューバダイビングが趣味で、両親が海洋生物学者。生物が得意だが、古典や歴史に苦労しており、貫太郎にこれらの科目について教えを乞う。貫太郎に想いを寄せており、アリスとは貫太郎を巡る恋敵ではあるが、互いに泳ぎの速さを認め合っている好敵手の関係でもある。
松澤恵美:28歳。清楚美人教師。海風学園高校卒業生かつ元水泳部キャプテン。パリ大学修士課程を中退し、公民・世界史教員兼水泳部顧問として帰国。平時はお淑やかだが、部活動では鬼教官に変身。ビキニやハイレグ型競泳水着を着用し、すぐにプールサイドに向かえるように常に準備している。
高橋美咲:水泳部の主将。厳しい性格で、恵美のやり方を引き継いでいる。部員からは恐れられつつも尊敬される存在。日本史専門の歴女だが、世界史も履修しており歴史全般が得意。日本史に残る海戦や戦国大名の故事を元に貫太郎を指導する。彼女自身は全教科の成績は優秀で、国公立大学の教育学部志望で高校教師を目指している。
上原美玲:水泳部の副キャプテン。美咲と正反対の優しい性格で、部員を温かく支える。そのため、「鬼の美咲、仏の美玲」と形容される。世界史専門(特に西洋史)の歴女だが、日本史も履修しており歴史全般が得意。世界史に残る海戦や英雄の故事を元に貫太郎を指導する。彼女自身も成績優秀であり、国公立大学の法学部志望で弁護士を目指している。
大和田美奈: 三年生。平泳ぎ専門。アニメ好きで『キャンディ・キャンディ』や『未来少年コナン』を好む。映画鑑賞も趣味で、部活動の合間にはアニメや映画の話題で盛り上がる。アニメの話題を使ってアニメオタクの拓也を指導する。彼女は勉強は苦手だが、部活には熱心に打ち込む。声優志望であり、専門学校への入学を目指す。話し方は関西弁。
中島さくら: 三年生。背泳ぎ担当。ドラマチックなアニメが好きで、特に『ガラスの仮面』や『フルーツバスケット』を愛する。日記に自分の思いを書き留めることで、心の整理をしている。クラシック音楽(特に古典派・ロマン派音楽)が好みであり、同じクラシック好きのリケジョの綾乃を、医学的観点とクラシック音楽の波動を水泳に応用して指導する。彼女は成績優秀で、国公立大学の医学部志望で、内科医を目指している。
山口健: 三年生。平泳ぎ専門。『マジンガーZ』や『機動戦士ガンダム』のファン。模型作りが趣味で、部室ではプラモデルを組み立てる姿がよく見られる。石ノ森章太郎や八手三郎など東映特撮作品や円谷作品など特撮にはかなり精通している。同じオタクの拓也をオタク仲間の美奈と共にアニメや特撮の話題を用いて、水泳に応用することで拓也を指導する。元より就職志望であり、電気工事士の国家資格の取得を目指している。
森川ユウ: 二年生。自由形担当。『セーラームーン』が好きで、ファッションや写真撮影が趣味。大会や合宿では、みんなが写真に収まるのを楽しみにしている。彼女はアニオタでもあり、魔法少女系アニメやアイドル系のアニメが好みであり、ファッションモデルを志す美枝子に美しい泳ぎ方を指導する。将来の夢はファッションモデルになることで、ファッションに関する知識を猛勉強中。
田辺明美: 二年生。個人メドレー。『ドラゴンボール』や『NARUTO』などバトル漫画を好む。スポーツ観戦、特にバスケットボールが好きで、部活動後には試合の話で盛り上がる。同じバトル漫画が好みの健太を、バトル漫画の主人公や英雄達の話題を用いて、水泳に応用することで指導する。元プロレスラーの両親に似て気が強く、将来の水泳部キャプテン候補とも噂されている。
小林咲: 二年生。綾乃の姉。バタフライ担当。『エヴァンゲリオン』や『けいおん!』が好きで、音楽鑑賞とギター演奏が趣味。妹とは違い、クラシックでは無く洋楽のロックンロールを好む。ビートルズやドアーズが好み。得意科目の物理の波の波動や音の振動の法則を応用して、南のバタフライ強化を指導する。将来の夢はアイドル歌手であり、往年のアイドル歌手が歌った歌謡曲をカヴァーして歌の練習している。
石田裕介: 二年生。背泳ぎ。『攻殻機動隊』や『デスノート』のファン。プログラミングと電子工作が好きで、部活動のスピーカーなどを自分で作ったことがある。物理が得意な理系男子であり、物理の浮力や力学を応用して、同じ理系男子の亮を指導する。父がエンジニアであることから、工学部又は理学部経由でのIT関係の就職を志望している。
高田光: 二年生。平泳ぎ。和風が好みであるため、アニメでも『銀魂』や『BLEACH』など和風要素のあるものを好む。実家が割烹居酒屋であり、和食が得意料理となっている。一人前の料理人を目指すべく、父の旧友が経営する寿司屋と天麩羅屋のバイトを掛け持ちして修行している。部活動の合宿では料理担当として活躍する。典型的な愛国者であり、日本文化を人一倍に愛している。そのため、ユウと共に美枝子に美しい大和撫子になってもらうための美しい泳ぎ方を教える。
牧野京子(国語):25歳のツンデレ美人教師。海風学園高校勤務3年目。国語の読解力を鍛えるために、現代文は歴史に名を残した近代文学作品、古典は歴史書と古典文学を読むことを生徒に推奨している。特に歴史が比較的得意な主人公には一目置いており、授業中に歴史の知識を問うことも多い。厳しい口調故に生徒から畏怖されているが、主人公と二人だけの環境ではツンデレ美女の側面を見せている。
守屋亜衣(英語):23歳の癒やし系美人教師。海風学園高校勤務1年目の新人。温厚な性格で、基本的には笑顔で生徒に接している。中学時代のいじめで不登校になり、持ち前の英語力を生かして、家族の転勤でアメリカに渡り、バージニア大学に留学して飛び級で卒業して、ウィリアム&メアリー大学の修士課程、テキサス大学オースティン校の博士課程を修了して日本に帰国したばかりの帰国子女である。留学の経験を生かして、英語の授業はより実戦的なものになっている。
沼田正晴(生物基礎):75歳。大ベテランで副校長。動植物に精通し、生徒から慕われる。ビートルズやマリリン・モンローなど古いロックバンドの音楽が好み。
杉下俊二(数学):60歳の男性初老教師。海風学園高校勤務38年目のベテラン。若い頃はスパルタ教師として校内では有名であり、体罰は日常的だったと言われる。55歳の頃に胃癌で入院したことをきっかけに、体力は衰えており、言葉の話し方は高齢者らしく呂律が回っていないため、生徒の理解力は低下しつつある。
石橋隆信(地学基礎):48歳の男性中年教師。海風学園高校勤務19年目のベテラン。地学の教員の募集枠は公私共に少ないため、就職活動に苦労しており、地学の授業を行っている海風学園高校に正式採用されたため、本校への忠誠を誓っている。温厚な性格と授業の面白さ故に生徒から愛されている。
長谷川一明(日本史A):58歳。ベテラン教師。時代劇・史劇ファンで、映画を交えた授業が特徴。好きな作品は東映、大映、新東宝の映画作品であり、無類の映画オタクでもある。
プロローグ:朝の登校
海風学園高校の校門前は、朝の静けさに包まれていた。空はまだ薄暗く、夜明けの光が徐々に広がり始めていた。貫太郎たちは二泊三日のリベンジ強化合宿を終え、民宿「海の風」から学校へと向かっていた。制服に着替えた彼らは、宿泊先の疲れを引きずりながらも、今日という特別な日を迎えるための準備をしていた。
貫太郎は、昨晩の出来事を思い出しながら歩いていた。彼は酔っ払った恵美と一晩中、リアル鬼ごっこをする羽目になり、ほとんど睡眠を取れなかった。目は赤く、足取りも重い。だが、彼の顔にはどこか満足げな笑みが浮かんでいた。昨夜の鬼ごっこは、普通の練習では味わえない緊張感と楽しさがあったからだ。
健太:「貫太郎、昨日は本当に大変だったな。恵美先生、いつもと違う顔を見せてくれて面白かったけど、お前は大丈夫か?」
健太が心配そうに声をかけた。
貫太郎:「ああ、なんとかね。でも、今日の総体は絶対に勝ちたいから、ここで寝るわけにはいかないよ。」
貫太郎は苦笑しながら答えた。
一方、アリスは貫太郎の隣を歩きながら、鋭い視線で彼を見ていた。彼女は昨日の合宿で貫太郎と恵美の距離が近くなったことを気にしていた。アリスは自分の美枝子に対する立場を明確にするために、強い口調で言った。
アリス:「貫太郎、私が言ったでしょ。あんたが他の女の子と仲良くするのは絶対に許さないって。特に、恵美先生とのあの鬼ごっこは何?」
貫太郎:「アリス、それはただの練習の一環さ。恵美先生は僕たちを強くするための厳しさを教えてくれたんだよ。」
貫太郎は困惑しつつも、穏やかな口調で答えた。
しかし、アリスはそれだけでは納得がいかない様子だった。
アリス:「練習は練習であって、個人間の距離感は別だわ。私が許さないのは、他の女の子と特別な時間を過ごすことよ。」
その時、美枝子がやってきて、会話に割り込んだ。
美枝子:「アリス、貫太郎のことは私が見守るわ。将来の結婚相手は私だからね。」
これにはアリスが一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに反論した。
アリス:「結婚?それは私が決めることよ!貫太郎の気持ちは私が一番よく分かってるんだから!」
貫太郎は頭を抱えながら、「二人とも、落ち着いてくれよ。今日は総体の前夜だぞ。集中すべきは試合のことだ。」と諭すように言った。
健太、亮、拓也、綾乃、南はそんなやり取りを聞きながら、呆れた表情で見ていた。健太が苦笑しながら、「本当に、貫太郎を巡る争いって終わらないな。」とつぶやいた。
「まあ、貫太郎がどれだけ女子にモテるかってことの証明だろ?」と拓也が冗談めかして言うと、亮が「それはそれで大変だろうけどな。勉強の時間もろくに取れないんじゃないか?」と心配そうに付け加えた。
綾乃は少し憂鬱そうに、「貫太郎のことが好きなのは分かるけど、今日は試合のことだけ考えたほうがいいんじゃない?」と提案した。
南も同意して、「そうだね。私たちは一つのチームとして、今日は全力で戦うべきだよ。」と静かにだが力強く言った。
その間にも、アリスと美枝子の口論は続いていた。美枝子は、「貫太郎は私が支えるんだからね。水泳も勉強も私が教えるわ。」と言い放つ。
アリスも負けじと、「私も負けないわよ。貫太郎のすべてを知ってるのは私だからね。」と反論した。
貫太郎はその二人の間で、どうしたらこの状況を収拾できるかを考えていた。彼は疲れていたが、今日という日がチームにとって重要な一歩となることを知っていた。試合に集中させるために、彼は勇気を出して声を張り上げた。
貫太郎:「二人とも、聞いてくれ!今日から総体まで残された期間は少ない。僕たちは一つのチームとして、全国制覇を目指すんだ。それぞれの個人的な感情は一旦置いて、チームのために一緒に戦おう。どうか、頼む。」
その言葉に、アリスと美枝子は一瞬目を合わせ、やがて互いに頷いた。アリスが「...分かった。今日は貫太郎の言う通りにするわ。」と言い、美枝子も「今日は試合に集中しよう。私たちの勝負は試合後ね。」と続けた。
その決意の言葉を聞いて、チームの雰囲気が少しずつ変わっていった。疲れや個々の感情を超えて、全員が一つの目標に向かって歩き始めた。
シーン1:日本史Aの授業
教室には、朝の新鮮な光が差し込んでいた。1限目のチャイムが鳴ると、同時に教室のドアが開き、日本史Aの教科担任、長谷川が悠然と入ってきた。彼の背後には、プロジェクターのスクリーンに映し出される予定の映画ポスターが見える。今日の授業は、ただ教科書を読むだけではなく、映画を通じて歴史を体験する特別な日だった。
長谷川: 「さて、今日は皆さんに、時代劇の名作『土方歳三 燃えよ剣』を鑑賞してもらいます。この映画を通じて、幕末という激動の時代を生きた新選組の魂に触れてください。歴史はただの過去の出来事ではなく、私たちの生きる今日につながる物語ですからね。」
生徒たちはそれぞれの席に座りながら、興味深く先生の話に耳を傾けていた。特に貫太郎は、歴史の授業が好きだったので、映画で歴史を学べるというのは楽しみだった。隣の席の健太は、ゲームから目を離し、少し興味なさそうな表情を浮かべていたが、それでも先生の話に耳を傾けていた。
貫太郎: (心の中)「『燃えよ剣』か...。土方歳三の生き様が見られるなら、今日の授業も楽しみだな。」
先生はプロジェクターを操作し、スクリーンに映画が映し出されると、教室の灯りを落とした。映画の冒頭、土方歳三が江戸の街を歩くシーンから始まった。剣豪としての誇りと、時代の流れに翻弄される彼の姿が描かれていく。
美枝子: (小声)「土方さん、カッコいい...。でも、この時代の厳しさも感じるわね。」
美枝子は、画面に釘付けになっていた。彼女はファッション好きだが、歴史のドラマや映画も好きで、特に時代劇には目がない。物語が進むにつれ、彼女は土方の決意と、その背後にある悲哀に心を動かされていた。
綾乃: (涙を拭いながら)「佐絵さんの死に様、私には耐えられない...。時代劇って本当に泣かせるわ。」
綾乃はクラシック音楽や美術への愛と同様に、歴史の美しさや悲しみにも深く共感する。彼女は映画の中で描かれる愛と義務の葛藤に、自分自身の感情を重ね合わせていた。
映画のクライマックス、池田屋事件のシーン。土方歳三が七里研之助と対峙する場面では、教室全体が静まり返り、生徒たちは一心にスクリーンを見つめていた。
貫太郎: (心の中)「この戦い、ただの剣の打ち合いじゃない。時代を変える一瞬だ...。」
貫太郎は、映画のシーンを通じて、歴史が決して単純な事実の羅列ではなく、個々人の選択や運命によって動くものだと感じていた。彼は水泳でも同じように、自分の選択がチームの未来を変えることを思い、胸が熱くなった。
映画が終わり、スクリーンが白くなって灯りが点いた時、生徒たちはそれぞれの思いを胸に、しばらくは無言だった。
長谷川: 「どうでしたか、皆さん?新選組の生き様、そして時代劇が描く人間ドラマに触れてもらえたでしょうか?歴史は、ただ覚えるものではありません。私たちが生きる今でも通じる人間性や、時代の流れを感じ取ってほしいのです。」
亮: 「先生、土方歳三が自裁した佐絵さんに会うシーン、改めて考えると本当に切ないですね。時代が変わる中で、彼らが何を思っていたのか...。」
亮は理数系が得意だが、歴史の劇的な展開に思いを馳せ、自分が今まで歴史をどれだけ表面的にしか見ていなかったかを反省していた。
拓也: 「アニメや漫画とも通じる部分があるな。特に、自分の信念と時代の流れとの戦い。これ、ガンダムにもあったよな。」
拓也はいつもアニメや漫画と結びつけて考え、そこから歴史を見つめ直すことが多かった。今日の授業も、彼にとっては新たな視点を提供するものだった。
授業は続き、長谷川先生は映画の背景や、当時の社会情勢について詳しく説明し始めた。生徒たちはそれぞれの感情や学びを胸に、今日の授業から得たものを大切にしながら、次なる歴史のページをめくろうとしていた。
このようにして、貫太郎たちは幕末のドラマを通じて、歴史の深みと人間の魂の強さを学び、水泳部の総体前夜を迎える準備をしていた。
シーン3:国語の授業
2限目のチャイムが鳴ると、教室には少し疲れた空気が漂っていた。日本史Aの映画鑑賞で感情を揺さぶられた生徒たちは、少し休息を求めるような表情を浮かべていた。しかし、次の授業が国語であると知ると、特に貫太郎は目を輝かせた。国語は彼の得意科目であり、文章を通じて感じる人間の心や社会の深さにいつも魅了されていた。
教室のドアが開き、国語の教科担任である牧野京子先生が入ってきた。彼女は20代半ばの落ち着いた雰囲気を持つ女性で、眼鏡越しに見える鋭い目つきが、文学に対する深い愛情と厳格さを物語っていた。彼女の手には、小林多喜二の『蟹工船』の文庫本が握られていた。
京子: 「おはよう、皆さん。今日は小林多喜二の『蟹工船』を読み解きます。この作品は、ただの物語ではありません。戦前の日本で労働者が置かれた過酷な現実と、それに立ち向かう彼らの覚醒を描いた、社会的なメッセージを持つ文学です。現代文の読解力を鍛えるためにも、しっかり向き合ってください。」
生徒たちは一斉に教科書を開き、牧野先生の言葉に耳を傾けた。教室の窓からは、2月の冷たい風が微かに感じられ、外の曇り空が授業の重いテーマにどこか調和しているように思えた。
牧野: 「まず、『蟹工船』が書かれた背景から説明します。1929年、小林多喜二がこの作品を発表した当時、日本は軍国主義が台頭し、言論の自由が抑圧されていました。検閲や不敬罪で追起訴される中、彼は労働者の声を代弁し続けたんです。この小説には特定の主人公がいない代わりに、蟹工船で酷使される労働者たちが群像として描かれています。彼らの苦しみと抵抗を通じて、多喜二は何を伝えようとしたのか。それを考えながら読み進めてください。」
貫太郎はノートにペンを走らせながら、京子の言葉を一言一句逃さないようにしていた。彼は小林多喜二の名前を以前から知っていたが、その作品に込められた気概に改めて心を打たれていた。
貫太郎: (心の中)「言論の自由がない時代に、こんな作品を書くなんて…。多喜二の覚悟ってどれだけ強かったんだろう。俺たちが今、自由に学べるのは当たり前じゃないんだな。」
隣に座る健太は、教科書を眺めながら少し退屈そうな顔をしていた。国語、特に現代文は彼にとって苦手分野だった。古文や分詞構文ならまだしも、社会的なテーマが絡む文章は頭に入りにくく感じていた。
健太: (小声で貫太郎に)「なあ、貫太郎。この話、ゲームみたいに単純じゃないからさ、頭痛くなってくるよ…。」
貫太郎: (小声で返す)「健太、我慢しろよ。この作品、俺たちの水泳部の団結とかにも通じる部分があるかもしれないぜ。」
健太は少し驚いた表情を浮かべ、渋々ながらも教科書に目を戻した。貫太郎の言葉に何か感じるものがあったのかもしれない。
牧野は黒板に「蟹工船」の概要を書き始めた。労働者の過酷な環境、監督・浅川の非道さ、そしてストライキへの目覚め。彼女の声は抑揚があり、生徒たちを引き込む力があった。
牧野: 「この作品の舞台となる蟹工船『博光丸』は、法の空白域でした。航海法も労働法規も適用されない船内で、労働者は人間扱いされず、過労や病気で次々と倒れていきます。そんな中、彼らが権利意識に目覚めていく過程が重要です。例えば、ロシア人に助けられたエピソード。ここで労働者たちは、自分たちと同じ人間が国境を越えて存在することを感じるんです。」
美枝子は教科書を読み進めながら、少し眉をひそめていた。彼女はファッションや美しさへの憧れが強いが、こうした過酷な現実を描く文学には心がざわついた。
美枝子: (心の中)「こんなひどい環境で働かされるなんて…。私だったら耐えられないよ。でも、彼らが立ち上がった気持ち、ちょっと分かるかも。水泳部で恵美先生が負けた時、私たちも悔しくて立ち上がったもんね。」
一方、綾乃は静かに涙を拭っていた。彼女の感受性は強く、労働者たちの苦しみや覚醒の瞬間が、クラシック音楽の悲壮な旋律のように彼女の心に響いていた。
綾乃: (心の中)「この人たちの叫び、まるでベートーヴェンの交響曲みたい…。抑圧の中でも希望を見出そうとする力が、こんなにも美しいなんて。」
授業が進む中、牧野は突然貫太郎を指名した。
牧野: 「川名君、ここまでの話を聞いて、『蟹工船』の労働者たちがストライキに踏み切った理由をどう解釈しますか?自分の言葉で説明してみてください。」
貫太郎は一瞬緊張したが、すぐに頭を整理し、立ち上がった。クラスメイトたちの視線が彼に集中する中、彼は深呼吸して話し始めた。
貫太郎: 「えっと、労働者たちがストライキに踏み切った理由は、最初はただ生き延びるためだったと思うんです。でも、ロシア人に助けられたり、中国人の通訳を通じて『プロレタリアートが尊い』って知ったことで、自分たちが人間として扱われる権利があるって気づいたんじゃないかと。それまでは、無自覚に我慢してただけだったけど、仲間と一緒なら闘えるって思ったんだと思います。俺たち水泳部でも、恵美先生が負けた時、悔しさから団結してリベンジを誓ったのと同じで、抑圧されてる状況に立ち向かう力って、仲間との絆から生まれるんじゃないかなって。」
教室が静まり返った。貫太郎の言葉は、彼らしい率直さと、水泳部での経験を織り交ぜた独自の視点が光っていた。牧野は満足そうに頷き、他の生徒たちも感心したように彼を見ていた。
牧野: 「素晴らしい解釈ね、川名君。自分の経験と結びつけて考えることで、作品のテーマがより深く理解できる。皆さんも、ただ読むだけでなく、自分とどう関係するかを考えてみてください。」
亮は貫太郎の言葉に頷きながら、科学的な視点から少し別の角度を考えていた。
亮: (心の中)「貫太郎の言う通り、集団の力ってすごいな。科学でも、個々の粒子が集まって新しい性質を生むことがある。労働者たちの覚醒も、そういう化学反応みたいなものかもしれない。」
拓也は、アニメや漫画と結びつけて考えていた。
拓也: (心の中)「ストライキって、まるで『ドラゴンボール』の悟空たちがフリーザに立ち向かう感じだな。絶望的な状況でも、仲間がいれば逆転できるって。」
南は、海洋生物学を愛する視点から、蟹工船の海という閉鎖空間に思いを馳せていた。
南: (心の中)「海って、私には自由な場所なのに、この人たちには地獄だったんだ…。同じ海でも、こんなに違うなんて。」
授業の終盤、牧野は小林多喜二の最期について触れた。
牧野: 「小林多喜二は、この作品を発表した後、1933年に特高警察による拷問で亡くなりました。29歳という若さで、彼は自由に思想を表現する権利を奪われたんです。私たちが今、自由に学べることのありがたさを、彼の人生から感じてほしいですね。」
その言葉に、教室全体が重い空気に包まれた。健太でさえ、ゲームのコントローラーを握る手が止まり、真剣な表情を浮かべていた。
健太: (心の中)「拷問死か…。俺、自由にゲームできるだけで幸せなのかもしれないな。」
授業が終わり、チャイムが鳴ると、生徒たちはそれぞれの思いを胸に教室を出ていく。貫太郎は『蟹工船』の文庫本を手に持つと、次の総体に向けて、自分たちの闘いもまた仲間と共に進むものだと再確認していた。
こうして、国語の授業は彼らに、自由と団結の意味を深く刻みつけ、総体前夜の決意をさらに固めるきっかけとなったのだった。
シーン4:英語の授業
3限目のチャイムが鳴り響くと、生徒たちは少し疲れた表情を浮かべながらも、次の授業に備えて席に着いた。教室の窓からは、2月の冷たい風が微かに吹き込み、曇り空が広がる外の景色が、生徒たちの心に少し落ち着きを与えていた。今日の英語の授業は、いつもとは少し違う雰囲気が漂っていた。教科担任の守屋亜衣が、プロジェクターとDVDプレーヤーを持って教室に入ってきたからだ。
守屋は20代前半の明るい女性で、ショートカットの髪とカジュアルな服装が彼女の活発な性格を表していた。彼女は英語を教える際、実用的な会話や文化に触れることを重視しており、教科書だけに頼らない授業スタイルで生徒たちに人気だった。今日はその一環として、映画を使った特別な授業が予定されていた。
守屋: 「Good morning, everyone! 今日は英語の授業で、1953年の名作映画『Roman Holiday』、日本語で『ローマの休日』を観ます。この映画を通じて、日常会話ではあまり出てこない、映画らしい英語表現を学んでほしいな。字幕付きだけど、英語の音声をしっかり聞いて、ノートに書き写してみてね。後でいくつか質問するから、準備しておいてください。」
生徒たちは一斉にノートとペンを手に取り、少しワクワクした様子でスクリーンに目を向けた。特に貫太郎は、英語が得意科目の一つであるため、映画を使った授業に興味津々だった。一方、健太や拓也、美枝子は英語に苦手意識があり、少し緊張した表情を浮かべていた。
貫太郎: (心の中)「『ローマの休日』か…。オードリー・ヘプバーンの名作だな。英語のセリフを聞き取るチャンスだし、楽しみだ。」
守屋がDVDをセットし、教室の灯りを落とすと、スクリーンに映画の冒頭が映し出された。ヨーロッパ某国の王女、アン(オードリー・ヘプバーン)がローマを訪れ、過密スケジュールに疲れ果てるシーンから物語が始まる。彼女の抑えた声と、疲労感を隠しきれない表情が、英語のニュアンスとともに生徒たちの心に響いた。
アン王女: (映画のセリフ) "I hate this nightgown. I hate all my nightgowns, and I hate all my underwear too!" (このナイトガウンが嫌い。全部のナイトガウンも、下着も全部嫌い!)
貫太郎は素早くノートにセリフを書き写し、その感情的なトーンに注目していた。彼女の「hate」という強い言葉遣いが、王女の閉塞感や自由への渇望を表していると感じた。
映画が進み、アン王女が大使館を抜け出し、夜のローマの街で眠ってしまうシーンになると、教室には静かな緊張感が漂った。そこに現れる新聞記者ジョー・ブラッドレー(グレゴリー・ペック)の登場に、生徒たちの目はさらにスクリーンに釘付けになった。
ジョー: (映画のセリフ) "You’re not drunk, are you? You’re just sleepy?" (酔ってるんじゃないよね?ただ眠いだけ?)
ジョーが王女を自宅に運ぶ場面で、彼の優しさと少し戸惑った口調が英語のイントネーションに表れていた。綾乃は、その柔らかな英語に心を奪われていた。彼女は英語が得意で、特に文学的な表現に惹かれる傾向があった。
綾乃: (心の中)「ジョーの声、なんて優しいんだろう。英語って、こんな風に感情を乗せられるんだね。まるで音楽みたい。」
美枝子は、映画のファッションに目を奪われていた。オードリー・ヘプバーンが着るドレスや、市場で買ったシンプルなサンダルにさえ、彼女の美意識が反応していた。
美枝子: (心の中)「王女の服、素敵すぎる…。でも、自由を楽しむ彼女の気持ち、私も分かるな。部活で泳いでる時みたいに、解放感があるよね。」
映画の後半、ジョーとアンがスクーターでローマを駆け巡り、真実の口やトレヴィの泉を訪れるシーンでは、教室に笑い声が漏れた。特に、ジョーが「真実の口」に手を入れて驚かす場面では、健太が思わず声を上げた。
健太: (小声)「おおっ、俺もやってみたい!ローマ、楽しそうだな。」
拓也は、アニメのようなユーモアを感じていた。
拓也: (心の中)「このシーン、まるで『エヴァンゲリオン』のシンジとアスカがデートしてるみたいだな。ジョー、カッコいいぜ。」
映画のクライマックス、王女が大使館に戻る決断をし、ジョーと別れるシーンでは、教室が再び静寂に包まれた。ジョーがスクープを諦め、王女との思い出を守る選択をする瞬間、貫太郎は深い感銘を受けていた。
ジョー: (映画のセリフ) "I’m not going to write the story. It’s all right." (記事にはしないよ。大丈夫だ。)
貫太郎: (心の中)「ジョーの決断、かっこいいな。自分の欲よりも大切なものを守るって、水泳部で仲間を信じる気持ちに似てるかも。」
映画が終わり、守屋が灯りを点けると、生徒たちは一様に感動した表情を浮かべていた。守屋はスクリーンを指しながら、授業を再開した。
守屋:「 "So, what did you think? この映画には、日常会話ではあまり使わない表現がたくさん出てきます。例えば、アン王女が感情を爆発させるシーンや、ジョーが優しく話すシーン。英語の感情表現に注目してほしかったんです。さて、川名君、ここで質問ね。ジョーが最後に記事を書かないと決めた理由を、英語のセリフからどう解釈した?」
貫太郎は少し緊張しながらも立ち上がり、ノートを見ながら答えた。
貫太郎: 「えっと、ジョーが言った "I’m not going to write the story. It’s all right." っていうセリフから、彼はアンとの時間を金や名声より大事にしたんだと思います。『It’s all right』って言葉に、彼の優しさと決意が込められてる気がして。王女も義務を選んだけど、ジョーは彼女の自由な一日を守るために、自分の欲望を捨てた。そこに、彼の気持ちが表れてるんじゃないかと。」
守屋は目を細めて頷き、クラスメイトたちも感心したように貫太郎を見ていた。アリスは特に、彼の読解力に驚きを感じていた。
守屋:「"Great answer, Kantaro! セリフから感情や背景を読み取る力、素晴らしいよ。皆も、英語をただ訳すだけじゃなくて、登場人物の心に寄り添ってみてね。それが読解力につながるから。」
授業が終わり、チャイムが鳴ると、健太、拓也、美枝子が貫太郎の席に集まってきた。英語が苦手な彼らは、映画の内容を理解するのに苦労していたようだ。
健太: 「なあ、貫太郎、あの映画の英語、俺全然分からなかったよ。どうやって聞き取るんだ?」
拓也: 「だよな。ジョーのセリフとか、早すぎて頭に入ってこねえよ…。」
美枝子: 「私も。王女の英語、きれいだけど、何て言ってるか分からなくて。貫太郎、どうやって勉強してるの?」
貫太郎は少し照れながらも、彼らにアドバイスを始めた。
貫太郎: 「えっとさ、俺は英語の音声を聞きながら、字幕を和英で見比べてるよ。まず耳で聞いて、どんな感情が込められてるか感じてから、字幕で意味を確認する。そうすると、英語のニュアンスが分かるようになってくるし、読解力も上がると思う。和田秀樹の本でも、音読と訳を組み合わせるのが大事って書いてあったから、それをやってる。」
三人は感心したように頷き、ノートにメモを取っていた。貫太郎の勉強法は、彼らにとって新しい視点を与えるものだった。
健太: 「なるほどな…。音声か。ゲームの英語版でも試してみようかな。」
拓也: 「俺、アニメの英語字幕でやってみるよ。貫太郎、ありがとな!」
美枝子: 「私も映画見ながらやってみる。貫太郎って本当に頼りになるね。」
貫太郎は少し恥ずかしそうに笑いながら、彼らの感謝を受け止めていた。英語の授業を通じて、彼は仲間との絆を再確認し、総体前夜に向けてさらに気持ちを高めていたのだった。
こうして、『ローマの休日』の授業は、英語の学びを超えて、自由と義務、そして仲間への思いを生徒たちに刻みつけた。
シーン5:地学基礎の授業
4限目のチャイムが鳴ると、生徒たちは朝から続いた授業の疲れを感じながらも、最後の授業に向けて気持ちを切り替えていた。教室の窓からは、2月の淡い陽光が差し込み、曇り空の下で少しだけ暖かさを感じさせる光景が広がっていた。今日の4限目は地学基礎の授業で、教科担任の石橋隆信が担当する。生徒たちにとって、石橋の授業は楽しみでもあり、癒しでもあった。
石橋は48歳の中年男性で、海風学園高校に19年勤めるベテラン教師だ。穏やかな笑顔と、少し丸みを帯びた体型が、彼の温厚な性格を象徴していた。地学の教員枠が少ない中でこの学校に採用されたことを誇りに思い、生徒たちに地学の魅力を伝えることに情熱を注いでいた。彼が教室に入ってくると、生徒たちは自然と背筋を伸ばし、彼の話に耳を傾ける準備をした。
石橋: 「皆さん、お疲れのところ申し訳ないね。でも、今日は特別な話をしようと思うよ。テーマは『地球の歴史 - 先カンブリア紀』だ。地球がどうやって生まれ、どんな過程を経て今に至ったのか。その壮大な物語を一緒に覗いてみようじゃないか。」
石橋の声は穏やかで、どこかおじいちゃんが孫に昔話を語るような温かさがあった。生徒たちはノートを開き、彼の言葉に引き込まれていく。特に貫太郎は、理系科目が苦手ながらも、歴史が絡む話となれば興味が湧いてくるのを感じていた。
貫太郎: (心の中)「地球の歴史か…。歴史って言うなら俺の得意分野だ。地学でも楽しめるかもしれないな。」
石橋は黒板に「先カンブリア紀」と大きく書き、その下にタイムラインを引いた。そして、ゆっくりと説明を始めた。
石橋: 「まず、地球の始まりからだね。約46億年前、微惑星が衝突と合体を繰り返して原始地球が生まれた。この頃の地球は、隕石がバンバン落ちてきてたんだ。その隕石の成分が集まって、原始大気ができた。主に水蒸気や二酸化炭素、メタンでできた大気だよ。この大気のおかげで温室効果が起きて、さらに隕石衝突のエネルギーで地球は高温になって、マグマオーシャンって呼ばれる溶けた状態になったんだ。」
教室に静かな驚きの声が漏れた。健太は目を丸くして、隣の拓也に小声で話しかけた。
健太: (小声)「マグマオーシャンって、ゲームのボスステージみたいだな。すげえ迫力ありそう。」
拓也: (小声で返す)「だろ?『ガンダム』のコロニー落としみたいな感じじゃね?地球、めっちゃカオスだよ。」
二人は普段、理系科目にあまり興味を示さないが、石橋の語り口と壮大なイメージに引き込まれていた。アニメやゲームの世界と重ね合わせることで、地学が急に身近に感じられたのだ。
石橋は微笑みながら話を続けた。
石橋: 「さて、時間が経つと隕石の衝突が減ってきて、地球の温度が少しずつ下がり始めた。そうすると、大気中の水蒸気が冷えて雨になって降り注ぐんだ。この雨が何百万年も降り続けて、原始海洋ができた。これが地球に水が誕生した瞬間だよ。そして、冷え固まった場所に最古の岩石が形成されていく。カナダやグリーンランドで発見された約38億年前の岩石が、今もその証拠として残ってるんだ。」
南は目を輝かせてノートにメモを取っていた。海洋生物学に興味を持つ彼女にとって、原始海洋の誕生は特別な響きを持っていた。
南: (心の中)「原始海洋…。そこから生命が始まったんだ。私が好きな海のルーツがここにあるなんて、なんだか感動的だな。」
石橋はさらに話を進め、生命の誕生へと移った。
石橋: 「そして、約35億年前に最古の生物が誕生したと考えられてる。最初は単純な微生物だね。やがて光合成をする生物が現れて、大気中に酸素を供給し始めた。この酸素が海中の鉄と反応して、縞状鉄鉱層っていう特徴的な岩石を作ったんだよ。これが約25億年前の話だ。」
亮は理系科目が得意なだけあって、この化学反応に興味をそそられていた。
亮: (心の中)「酸素と鉄の反応か…。化学と地学が繋がってるなんて面白いな。貫太郎にこの話、教えてやろうかな。」
一方、美枝子は少し意外な視点で授業を楽しんでいた。
美枝子: (心の中)「縞状鉄鉱層って、なんだかおしゃれな名前ね。ファッションの柄みたい。地球の歴史って、意外と美的なんだ。」
石橋の話はさらに進み、先カンブリア紀の後半へと入った。
石橋: 「次に、約20億年前に真核生物が誕生する。これは細胞に核を持った生物で、今の私たちにつながる大事なステップだよ。そして約12億年前には多細胞生物が現れ、生命がどんどん複雑になっていく。そして、約6億年前、エディアカラ生物群が誕生するんだ。ここで生物が大型化して、後のカンブリア紀の大爆発につながるんだよ。」
綾乃は、この進化の流れに芸術的な美しさを見出していた。
綾乃: (心の中)「微生物から多細胞生物へ…。まるでベートーヴェンの交響曲が少しずつ壮大になっていくみたい。地球の歴史って、本当にドラマチックだわ。」
石橋は黒板に簡単な図を描きながら、生徒たちに問いかけた。
石橋: 「さて、ここで少し考えてみてほしい。地球がマグマオーシャンから原始海洋、そして生命の誕生に至るまで、どれだけの時間がかかったと思う?そして、この長いプロセスの中で、私たちが今ここにいるって、どう思う?」
貫太郎は手を挙げて答えた。理系が苦手でも、歴史的な視点からなら自信を持って発言できた。
貫太郎: 「えっと、46億年って途方もない時間ですよね。隕石が衝突して、マグマが冷えて、海ができて…。その中で生命が生まれるなんて、奇跡みたいに感じます。俺たちが今、水泳部で泳いでるのも、この長い歴史の結果なんだなって思うと、なんか感慨深いです。」
石橋はにっこり笑って頷いた。
石橋: 「その通りだよ、川名君。地球の歴史は奇跡の連続なんだ。私たちが今こうやって生きてることも、46億年の積み重ねの上にある。地学って、そういう視点を与えてくれる学問なんだよ。」
健太が少し興奮した声で手を挙げた。
健太: 「先生!このエディアカラ生物群って、ゲームのモンスターみたいじゃないですか?どんな形だったんですか?」
石橋: 「ハハ、いい質問だね、佐藤君。エディアカラ生物群は、葉っぱみたいだったり、円盤みたいだったり、不思議な形をしてたんだよ。化石で見ると、まさにファンタジー世界の生き物みたいだ。見てみたいなら、後で図鑑を見せてあげるよ。」
拓也も続くように手を挙げた。
拓也: 「俺、『エヴァンゲリオン』の使徒みたいだなって思いました。地球の歴史って、アニメみたいに面白いですね。」
教室に笑い声が響き、石橋先生も楽しそうに笑った。生徒たちの興味が地学に引き込まれていくのを感じていた。
南が静かに質問した。
南: 「先生、光合成生物が酸素を作ったことで、海が変わったんですよね?その影響って、今の海洋生物にも繋がってるんですか?」
石橋: 「素晴らしい質問だね、斉藤君。まさにその通り。光合成生物が酸素を増やしたことで、大気と海の環境が変わり、酸素を必要とする生物が進化した。今の魚やサンゴも、その恩恵を受けてるんだよ。君の好きな海は、こうやって作られてきたんだ。」
南は目を輝かせ、ノートにさらに詳しく書き込んだ。彼女にとって、地学は海洋生物学への入り口でもあった。
授業の終盤、石橋は生徒たちに最後のメッセージを伝えた。
石橋: 「地球の歴史は、私たちにいろんなことを教えてくれる。生命の強さ、環境の変化、そして長い時間の中で生まれる可能性だ。総体が近い皆さんにも、この壮大な物語から何か感じてほしいね。努力と仲間との絆があれば、どんな困難も乗り越えられるよ。」
チャイムが鳴り、授業が終わる。生徒たちはノートを閉じながら、それぞれの思いを胸に教室を出ていった。貫太郎は理系が苦手ながらも、歴史と絡む地学に新たな魅力を感じていた。健太と拓也はアニメとの共通点に興奮し、美枝子と綾乃は美的な視点から地学を楽しんでいた。そして南は、海との繋がりを再確認していた。
こうして、地学基礎の授業は、地球の46億年の物語を通じて、総体前夜の彼らに勇気とインスピレーションを与えたのだった。
シーン6:昼食休憩
4限目の地学基礎の授業が終わり、昼休みのチャイムが鳴ると、教室にいた生徒たちは一斉に動き始めた。朝からの授業で少し疲れが見えるものの、昼食の時間が訪れたことで、どこかほっとした雰囲気が漂っていた。貫太郎はノートをカバンにしまい、隣に座る健太に声をかけた。
貫太郎: 「健太、学食行くぞ。腹減ったし、総体前だし、しっかり食べておかないとな。」
健太: 「おお、いいね!俺、カツカレー大盛り行くわ。泳ぐ前はガッツリ食わないと力出ねえよ。」
二人が教室を出ると、廊下で亮と拓也が合流した。亮はいつものように科学雑誌を手に持っていて、歩きながらページをめくっていた。拓也はスマホでアニメの動画を見ながら、興奮した様子で何かをつぶやいている。
亮: 「お前ら、昼飯何にする?俺は醤油ラーメンかな。シンプルで頭使うエネルギーになるよ。」
拓也: 「俺、チャーハンだな。『ドラゴンボール』の悟空みたいに、食って力つけねえとさ。総体近いし、気合入れたいぜ。」
4人は笑いながら学食に向かい、途中で美枝子、綾乃、南と合流した。美枝子は新しいネイルを手に持った鏡でチェックしながら歩き、綾乃はクラシック音楽の楽譜を手に持って何か考え込んでいるようだった。南はスキューバダイビングの雑誌を読みながら、楽しそうに笑っていた。
美枝子: 「ねえ、みんな、学食のカルボナーラ今日頼もうかな。ちょっと贅沢な気分で食べたいのよね。」
綾乃: 「私はボロネーゼにするわ。シンプルだけど深い味わいがあって、気分が落ち着くのよね。」
南: 「私は野菜炒めかな。海の強化合宿で魚ばっかり食べてたから、野菜が恋しくて。」
学食に着くと、8人目のメンバー、アリスが別のクラスの友達と話しながら手を振って近づいてきた。彼女はトレイを持って優雅に歩き、貫太郎たちに合流する。
アリス: 「やっと会えたわ。みんなで食べるなんて、久しぶりね。私はアラビアータにするつもり。辛いものが気分をシャキッとさせてくれるから。」
貫太郎: 「じゃあ俺、ハンバーグカレー大盛りな。総体前だし、ガッツリ食べて体力つけとかないと。」
8人は注文カウンターに並び、それぞれトレイに料理を受け取った。学食は昼休みの喧騒で賑わっていて、テーブルを探すのに少し時間がかかったが、窓際の8人掛けの席がちょうど空いた。貫太郎が先頭に立って席を確保し、みんながトレイを置いて座った。
テーブルには、色とりどりの料理が並んだ。貫太郎のハンバーグカレーはこんもりとしたライスに濃厚なカレーソースがたっぷりかかり、ハンバーグがどんと乗っている。健太のカツカレーは揚げたてのカツがサクサクで、カレーの香りが周囲に漂う。亮の醤油ラーメンは透き通ったスープに細麺が泳ぎ、シンプルながら食欲をそそる。拓也のチャーハンはパラパラで、卵とネギが彩りを添えていた。アリスのアラビアータはトマトの赤が鮮やかで、唐辛子の辛さが鼻を刺激する。美枝子のカルボナーラはクリームソースが濃厚で、チーズの香りが漂う。綾乃のボロネーゼはミートソースがパスタに絡み、深い味わいが感じられた。南の野菜炒めは色とりどりの野菜がシャキッと炒められ、ヘルシーさが際立っていた。
貫太郎: 「うわ、みんなのメニュー見てるだけで腹減ってくるな。総体前日にこんな美味そうなもん食えるなんて、最高だよ。」
健太: 「だろ?カツカレー食えば、俺、バタフライでぶっちぎれる気がするぜ。」
スプーンを手に持つ健太は、カツを一口かじって目を細めた。揚げたてのサクサク感とカレーのスパイスが彼の疲れを癒していくようだった。
亮: 「お前、いつも食うことしか考えてねえな。まあ、俺もこのラーメン食ったら、頭冴えて背泳ぎの戦略練れる気がするけど。」
亮は箸で麺をすくい、スープを味わいながら静かに微笑んだ。理系科目が得意な彼にとって、食事は頭を働かせる燃料だった。
拓也: 「チャーハン最高だよ。悟空みたいに食って、平泳ぎで敵をぶっ倒すイメージだぜ。」
拓也は勢いよくチャーハンを口に運び、アニメのヒーローのように気合を入れていた。貫太郎はそんな仲間たちを見て、笑いながら自分のカレーを食べ始めた。
美枝子: 「ねえ、貫太郎、このカルボナーラ美味しいけど、ちょっとカロリー気になるわ。総体終わったら、少しダイエットしないと…。」
貫太郎: 「美枝子、そんな心配しなくても泳いでればすぐカロリー消費するよ。平泳ぎ頑張れよな。」
美枝子は少し照れながら笑い、フォークでパスタをくるくる巻いて食べた。彼女のファッションへのこだわりは、食事にも少し影響を与えているようだった。
綾乃: 「ボロネーゼって、シンプルなのに奥が深いわよね。総体前の緊張を落ち着かせてくれる感じがするわ。」
綾乃は優雅にパスタを食べながら、クラシック音楽のようなリズムで食事を楽しんでいた。彼女の落ち着いた雰囲気は、仲間たちにも安心感を与えていた。
南: 「野菜炒め、シャキシャキしてて美味しいよ。海の強化合宿思い出して、なんだか懐かしいな。」
南は箸で野菜をつまみ、目を細めて海の記憶に浸っていた。彼女にとって、海は特別な場所であり、食事がその記憶を呼び起こしていた。
アリス: 「アラビアータの辛さ、ちょうどいいわ。総体前に気合が入る感じね。貫太郎、自由形の調子はどう?」
貫太郎: 「まあまあだよ。アリスこそ、新人戦の勢いそのままに頑張ってくれよな。」
アリスは微笑みながらパスタを食べ、貫太郎との会話を楽しんでいた。彼女の気品ある仕草は、学食の喧騒の中でも際立っていた。
食事が進むにつれ、自然と話題は総体後の計画に移っていった。県大会は6月3日と4日の2日間で、その約1ヶ月後には1学期の期末試験が控えている。総体が終われば、すぐに勉強モードに切り替える必要があった。
貫太郎: 「総体が終わったら、すぐ期末試験だよな。6月頭に大会終わって、7月頭に試験だから、準備期間は1ヶ月くらいか。俺、理系科目が苦手だから、数学とかどうしようかな…。」
健太: 「うわ、マジか。俺、主要科目全部苦手だよ。国語の古文とか、英語の分詞構文とか、頭痛くなるだけだし。貫太郎、助けてくれよな!」
健太はカレーを食べながら、半分冗談交じりに貫太郎に頼んだ。彼の勉強嫌いは仲間内でも有名だった。
亮: 「俺は理系は大丈夫だけど、国語と英語がまだ慣れないな。貫太郎に歴史の勉強法教えてもらったみたいに、国語のコツも教えてほしいよ。」
亮はラーメンをすすりながら、真剣な表情で言った。彼は努力家だが、文系科目には少し苦手意識があった。
拓也: 「俺、最悪だよ。国語も英語も数学もダメだし、全教科ほぼアウトだ。貫太郎と綾乃がいないと死ぬぜ…。」
拓也はチャーハンを頬張りながら、半ば本気で嘆いた。彼のアニメ愛は深いが、勉強への情熱はまだ見えなかった。
美枝子: 「私も国語と英語と数学が苦手だよ。でも、日本史と世界史はまあまあできるから、そこは頑張れるかな。貫太郎、英語の勉強法教えてよね。」
美枝子はカルボナーラを食べ終え、少し期待する目で貫太郎を見た。彼女にとって、貫太郎は頼れる存在だった。
綾乃: 「私は全教科そこそこできるけど、英語で分からないところは貫太郎に聞きたいわ。数学なら、私が貫太郎に教えるから、お互い助け合えるわね。」
綾乃はボロネーゼを食べ終え、落ち着いた声で提案した。彼女の優雅さは、計画を立てる場面でも発揮されていた。
南: 「私は理系科目は得意だけど、文系が苦手だよ。特に古典と歴史が…。貫太郎、歴史の勉強法教えてくれると嬉しいな。」
南は野菜炒めを食べ終え、少し恥ずかしそうに言った。彼女の理系への自信は強いが、文系への苦手意識も明らかだった。
アリス: 「私は全教科まあまあできるから、みんなの苦手なところを補えればいいわね。貫太郎と綾乃と一緒に、勉強会でも計画しましょうか。」
アリスはアラビアータを食べ終え、提案するように言った。彼女の落ち着いた態度は、仲間たちをまとめ上げる力があった。
貫太郎はみんなの話を聞いて、少し考え込んだ後、口を開いた。
貫太郎: 「よし、じゃあ総体終わったら、みんなで勉強会やろうぜ。俺は文系得意だから、国語、英語、歴史は教えるよ。亮と綾乃に数学頼みたいし、南には生物とか理系のフォロー頼めるかな。アリスは全体見てくれると助かる。健太と拓也と美枝子は…まあ、頑張れよ。」
みんなが笑い声を上げ、計画が固まっていく。昼食の時間は、仲間たちの絆を深め、総体後の未来を描く貴重なひとときとなった。
健太: 「貫太郎がいるなら、なんとか生き残れそうだぜ。カツカレー食った分、勉強も頑張るか。」
拓也: 「俺もチャーハンパワーで乗り切るよ。勉強会、楽しそうじゃん!」
美枝子: 「勉強会なら、私もネイル我慢して参加するわ。貫太郎、よろしくね。」
昼休みの終わりが近づき、8人はトレイを片付けながら、次の授業へと向かった。総体前夜の昼食は、仲間との絆と未来への希望を彼らに与えていた。
シーン7:生物基礎の授業
5限目のチャイムが鳴ると、教室には昼食後の緩やかな疲れと、午後の授業への切り替えの緊張感が混ざり合った空気が漂っていた。窓の外では、2月の薄い陽光が曇り空に遮られ、教室の中を淡く照らしている。生徒たちは席に着き、次の授業が生物基礎であることを思い出した。特に貫太郎は、理系科目が苦手な自分にとって、この時間が少し憂鬱だった。
教室のドアが開き、生物基礎の教科担任である沼田正晴が入ってきた。75歳の大ベテランで副校長を務める彼は、白髪交じりの髪と穏やかな笑顔が特徴的だ。背筋は年齢を感じさせないほどしっかりしており、手には分厚い生物学の教科書とスライド資料の入ったファイルを持っていた。彼は動植物に精通し、生徒たちから慕われる存在で、授業の合間にビートルズやマリリン・モンローの話を織り交ぜるユニークなスタイルが人気だった。
沼田: 「さて、みなさん、午後も頑張っていきましょう。今日は生物基礎、第2章『遺伝子とそのはたらき』から、体細胞分裂の観察実験と計算・グラフの書き方を学びますよ。実験の手順から、データの見方まで、実践的な内容だから、しっかり聞いてくださいね。」
生徒たちはノートとペンを手にし、沼田の言葉に耳を傾けた。教室の前方にはプロジェクターが設置され、スライドが映し出される準備が整っている。貫太郎はノートを開いたものの、理系科目の難しさにすでに少し気後れしていた。
貫太郎: (心の中)「体細胞分裂か…。歴史や国語なら得意なんだけど、計算とかグラフとか言われると頭が痛くなってくるな…。」
沼田はプロジェクターのスイッチを入れ、スライド1を映し出した。そこには「体細胞分裂の観察実験・グラフ・計算の演習問題」とタイトルが書かれ、問題文が並んでいる。
沼田: 「まずはこのスライドを見てください。演習問題を解いてもらいます。標準解答時間は15分。観察実験の手順、薬品名、グラフの作図、計算問題が含まれています。分からないところは後で解説するから、まずは挑戦してみてね。時間になったら解答を見ていきましょう。」
生徒たちはスライドを見ながら、問題に取り掛かり始めた。教室には鉛筆の音とページをめくる音が響き、静かな緊張感が漂う。貫太郎はスライド1の問題を読み始めたが、最初の「操作名を答えなさい」という問1で早くもつまずいた。
貫太郎: (心の中)「固定?解離?染色?何だこれ…。歴史なら時代順に覚えられるけど、こんな専門用語ばっかりじゃ頭に入らないよ…。」
一方、亮と南は理系科目に強いだけあって、問題をスムーズに解き進めていた。亮は科学への興味から、実験の手順や薬品名をすでに頭に入れており、ノートに答えを書き込んでいく。南は海洋生物学への愛から、細胞分裂が生命の進化につながるプロセスであることに魅了され、目を輝かせていた。
亮: (心の中)「固定は細胞を保存する操作だろ。解離で細胞をばらして、染色で染色体を見やすくする。簡単だな。2年目で生物履修する予定だし、ここでしっかり押さえておこう。」
南: (心の中)「体細胞分裂って、海の生き物たちの細胞にも関わってるよね。原始海洋から進化した生命の仕組みがここにあるなんて、面白いな。私、生物得意だから、この授業楽しめそう。」
15分が経過し、沼田が手を叩いて生徒たちの注意を引いた。
沼田: 「はい、時間だよ。解けた人も解けなかった人も、ここから解答と解説を見ていくからノートにメモしてね。スライド2と3が解答、スライド4以降が解説だよ。」
スライド2が映し出されると、問1から順に正解が表示された。貫太郎は自分の答えと見比べて、ほとんど間違っていることにため息をついた。
貫太郎: (小声)「うわ、固定と解離逆に書いてる…。染色って何だっけ?俺、ダメだな…。」
沼田はスライド4を映し、観察実験の手順について説明を始めた。
沼田: 「問1は体細胞分裂の観察実験の操作名だね。順番は固定→解離→染色→押しつぶし→顕微鏡観察。この流れを覚えておくと、実験のイメージがしやすいよ。固定は細胞を死なせないように保存する操作。解離は細胞をばらばらにして、染色は染色体を見やすくするために色をつけるんだ。ビートルズの『Let It Be』みたいに、流れに身を任せて覚えてみてね。」
教室に軽い笑い声が響き、沼田のユーモアが雰囲気を和らげた。貫太郎はノートに手順を書き写しながら、少しだけ気持ちが楽になった。
貫太郎: (心の中)「ビートルズか…。歴史みたいにストーリーっぽく覚えれば、なんとか頭に入るかな。」
次にスライド5が映し出され、問2と問3の薬品名と操作の目的が解説された。
沼田: 「問2は薬品名だよ。固定には45%酢酸やカルノア液、解離には温めた塩酸、染色には酢酸オルセインや酢酸カーミンを使う。これ、見て選べるように覚えておけば十分だ。問3は操作の目的の論述だね。固定は細胞構造を守るため、染色は染色体を見やすくするため、解離と押しつぶしは顕微鏡で見やすくするためだ。スライド6を見てみて。この図で解離と押しつぶしの意味が分かるよ。」
南はスライド6の図を見て、細胞が一層になる説明に納得した表情を浮かべた。
南: (心の中)「細胞が重なってると見にくいけど、一層にすれば観察しやすいのか。海のプランクトン観察にも応用できそう。」
貫太郎は論述問題に苦戦しつつも、ノートに要点を書き写した。
貫太郎: (心の中)「目的か…。国語なら文章で説明できるけど、理系っぽい言葉で書くの難しいな。南に後で聞こう。」
スライド7と8で問4の体細胞分裂の各期の判別が解説されると、亮が特に興味を示した。
沼田: 「問4は細胞の像を見て何期か答える問題だよ。アは終期、イは前期、ウは中期、エは後期、オは間期。染色体の動きや核膜の状態を見て判断するんだ。科学的な観察眼が試されるね。」
亮: (心の中)「染色体の動きで時期が分かるのか。科学の実験みたいで面白いな。覚えておけば計算問題も解けそうだ。」
最後に、スライド9と11で問5のグラフと問6の計算問題が解説された。
沼田: 「問5はDNA量のグラフだよ。『細胞あたり』だから、分裂が終わると半減する。スライド9を見てね。問6は分裂期の時間を割合で計算する問題。視野の細胞数と分裂期の細胞数から、周期全体の何割かを求めるんだ。式は理解して組み立ててね。」
貫太郎はグラフと計算を見て、頭を抱えた。
貫太郎: (心の中)「グラフ?割合?数学みたいじゃん…。俺、完全に置いてかれてるよ…。」
授業が終わり、チャイムが鳴ると、貫太郎は南に近づいて助けを求めた。
貫太郎: 「南、ちょっと助けてくれよ。問6の計算、割合ってどうやって出すんだ?全然分からなかった…。」
南: 「えっとね、貫太郎、簡単だよ。視野の全細胞数が100個で、分裂期の細胞が20個だったら、20÷100で0.2、つまり20%になる。それに細胞周期の全体の時間、例えば24時間かかるとしたら、24×0.2で4.8時間だよ。割合って、そうやって考えるの。」
貫太郎: 「おお、なるほど!割合って歴史の年表みたいに考えればいいのか。南、ありがとう!生物得意なんだな。」
南: 「うん、海の生き物好きだから自然と覚えちゃうんだ。貫太郎には歴史教えてもらってるし、お互い様だよ。」
南は笑顔で答え、貫太郎は少し安心した表情を浮かべた。亮も近くで聞いており、南の説明に感心していた。
亮: 「南、解説上手いな。俺も計算問題好きだから、この方法覚えておくよ。」
教室を出る生徒たちの中で、貫太郎は理系科目の苦手意識を少し克服できた気がした。総体前夜の生物基礎の授業は、彼に新たな学びと仲間の力を気づかせていた。
シーン8:数学の授業
6限目のチャイムが鳴ると、教室には午後の疲れが色濃く漂っていた。朝からの授業と昼食後の活動で、生徒たちのエネルギーは徐々に消耗しつつあり、特にこの時間帯は集中力が途切れがちな瞬間だった。窓の外では、2月の陽が傾き始め、曇り空の下で薄暗い光が教室を包んでいる。そんな中、数学の教科担任である杉下俊二がゆっくりと教室に入ってきた。
杉下は60歳の初老教師で、海風学園高校に38年勤める大ベテランだ。若い頃はスパルタ教育で知られ、体罰も日常的だったと噂されるほどの厳しさだったが、55歳の時に胃癌で入院して以来、体力は衰え、声にも力がなくなっていた。彼の言葉は呂律が回らず、時折聞き取りにくいほどで、生徒たちの理解を難しくさせていた。それでも、彼の長年の経験からくる知識は確かで、数学への情熱は今も消えていない。
杉下: 「えー、みなさん、今日は…数学Aの…『場合の数と確率』をやります…。ノートを…出してください…。」
彼の声は低く、途切れ途切れで、教室の後ろまで届いているか不安になるほどだった。生徒たちは渋々ノートを取り出し、杉下の言葉を聞き取ろうと耳を澄ませた。特に貫太郎は、数学が一番の苦手科目であるため、この授業が始まる瞬間から憂鬱な気分に包まれていた。
貫太郎: (心の中)「数学か…。しかも『場合の数と確率』?集合とかわけ分かんねえよ…。歴史なら得意なのに、なんでこんな苦行が待ってるんだ…。」
杉下は黒板にゆっくりと「集合の要素の個数」と書き、問題を読み上げ始めた。
杉下: 「えー、問題です…。1から100までの…自然数のうち…2の倍数の集合をA…3の倍数の集合をBとするとき…次の値を求めなさい…。(1) n(A)、(2) n(B)、(3) n(A∩B)、(4) n(A∪B)…。15分で…解いてみて…ください…。」
黒板に書かれた問題を見ながら、生徒たちはそれぞれの反応を示した。貫太郎は問題文を読んだ瞬間、頭がクラクラしてきた。
貫太郎: (心の中)「2の倍数?3の倍数?n(A)って何だよ…。交わりとか合わさるとか、もう意味不明だ。俺、絶対無理だ…。」
隣に座る健太は、ノートに問題を書き写すことすらせず、机に突っ伏してしまった。
健太: (小声)「貫太郎、俺もうダメだ。数学とか、国語の古文並みに無理。寝るわ…。」
貫太郎: (小声で返す)「おい、健太、起きろよ。寝たら余計分からなくなるぞ…。」
健太は目を閉じたまま軽くうなずくだけで、完全にやる気を失っていた。拓也も同様で、ノートに「2の倍数」とだけ書いて、後はペンを放り出してしまった。
拓也: (心の中)「集合?何だそれ。『ドラゴンボール』なら戦闘力で計算するけど、こんな数字の羅列じゃ頭爆発するぜ…。寝た方がマシだ。」
美枝子は少し頑張って問題を眺めていたが、集合記号の「∩」と「∪」を見た瞬間に眉をひそめた。
美枝子: (心の中)「何この記号…。ファッションのブランドロゴなら覚えられるのに、数学ってほんと苦手。貫太郎に後で教えてもらおう…。」
一方、亮と綾乃と南は理系科目に強いだけあって、問題を冷静に解き進めていた。亮は科学的な思考で集合を整理し、ノートに計算を書き込んでいく。
亮: (心の中)「2の倍数は100÷2で50個、3の倍数は100÷3で33個…。交わりは6の倍数だから16個か。理系なら簡単だな。」
綾乃は数学が得意なだけあって、スムーズに解答を導き出していた。
綾乃: (心の中)「集合の計算って、音楽の和音を組み合わせるみたいに論理的ね。貫太郎には後で教えてあげよう。」
南も生物で培った論理的思考を活かし、問題を解いていた。
南: (心の中)「倍数の計算って、生物の遺伝子の組み合わせに似てるかも。簡単だよ、これなら。」
15分が経過し、杉下が解答を発表した。
杉下: 「えー、解答です…。(1) n(A)は50…(2) n(B)は33…(3) n(A∩B)は16…(4) n(A∪B)は67…。分からなかった人は…解説を聞いて…ください…。」
貫太郎は自分のノートと見比べて、全く合っていないことに落胆した。
貫太郎: (心の中)「50?33?俺、適当に20とか書いてた…。全然ダメだ。歴史なら年号で覚えられるのに…。」
杉下は次の問題に移り、「補集合の要素の個数」を黒板に書いた。
杉下: 「次…。あるクラスの生徒40人に…数学と英語の…好き嫌いのアンケートを…行いました…。数学が好きな生徒は21人…英語が好きな生徒は17人…どちらも好きな生徒は8人…。次の人数を…求めなさい…。(1) 数学が嫌いな生徒…(2) 数学が嫌いで英語が好きな生徒…(3) 数学と英語の少なくとも一方が好きな生徒…(4) 数学と英語のどちらも嫌いな生徒…。これも…15分で…解いてみて…。」
健太と拓也はすでに完全に居眠りモードに入り、美枝子も目をこすりながら眠気を我慢していた。貫太郎は健太の肩を軽く叩いて起こそうとした。
貫太郎: (小声)「健太、起きろって。先生見てるぞ。」
健太: (眠そうに)「うーん…無理だよ、貫太郎。数学なんて地獄だ…。」
南が隣から健太を軽くつついて起こした。
南: 「健太、寝ないでよ。簡単だから、ちょっと頑張ってみなよ。」
健太は渋々目をこすり、ノートに問題を書き写し始めたが、すぐにペンを止めた。拓也も同様で、机に突っ伏したまま動かない。美枝子は少し頑張って計算を始めたが、途中で混乱してしまった。
美枝子: (心の中)「40人から21人引いて…いや、8人が重なってるから…ああ、もう分からない!貫太郎、助けて…。」
亮と綾乃と南はまたしてもスムーズに解き進め、解答を書き終えていた。亮は集合の図を描いて確認し、綾乃は論理的なステップで計算を進め、南は生物学的な直感も交えて解いていた。
亮: (心の中)「全生徒40人で、数学好き21人、英語好き17人、重なり8人。少なくとも一方は30人か。理系の基本だな。」
綾乃: (心の中)「ベートーヴェンの楽譜みたいに、数字が綺麗に組み合わさるわ。楽しい問題ね。」
南: (心の中)「生物の個体数計算みたい。40から30引けば、どちらも嫌いなのが分かるね。」
15分後、杉下先生が解答を発表した。
杉下: 「えー、解答です…。(1) 19人…(2) 9人…(3) 30人…(4) 10人…。これで…今日の授業は終わり…です…。」
貫太郎はまたしても自分の答えと違いすぎて、頭を抱えた。
貫太郎: (心の中)「19?9?俺、全部適当だった…。数学、本当に無理だ…。」
授業が終わり、チャイムが鳴ると、健太と拓也と美枝子は眠気から解放されたように目を覚ました。貫太郎は亮と綾乃に助けを求めるべく、彼らに近づいた。
貫太郎: 「亮、綾乃、ちょっと頼むよ。この集合の計算、どうやって解くんだ?全然分からない…。」
亮: 「おお、貫太郎、大丈夫だよ。最初の問題なら、2の倍数は100÷2で50個、3の倍数は100÷3で33個。交わりは6の倍数だから100÷6で16個。合併は50+33-16で67だ。簡単だろ?」
綾乃: 「2つ目の問題は、全体40人から考えるの。数学好き21人と英語好き17人の合計は38人だけど、重なり8人を引いて30人が少なくとも一方好き。残りの10人が両方嫌い。そこから補集合で計算すればいいわ。」
貫太郎はノートに書き写しながら、少しずつ理解し始めた。
貫太郎: 「なるほど…。歴史みたいに順番に考えれば、なんとか分かるかも。亮、綾乃、ありがとう!ギリギリ解ける気がしてきたよ。」
健太と拓也と美枝子はまだ半分眠そうだったが、貫太郎の頑張りに少し影響されてノートを見直し始めた。総体前夜の数学の授業は、貫太郎にとって苦行だったが、仲間の助けでなんとか乗り越えられた瞬間だった。
シーン9: 高校総体前の推戴式
午後の授業が全て終わりを迎え、生徒たちの足取りは少し重たくなっていた。6限目の数学の授業は特に貫太郎たちにとって疲労感を増すものであり、教室を出る時には肩を落とす者もいた。しかし、その疲れも一瞬にして吹き飛びそうなイベントが待っていた。体育館で行われる高校総体前の推戴式だ。海風学園高校の運動部員たちは体育館に集まり、それぞれの決意を新たにする儀式が始まろうとしていた。
体育館の扉が開くと、冷たい空気が流れ込み、館内に響く生徒たちのざわめきが一気に静寂に変わった。体育館の床は磨き上げられ、観客席には応援団や一般生徒が座り、壁には「高校総体 勝利を我々に!」と書かれた横断幕が掲げられていた。貫太郎、健太、拓也、亮、アリス、美枝子、綾乃、南の8人は水泳部のユニフォームに身を包み、他の部員たちと共に整列していた。彼らは選手として出場が内定しており、入場行進に参加する準備を整えていた。
吹奏楽部の生徒たちが楽器を手にスタンバイし、指揮者の合図とともに演奏が始まった。選ばれた曲は「軍艦行進曲」。その荘厳なメロディーが体育館に響き渡ると、運動部員たちは一斉に胸を張り、行進を始めた。貫太郎たちは水泳部の列に並び、美咲主将を先頭に、美玲副主将がそのすぐ後ろに続く形で進んだ。曲の重厚な響きが体育館の空気を震わせ、生徒たちの心を鼓舞するようだった。
吹奏楽部のトランペットが力強く鳴り響き、続いてトロンボーンとチューバが低音で支える。ドラムの規則正しいリズムが足音と同期し、まるで軍隊のような統制感を生み出していた。曲の歴史は古く、1897年に瀬戸口藤吉によって作曲され、1900年に「軍艦行進曲」として誕生したものだ。貫太郎は行進しながら、その壮大さに目を丸くしていた。
貫太郎: (心の中)「すげえな、この曲。歴史の授業で習った明治時代の軍艦を思い出すよ。鉄の城が海を進むみたいな力強さが感じられる…。でも、俺たち水泳部に合うのかな?プールで泳ぐ俺たちにはちょっと重すぎる気もするけど、気合は入るな。」
健太は隣で少し顔をしかめながら歩いていた。バタフライの選手らしい軽快なステップとは裏腹に、彼の内心は複雑だった。
健太: (心の中)「軍艦って…。ゲームの戦艦ならテンション上がるけどさ、俺、バタフライで軽やかに泳ぎたいタイプなんだよな。この重々しい感じ、ちょっと苦手だ。でも、みんなと一緒なら悪くないか。」
拓也は逆に目を輝かせていた。平泳ぎの選手である彼は、アニメや漫画の影響でこういう壮大な雰囲気が大好きだった。
拓也: (心の中)「『ガンダム』のコロニー戦争みたいだぜ!この曲、戦士の気持ちを高めてくれるよ。平泳ぎで敵をぶっ倒すイメージが湧いてきた!」
亮は冷静に曲を分析しながら歩いていた。背泳ぎの選手として、理系的な視点で物事を捉える癖があった。
亮: (心の中)「この曲、物理的な振動がすごいな。音波が体育館全体に広がって、共鳴してる。科学的にも面白いし、気分が盛り上がる効果はある。でも、水泳にはもう少し軽い曲がいいかもな。」
アリスは優雅に歩きながら、貫太郎の横で微笑んでいた。自由形の選手として、彼女はこの曲に肯定的な印象を持っていた。
アリス: (心の中)「軍艦行進曲か…。三島家の歴史にも通じるような、重厚で誇り高い響きね。貫太郎と一緒に全国制覇を目指すなら、このくらいの気合が必要かもしれないわ。」
美枝子は少し緊張した表情で歩いていた。平泳ぎの選手であり、ファッションに敏感な彼女にとって、この曲は少し異質に感じられた。
美枝子: (心の中)「この曲、かっこいいけど、ちょっと古風よね。ファッションショーの入場曲ならもっと軽快なのがいいけど…。でも、総体前の雰囲気には合うかな。貫太郎の隣で歩けてるし、まあいいか。」
綾乃は背泳ぎの選手としての落ち着きを保ちつつ、音楽的な視点で曲を味わっていた。
綾乃: (心の中)「軍艦行進曲…。ベートーヴェンの交響曲ほどじゃないけど、力強さがあってドラマチックね。総体に向けて気持ちが高まるわ。でも、私には少し重すぎるかしら。」
南はバタフライの選手らしい軽やかな足取りで歩きながら、海との繋がりを感じていた。
南: (心の中)「海軍の曲なんだね。海がテーマなら、私好きだよ。強化合宿の海を思い出すな。バタフライで飛ぶように泳ぐイメージがこの曲で湧いてくる。」
水泳部の列は体育館の中央に進み、他の運動部と並ぶ形で整列した。野球部、サッカー部、バスケ部、陸上部と、各部が順番に入場を終え、体育館は熱気に満ちていた。吹奏楽部の演奏がトリオ部の「海ゆかば」に移ると、観客席から拍手が沸き起こった。貫太郎たちは指定された位置に立ち、美咲主将の号令を待った。
恵美は顧問として水泳部の後方に立ち、ビキニの上にジャージを羽織った姿で部員たちを見守っていた。彼女の清楚な美貌とは裏腹に、部活動では鬼教官として知られているが、この瞬間は穏やかな表情で生徒たちを見つめていた。
恵美: (心の中)「この子たち、特別合同練習での悔しさを胸に、ここまで成長してきた。私の負けを取り戻すためにも、総体で結果を出してほしい…。」
全ての運動部員が揃うと、司会の教員がマイクを持ち、式の開始を宣言した。
司会: 「ただいまより、海風学園高校総体前の推戴式を始めます。各部の代表者が大会への意気込みを述べ、その後に選手への応援をお願いします。まずは野球部からお願いします。」
野球部の主将が前に出て、力強い声で意気込みを語った。続いてサッカー部、バスケ部と続き、体育館には各部の決意が響き渡った。そして、ついに水泳部の番が回ってきた。
美咲が一歩前に出て、部員たちに号令をかけた。
美咲: 「水泳部、全員起立!」
貫太郎、健太、拓也、亮、アリス、美枝子、綾乃、南、そして2年生、3年生の部員たちが一斉に立ち上がった。体育館の空気が一瞬にして緊張感に包まれる。美咲は背筋を伸ばし、マイクに向かって話し始めた。
美咲: 「私たち海風学園高校水泳部は、これまでインターハイ常連校として戦ってきました。しかし、数年間、全国では下位に甘んじていました。その悔しさをバネに、今年こそは全国制覇を目指します。特別合同練習での敗北を忘れず、先輩方の指導と仲間との絆を信じて、全力を尽くします。応援よろしくお願いします!」
美咲の声は力強く、体育館全体に響き渡った。彼女の厳しい性格がこの瞬間、部員たちを鼓舞する原動力となっていた。観客席から大きな拍手が沸き上がり、貫太郎たちは胸を張った。
美玲が美咲の横に立ち、副主将として補足した。
美玲: 「美咲の言う通り、私たちは悔しさを乗り越えてきました。新入生も含め、みんなが一つになって練習に励んできました。全国制覇は夢じゃない。私たちの泳ぎで、海風学園の名を全国に轟かせます。応援お願いします!」
美玲の優しい声は、美咲の厳しさと対照的で、部員たちに温かい気持ちを与えた。貫太郎は二人の言葉に心を打たれていた。
貫太郎: (心の中)「美咲先輩の気迫と、美玲先輩の優しさ…。この二人に引っ張られてる俺たちなら、全国だって狙える。自由形で絶対結果出すぞ。」
健太は少し緊張しながらも、意気込みを感じていた。
健太: (心の中)「俺、バタフライでミスったら美咲先輩に怒られるな…。でも、ゲームみたいに楽しんで泳げばいけるか。」
拓也はアニメのヒーローのように気合を入れていた。
拓也: (心の中)「平泳ぎで俺が決めなきゃ、全国なんて夢だぜ。『聖闘士星矢』の星矢みたいに、最後まで諦めねえ!」
亮は冷静に自分の役割を考えていた。
亮: (心の中)「背泳ぎでタイムを縮めれば、リレーでも貢献できる。科学的に泳ぎを分析して、ベストを尽くすよ。」
アリスは貫太郎を見ながら決意を新たにしていた。
アリス: (心の中)「自由形で貫太郎と一緒に泳げるなんて夢みたい。全国制覇、私たちの力で叶えるわ。」
美枝子は少し緊張しながらも、前向きな気持ちになっていた。
美枝子: (心の中)「平泳ぎ、私だって頑張れるよね。貫太郎と一緒に全国行きたいし、ファッションみたいに輝きたい!」
綾乃は音楽的なリズムで気持ちを整えていた。
綾乃: (心の中)「背泳ぎは私のメロディ。全国制覇に向けて、最高の演奏を届けたいわ。」
南は海とのつながりを感じながら、意気込みを固めていた。
南: (心の中)「バタフライで海を飛ぶように泳ぐよ。強化合宿の成果を全国で発揮するんだ。」
水泳部の意気込みが終わり、他の部活も順次発表を終えると、応援団が立ち上がり、全校生徒による応援歌が歌われた。体育館は一体感に包まれ、総体への期待が高まっていった。貫太郎たちは仲間たちと目を合わせ、明日への決意を胸に刻んだ。
恵美が部員たちに近づき、小声で激励の言葉をかけた。
恵美: 「みんな、今日の気持ちを忘れないで。私の負けを取り戻すのは君たちだよ。全国制覇、信じてるからね。」
貫太郎たちは頷き、体育館を出る。総体前夜の推戴式は、彼らに新たな火を灯し、仲間との絆をさらに強くしていた。明日への戦いが、今始まろうとしていた。
次回、貫太郎達は高校総体前夜の猛練習で、水泳の強化特訓に励む!総体前夜のうちに貫太郎達は成長できるのだろうか!?




