第一話 新生活の幕開け
舞台は常夏の南国、島宮県・鳴海市。温暖な気候が特徴で、冬でも気温が10度を下回ることがない。県立高校受験に失敗した川名貫太郎は、自主性を重んじる海風学園高校に入学。さらに、男子より女子部員が多い強豪の水泳部に参加。クラス担任で且つ水泳部顧問の松澤恵美と水泳部主将の高橋美咲たちと共に彼の水泳技術も磨かれていく。
プロローグ
鳴海市は、常夏の南国と呼ばれる島宮県の中心に位置する。海に抱かれたこの街は、冬でも気温が10度を下回ることがなく、年中、陽光が降り注ぐ。空はどこまでも青く、街路樹のヤシの葉がそよ風に揺れる。3月中旬、桜が満開に咲き誇るこの季節は、受験生にとって人生の岐路となる瞬間だ。公立高校の合格発表の日、街は希望と不安の入り混じった空気に包まれていた。
鳴海西高等学校の正門前は、受験生とその家族でごった返していた。校舎の壁に貼り出された合格者一覧を前に、歓喜の声や落胆の溜息が交錯する。掲示板の周りには、受験番号を手に汗握りながら確認する中学生たちの姿があった。ある者は友と抱き合って喜びを分かち合い、ある者は肩を落とし、親に慰められながら会場を後にする。その喧騒の中、一人の少年が静かに掲示板を見つめていた。川名貫太郎、15歳。手に握りしめた紙切れには、彼の受験番号「1031番」が乱雑な字で書かれている。貫太郎は、背筋を伸ばし、深呼吸を一つ。掲示板に並ぶ無数の数字を、目を細めながら丹念に追っていく。心臓が早鐘のように鳴り、指先がわずかに震えている。鳴海西高校は、島宮県内でも有数の進学校だ。中学時代、比較的に成績優秀だった貫太郎にとって、ここは当然の第一志望だった。いや、当然でなければならなかった。
貫太郎:「1031…1031…どこだ…」
彼の視線は、番号の羅列を左から右へ、上から下へと這う。だが、どれだけ目を凝らしても、その数字は見つからない。隣で誰かが「あった!」と叫び、友人とハイタッチする声が耳に刺さる。貫太郎の胸に、冷たいものが広がっていく。もう一度、最初から番号を追ってみる。だが、結果は変わらない。
貫太郎:「嘘だろ…。俺は落ちたのかよ…」
声は小さく、掠れていた。掲示板の前で立ち尽くす貫太郎の視界が、わずかに揺れる。握りしめた紙切れが、掌の中でくしゃりと音を立てる。周囲の喧騒が遠ざかり、まるで自分だけが別の世界に取り残されたような感覚に襲われる。頭の中では、中学時代の記憶がフラッシュバックする。テストで常に上位をキープし、教師から「鳴海西なら余裕だ」と言われ、友人たちと進学後の夢を語り合った日々。あの自信は、どこへ行ってしまったのか。貫太郎は、ゆっくりと掲示板から目を離す。握りつぶした紙切れをポケットに押し込み、踵を返す。合格を喜ぶ受験生たちの笑顔が、まるで自分を嘲笑うかのように見えた。会場を後にする足取りは重く、陽光が眩しすぎるほどだった。
午後、貫太郎は卒業した鳴海中学校へと向かった。合格者は午前中に登校し、不合格者は午後に顔を出すのが慣例だ。校門をくぐると、かつての同級生たちの姿がちらほら見える。皆、どこか気まずそうな表情を浮かべている。貫太郎と同じく、不合格の烙印を押された者たちだ。誰もが、互いの顔を見ないようにしながら、職員室へと向かう。校舎の中は、春休み特有の静けさに包まれていた。廊下の窓から差し込む光が、床にまだ新しいワックスの匂いを漂わせる。貫太郎は、三年次の担任が待つ職員室のドアをノックする。軽い音が響き、すぐに中から「入れ」という声が返ってくる。
貫太郎:「失礼します…」
職員室に入ると、担任の平川が書類の山に埋もれながらこちらを見上げる。30代半ばの平川は、貫太郎の三年次の担任であり、水泳部の顧問でもあった。厳しいが面倒見の良い教師として、生徒たちからの信頼は厚い。
平川:「お、川名か。どうだった、鳴海西は?」
貫太郎は一瞬、言葉に詰まる。喉に何か引っかかったような感覚を振り払い、目を逸らしながら答える。
貫太郎:「先生、俺、西高落ちました…」
平川の眉がわずかに動く。だが、その表情は驚きよりも、どこか予想していたような落ち着きを帯びていた。彼は椅子に深く腰かけ、貫太郎をじっと見つめる。
平川:「そうか。まあ、そう気を落とすな。鳴海西は確かに難関だが、お前なら次がある。ところで、鳴海南高校の二次募集があるけど、どうするんだ?」
平川の声は穏やかだが、どこか試すような響きがあった。鳴海南高校は、鳴海西ほどではないが、進学実績も悪くない公立校だ。しかし、貫太郎の心はすでに別の方向を向いていた。
貫太郎:「いいえ、結構です。」
その言葉に、平川は少し驚いたように目を丸くする。だが、すぐに口元に小さく笑みを浮かべ、頷いた。
平川:「ほう、随分はっきりしてるな。もう次の目標があるのか?」
貫太郎は、ポケットの中で握りつぶした紙切れを思い出す。あの瞬間、掲示板の前で感じた屈辱と失望。それでも、どこかで新たな一歩を踏み出したいという思いが芽生えていた。
貫太郎:「はい。俺、海風学園高校に行くつもりです。」
平川は、興味深そうに顎を撫でる。海風学園高校は、自主性を重んじる校風と、水泳部をはじめとする運動部の強さで知られている。私立ゆえに学費は高いが、貫太郎にはそこを選ぶ理由があった。
平川:「海風か。確かに、お前の水泳の腕なら、そこでやっていけるだろう。だが、勉強の方はどうするつもりだ?海風は自由な校風だが、進学もそれなりに意識しないとな。」
貫太郎:「…それは、分かってます。理系は苦手だけど、国語と英語で挽回します。」
平川は、貫太郎の決意を試すように少し黙り、それから満足げに頷いた。
平川:「よし、なら応援するぞ。川名貫太郎、らしい選択だ。海風で、しっかり自分の道を切り開けよ。」
貫太郎は、平川の言葉に小さく頭を下げる。職員室を出る時、胸の奥に小さな火が灯ったような気がした。まだ失望の影は消えないが、新しい一歩への期待が、わずかに心を軽くしていた。
中学校の校門を出ると、春の柔らかな風が頬を撫でた。桜の花びらが舞う中、貫太郎は校舎を振り返る。三年間の思い出が、走馬灯のように脳裏をよぎる。水泳部の仲間と過ごした夏のプール、テスト勉強に追われた夜、友との他愛もない会話。全てが、遠い過去のもののように感じられた。その時、背後から声をかけられる。
友人A:「よお、貫太郎!お前も西高落ちたのか?」
振り返ると、そこには同級生の山村が立っていた。山村は、貫太郎と同じく水泳部に所属していた友人だ。少し軽薄な口調だが、根は悪い奴ではない。貫太郎は、苦笑いを浮かべながら答える。
貫太郎:「ああ、情けないことに。で、お前は?」
山村:「俺もだ!ハハ、なんちゃってな!でもさ、俺は鳴海南の二次募集受けるぜ。貫太郎はどうするんだ?」
山村の明るい声に、貫太郎は一瞬苛立ちを覚える。だが、それを押し隠し、淡々と答える。
貫太郎:「俺は面倒臭いから辞退した。」
山村は、目を丸くして貫太郎を見つめる。
山村:「おいおい、マジかよ!私立って学費高いだろ?どうするんだよ!?」
その言葉に、貫太郎の胸に小さな火花が散る。中学時代、水泳部で活躍した自分を思い出す。全国大会で個人優勝したあの夏、仲間と肩を組み、未来を語った夜。あの頃の自分は、どんな壁も乗り越えられると信じていた。
貫太郎:「俺はな、一応中学時代は水泳部で活躍したし、水泳の強豪校である海風学園高校で腕を試したい。だから、辞退したんだ。」
その言葉に、山村は一瞬黙り、それからニヤリと笑った。
山村:「へえ、貫太郎らしいっちゃらしいな。まあ、頑張れよ。俺も南でなんとかやってくわ!」
山村が去った後、貫太郎は一人、校門の前に立つ。桜の花びらが、風に舞いながら地面に落ちていく。その時、別の声が背後から響いた。
友人B:「よお、貫太郎。落ちた同士、仲良くやろうぜ。」
振り返ると、そこにはもう一人の同級生、田中が立っていた。田中は、貫太郎と同じく不合格の憂き目にあったらしい。だが、その表情はどこか吹っ切れたような明るさを帯びている。
田中:「俺、鳴商落ちたけどさ、海風学園高校の国際商業科は滑り止めで受かったから、そこでやるぜ。貫太郎も海風だろ?会えるかどうか分からんが、不合格者同士、よろしくな!」
貫太郎は、田中の軽い調子に思わず笑みをこぼす。
貫太郎:「そうだな。お互い頑張ろう。」
田中と別れ、貫太郎は家路につく。夕陽が鳴海市の街をオレンジ色に染め、海からの風が潮の香りを運んでくる。新しい生活への不安と期待が、胸の中で交錯する。鳴海西高校の合格発表で味わった屈辱は、まだ心の奥に残っている。だが、その痛みをバネに、海風学園高校で新たな一歩を踏み出そうと、貫太郎は決意を新たにする。
貫太郎:「海風学園…。ここから、俺の新しい物語が始まるんだ。」
桜の花びらが舞う中、貫太郎の足音が、鳴海市の街に響き合う。新しい春、新しい生活。その幕が、今、上がろうとしていた。
シーン1:正門での出来事
4月上旬、世間は入学シーズンの華やぎに包まれている。島宮県・鳴海市の海風学園高等学校の正門に向かう道は、青い空と白い砂浜に縁取られ、早朝の太陽が海面にキラキラと反射している。波の音が遠くから響き、潮風がほのかに塩辛い香りを運んでくる。南国の陽光が、貫太郎の新しい一歩を祝福するかのようだった。
海風学園高校の校舎は、白亜の建物で、シンプルながらも洗練されたデザインが特徴だ。校門前の舗装された道には、椰子の木が南国らしい雰囲気を醸し出し、周囲を緑豊かな木々が包み込んでいる。制服を着た学生たちが少しずつ集まり始め、新入生たちは一様に期待と不安の入り混じった表情を浮かべている。紺色のブレザーに白いシャツ、チェック柄のスカートやズボンという制服は、鳴海市の温暖な気候に合わせて軽やかな生地で作られている。新入生たちの声が、潮風に混じって校門前に響き合う。
貫太郎は、少し大きめの制服のブレザーを羽織り、校門の少し手前で立ち止まっていた。肩に掛けた黒いバックパックには、新しいノートと筆記用具が詰め込まれている。母親が今朝、「ちゃんと櫛でとかしなさい」と念を押した言葉を無視したせいで、髪には寝癖が残っている。慌てて家を出てきたことを今さら後悔しながら、彼は前髪を指で軽く整えた。胸ポケットには、母親が渡してくれた白地に小さな青い刺繍が入ったハンカチが入っている。「新しい学校でも頑張ってね」という母親の声が、その布に染み込んでいるようだった。
貫太郎(心の声):「今日から高校生だ。鳴海西は落ちたけど、ここで新しいスタートを切るんだ。気合入れるぞ。」
彼の胸には、受験の失敗という苦い記憶がまだ残っている。鳴海西高校の合格発表で味わった屈辱、掲示板に自分の番号が見つからなかった瞬間の絶望。それでも、海風学園高校という新たな舞台に立つ今、貫太郎は前を向こうとしていた。中学時代、成績上位で水泳部でも活躍した自分を思い出す。あの頃の自信を、なんとか取り戻したかった。
貫太郎は深呼吸を一つ。潮風が前髪を軽く揺らし、まるで新しい門出を後押しするかのようだった。彼はバックパックを肩に掛け直し、校門に向かって一歩踏み出す。校門の両脇には、「海風学園高等学校」と刻まれた石碑が立ち、朝日を受けて白く輝いている。新入生たちのざわめきが近づくにつれ、貫太郎の心臓が少しずつ速く鼓動を打つ。新しい環境、新しい仲間、そして新しい挑戦。全てが、ここから始まるのだ。その時、校門のすぐ近くで、ひとりの女子生徒が目に入った。彼女は貫太郎より背が高く、黒髪は短く切り揃えられ、制服のブレザーの袖を少し折り返している。スカートの裾が軽やかに揺れ、動きに合わせて一瞬、赤いハイレグの水着の下半身部分が覗いた。肩には水泳部のロゴが入ったバッグが掛けられ、堂々とした立ち姿が印象的だ。彼女は他の新入生たちと少し距離を置き、校門の脇に立って周囲を見渡している。その姿勢には、どこか場慣れした自信が漂っていた。貫太郎の視線が彼女に留まった瞬間、彼女もこちらに気付いた。少し眉を上げ、鋭い視線を貫太郎に向ける。その目つきに、貫太郎は反射的に立ち止まる。彼女の瞳は、まるで新入生を値踏みするような冷たさを帯びていた。貫太郎は思わず喉を鳴らし、彼女と目が合ってしまった。
女子生徒:「あんたは新入生?」
彼女の声は少し低めで、どこか挑戦的な響きがあった。貫太郎は一瞬たじろぎ、頭の中で適切な返事を探す。彼女の視線が、まるで自分の内側を見透かすようで、居心地の悪さを感じた。だが、ここで怯むわけにはいかない。貫太郎は咳払いをして、なんとか言葉を絞り出す。
貫太郎:「え、えっと、はい。本日海風学園高校に入学する、川名貫太郎です。」
彼の声は、緊張のせいで少し上ずっていた。彼女は「ふーん」と小さく鼻を鳴らし、貫太郎を上から下までじろりと見つめる。その視線に、貫太郎は思わず制服の裾を握りつぶしてしまう。彼女の視線は、まるで貫太郎の全てを見抜くかのように鋭く、どこか試すような雰囲気を持っていた。貫太郎の背中に、冷や汗がにじむ。
女子生徒:「私は高橋美咲。水泳部のキャプテンやってる。あんた、緊張してるみたいだけど、学園生活は厳しいからそのくらいじゃダメよ。頑張りなさいよね。」
美咲の言葉は冷たく、まるで新入生を試すような口調だった。貫太郎は「はい」と小さく返事をするのが精一杯で、彼女のツンツンした態度に圧倒されていた。彼女の言葉には、どこか新入生を突き放すような厳しさがあったが、同時に、海風学園の厳しい環境を生き抜くための覚悟を求めているようにも感じられた。
貫太郎(心の声):「何だあの先輩……怖いっていうか、なんか近寄りがたいな。でも水泳部か。強そうだな……。」
美咲の堂々とした立ち姿と、水泳部のキャプテンという肩書きに、貫太郎の胸に小さな火が灯る。中学時代、彼は水泳部で県大会に出場し、入賞した経験を持っている。あの頃の自分は、水の中では誰にも負けない自信があった。海風学園の水泳部は、県内だけでなく全国でも名を知られた強豪校だ。ここでなら、かつての自分を取り戻し、さらに高みを目指せるかもしれない。貫太郎は、思わず口を開いていた。緊張を振り払うように、声を張り上げる。
貫太郎:「俺は中学時代に水泳部で活躍していた経験を持っています!もしかしたら、海風学園高校の水泳部でも活躍できるんじゃないかなと思っています!」
その言葉に、美咲の眉がピクリと動く。彼女は一瞬、呆れたような目つきで貫太郎を見つめ、それから小さく溜息をついた。彼女の視線は、まるで子供の無謀な夢をたしなめるような冷たさを帯びていた。
美咲:「はあ、あんた、うちを舐めてるの?うちの水泳部は県内だけでなく、全国の常勝校なのよ。中学時代に水泳部で活躍した実績があるからと言って、そう簡単に成功するものじゃないのよ!少しは現実を見たら?」
美咲の言葉は、鋭い刃のように貫太郎の胸に突き刺さる。彼女の声には、貫太郎の軽い意気込みを一蹴するような力強さがあった。貫太郎は一瞬、言葉に詰まる。彼女の言う通り、海風学園の水泳部は全国レベルの強豪だ。中学時代の県大会での入賞など、彼女の目には取るに足らないものかもしれない。だが、貫太郎の胸には、負けたくないという気持ちが湧き上がっていた。
貫太郎:「俺は子供の頃から水泳一筋でやって参りました!もちろん、勉強も怠ることなく頑張ってきました!」
彼の声には、どこか必死さが滲んでいた。美咲の冷たい視線を跳ね返すように、貫太郎は自分を鼓舞する。受験の失敗で失った自信を、ここで取り戻したかった。美咲は、貫太郎の言葉を聞いて一瞬目を細め、それから小さく笑った。その笑みには、どこか試すような、だが少しだけ認めるような色が含まれていた。
美咲:「ふーん。まあ、あんたのその意気込みは買うわ。けど、今はまだ部活動の新歓はされてないから、入部はすぐにはできないけど、入学式が終わった後の対面式を楽しみにしてなさい。」
美咲の言葉は、依然として厳しかったが、どこか貫太郎の熱意に応えるような柔らかさがあった。彼女はそれ以上何も言わず、くるりと背を向けて校舎の方へ歩き出す。ポニーテールが潮風に揺れ、彼女の後ろ姿は力強く、どこかカッコよかった。貫太郎は、彼女の背中を見送りながら、胸に複雑な感情が渦巻くのを感じた。
貫太郎(心の声):「高橋美咲、か……。水泳部のキャプテン、めっちゃ怖いけど、なんかスゴい人っぽいな。俺、絶対にあの先輩に認められるような泳ぎを見せるぞ。」
美咲が校舎に消えるのを見届け、貫太郎は小さく肩を落とす。彼女の厳しい言葉は、確かに刺さった。だが、同時に、貫太郎の胸に新たな目標が芽生えていた。海風学園の水泳部で、彼女のような先輩と肩を並べる日を夢見て、貫太郎は自分を奮い立たせる。
貫太郎:「まあ、先輩だし、厳しいのも仕方ないか。けど、俺だって負けないぞ。」
彼は自分を納得させるように呟き、校門をくぐる。新入生たちのざわめきが一層大きくなり、校庭では入学式の準備が進んでいる。白亜の校舎が朝日を受けて輝き、椰子の木がそよ風に揺れる。貫太郎はバックパックを握りしめ、校庭へと足を踏み出した。新しい生活の第一歩が、今、始まる。
潮風が彼の前髪を再び揺らし、まるで新しい挑戦を後押しするかのようだった。貫太郎の心には、不安と期待が交錯する。受験の失敗を乗り越え、海風学園でどんな自分になれるのか。美咲との出会いは、彼の高校生活にどんな影響を与えるのか。全ては、これからの日々が教えてくれるだろう。
貫太郎(心の声):「よし、川名貫太郎、ここからが本当のスタートだ。海風学園で、俺の新しい物語を始めるぞ!」
校庭に響く新入生たちの声、波の音、潮風の香り。全てが、貫太郎の新しい春を彩っていた。入学式の幕が上がり、彼の高校生活が、今、動き出す。
シーン2:入学式
校庭を抜け、体育館へと続く道を歩む新入生たちの足音が、鳴海市の潮風と混じり合う。海風学園高等学校の体育館は、白亜の校舎に隣接し、ガラス張りの窓から差し込む朝日が床に反射している。4月上旬の陽光は柔らかく、体育館の外壁に這うツタがそよ風に揺れる。新入生たちは校舎の裏手に集められ、クラスごとの整列を指示されていた。貫太郎は胸に付けた名札を指で軽く叩きながら、周囲を見回す。名札には「川名貫太郎」と黒い文字で書かれ、プラスチックの表面が朝日を受けてきらりと光る。知らない顔ばかりの新入生たちに囲まれ、貫太郎の胸には友達がいない不安がじわりと広がる。だが同時に、新しい出会いへの期待が、その不安を押し返すように膨らんでいた。
体育館の入り口では、教員たちが新入生を誘導している。貫太郎は列に並びながら、体育館の内部を覗き込む。特設ステージが設けられ、壇上には深紅のカーテンが揺れ、校章が金色の刺繍で輝いている。ステージの脇には吹奏楽部の生徒たちが楽器を手に待機し、トランペットやクラリネットの金属が光を反射している。体育館の床はワックスで磨かれ、新入生のスニーカーが小さく軋む音を立てる。空気には、体育館特有のゴムと汗の匂いがほのかに混じり、貫太郎の鼻をくすぐる。
貫太郎(心の声):「いよいよ入学式か……。なんか、胸がドキドキするな。新しい学校、新しい仲間。ここで、俺の人生が変わるかもしれない。」
彼はバックパックを肩に掛け直し、名札がずれないように軽く押さえる。朝、美咲との出会いで受けた衝撃がまだ胸に残っている。あの厳しい水泳部キャプテンの言葉が、貫太郎の心に小さな火を灯していた。海風学園の水泳部で、彼女に認められるような泳ぎを見せる――その目標が、貫太郎の緊張を少しだけ和らげていた。
整列が終わると、司会の教員がマイクを手にステージに立つ。彼女は30代後半くらいの女性で、紺色のスーツに白いブラウスを合わせ、髪をきっちりとまとめている。その落ち着いた声が、体育館のざわめきを静かに抑え込む。
司会:「開会宣言。」
その言葉を合図に、体育館の空気が一変する。新入生たちの私語がぴたりと止み、保護者席からも小さな咳払いが聞こえるだけだ。貫太郎は背筋を伸ばし、隣に立つ見知らぬクラスメートと肩が触れそうになるのを避けるように、少し体をずらす。壇上に上がったのは、初老の男性だ。白髪が混じる髪と鋭い眼差しが威厳を感じさせ、紺のスーツに赤いネクタイが映える。教頭の存在感は、場を一気に引き締めた。
貫太郎(心の声):「この人、めっちゃ厳しそうだな……。なんか、目が怖いぞ。」
教頭はマイクを手に、ゆっくりと会場を見渡す。その視線に、貫太郎は思わず息を呑む。教頭の声は低く、だが力強く、体育館の隅々にまで響き渡った。
教頭:「只今より、第115回海風学園高校の入学式を挙行致します。」
その声は静寂を打ち破り、場の緊張感を一層高めた。貫太郎は胸ポケットのハンカチを握り、母親の「頑張ってね」という言葉を思い出す。鳴海西高校の受験に失敗した自分を、母親は責めることなく、ただ笑顔で送り出してくれた。あの笑顔に応えるためにも、ここで新しい一歩を踏み出さなければならない。
司会:「新入生、入場。」
吹奏楽部の演奏が始まる。行進曲の明るいメロディが体育館に響き渡り、新入生たちの心を鼓舞する。トランペットの高らかな音色とドラムの力強いビートが、貫太郎の胸を高鳴らせる。保護者席から拍手が鳴り響き、新入生たちは一斉に体育館の入り口から入場する。貫太郎もその中の一人で、固い表情で列を作り、ゆっくりと歩みを進める。足元の芝生が少し湿っていて、スニーカーの裏に土が付きそうな感触に気を取られながらも、前を向いて歩く。
貫太郎(心の声):「みんな緊張してるみたいだな。でも、なんかワクワクする。新しい学校、新しい友達……ここで何かが変わるかもしれない。」
体育館の床に並べられたパイプ椅子に、新入生たちが次々と着席する。貫太郎は自分の席を見つけ、バックパックを足元に置く。隣の男子生徒が小さく咳払いをするのが聞こえ、貫太郎はちらりと横を見る。眼鏡をかけた細身の少年で、名札には「川野」と書かれている。貫太郎は一瞬、話しかけようかと思うが、緊張のせいで言葉が出てこない。
司会:「国歌斉唱。」
壇上に先輩らしい若々しい指揮者が立つ。彼女は吹奏楽部の制服を着ており、長い髪をポニーテールにまとめている。指揮棒を振ると、「君が代」の厳かな旋律が流れ始める。新入生たちは一斉に立ち上がり、歌い始める。貫太郎は歌詞を間違えないように気をつけながら、声を張り上げる。少し音程が外れてしまった気がして焦るが、周囲の声に紛れてしまえば気にならない。ここにいる全員が一体となって歌うその場面は、貫太郎の胸に小さな感動を呼び起こした。
貫太郎(心の声):「なんか、すごいな……。みんなで歌ってるって、こんな気持ちになるんだ。」
国歌斉唱が終わり、新入生たちが再び着席する。体育館の空気は、厳かさと期待感が入り混じったものに変わっていた。司会の声が、再び響く。
司会:「入学許可。」
クラスごとに名前が呼ばれていく。新入生たちは自分の名前が呼ばれると、緊張しながらも一歩前へ出て、それぞれのクラスに確定する。貫太郎は自分の順番が近づくにつれ、心臓がドキドキと高鳴るのを感じていた。ε組の名前が呼ばれ始め、隣の生徒たちが次々と返事をする。貫太郎は名札を握り、深呼吸を一つ。
松澤恵美:「川名貫太郎。」
柔らかく、どこか安心感を与える声が体育館に響く。貫太郎は一瞬、胸が軽くなるのを感じる。壇上に立つ松澤恵美は、28歳の女性で、ベージュのスーツに白いブラウスを合わせ、肩までの髪が柔らかく揺れている。彼女の笑顔は、新入生たちに安心感を与えるものだった。
貫太郎:「はい。」
彼は短く返事し、起立してすぐに着席する。恵美の声に、貫太郎の緊張が少しだけ解けた。隣に座る川野という少年が小さく「よろしくね」と呟いた気がしたが、聞き間違いかもしれないと思い、貫太郎はそのまま黙っていた。名前呼びが続き、ε組のクラスメートたちが次々と確定していく。貫太郎は周囲の顔をちらりと見る。知らない顔ばかりだが、これから3年間を共にする仲間たちだ。
司会:「学校長式辞。」
校長が壇上に上がる。60代前半くらいの男性で、グレーのスーツに青いネクタイを締め、穏やかな笑みを浮かべている。彼の声は、力強くも温かみがあり、体育館全体を包み込むようだった。
校長:「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。ようこそ海風学園高校へ。ここでは、自由と自主性を大切にします。自己啓発と協調性を学び、一流の人間になるための教育を提供します。授業に出席すれば平常点40点、試験に赤点を取ってもやり直しが可能というシステムで、一つ一つの挑戦から学んでもらいたいです。ここでは文系科目、理系科目ともに選択の自由が与えられます。二年目には国内進学と海外進学に分かれ、それぞれの道で深く学ぶ機会があります。学力に依存しないクラス分けは、皆さんの個性を尊重する我々の教育理念です。内部進学、外部進学の枠を超えた交流と成長を期待しています。」
貫太郎は校長の言葉に耳を傾けながら、この学校での生活を想像する。中学時代は成績上位だったが、鳴海西高校の受験に失敗した自分でも、ここならやり直せるかもしれない。理系科目に苦戦する予感はあるが、国語と英語で挽回するチャンスもある。校長の言う「自由と自主性」という言葉が、貫太郎の心に希望の光を灯した。
貫太郎(心の声):「自由と自主性、か……。ここなら、俺のペースでやっていけるかもしれない。新しい自分を見つけられる場所だ。」
司会:「保護者会代表挨拶。」
保護者会の代表として、中年男性が壇上に上がる。スーツ姿の彼は、落ち着いた声で親としての思いを語り始める。
保護者会代表:「新入生の皆さん、ここでの生活は新たな挑戦の始まりです。保護者としても、皆さんの成長を大いに楽しみにしています。ご家族の我々も、学校と共に皆さんをサポートしますので、何事にも積極的に挑戦してください。」
貫太郎は視界の端で母親の姿を探すが、保護者席が遠く、顔を見つけることはできない。それでも、今朝の母親の笑顔が頭に浮かぶ。「頑張ってね」と言ってくれたあの声が、貫太郎の心を温かくした。
司会:「新入生歓迎の言葉。生徒会長上原美玲さん、お願いします。」
美しい生徒会長の上原美玲が壇上に立つ。長い黒髪が風に揺れ、紺色のブレザーが彼女の凛とした雰囲気を引き立てる。彼女の声は澄んでいて、新入生たちを魅了する力を持っていた。貫太郎も、彼女の姿に目を奪われる。
美玲:「皆さん、ようこそ海風学園高校へ。私は生徒会長の上原美玲です。ここは学びの場であり、友情を育む場所です。私たちは皆さんが持つ可能性を信じています。学校生活を楽しみ、自己を磨き、仲間と共に高みを目指しましょう。水泳部の一員としても、皆さんの活躍を心から楽しみにしています。天才的な才能を持つ者も、努力でそれを超える者も、ここでは皆一緒に成長します。どうぞ、素晴らしい青春を過ごしてください。」
美玲の言葉は希望に満ち、貫太郎の心を強く打つ。水泳部の話が出た瞬間、高橋美咲の鋭い視線が頭に浮かび、貫太郎は少しドキッとした。あの先輩に認められるためにも、水泳部で結果を残したい――その思いが、貫太郎の胸に新たな決意を刻んだ。
司会:「新入生誓いの言葉。新入生代表小林綾乃さん、お願いします。」
小林綾乃が壇上に立つ。彼女は貫太郎のクラスメートで、すでにその美しさと聡明さが話題になっていた。肩までの髪が柔らかく揺れ、落ち着いた声で誓いの言葉を述べる。
綾乃:「新入生代表として、ここに誓います。海風学園高校の教えに従い、勉学に励みます。部活動では、仲間と共に汗を流し、競い合いながら成長します。人としても、社会の一員としても、誠実に、そして勇気を持って行動します。私たち新入生は、これからの3年間、全力で挑戦し続けます。ありがとうございました。」
貫太郎は綾乃の言葉に感動し、自分も同じように誓おうと心に決める。彼女の堂々とした姿に、自分も負けていられないという気持ちが芽生えた。
司会: 「クラス担任紹介。」
各クラスの担任と副担任が一クラスずつ照会された。特別進学科はα組の担任は田中美和(数学)、副担任は木村さくら(地理)と鈴木太郎(物理)、β組の担任は山田洋子(国語)、副担任は佐藤健(英語)、γ組の担任高橋真一(生物)、副担任は渡辺奈々(化学)、Δ組の担任は加藤亮(物理)、副担任は杉下俊二(数学)と石田美穂(日本史)、ε組の担任は松澤恵美(公民・世界史)、副担任は牧野京子(国語)と守屋亜衣(英語)、ζ組の担任は小林直樹(英語)、副担任は中村明美(生物)と島田晋作(数学)、η組の担任は八幡唯(国語)、副担任は長谷川一明(日本史)、θ組の担任は大塚美和子(化学)、副担任は佐藤英男(物理)である。普通科はα組の担任は高橋美和子(保健体育)、副担任は川崎竜一(保健体育)である。国際商業科はα組の担任は大町恵(簿記)、副担任は田崎俊一(情報科)、β組の担任は龍田道彦(商業)、副担任は福沢優花(公民)である。電気工業科はα組の担任は塩谷耕作(公民)、副担任は福松伸介(情報科)である。貫太郎は自分のクラス、ε組の担任が松澤恵美だと知り、彼女の優しげな声に安心感を覚える。副担任として牧野京子と守屋亜衣が紹介されると、貫太郎の緊張がさらに和らいだ。
司会:「新入生保護者代表挨拶。」
貫太郎の母親、美佐子が壇上に上がる。彼女は淡いブルーのワンピースを着て、緊張した笑みを浮かべている。貫太郎は母親の姿を見て、心が温かくなる。彼女の少し震える声が、体育館に響いた。
美佐子:「本日は我が子の新たなスタートを祝うことができ、感無量です。この海風学園高校では、自由と自主性を尊重し、生徒の個性を大切に育てる教育方針を聞き、安心しました。保護者一同、子供たちの成長と友情、そして学びの喜びを見守り、サポートしていくことを約束します。皆さんと共に、素晴らしい高校生活を築くことができることを心から期待しています。新入生の皆さん、ご両親も一緒にこの新しい冒険を応援します。どうぞ、ここでの日々を大いに楽しみ、学び、そして成長してください。」
貫太郎は母親の言葉に感謝し、彼女の期待に応えたいと強く思う。胸ポケットのハンカチを握り潰しそうになりながら、心の中で「ありがとう」と呟いた。
司会: 「校歌斉唱。」
再び指揮者が壇上に立ち、校歌が演奏される。歌詞は自由と夢、学びの意義を讃えるもので、貫太郎はその歌詞に共感しながら一緒に歌う。壮大で理想主義的なトーンに心が惹かれ、新しい生活への期待がさらに膨らんだ。
1番 海風に吹かれて自由な学園は偉大な夢が永遠に結びつけた学びの意思によって築かれた団結した強力な海風学園万歳! (コーラス)讃えられてあれ、我らの自由な学び舎よ友情と学問の頼もしい砦よ!教師の導き――生徒の力は我々を知識の勝利へと導く!
2番 試練を貫いて未来の太陽は我々に輝きそして偉大な教師は道を照らした彼らは生徒を学びの事業へと立ち上がらせ成長へそして偉業へと我々を奮い立たせた!(コーラス)
3番 不滅の教育の理想の勝利に我々は我が学び舎の未来を見ているそして栄光ある学園の旗に我々は常に熱い学びの心を持ち続ける!(コーラス)
貫太郎は歌詞に共感しながら、声を張り上げる。新しい生活への期待が、歌声に乗って膨らんでいく。
司会:「閉会宣言。」
教頭が再び壇上に立ち、閉会の言葉を述べる。
教頭:「これにて、第115回海風学園高校入学式を閉会いたします。」
新入生たちは拍手とともに退場し、ε組の教室に向かう。貫太郎は新しい教室、新しいクラスメートたちとの出会いを前に、緊張と期待が入り交じった表情で歩みを進める。潮風が再び彼の前髪を揺らし、新しい青春の幕開けを告げていた。
シーン3:クラス決定
海風学園高等学校の校庭を抜け、新入生たちはそれぞれの教室へと向かう。潮風がそよぐ中、貫太郎はε組の教室へと足を進める。校舎の廊下は白いタイル張りで、窓から差し込む朝の光が床に柔らかな影を落としている。壁には色とりどりのポスターが貼られ、部活動の勧誘や学園行事の告知が新入生たちの目を引く。貫太郎の胸には、入学式での高揚感と、これから始まる新しい生活への期待が交錯していた。鳴海西高校の受験に失敗した苦い記憶はまだ心の奥に残っているが、海風学園という新たな舞台で、自分を再構築するチャンスが目の前にある。バックパックを肩に掛け、名札を胸に付けた貫太郎は、深呼吸をして教室のドアをくぐった。
ε組の教室は、明るい木目調の机と椅子が整然と並べられている。窓からは朝の光が差し込み、カーテンが潮風に軽く揺れる。黒板には白墨で「ε組」と大きく書かれ、その下に「ようこそ!」という歓迎のメッセージが添えられている。教室の壁には、部活動のポスターや「努力は必ず報われる」「夢は自分で見つけるもの」といった名言が飾られ、新入生たちのモチベーションを高めるような雰囲気が漂っている。教壇の横には、先生たちの個人用の机が置かれ、几帳面に整理された書類やペン立てが並ぶ。教室の空気には、新しい教科書と木の匂いが混じり、貫太郎の鼻をくすぐった。
新入生たちは、教室に入るとどこに座るべきかを探し始める。緊張と期待が混じった表情で、互いに視線を交わしながら、机の間をそわそわと歩き回る。貫太郎は一瞬、どの席を選ぶべきか迷う。窓際の席は外の景色が見えて開放的だが、教壇に近い席は先生の話を聞きやすいかもしれない。クラスメートたちの動きをちらりと見ながら、彼は結局、窓際の後ろから二番目の席を選んだ。バックパックを机の脇に置き、椅子に腰を下ろす。窓の外には、椰子の木がそよ風に揺れ、遠くに海の青が覗いている。貫太郎は、その景色に一瞬心を奪われる。
貫太郎(心の声):「いい席取れたな。外の景色も見えるし、なんか落ち着く。新しいスタートにはピッタリだ。」
教室に集まる新入生たちの声が、少しずつ大きくなっていく。知らない顔ばかりだが、これから3年間を共にする仲間たちだ。貫太郎は名札を指で軽く叩きながら、周囲を見回す。隣の席には、眼鏡をかけた細身の少年が座っている。名札には「川野孝」と書かれ、緊張した笑みを浮かべている。貫太郎は一瞬、話しかけようかと思うが、初対面の相手に何を話せばいいのか分からず、結局黙ってしまった。
その時、教壇に一人の女性が立つ。担任の松澤恵美だ。彼女は黒髪を後ろでシンプルにまとめ、黒のスーツに身を包んでいる。清楚で品のある美しさが際立ち、穏やかな笑顔が新入生たちに安心感を与える。彼女の手には、クラスの名簿が握られ、指先が軽く紙を撫でている。教室のざわめきが、彼女の登場で一気に静まる。
恵美:「みなさん、ようこそε組へ。私は担任の松澤恵美です。公民と世界史を担当します。よろしくお願いします。」
彼女の声は柔らかく、まるで春の風のように教室を包み込む。貫太郎は、入学式で聞いた彼女の声を思い出す。あの時、名前を呼ばれた瞬間の安心感が、今また胸に蘇る。恵美の笑顔は、まるで新入生一人一人に語りかけるようで、貫太郎の緊張を少しだけ和らげた。
貫太郎(心の声):「清楚で綺麗な人だな。いい担任を持ったもんだ。なんか、この先生なら頼れそう。」
恵美の第一印象に好感を持ち、貫太郎はここでの生活が少し楽しみになってくる。彼女の笑顔が、厳しい高校生活の中でも支えになってくれそうだと感じる。恵美は名簿を手に、教室を見渡しながら続ける。
恵美:「これから3年間、みなさんと一緒に過ごすのが楽しみです。海風学園は自由と自主性を大切にする学校です。勉強も部活も、みなさんのやりたいことを全力で応援しますよ。」
その言葉に、新入生たちの表情がわずかに緩む。貫太郎は、恵美の言葉に未来への希望を見出す。中学時代は成績上位だったが、受験の失敗で自信を失った自分でも、ここなら新しい自分を見つけられるかもしれない。恵美が教壇の脇に立ち、軽く微笑みながら次の先生を呼ぶ。
恵美:「次に、副担任の先生を紹介します。牧野先生、どうぞ。」
教壇に進み出たのは、牧野京子だ。20代後半くらいの女性で、黒縁の眼鏡をかけ、短く切り揃えた髪が知的で活動的な印象を与える。紺のジャケットに白いブラウスを合わせ、きびきびとした動きで教壇に立つ。彼女の表情は一見厳めしく、新入生たちの背筋が思わず伸びる。貫太郎も、彼女の鋭い視線に身構える。
牧野京子:「国語担当の牧野京子です。皆さん、今日から勉強漬けの生活だから、覚悟してね!国語は現代文や古典を通じて、歴史に触れるチャンスも用意してるよ。」
彼女の口調は初め厳しく、貫太郎は一瞬、緊張が走る。だが、京子がふっと微笑むと、その厳しさは消え去り、どこかツンデレな魅力が垣間見える。彼女の眼鏡の奥の瞳は、まるで生徒たちの可能性を見極めようとしているようだ。貫太郎は、彼女の言葉に歴史というキーワードを聞き逃さなかった。
貫太郎(心の声):「牧野先生、厳しそうだけど、歴史に詳しいってことは、きっと面白い授業をしてくれそうだな。俺、歴史好きだから、楽しみだ。」
京子の言葉は、新入生たちに勉強への覚悟を促すものだったが、同時に、彼女の情熱が伝わってくる。彼女は教壇の端に手を置き、軽く身を乗り出して続ける。
牧野京子:「国語は言葉の力を学ぶ科目です。自分の思いを伝え、人の心を動かす。それが国語の醍醐味。みなさんの可能性を引き出すために、厳しくも楽しく指導します。期待してるよ。」
その言葉に、貫太郎は小さく頷く。国語は中学時代から得意だった科目だ。理系科目に苦戦する予感はあるが、国語で挽回するチャンスがここにある。京子の厳しさの中にある温かさに、貫太郎は少し安心感を覚える。
恵美:「次は、もう一人の副担任、守屋先生です。」
軽やかな足取りで教壇に歩み寄ったのは、守屋亜衣だ。20代前半くらいの女性で、明るい笑顔が印象的だ。少し大きめのセーターにジーンズというカジュアルな装いが、彼女のフレンドリーな性格を表している。肩までの髪が軽く揺れ、彼女の声はまるで教室に春の陽気を運び込むようだった。
守屋亜衣:「英語は私、守屋亜衣が教えます。楽しく学んで、素敵な未来を作っていきましょうね。私の授業はアメリカでの経験を活かして、より実践的な英語を教えます。」
彼女の笑顔は癒し系で、新入生たちを自然とリラックスさせる。貫太郎は、彼女の明るさに心を引かれる。アメリカ留学の経験者だと聞いて、英語の授業が今までとは違う、新しい体験になることを期待する。亜衣は教壇の前で軽く手を振って続ける。
守屋亜衣:「英語って、ただの科目じゃないよ。世界とつながるツールなんだ。私の授業では、英語で自分の夢を語れるようになってもらいたいな。楽しみにしててね!」
貫太郎(心の声):「守屋先生、めっちゃ明るいな。アメリカで学んだってことは、英語の授業が面白くなりそうだ。実践的な英語ってどんな感じなんだろう、楽しみだ。」
亜衣の言葉は、新入生たちの心に希望の種を蒔くようだった。貫太郎は、英語も得意な科目の一つだ。国語と英語で、理系科目の苦手をカバーする――その計画が、亜衣の明るい声に後押しされるように、貫太郎の胸で具体的になっていく。
先生たちの紹介が終わると、新入生たちは少しずつ席に着き始める。貫太郎は窓際の席に座り、バックパックを机の脇に置く。周囲を見渡すと、クラスメートたちもそれぞれの場所を見つけ、互いに軽く会話を始めている。教室の空気が、緊張から少しずつ和やかさに変わっていく。恵美が生徒たちが落ち着くのを見て、再び声をかける。
恵美:「では、自己紹介の時間にしましょう。自分の名前、好きなことや目標など、簡単で構いませんので、一人ずつお願いします。」
その言葉に、教室が一瞬静まる。新入生たちは、誰が最初に立つのかと互いに視線を交わす。最初の生徒が立ち上がる。青野貴琉だ。彼は眼鏡を軽く押し上げ、緊張しながらも声を張り上げる。
青野貴琉:「僕は青野貴琉です。スポーツが好きで、特にサッカー部に入る予定です。勉強も頑張りますので、よろしくお願いします。」
彼の声は少し震えていたが、誠実さが伝わってくる。教室に軽い拍手が響き、次々と生徒が立っていく。貫太郎は、クラスメートたちの自己紹介を聞きながら、一人一人の個性を感じ取る。スポーツ好き、音楽好き、勉強に燃える生徒――多様な顔ぶれに、貫太郎の胸がワクワクする。自己紹介が続き、貫太郎の順番が近づく。彼は一瞬、胸がドキッとする。何を話すべきか、頭の中で整理する。趣味は読書、特に歴史小説が好きだ。目標は……まだ漠然としているが、新しいことに挑戦したいという気持ちは強い。貫太郎は深呼吸をして、立ち上がる。
貫太郎:「俺は川名貫太郎です。趣味は読書で、特に歴史小説が好きです。高校生活では、自分の興味あることをたくさん見つけて、挑戦したいと思っています。よろしくお願いします。」
彼の声は、緊張のせいで少し上ずっていた。だが、クラスメートたちが小さく拍手してくれると、貫太郎の胸に安堵が広がる。
しばらくして立ったのは、女子の小林綾乃だ。彼女は入学式で新入生代表として誓いの言葉を述べた生徒だ。肩までの髪が軽く揺れ、自信に満ちた声で自己紹介を始める。
綾乃:「私は小林綾乃です。水泳のスポーツ推薦で入学しました。インターハイ出場を目指して、頑張ります!宜しくお願いします!」
その言葉に、教室が一瞬ざわつく。綾乃の知的で冷静な雰囲気に、貫太郎は驚きを隠せない。水泳のスポーツ推薦という言葉に、朝の美咲の顔が頭に浮かぶ。綾乃も水泳部に入るのだろうか。彼女の目標の大きさに、貫太郎は自分も何か大きな目標を見つけたいと感じる。
貫太郎(心の声):「小林綾乃、か……。めっちゃ堂々としてるな。水泳のスポーツ推薦ってことは、美咲先輩と同じ部活になるのかな。なんか、すごいクラスメートだ。」
自己紹介が全て終わると、教室全体が和やかな雰囲気に包まれる。新入生たちの声が少しずつ大きくなり、隣同士で軽く会話を始める生徒もいる。恵美は教壇に立ち、微笑みながら教室を見渡す。
恵美:「みなさんの自己紹介、素晴らしいものでした。いろんな目標や興味があって、ε組は本当に個性的なクラスになりそうですね。これから、みなさんの成長を近くで見られるのが楽しみです。」
その言葉に、新入生たちの表情がさらに明るくなる。京子が教壇の脇に立ち、軽く手を叩いて注目を集める。
牧野京子:「皆さんの目標や興味は本当に多様で、素晴らしいですね。私たち教師は、それぞれの目標に向かって進めるようサポートします。特に、国語の時間では、皆さんの視野を広げるためのさまざまなテキストを用意しているので、楽しみにしていてください。」
京子の声には、厳しさと情熱が混在している。貫太郎は、彼女の授業でどんなテキストを読むのか、すでに楽しみで仕方ない。歴史小説が好きな自分にとって、国語の授業は大きなチャンスになるかもしれない。
亜衣が教壇の前で軽く手を振って続ける。
守屋亜衣:「英語も楽しみながら学んで、国際的な視野を持ってほしいです。私の授業で、みんなの夢が一つでも多く実現できるように手伝いますよ。」
亜衣の明るい声に、教室がさらに和む。貫太郎は、英語の授業でどんな新しいことを学べるのか、胸が高鳴る。アメリカでの経験を活かした授業という言葉に、実践的な英語を想像し、ワクワクする。
恵美が最後に教壇に立ち、教室全体を見渡しながらまとめる。
恵美:「今日はみなさんの新たなスタートです。ε組では、互いに支え合い、成長していきましょう。私も皆さんの新しい挑戦を全力でサポートします。さあ、これからが楽しみですね。」
その言葉に、貫太郎は自分もこのクラスの一員として頑張る決意を固める。教室では、クラスメート同士で話し始め、笑い声も聞こえてくる。新しい環境に対する不安は徐々に払拭され、期待と希望に満ちた新しい高校生活の始まりを感じていた。
貫太郎(心の声):「ε組、いいクラスになりそうだな。先生たちもクラスメートも、なんか面白そうな人ばっかりだ。ここで、俺の新しい物語が始まるんだ。」
窓の外では、椰子の木がそよ風に揺れ、遠くに海の青がきらめいている。貫太郎はバックパックを握りしめ、新しい教室の空気を胸いっぱいに吸い込む。潮風がカーテンを揺らし、新しい青春の幕開けを告げていた。
シーン4:新しいクラスメイトとの出会い
海風学園高等学校のε組の教室は、朝の光が窓から差し込み、木目調の机と椅子に柔らかな影を落としている。黒板には「ε組」と白墨で大きく書かれ、その下には担任の松澤恵美が書いた「ようこそ!」のメッセージが微笑ましく映る。壁には色とりどりの部活動ポスターが貼られ、水泳部や吹奏楽部、さらにはアニメ研究会のビビッドなイラストが新入生たちの目を引く。教室の前方には、教壇と先生用の机が整然と置かれ、机上には新しい教科書や文房具が散らばっている。窓の外では、椰子の木が潮風に揺れ、遠くに鳴海市の海がキラキラと輝いている。教室の空気には、教科書の紙の匂いと、潮の香りがほのかに混じり、新たな始まりを予感させる。
新入生たちは、自己紹介を終えたばかりで、まだ少しぎこちない雰囲気が漂っている。だが、互いに視線を交わし、軽い笑顔や小さな会話が始まり、教室は徐々に活気づいていく。貫太郎は窓際の席に座り、バックパックを机の脇に置く。胸の名札には「川名貫太郎」と書かれ、プラスチックの表面が朝日を受けて光る。彼は周囲を見回しながら、新しいクラスメートたちとどうやって関係を築こうか考える。鳴海西高校の受験に失敗した苦い記憶はまだ胸の奥に残っているが、ここ海風学園では新しい自分を見つけたい――その思いが、貫太郎の心を前へと押し出す。
貫太郎(心の声):「みんな、どんな奴らなんだろうな。知らない顔ばっかりだけど、ここで友達作らないと、高校生活つまんねえことになるぞ。よし、気合入れるか。」
彼は深呼吸をして、隣の席の生徒に視線を向ける。だが、話しかける勇気がまだ出ない。そんな時、教室の中央に座る一人の男子生徒が立ち上がり、元気な声で自己紹介を始める。日焼けした肌とやんちゃそうな笑顔が印象的な少年だ。名札には「佐藤健太」と書かれている。
佐藤健太:「俺、佐藤健太だ。水泳とテレビゲームが趣味。部活は楽しまなきゃ意味ないだろ!俺は南高のフロンティア科を受けたけど、落ちてしまってさ。南の二次募集も考えていたけど、面倒臭いから断念したわ。」
健太の声は大きく、教室に響き渡る。彼の目はキラキラと輝き、エネルギッシュな雰囲気が周囲を明るくする。貫太郎は、健太の率直な口調と笑顔に引き込まれる。健太が水泳を趣味に挙げた瞬間、貫太郎の胸に小さな火が灯る。自分も水泳部に興味がある。この健太と一緒に泳げたら、楽しそうだ。
貫太郎(心の声):「健太って、めっちゃ活発そうだな。水泳部に入るのかな?俺も泳ぐの好きだから、なんか一緒にできそうだ。ゲームも共通の趣味だし、仲良くなりそう。」
貫太郎は勇気を振り絞り、健太に話しかける。机に軽く手を置いて、笑顔を作ってみる。
貫太郎:「よお、健太。俺、川名貫太郎。さっきの自己紹介で水泳って言ってたよな?俺も中学で水泳部だったんだ。どんな泳ぎが得意?」
健太は一瞬、目を丸くするが、すぐにニッコリと笑う。彼の歯が白く光り、まるで太陽のような明るさが教室に広がる。
健太:「お、マジか!貫太郎、いいね!俺はバタフライが得意だな。速さなら負けねえぜ。貫太郎は?中学でどんな感じだった?」
貫太郎は、健太のノリの良さに少し安心する。中学時代の水泳部の思い出が、頭に蘇る。県大会で入賞したあの夏、仲間とプールサイドで笑い合った日々。あの自信を、ここで取り戻したい。
貫太郎:「俺は自由形が得意だった。全国大会で個人優勝したことあるんだ。海風の水泳部、めっちゃ強そうだから、ちょっと緊張するけどな。」
健太は目を輝かせ、机をバンと叩く。
健太:「自由形!?すげえじゃん!全国大会個人優勝って、マジかっこいいな。海風の水泳部、女子が多いって噂だけど、俺たちでガンガン盛り上げようぜ!」
健太のテンションに、貫太郎も思わず笑ってしまう。二人とも水泳部への興味で意気投合し、早くも仲間意識が芽生え始める。教室の他の生徒たちも、健太の大きな声に引き寄せられるように、ちらちらとこちらを見ている。
次に、貫太郎の視線は教室の隅に座る少年に留まる。眼鏡をかけた静かな雰囲気の少年で、机には分厚い科学雑誌が置かれている。名札には「山本亮」と書かれ、整った顔立ちに知的なオーラが漂う。貫太郎は、理系科目が苦手な自分にとって、こんなクラスメイトは頼もしい存在かもしれないと思う。少し緊張しながら、貫太郎は亮の席に近づく。
貫太郎:「あの、俺、川名貫太郎。さっきの自己紹介、聞いてたよ。科学の本、めっちゃ読むんだな。」
亮は一瞬、驚いたように顔を上げるが、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。彼の声は落ち着いていて、丁寧な口調が印象的だ。
山本亮:「山本亮です。図書館で科学の本を読むのが趣味です。特に理数系が得意です。俺は鳴海西高校英数科を受験するも落ちてしまいました。こんな自分ですが、宜しくお願いします。」
亮の言葉は控えめだが、その中に秘めた自信が垣間見える。貫太郎は、亮の知的な雰囲気に少し圧倒されつつも、彼と話すことで学問的な刺激を受けられそうだと思う。
貫太郎(心の声):「亮、頭良さそうだな。理数系が得意って、めっちゃ羨ましい。俺、数学とか死ぬほど苦手だから、こいつに教えてもらえたら助かるかも。」
貫太郎は、亮の机に置かれた科学雑誌に目をやる。表紙には宇宙船のイラストと「ブラックホールの謎」という見出しが躍っている。貫太郎は、科学には疎いが、こういう話題に興味を持つ亮の姿勢に惹かれる。
貫太郎:「ブラックホールって、めっちゃミステリアスだよな。亮はそういうの、どんなとこが好きなんだ?」
亮は眼鏡を軽く押し上げ、目を輝かせる。普段は静かな彼だが、好きな話題になると声に熱がこもる。
亮:「ブラックホールは、宇宙の法則を極端に試す存在なんだ。光すら逃げられない重力、時間の歪み……理論物理学の限界に挑戦するみたいな感じが、たまらないね。貫太郎は、科学とか興味ある?」
貫太郎は一瞬、言葉に詰まる。科学は苦手だが、亮の熱意に引き込まれる。歴史小説が好きな自分と、科学に夢中な亮――全然違う趣味だが、だからこそ面白い話ができそうだ。
貫太郎:「科学はちょっと苦手だけど、歴史とかは好きだな。過去の出来事とか、人の生き様とか、なんかロマン感じるんだよね。亮の話聞いてると、科学もそういうロマンあるのかもって思えてきた。」
亮は小さく笑い、頷く。
亮:「歴史も面白いよね。科学と歴史、どっちも人間の知的好奇心の産物だ。いつか一緒にそういう話、じっくりしてみたいな。」
貫太郎は、亮の穏やかな笑顔に安心感を覚える。理系が得意な亮と、歴史や国語が好きな自分。違う得意分野を持つ友達と、どんな話ができるのか――その可能性に、貫太郎の胸がワクワクする。
次に、貫太郎の視線は教室の後ろに座る男子生徒に留まる。机の上に、アニメや漫画のキャラクターが描かれたペンケースが置かれ、色とりどりのペンが飛び出している。名札には「高木拓也」と書かれ、子供のような無邪気な笑顔が印象的だ。貫太郎は、アニメ好きの自分にとって、こんなクラスメートは話が合いそうだと思う。少し照れながら、拓也の席に近づく。
貫太郎:「よお、俺、川名貫太郎。ペンケース、めっちゃカッコいいな。アニメ好き?」
拓也は一瞬、目を丸くするが、すぐに満面の笑みを浮かべる。彼の声は弾むように明るく、教室に響く。
高木拓也:「俺は高木拓也。アニメと漫画、1960年代から2010年代まで何でも知ってるぜ。ドラゴンボール、聖闘士星矢、ガンダム、エヴァンゲリオンが好き!みんなが好きなアニメは何だ?俺は勉強がダメダメだから、海風学園専願で受けて入学したぜ。宜しくな。」
拓也の笑顔は、まるで子供のようだ。貫太郎は、彼の純粋なアニメ愛に共感を覚える。自分もアニメはよく観る。拓也となら、夜通しアニメの話で盛り上がれそうだ。
貫太郎(心の声):「高木、めっちゃアニメ愛がすごいな。俺もアニメ好きだから、こいつと話してたら時間忘れそう。勉強ダメダメって言ってるけど、なんか憎めない奴だ。」
貫太郎は、拓也のペンケースに描かれたガンダムのイラストに目をやる。自分もガンダムシリーズは好きだ。この共通点なら、すぐに打ち解けられそう。
貫太郎:「ガンダム、いいよな!ガンダムなら俺は『機動戦士ガンダムSEED』が好きだ。キラとアスランの友情とか、めっちゃ熱いよな。拓也のお気に入りはどれ?」
拓也は目を輝かせ、身を乗り出す。
拓也:「おお、SEED!いい選択だぜ!俺は『初代ガンダム』が一番かな。アムロの成長とか、シャアの複雑なキャラとか、全部が神!あと、『エヴァ』もヤバいよな。貫太郎、エヴァは観た?」
貫太郎は笑いながら頷く。エヴァンゲリオンは、ちょっと難しい話もあるけど、キャラの心理描写が好きだ。拓也のテンションに釣られ、貫太郎も熱く語り始める。
貫太郎:「エヴァ、観た観た!シンジの葛藤とか、なんかリアルでハマった。拓也と話してると、アニメの話だけで一日終わりそう。」
拓也は大笑いし、机をバンと叩く。
拓也:「ハハ、だろ!?貫太郎、いい奴だな。放課後、アニメの話でガッツリ盛り上がろうぜ!」
拓也のノリの良さに、貫太郎は心から楽しさを感じる。アニメという共通の話題で、こんなにすぐに打ち解けられるとは思わなかった。教室の他の生徒たちも、拓也の大きな声に笑顔を見せる。
次に、貫太郎の視線は教室の前の方に座る女子生徒に留まる。彼女は制服をファッショナブルに着こなしている。机には最新のファッション雑誌が置かれ、表紙には華やかなモデルが微笑んでいる。名札には「中村美枝子」と書かれ、自信に満ちた笑顔が印象的だ。貫太郎は、ファッションには疎い自分だが、こんな明るい子と友達になれたら楽しそうだと思う。少し緊張しながら、彼女の席に近づく。
貫太郎:「あの、俺、川名貫太郎。ファッション雑誌読んでるんだな。めっちゃオシャレだね。」
美枝子は一瞬、貫太郎をじろりと見るが、すぐにキラキラした笑顔を見せる。彼女の声は弾むように明るく、教室に華を添える。
中村美枝子:「あたしは中村美枝子よ。ファッションが大好きで、いつかルイ・ヴィトンのバッグを買うのが夢なの。あたしもここ専願で受けて来たの。こんなあたしだけど、宜しくね。」
美枝子の声は自信に満ち、まるでファッションショーのランウェイを歩くような堂々とした雰囲気だ。貫太郎は、彼女の明るさに引き込まれる。ファッションへの情熱が、彼女の言葉からビシビシ伝わってくる。
貫太郎(心の声):「美枝子、めっちゃ華やかだな。ファッションに詳しそう。俺、服とか全然わかんねえけど、彼女みたいな子と友達になれたら、なんか面白そう。」
貫太郎は、美枝子の机に置かれたファッション雑誌に目をやる。表紙のモデルが持つバッグが、確かに高級そうに見える。貫太郎は、ファッションには興味がないが、美枝子の夢に共感する。
貫太郎:「ルイ・ヴィトンのバッグ、めっちゃカッコいいよな。美枝子、将来デザイナーとか目指してる?」
美枝子は目を輝かせ、髪を軽くかき上げる。
美枝子:「デザイナーもいいけど、まずはファッションで自分を表現したいの。海風学園って自由な校風だから、制服もちょっとアレンジしちゃってる。貫太郎も、なんかオシャレしてみたら?絶対似合うよ!」
美枝子の明るい声に、貫太郎は思わず笑ってしまう。自分は服に無頓着だが、彼女のアドバイスなら聞いてみるのも悪くないかもしれない。
貫太郎:「ハハ、俺、服とか全然わかんねえけど、美枝子に相談したらカッコよくなれそうだな。よろしくな!」
美枝子はニッコリと笑い、軽くウィンクする。
美枝子:「任せて!いつか貫太郎のオシャレ計画、立ててあげるから!」
美枝子のノリの良さに、貫太郎は心が軽くなる。彼女のような明るい友達がいれば、高校生活がもっと楽しくなりそうだ。
次に、貫太郎は教室の中央に座る女子生徒に目を向ける。彼女は入学式で新入生代表として誓いの言葉を述べた小林綾乃だ。肩までの髪が柔らかく揺れ、落ち着いた雰囲気が漂う。名札には「小林綾乃」と書かれ、机にはクラシック音楽の楽譜が置かれている。貫太郎は、彼女の知的で堂々とした姿に少し圧倒されつつも、話しかけてみることにする。
貫太郎:「あの、俺、川名貫太郎。入学式の挨拶、めっちゃカッコよかったよ。」
綾乃は一瞬、貫太郎をじっと見つめるが、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。彼女の声は冷静で、どこか品がある。
綾乃:「小林綾乃です。クラシックコンサートや美術館が趣味で、特にベートーヴェンやバッハが好きです。私は水泳のスポーツ推薦で入学しました。中学時代は常に成績1位でしたから、よろしくね。」
綾乃の自己紹介は、まるで履歴書のように完璧だ。貫太郎は、彼女の知的な雰囲気に圧倒される。水泳のスポーツ推薦という言葉に、朝の高橋美咲の顔が頭に浮かぶ。綾乃も水泳部に入るなら、自分と一緒に活動する仲間になるかもしれない。
貫太郎(心の声):「綾乃、頭も良さそうだし、スポーツもバッチリなんだな。俺も水泳部に興味あるから、こいつと一緒に泳げたら、めっちゃ刺激になりそう。」
貫太郎は、綾乃の机に置かれた楽譜に目をやる。ベートーヴェンの「運命」の楽譜だ。音楽には疎いが、彼女の趣味に興味が湧く。
貫太郎:「ベートーヴェン、めっちゃ迫力あるよな。綾乃、コンサートとかよく行くの?」
綾乃は小さく頷き、目を細める。
綾乃:「ええ、コンサートは心が洗われる場所よ。特にベートーヴェンの交響曲は、魂を揺さぶる力がある。貫太郎は音楽、どんなのが好き?」
貫太郎は一瞬、言葉に詰まる。音楽は普段あまり聴かないが、綾乃の話に引き込まれる。彼女の落ち着いた声に、なんだか大人っぽい雰囲気を感じる。
貫太郎:「俺、音楽はあんまり詳しくないけど、アニメのサントラとかは好きかな。なんか、物語に合わせて盛り上がる曲って、テンション上がるよね。」
綾乃は小さく笑い、頷く。
綾乃:「アニメのサントラも、音楽の一つの形ね。物語と音楽が融合する瞬間は、確かに特別。いつか、貫太郎の好きな曲、教えてね。」
綾乃の穏やかな笑顔に、貫太郎は安心感を覚える。彼女のような知的なクラスメートと話すのは、ちょっと緊張するけど、刺激的だ。
最後に、貫太郎の視線は教室の窓際に座る女子生徒に留まる。健康的な肌の色と、まるで海の匂いを感じさせるような雰囲気の少女だ。机には貝殻や小さな海洋生物の模型が置かれ、名札には「斉藤南」と書かれている。貫太郎は、彼女の独特な雰囲気に惹かれ、話しかけてみる。
貫太郎:「よお、俺、川名貫太郎。机の貝殻、めっちゃ面白いな。海、好きなんだ?」
南は一瞬、驚いたように顔を上げるが、すぐにニコッと笑う。彼女の声は少し独特で、まるで波の音のような柔らかさがある。
斉藤南:「私は斉藤南です。両親が海洋生物学者で研究員としてオーストラリアの大学に勤務しているため、長く日本にいないから、祖父母の民宿で育ちました。スキューバダイビングが趣味で、海で魚介類を採るのも好きなの。私は元々水球で活躍していた選手で、水泳は十八番です。西高普通科を受けましたが落ちて、入学しました。こんな私ですが、宜しくお願いします。」
南の話し方は、まるで海の物語を語るようだ。貫太郎は、彼女の異国情緒と自然への愛に惹かれる。スキューバダイビングや水球という経験は、自分にはない世界だ。
貫太郎(心の声):「南、めっちゃ面白い人生送ってるな。海の話、めっちゃ聞きたい。ダイビングとか、いつかやってみたいな。」
貫太郎は、南の机に置かれた貝殻に目をやる。白とピンクの小さな貝殻が、朝日を受けてキラキラと輝いている。貫太郎は、海には縁がなかったが、南の話に興味が湧く。
貫太郎:「スキューバダイビング、めっちゃカッコいいな!海の中って、どんな感じ?魚とか、めっちゃ近くで見れるの?」
南は目を輝かせ、身を乗り出す。
南:「海の中は、まるで別の世界だよ。サンゴ礁の色、魚の群れ、全部がキラキラしてて、時間が止まるみたい。貫太郎、海、好き?いつか一緒にダイビングできたら、めっちゃ楽しいよ!」
南の純粋な笑顔に、貫太郎は心が温まる。彼女のような自然を愛する友達と、海の話をしたら、どんな冒険が待ってるんだろう。
貫太郎:「海、泳ぐのは好きだけど、ダイビングはまだやったことないや。南の話聞いてたら、めっちゃやってみたくなった。よろしくな!」
南はニコッと笑い、貝殻を手に持って見せる。
南:「うん、よろしく!いつか、貫太郎に海のキレイなとこ、教えてあげるね!」
南の笑顔に、貫太郎は新しい可能性を感じる。海風学園での生活は、こんな仲間たちと一緒に、きっと特別なものになる。
その時、拓也が突然立ち上がり、教室全体に声を張り上げる。
拓也:「みんなはどんなアニメ好きなの?」
その質問に、教室が一気に活気づく。アニメは多くの生徒にとって共通の話題だ。貫太郎も、拓也のテンションに釣られ、笑顔になる。クラスメートたちが次々と手を挙げ、自分の好きなアニメを語り始める。
貫太郎は、ルパン三世の冒険心に自分を重ね、声を張り上げる。
貫太郎:「俺は『ルパン三世』が好きだな。トリックや冒険が刺激的だ。」
健太は、目を輝かせ、拳を握る。
健太:「『ONE PIECE』だ。冒険が楽しすぎる。」
亮は、落ち着いた声で答える。
亮:「俺は『攻殻機動隊』。哲学的で深いテーマが好きだ。」
美枝子は、髪をかき上げ、笑顔で言う。
美枝子:「『セーラームーン』かな。女の子が活躍するストーリーが好き。」
綾乃は、穏やかに微笑みながら答える。
綾乃:「『のだめカンタービレ』。音楽の世界が描かれてるから。」
南は、目をキラキラさせて言う。
南:「『ポケットモンスター』。自然と冒険の魅力があるよね。」
拓也は、みんなの答えに大満足の笑顔を見せる。
拓也:「みんな様々な好みがあるんやな!俺も同じアニメ仲間がいてくれて嬉しいぞ!」
教室に笑い声が響き、初対面の7人はアニメの話題を通じて、互いの個性や趣味を知っていく。貫太郎は、この一体感に心から楽しさを感じる。健太のエネルギッシュさ、亮の知性、拓也の無邪気さ、美枝子の華やかさ、綾乃の落ち着き、南の自然への愛――それぞれが、貫太郎の高校生活に色を添えてくれる存在だ。
貫太郎(心の声):「ε組、めっちゃいい奴らばっかりだな。こんな仲間たちとだったら、どんな高校生活も楽しくなるぞ。よし、俺も負けずにガンガンいくぜ!」
窓の外では、潮風が椰子の木を揺らし、遠くに海の青が輝いている。貫太郎はバックパックを握りしめ、新しい教室の空気を胸いっぱいに吸い込む。新しい友情、新しい挑戦。その全てが、貫太郎の新しい物語の始まりを告げていた。
シーン5:履修登録の説明会
海風学園高等学校の体育館は、広々とした空間に静かな緊張感が漂っている。木製の長いベンチに座る新入生たちは、緊張と期待の入り混じった表情で壇上を見つめる。体育館の高い天井には、鉄骨がむき出しになり、窓から差し込む朝の光が床に美しい模様を描き出している。外では、鳴海市の潮風がそよぐ中、椰子の木が軽やかに揺れ、遠くに海の青がキラキラと輝いている。壇上にはマイクスタンドと大きなスクリーンが用意され、スクリーンには「履修登録説明会」とシンプルな文字が映し出されている。体育館の空気には、体育館特有のゴムと汗の匂いがほのかに混じり、新入生たちの新しい一歩を予感させる。
貫太郎は、ε組のクラスメートたちと一緒にベンチに座っている。胸の名札には「川名貫太郎」と書かれ、バックパックを膝に抱えている。朝の入学式やクラスでの自己紹介を経て、新しい環境に少しずつ慣れつつあるが、履修登録という未知のプロセスに心臓がドキドキと鳴る。鳴海西高校の受験に失敗した苦い記憶が、頭の片隅にちらつく。だが、ここ海風学園では、自由と自主性を重んじる校風が、貫太郎に新たな可能性を感じさせていた。国語と英語で挽回し、水泳部で自分の力を試す――その目標が、貫太郎の心を支えている。
貫太郎(心の声):「履修登録か……。何を取るかで、将来が決まるって感じだよな。理系は苦手だけど、ちゃんと選ばないと後悔しそう。よし、集中するぞ。」
体育館のざわめきが静まると、最初の教員が壇上に立つ。牧野京子だ。黒縁の眼鏡をかけた彼女は、知的な美しさを漂わせ、紺のジャケットに白いブラウスを合わせている。髪を短く切り揃えた姿は、きびきびとした印象を与える。彼女はマイクを手に、生徒たちを真っ直ぐに見渡す。その視線に、貫太郎は思わず背筋を伸ばす。
京子:「私は国語担当の牧野京子です。国語はただの読解だけではなく、思考力や表現力を磨く科目です。現代文では、近代文学の名作を読み解き、古典では歴史書や古典文学に触れます。特に歴史好きなあなたには必須の科目だと思いますよ。大学受験を目指すなら、国語の理解力はあらゆる学問の基礎になります。ただし、時間を割く必要があるので、他の科目とのバランスが重要です。私の好きな映画は『千と千尋の神隠し』です。アニメーションの深い世界観が大好きです。」
京子の声は静かだが力強く、体育館に響き渡る。彼女の言葉には、国語への情熱が込められている。貫太郎は、歴史小説が好きな自分にとって、国語はまさに得意分野だ。京子の言う「思考力や表現力」という言葉に、胸が熱くなる。『千と千尋の神隠し』が彼女の好きな映画だと聞き、貫太郎は小さな親近感を覚える。
貫太郎(心の声):「国語はやっぱり大事だな。牧野先生の話、めっちゃ引き込まれる。歴史も絡むなら、俺の得意なとこ活かせそう。『千と千尋』、俺も好きだから、なんか話が合いそうだな。」
京子は一瞬、微笑みを浮かべ、スクリーンに映し出されたスライドを指す。スライドには、現代文のテキスト例として太宰治の『人間失格』や、古典の『源氏物語』が挙げられている。貫太郎は、太宰の暗い世界観に少し身構えるが、歴史書や古典には心が躍る。京子が壇上を降りると、体育館に軽い拍手が響く。
次に、守屋亜衣が壇上に上がる。彼女の笑顔は温かく、まるで春の陽気のように体育館を包み込む。カジュアルなセーターとジーンズの装いは、彼女のフレンドリーな性格を表している。肩までの髪が軽く揺れ、彼女はマイクを手に軽快に話し始める。
亜衣:「英語担当の守屋亜衣です。私はアメリカで教育を受けた経験を生かし、より実践的な英語教育を目指しています。英語はコミュニケーションの道具であり、世界への窓です。英語が得意な人はもちろん、苦手な人も、日常生活やビジネスで使えるスキルを身につけられるように指導します。ただし、英語は定期的な練習が不可欠です。好きなアニメは『銀河英雄伝説』です。」
亜衣の声は明るく、生徒たちを自然とリラックスさせる。貫太郎は、英語が得意な自分にとって、亜衣の授業は大きなチャンスだ。和田秀樹の勉強法を駆使して英語を強化している今、彼女の実践的な指導はきっと役立つ。『銀河英雄伝説』は観たことがないが、亜衣の好きなアニメというだけで興味が湧く。
貫太郎(心の声):「英語は俺の得意分野だ。守屋先生の明るさ、めっちゃいいな。実践的な英語って、どんな感じなんだろう。『銀河英雄伝説』、今度チェックしてみよう。」
亜衣はスクリーンに映し出されたスライドを指し、英語の授業で使うテキストや、ディスカッション形式のアクティビティを紹介する。スライドには、海外のニュース記事や映画のスクリプトが例として挙げられている。貫太郎は、英語で自分の思いを表現するイメージを膨らませ、心がワクワクする。亜衣が壇上を降りると、生徒たちから温かい拍手が送られる。
続いて、松澤恵美が壇上に現れる。清楚な美しさが際立つ彼女は、ベージュのスーツに白いブラウスを合わせ、肩までの髪が柔らかく揺れる。彼女の落ち着いた声は、体育館に穏やかな空気を運び込む。
松澤恵美:「公民と世界史を担当する松澤恵美です。歴史は過去の教訓から未来を学ぶことです。国際情勢や文化の違いを理解するためには、世界史の知識が必要です。大学受験でも重要な科目で、特に文系の人には強くお勧めします。ただし、覚えることが多いので、整理整頓が苦手な人は少し大変かもしれませんね。私の好きなアニメは『エヴァンゲリオン』。深いテーマ性が魅力です。」
恵美の言葉は、歴史への愛に満ちている。貫太郎は、歴史小説が好きな自分にとって、世界史はまさに学びたい科目だ。恵美が水泳部顧問でもあることを思い出し、彼女の指導のもとで泳ぐ自分を想像する。『エヴァンゲリオン』が彼女の好きなアニメだと聞き、貫太郎はさらに親近感を覚える。
貫太郎(心の声):「世界史、めっちゃ面白そう。松澤先生の授業なら、歴史の深いとこまで学べそうだ。エヴァ好きって、なんか意外だけど、話が合いそう。」
恵美はスライドに映し出された世界史のトピックを指す。古代文明から近代史まで、幅広いテーマが並ぶ。貫太郎は、古代エジプトやローマ帝国の話に心を奪われる。恵美が壇上を降りると、体育館に大きな拍手が響く。
次に、長谷川一明が壇上に立つ。58歳のベテラン教師は、グレーのスーツに赤いネクタイを締め、まるで時代劇のナレーターのような口調で話し始める。
長谷川一明:「私は日本史を教える長谷川一明です。日本史は日本人のアイデンティティを知るための道しるべです。受験では一部の大学で必須となりますし、日本の文化や社会を深く理解するためには欠かせません。ただ、詳細な年表を覚える必要があるため、記憶力が試される科目です。映画では『七人の侍』が大好きです。人間ドラマの描写が素晴らしい。」
長谷川の声は、まるで歴史の物語を紡ぐようだ。貫太郎は、日本史の深さに惹かれる。歴史小説で読んだ戦国時代や江戸時代のエピソードが、授業でどう描かれるのか楽しみだ。『七人の侍』の名前を聞き、貫太郎は今度観てみようと思う。
貫太郎(心の声):「日本史、覚えること多そうだけど、長谷川先生の話、めっちゃ面白い。『七人の侍』、名前は聞いたことあるな。チェックしとこ。」
長谷川はスライドに映し出された年表を指し、平安時代から近代までを概観する。貫太郎は、歴史の流れを整理する楽しさに心を躍らせる。長谷川が壇上を降りると、拍手が響く。
杉下俊二がゆっくりと壇上に上がる。62歳のベテラン教師は、厳格な表情でマイクを握る。白髪が混じる髪と、深い皺が刻まれた顔が、彼の経験を物語る。
杉下俊二:「数学を担当する杉下俊二だ。数学は論理的思考を養う最良の科目だ。大学受験では理系だけでなく、文系でも重要な位置を占める。ただし、公式や概念をしっかり理解し、問題演習を積む必要がある。私は若い頃、『スター・ウォーズ』のようなSF映画が好きだった。未来への可能性を感じさせる作品が好きだね。」
杉下の声は低く、厳しさが滲む。貫太郎は、数学への苦手意識が頭をよぎる。方程式やグラフは、中学時代から苦戦してきた分野だ。だが、杉下の言う「論理的思考」という言葉に、どこか挑戦したい気持ちが芽生える。『スター・ウォーズ』が彼の好きな映画だと聞き、貫太郎は少し親近感を覚える。
貫太郎(心の声):「数学、めっちゃ苦手だけど、必要だよな。杉下先生、厳しそうだけど、『スター・ウォーズ』好きって、なんか話が合いそう。」
杉下はスライドに映し出された数学のトピックを指す。代数、幾何、確率――貫太郎には難しそうな単語が並ぶ。杉下が壇上を降りると、控えめな拍手が響く。
次に、沼田正晴が壇上に立つ。75歳の大ベテランで副校長の彼は、穏やかな笑みを浮かべ、自然への愛情がにじむ声で話し始める。
沼田正晴:「生物基礎を教える沼田正晴です。生物は生き物の神秘を探る学問で、自然科学の基礎となります。医学部や生物系の学部を目指すなら必須です。ただし、実験や観察が多く、時間もかかる科目です。私は『風の谷のナウシカ』が好きで、生物と人間の関係を考えさせられる作品だと思っています。」
沼田の声は温かく、体育館に穏やかな空気を運び込む。貫太郎は、生物の奥深さに興味を引かれる。動植物の神秘を探るなんて、なんだかロマンチックだ。『風の谷のナウシカ』が彼の好きなアニメだと聞き、貫太郎は心から共感する。
貫太郎(心の声):「生物、めっちゃ面白そう。ナウシカ、俺も大好きだ。沼田先生の授業、絶対楽しいな。」
沼田はスライドに映し出された生物のトピックを指す。細胞分裂、進化論、生態系――貫太郎は、自然の不思議に心を奪われる。沼田が壇上を降りると、温かい拍手が響く。
石橋隆信が壇上に上がる。48歳の地学教師は、温厚な笑顔でマイクを握る。彼の声は、まるで地質学的現象を語るように穏やかだ。
石橋隆信:「地学基礎を担当する石橋隆信です。地学は地球の成り立ちや自然現象を学びます。理系の中でも幅広い知識が求められ、特に地球科学や環境科学を志望する人には必須です。ただ、暗記する範囲が広いので、整理する力が必要です。私の好きな映画は『ジュラシック・パーク』。地質学的な背景と恐竜が織りなす物語が好きです。」
石橋の言葉は、地球の壮大な物語を語るようだ。貫太郎は、地学の広範な内容に興味を引かれる。恐竜や火山なんて、子供の頃に夢中になったテーマだ。『ジュラシック・パーク』が彼の好きな映画だと聞き、貫太郎はさらにテンションが上がる。
貫太郎(心の声):「地学、めっちゃ面白そう。ジュラシック・パーク、俺も大好きだ。石橋先生の授業、絶対ハマるな。」
石橋はスライドに映し出された地学のトピックを指す。プレートテクトニクス、気象現象、化石――貫太郎は、地球の歴史に心を奪われる。石橋が壇上を降りると、拍手が響く。
大塚美和子が壇上に上がる。30代後半の化学教師は、明るい表情でマイクを握る。彼女の声は活気に満ち、化学への情熱が伝わってくる。
大塚美和子:「私は化学基礎を担当する大塚美和子です。化学は物質の性質や変化を探求する学問で、理系の基礎科目です。医学部や工学部に進むには必須です。実験が多く、理論と実践の両方を学ぶことができますが、化学式や反応の仕組みを理解するのは少し難しいかもしれません。好きなアニメは『ドラゴンボール』。そのエネルギッシュなパワーが化学の変化を思い出させてくれます。」
大塚の声は、まるで化学反応のように弾ける。貫太郎は、化学の難しさに少し身構えるが、実験という言葉に興味を引かれる。『ドラゴンボール』が彼女の好きなアニメだと聞き、貫太郎はニヤリと笑う。
貫太郎(心の声):「化学、難しそうだけど、実験とか楽しそう。ドラゴンボール、俺も大好きだ。大塚先生、ノリが良さそう。」
大塚はスライドに映し出された化学のトピックを指す。元素、化合物、化学反応――貫太郎には未知の世界だが、大塚の情熱に引っ張られる。彼女が壇上を降りると、拍手が響く。
次に、佐藤英男が壇上に上がる。40代後半の物理教師は、真剣な表情でマイクを握る。彼の言葉には、物理の厳密さと美しさが込められている。
佐藤英男:「物理基礎を教える佐藤英男です。物理は自然界の法則を理解するための学問です。理工系の大学受験には欠かせません。計算問題が多いため、数学との親和性が高く、論理的思考が鍛えられます。ただ、概念が抽象的で理解しにくい部分もあります。私が好きな映画は『ターミネーター』です。」
佐藤の声は落ち着いているが、物理への情熱がにじむ。貫太郎は、物理の難しさに少し怯むが、その美しさに惹かれる。『ターミネーター』の名前を聞き、貫太郎は興味を引かれる。
貫太郎(心の声):「物理、めっちゃ難しそう。でも、佐藤先生の話、なんかカッコいいな。ターミネーター、観たことあるけど、もう一回観てみよう。」
佐藤はスライドに映し出された物理のトピックを指す。力学、電磁気、波動――貫太郎には未知の領域だが、挑戦したい気持ちが芽生える。佐藤が壇上を降りると、拍手が響く。
最後に、木村さくらが壇上に上がる。20代前半の地理教師は、まるでアイドル歌手のような明るい声で話し始める。彼女の笑顔は、体育館に元気を運び込む。
木村さくら:「地理を担当する木村さくらです。地理は地球上の人間活動や自然環境を学びます。文系学部では重要な科目であり、国際関係や地域研究を学ぶ基盤となります。ただし、広範囲な知識が求められ、地図を読む能力も必要です。私の好きなアニメは『ラブライブ!』。地域の魅力を引き立てる物語が大好きです。」
木村の声は、まるで歌うように弾む。貫太郎は、地理の広範な内容に興味を引かれる。地図を読むなんて、冒険みたいだ。『ラブライブ!』が彼女の好きなアニメだと聞き、貫太郎はニヤリと笑う。
貫太郎(心の声):「地理、覚えること多そうだけど、木村先生の話、めっちゃ楽しそう。ラブライブ!、俺も好きだ。話が合いそう。」
木村はスライドに映し出された地理のトピックを指す。気候、人口、都市――貫太郎は、世界の多様さに心を奪われる。木村が壇上を降りると、大きな拍手が響く。
説明会が終わり、新入生たちは履修登録のための情報を手に、体育館を後にする。貫太郎は、ε組のクラスメートたちと一緒に廊下に出る。廊下は白いタイル張りで、窓から差し込む光が床に柔らかな影を落としている。クラスメートたちの声が、廊下に響き合う。
貫太郎は、履修選択について考えながら、クラスメートたちに話しかける。バックパックを肩に掛け、軽く笑顔を作ってみる。
貫太郎:「俺は理科は生物基礎と地学基礎、社会は世界史と日本史を考えてるんだけど……どう思う?」
その言葉に、クラスメートたちがそれぞれ反応し始める。健太が、目を輝かせて答える。
健太:「生物って面白そうだし、一緒に履修しようぜ!地学も、なんか冒険っぽくてカッコいいな。」
健太の声は弾むように明るく、貫太郎は彼のノリの良さに笑顔になる。亮が、眼鏡を軽く押し上げ、冷静に答える。
亮:「生物と地学、どちらも基礎から始めるなら俺も賛成だ。世界史と日本史も興味ある。歴史は苦手だけど、貫太郎なら教えてくれそう。」
亮の穏やかな声に、貫太郎は心強い仲間意識を感じる。拓也が、ニヤリと笑って続ける。
拓也:「歴史ってアニメや漫画にも役立つから、俺も同じ履修にしようかな。生物も、なんかドラゴンボールみたいで楽しそう!」
拓也のテンションに、貫太郎は思わず笑ってしまう。美枝子が、髪をかき上げ、軽くウィンクする。
美枝子:「世界史っておしゃれな響きだし、いいんじゃない?生物も、なんかキレイな生き物とか出てきそうで楽しそう。」
美枝子の華やかな声に、貫太郎は心が軽くなる。綾乃が、落ち着いた声で答える。
綾乃:「世界史Aなら、私も履修するわ。生物基礎は苦手だけど、みんなでやるならやってみる。チームワークで乗り切れそうね。」
綾乃の冷静な声に、貫太郎は彼女のリーダーシップを感じる。南が、貝殻を手に持ってニコッと笑う。
南:「みんなと同じ科目を履修するのが楽しそうだから、一緒にやりましょうね。生物は海の生き物も出てくるよね、楽しみ!」
南の純粋な笑顔に、貫太郎は心が温まる。7人は、履修選択の話を通じて、さらに絆を深めていく。貫太郎は、みんなの声に後押しされ、決意を固める。
貫太郎:「よし、じゃあ、俺たちは生物基礎、地学基礎、世界史、日本史でいくか。勉強も部活も、みんなで一緒に頑張ろうぜ!」
健太が、拳を握って叫ぶ。
健太:「もちろん!楽しみながら強くなろうぜ!」
亮が、穏やかに微笑む。
亮:「勉強も教え合おう。俺も学ぶことが多いから。」
拓也が、目を輝かせる。
拓也:「アニメの話題が増えるのは楽しみだな。歴史のアニメ、めっちゃ語ろうぜ!」
美枝子が、髪をかき上げ、笑う。
美枝子:「ファッションも勉強も、みんなで盛り上げよう!貫太郎、勉強教えてね!」
綾乃が、冷静に頷く。
綾乃:「私がまとめるよ。チームワークで乗り切ろう。」
南が、貝殻を手に持って笑う。
南:「海のように広い心で、お互いを助け合おう。」
貫太郎は、みんなの笑顔を見ながら、胸に熱いものがこみ上げる。7人は手を重ね、友情を誓う。
貫太郎:「これからよろしくな、みんな。」
全員:「よろしく!」
次回、貫太郎は中学時代からやってきた水泳部に体験入部します。彼と友情を誓った6人も水泳部への体験入部をしますが、本校の強豪部活動なだけ、練習はハードで、女子部員の方が人数が多く実力者揃いでさあ大変。果たして、貫太郎達の体験入部は如何に!