二章1話 斬空の英雄
考えが甘かった、ゲームなんかで言うラストバトル、さくっと倒してさっさと帰ろうと思っていたんだが、俺の仲間は皆死んではいないが傷付き気絶している。立っているのはクリスと俺の2人だけ。
対する敵は一人、いや、一体。何度も攻撃を加えているにもかかわらず無傷、傷つけたそばからでたらめな治癒力で傷が癒えて行く為俺たちのみが消耗していく。
『素晴らしい、実に素晴らじい、ばだしは遂に人をごえた!』
目の前のわずかに人としての形を残した化物が聞き取りにくい声を上げる、心剣を身体に埋め込み精霊達を無差別に吸収した奴は確かに人間などでは無いだろう。
「・・・さん、避けて下さい」
「うお!」
いつの間にか奴が先端に刃の付いた無数の触手をこちらに向けている、やばい数が多すぎて捌き切れない。クリスの呼びかけが無かったら最初の一撃で殺られていたんだろうけど、これじゃ結果は変わらねぇ!
『唯のただの人間のぐぜにしぶといしぶといしぶとい!』
クソ何言ってるか分かんねぇよ!最も聞いてる余裕なんて無いけどな!
ボキ・・・
「え?」
刀が折れた、やばいと思った瞬間に横から衝撃を受け突き飛ばされる、想像していた痛みは無い。
振り返ると無数の刃に貫かれたクリスがいた・・・
『ひぁは!はははははは、やっと潰せだ!ふふふ、わだじが!わだじが最強だ、ひははははははは』
耳障りな声で何か壊れた様に笑い続ける奴のことも目に入らない。
クリスの体から刃が引き抜かれる、あきらかに致命傷だ早く治癒魔法をかけないといけないのに俺は魔法が使えない。治癒魔法の使える仲間も今は気を失っている。
「クリス!お前俺を庇って、馬鹿野郎!」
「っく・・・いいんですよ、・・・これで・・・未来は、救われます・・・
僕は・・・夢見の民・・・ですよ・・・この・・・結果は・・・分かっていました」
そうだ、クリスは夢見の民、未来を予知する力を持った一族、俺達についてきたのも未来を見たから・・・そう言っていた。
「だい・・・丈夫・・・僕は、救世の未来を見ました・・・
僕が・・・ここで倒れる・・・のも・・・夢見の・・・通り
後は・・・お願いします」
「クリス・・・」
でも、どうしたら良いんだ。
「大丈夫・・・貴方なら・・・できます。ただ、僕の・・・魂も・・・使って下・・・さい。
・・・そうしないと・・・あいつ・・・には・・・勝てません
今は・・・僕の言っていること・・・分からないと・・・思う・・・けど・・・直ぐ・・・に理解・・・できます・・・
貴方が・・・英雄になる姿を・・・夢見で・・・しか・・・見れ無いの・・・が・・・残・・・ね・・・ん・・・・・・で・・・・・・・・・」
「クリス!クリスー!」
クリスの身体から力が抜ける、次第に体温が失われていく、もういくら呼び掛けても返事は無い。
俺の中で何かが弾けた。目の前で笑い続けている奴を許さない。
「チッ、クリスの言った通りだ、俺の中に奇跡を起こす力があるのが、今なら分かる。こんな状況に成らなきゃ目覚め無いなんて、意味無いだろ!けど、奴を倒すには十分だ。やってやる!」
俺の中の奇跡に願う、必要なのは想いを込めた魂の欠片・・・
『ハハはハハははは』
力を使うため集中しようとしているところで奴が再び暴れだした。
先の俺達を狙った攻撃と違い、ただ破壊する為だけに暴れてる様だ、避けやすいが集中でき無い。
『ハハは、がっあ、アガアがガガが』
「チッ!力に溺れて自我を無くしたか、くそ!早くなんとかしなくちゃならねぇのに集中できねぇ」
「凍える冷気は精霊の青
氷れる腕は全てを包み込む
皆に永久の眠りの旋律を奏で続けよう」
!気絶していた仲間の一人が目を覚まし俺が何かしようとしているのに気付いた。気付かれないように呪文を唱えている。
「『悠久氷壁』」
魔法が発動し奴は足元から徐々に氷に覆われていく、全身を自身の5倍以上の氷で覆われて動きが止まった。
「何しようとしてるのか知らねぇけど、急げ!長くはもたねぇ、今ので俺たちの魔力も使い切っちまったから2度はできねぇぞ!」
「あぁ!助かった!」
奇跡の工程を再開する、俺の中の奇跡に願う、必要なのは想いを込めた魂の欠片・・・
呪文は必要無い、強く強く願うことそれが創剣の儀・・・
「俺とクリスの魂の欠片、この想いを力に変えろ!」
俺の折れた刀が光を放つ、成功だ。
光が収まりこの手に握られているのは片刃の大剣、強き輝きを纏う奇跡の体現。
ここに心剣は成された。
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「まぁ、そんなこんなで斬空の心剣が出来、この後敵を倒すことは出来なかったが、心剣の力で奴を何も無い、無の空間に閉じ込めて封印することに成功した。その後は前に言ったように英雄が元の世界に帰ってめでたしめでたしだ・・・」
「巷で語られている斬空の英雄譚と所々違いますがだいたい合ってますね、っと『フレイムバレット・Ⅰ』」
「ごめん!戦闘中も話を続けられても、ちゃんと聞いてる余裕ないよ!」
何とか魔物の最後の一体を斬り伏せる、リジルが語りだした斬空の英雄の話を聞きながらアクアリスに向かう道程、魔物に出くわしてもお構い無しに語り続けるリジルだけどこっちは魔物の相手で手一杯だった。
「敵を倒したいと願って創剣を成したがどんな力にするかを考えてなかった結果、心剣はクリスの世界を救いたいと言う想いと、英雄の心にあった元の世界に帰りたいと言う想いを汲み、空間を切り裂く力を持ったって訳だ」
「後半殆んど聞き逃したんだけど・・・」
「まぁ、アクアリスまでもう少し有るもう一回話してやるから今度はちゃんと聞いてろよ」
「魔物が出たら話を中断してくれたらね・・・」
気を取り直して再度リジルが語る斬空の英雄の話を聞きながらアクアリスに向かう、たまに魔物が出る以外は至って順調だった・・・