一章2話 帰る方法
最初の時の武器は竹刀だった、いきなり襲われて無我夢中で対抗したと言うのも有った。
僕は甘く考えていたみたいだ、命を奪うと言うことを・・・今、僕の手に在るのは昨日行商人から購入した刀『闇夜』、目の前には此方の様子をうかがう数匹のホーンドックと胴体で上と下に分かれたホーンドックの死体が一体。自らの手に残る肉と骨を断つ時の感触に吐き気が込み上げて来る。
「ユウヤさん!」
アキラの声で顔を上げる、吐き気をこらえて飛び掛かって来たホーンドックを斬り裂く。
「はぁ、はぁ、はぁ」
竹刀で戦った時より精神的に参っていた。
「くっ!
汝、猛る灼熱の赤
我が手に集いし炎は矢となり
敵を貫け!『フレイムアロー』」
横手に矢の形をした炎と、それに胴を貫かれ飛んでいくホーンドックが見えた。
「大丈夫ですかユウヤさん!」
くそ、大丈夫じゃない、大丈夫じゃないけど今更逃げる訳にもいかない。
「大丈夫!やってやる!やってやるさ!」
無理矢理気持ちを切り替えて己を奮い立たせる。残りのホーンドックは3匹、うち2匹がアキラの魔法を警戒したのかアキラのほうへ向かっていった。
「あぁあぁぁぁ!」
こっちに向かってきた1匹との間合いを一瞬でつめ最初の奴同様に胴で両断する、込み上げて来る物は叫ぶことで押さえ込んだ。アキラは?
「汝、猛る灼熱の赤
我が手に集いし炎は数多の矢となり
敵を貫け 『フレイムアロー・レイン』」
心配するまでも無いか。先程は1発だった炎の矢が今回は8発ホーンドックに向かい飛んでいく。
1匹は炎の矢に巻き込まれ黒焦げになったがもう1匹は矢を避けアキラに向かう。魔法間に合うのか?いや助けた方が確実だな。
九薙流奥義の一つに至る過程で派生する技・・・
「九薙流、風薙!!」
『闇夜』の刀身の乗せた気で周囲の風を集め風の斬撃として撃ち出す。アキラまであと少しのところまで迫っていたホーンドックを吹き飛ばす。ふむ、僕の腕じゃまだ斬撃としては打ち出せないようだけど、時間稼ぎは出来ただろう。
「『フレイムバレット・Ⅰ』」
吹き飛び体勢を崩したホーンドックをアキラが放つ炎球が襲い貫いた。終わった、思わずその場に座り込んでしまう。
「ユウヤさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫、どこも怪我はしてないから・・・
ただ、命を奪うってことに耐性がないんだよ、僕が前に居たとこは
基本的に平和なとこだったから、でもそのうち慣れるよ、嫌でもね・・・
それより、倒したホーンドックを纏めよう」
アキラと二人、紐で倒したホーンドックを纏めていく、こいつらは肉が売れるので素材を剥ぎ取らなくていい、ただ、アキラの倒したホーンドックはみんな丸焦げになっていた。
「炎の魔法以外って・・・」
「使えるんですけど、これが一番得意なものでつい、すみません」
「いや、僕のも胴体で真っ二つだし見た目がヤバイね・・・」
どちらも売れなかった、次は頑張ろう・・・
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最初はいろいろ戸惑ったけどだんだんコツが分かり順調に旅の資金も貯まってきた。そんなある日。
「ユウヤ、お前これからどうしようと思ってる?
元の世界に帰るにしても妹を探すにしても何か当てはあるのか?」
夕食時リジルが切り出した。
「正直、当てなんてまったく無いんだよね。当然知り合いなんて居ないし、
とりあえずいろいろ回りながら帰る方法と妹を探してみようかと思ってるよ」
「元の世界?ですか?」
僕とリジルの会話を聞きアキラが不思議そうに呟く。
「アキラには話して無かったね、僕エルリオールの人間じゃなくてこことは別の世界の人間なんだ、妹もこっちに来てる筈なんだけどはぐれたみたいで、元の世界に帰る方法と妹を探してるって訳。
まぁ、信じる信じないは好きににしてくれればいいよ」
「別の世界ですか、ありえない話じゃないですね、悪魔や魔獣の類の住む魔界や、精霊たちの住む精霊界も異世界と言えなくも無いわけですし」
魔法使い的には受け入れられる話なのかな?アキラにもとの世界に帰る方法の心当たりが無いか聞いてみたけど
「そうですね、魔界に居る悪魔を呼び出す方法なんかは有るんですけど、召喚する時に一瞬魔界と繋がるだけでそれがユウヤさんのもといた世界に帰る手がかりになるとも思えませんね・・・」
アキラに心当たりは無いようだけどリジルが・・・
「まぁまぁ、あせんな、元の世界に帰る方法なら心当たりが有る」
「えぇ?!」
リジル、なんでそんなこと知ってるんだろ?氷の精霊と一緒に居ることも有るし、何者なんだろう?
「アキラ、最近じゃ結構有名な話だぞ、『斬空の英雄』1年くらい前に世界を救った少年の話だ。」
リジルは自分の名前を出さなかったけどその話はリジルの昔話のようだ、斬空の英雄の仲間なのかな?
少年は突然エルリオールへやって来た、僕と同じようにもとの世界へ帰る方法を探していたらしい、その中で出会った人々に導かれるようにしてある事件に関わった。
力を求めた馬鹿な男が、名前は出てこなかったがとある心剣(絶大な力を持った剣らしい)の力を悪用し、その身に大量の精霊を取り込み力に溺れた・・・
その男を倒す為に斬空の英雄の創り出した剣(創剣と言う能力らしい)それが・・・
「斬空・・・『斬空の心剣』ですか?でもあれは事件の後英雄と共に行方が分からなくなったと聞いています」
「そりゃ分かんねぇだろ、斬空の英雄ってエルリオールの人間じゃねぇし、事件の後心剣の力で自分の元いた世界に帰ったからな」
「!?」
もしかしてリジルが異世界からきたって僕の話を受け入れたのも斬空の英雄って前例を知ってたから?
「なぜ、そのようなことを知っているのですか?」
「そいつとちょっとした知り合いってだけだ
てなわけで、斬空の心剣があれば帰る事は出来るぞ」
「では、心剣の行方は?先程言ったと通り英雄と共に行方が分からなくなったと・・・」
「悪用されないように俺達の仲間がそう言う噂を流した、
今は形を変えて各地で保管してる・・・はずだ」
「各地?」
「あぁ、斬空の心剣は4っつの欠片に分けて事件に関わった英雄の仲間によって保管されている」
これで、帰るための方法は分かった、問題は欠片を集めて元の心剣に戻さないといけないと言うことか・・・
「ユウヤさん、心剣を使うつもりですか?」
「ん?うん、それで帰れるなら使おうと思うけど、どうかした?」
やけに真剣な表情でアキラが聞いてくる、なんだろ?雰囲気がいつもと違う?
「どうやら、僕はユウヤさんと共に行かなければならないようですね」
「もしかして手伝ってくれるの?」
「えぇ、あなたが道を誤らないのであれば、僕はあなたに協力しますよ」
「ちょっと待て、アキラ、お前何を企んでる?
心剣の話を聞いてユウヤを手伝うって、あきらかに怪しいじゃねぇか
ユウヤみたいに平和惚けしたとこから来たような奴ならともかく、俺は
人間の汚いとこもよく知ってる、簡単には騙せねぇぞ」
確かに、言われてみればそうだな・・・
「そうですね、言われてみれば確かに今の僕は怪しかったですね、
でも安心してください、僕に心剣を悪用する意思は有りませんから」
「それを信じろと?」
「信じてもらうしかないですね・・・」
「大丈夫なんじゃないかな?アキラが協力してくれるなら僕も助かるし」
「・・・はぁ、まぁユウヤが良いなら良いけど、俺も一緒に行くからな
お前らだけじゃ心配だ、アキラも変な気起こしたら即ぶっ殺すからな」
「大丈夫ですよ僕は自称心剣の導き手、心剣を悪用させたくないだけですから」
「まぁ、今は信じといてやる・・・」
ふぅ、どうやらまとまったみたいだな、元の世界に帰る方法も目処が立ったし、後はともかの手がかりを探さないと・・・無事かどうかは分からないけど・・・
「とにかく、二人共よろしくね」
「あぁ」
「はい」