九章3話 戦いの後
再び私に与えられた悲劇の予言、そこに登場しない彼は今、疲れ果て座り込んでいます。
私たちの誰一人として助からない筈の未来、結果を見れば怪我人こそ多数存在しますが死者は1人も居ません。
彼一人加わったことで私の悲劇の予言は真逆の結果を記しました。
やはり彼は特別ですね、私の見た悲劇なんて彼の前では唯の夢・・・
彼の存在は悲劇の預言者にとってどれだけの救いになるのでしょう・・・
私は胸の奥の想いを抑えきれず彼、ユウヤさんに向けて駆け出します。
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肉片を処理する為に離れたアキラを見送りもう少し落ち着ける所へ移動しようとリジルに声をかけようと考えていると・・・
「ユウヤさん!!」
僕を呼ぶ声と同時に背中に軽い衝撃がかる、手は前に回されて・・・つまり背後から抱き付かれている状態だ。
「ちょっ!レニィ!?」
突然のことに慌てる、あ~、控えめな胸が背中に当たってますよ~、っと!リジル!横でニヤニヤしない!あ、スノウが触発されてリジルに抱きついた、リジルも慌ててるな・・・
うん、何か落ち着いた・・・
「ん?レニィ、どうしたの?」
レニィを見て落ち着かせるようにゆっくり問う、あ、ちょっと泣いてる?
「ありがとう、ございます・・・」
レニィが新たに見た悲劇に予言の内容を語ってくれる。
「こら、そういうのはさっさと話せよな」
「ご、ごめんなさい。出発前に突然だったから、私もどうしていいか分からなくて・・・」
スノウを引き剥がすのを諦めたリジルがレニィを叱る。
「まぁまぁ、いいじゃない、結果は変わったんだからさ」
「それもそうだな、
けどお前が戻ってこなきゃ俺ら全滅してたのかよ・・・お前どうやって戻ってきた?」
「リジルなら最初から気付いてたんでしょ?僕は斬空の英雄の弟だよ、だから元の世界には斬空の英雄がいる、しかも兄さんは心剣の欠片を1つ持って帰っていたからね、その力を利用して帰ってきたんだよ」
ん?帰ってきたって言った瞬間レニィが体を強張らせた、直ぐに元に戻ったけどどうかしたのかな?
「ったく、だから心剣が未完全な状態だったのか、俺にくらい言っていけよな・・・」
リジルがため息混じりに呟く、確かに、兄さんは完全な状態の心剣は危険だから、欠片を1つ元の世界に持って帰ることで力を制限したって言ってたけど、そのことを誰かに伝えておくべきだったね。
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「もう、いいの?」
合成魔人を撃破して今は後からあたしの妹に抱きつかれ座り込んでいるアイツを、あたしの隣で眺めているマリアに声をかける。
「ええ、完全な斬空の心剣が有っても、彼を救えないことも分かったから、ここで何かする気はないわ」
「そう・・・まぁあたしも目的の半分を達成できただけで良しとしとくわ」
「半分?ローラの目的は私と同じ彼の救出じゃなかったの?他にも何か・・・?」
そう言えばマリアにも話してなかったっけ?
・・・あたしたち、夢見の民にとっては絶対に不可能な事。
「悲劇の予言の阻止」
悲劇の予言は絶対、過程は変わっても結果は変わらない、
少なくとも、あたしは今回以外に悲劇の預言者の悲劇の予言が外れたと言う前例を知らない。
「ふふっ」
「む、何笑ってるのよ!」
「いえ、貴女の目的って全部家族の為なのよね」
「何よ!悪い!?」
「いえいえ、それなら貴女もまだ諦めてないんでしょ?」
マリアがもの凄くに優しい笑顔を向けてくる、その笑顔に子供に向けるような類のものが混ざっているような気がするけど、気のせいかしら?
「貴女もって・・・マリアも?」
「ローラ、教会で一緒に働かない?
それで、これから彼を救う別の方法を一緒に探さない?」
「・・・・・・マリアが、どうしてもって言うなら、考えてあげるわ」
「はいはい、どうしても、お願いね」
うん、目的の半分はアイツが叶えてくれた、なら残りの半分は自分で果たして見せるわ、幸い悲劇の予言のように時間に制限が有るわけじゃないし、何とかして見せるわ!
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全ての肉片を燃やし尽くして辺りの気配を探って見ます。
気配といっても僕の場合人等ではなく心剣の気配を感じ取るんですけどね・・・
はい、周囲に存在する心剣はユウヤさんの持つものだけですね、
それにしてもこの心剣の気配、不完全の状態の時とも完全な状態の時とも違う・・・
響心ですか・・・心剣を作り変えるほどの力・・・
危険ではありますけど彼なら大丈夫でしょう。
肉片を燃やしながら考えていた事もありますし、彼らの所へ戻りましょうか。
ふと彼らのほうへ目を向けると、後ろから女性に抱き付かれている男性と向かいで同じく後から抱き付かれている男性・・・何をやっているんでしょうか?
とりあえず向かいます。
「おあ、アキラ、終わったんだね」
「はい、全て燃やし尽くしました。
先程は感じていた、合成魔人から発せられる心剣の気配も今は感じません。
完全に消滅したと思っていいと思います」
「うん、ありがとう」
さて、世界を救った彼も救われるべきですよね。
僕は先程から考えている事を彼に話すとしましょうか。
「ユウヤさん最後に少し試してみませんか?」