九章1話 少女の見た未来
私たちの攻撃の隙を突き合成魔人の凶刃が、斬空の心剣で無の空間への道を維持し続ける姉さんとマリアさんに迫るります。
私たちの誰もそれに対応できる者は居ませんでした。
「「!!・・・・・・」」
声も無く2人が貫かれ崩れ落ちる、心剣が2人の手から離れ無の空間への道が閉じてしまいました。
私は攻撃の手を止め治癒魔法を掛けるため、二人に駆け寄ります。
「あ・・・・・・」
しかし、私は2人のもとに辿り着く事無く合成魔人の刃に貫かれました。
「ちっ!くそ!」
私が崩れ落ち、残ったリジルさんとアキラさんが合成魔人へ攻撃を続け足止めし、聖騎士団の一部が私たちを治療しようと駆け寄ってきます。
「急げ!」
戦力の落ちた私たちは1人又1人と合成魔人の餌食となっていきます。
数人がかりで治癒魔法を施しますが合成魔人の刃は私の心臓を貫いていました。姉さんとマリアさんは辛うじて生きていましたが、私は治癒魔法が追いつかず、この戦いの最初の犠牲者となりました。
無の空間への道が閉ざされたまま、合成魔人との戦いは続きます。
「くそ!考えが甘かった、前より不利な状態で合成魔人に勝てるなんて考えちゃいけなかった!」
「リジルさん!弱音は後でいくらでも言ってください!今は・・・」
「リジル様!!」
リジルさんの死角から合成魔人の刃が迫り、それに気付いたスノウちゃんがリジルさんを庇います。
「スノウ!」
「く!回生の心け、うぁ!」
アキラさんがスノウちゃんへ自身の持つ回生の心剣で治療しようとしましたが、頭上から降って来た刃によりアキラさんも傷付きます。
「くそがぁ!!!」
リジルさんが単独で合成魔人へ攻撃を仕掛けます。
皆傷付き、動ける者は殆んど残っていない状況でリジルさんは限界以上の動きを見せますが・・・
「フハハハハ!ぬるいな!たかが人間ごときがこの合成魔人に敵うとでも思っているのか!
否!敵うわけがない!私は最強なのだからな!」
「くぅ!うあぁぁぁぁぁ!!」
リジルさんまで倒れ、後は合成魔人が残りの者を蹂躙して行きました。
全滅、合成魔人以外に生きている者が居なくなり、合成魔人も何処かへ行ってしまいました。
私はそれを見守るだけ、今の私に出来ることなんてなにも無いのです。
なぜなら、これは、合成魔人との決戦へ挑む前夜の夢の出来事。
夢といっても普段の夢とは違います。
世界は、悲劇の預言者である私へ新たな悲劇を見せる・・・
これは未来へ必ず起こる悲劇の結末・・・
の筈でした・・・
今、私の前には氷付けの合成魔人、姉さんもマリアさんも無事、何処にも怪我は有りません。
何より夢見に出て来なかった彼、元の世界へ帰った筈の彼が、
黒い刀身の刀へと姿を変えた斬空の心剣を手に立っています。
「ユウヤさん・・・やっぱり貴方は私の悲劇の予言を覆すことの出来る者」
あぁ、こちらの世界の厄介ごとにこれ以上巻き込まないように、元の世界へ送り返した筈なのに・・・
彼が今ここに居てくれることがこんなにも嬉しいなんて・・・
「安心してレニィ、もう誰も傷つけさせやしない。合成魔人はここで倒す!君を悲劇の預言者なんて言わせない、悲劇は僕が全部覆してやる!」
「ユウヤ!悠久氷壁が崩れる!合成魔人が動き出すぞ!」
「分かった!後は僕に任せて、これで全部終わらせる!」
崩れる氷壁に向け駆けて行くユウヤさんの背中を見送ります。
もう大丈夫、後は彼が全部終わらせてくれる・・・
私の見た悲劇なんて彼の前では唯の夢になってしまうのだから・・・