七章4話 九薙 朝日
「兄さん・・・」
振り返ると兄さんがそこに居た。
九薙 朝日、僕より1つ年上で、今は大学生だ。
こんな朝早くに何やってるんだろう?もしかして僕とともかを探してたの?
「よお、やっと帰って来たな、で、何が納得出来ないんだ?」
話さなくちゃいけないよね、ともかのこと・・・・・・
今まで異世界に行って来た?ともかは向うで死んだ?信じてもらえるんだろうか?
ホント、どう説明したら良いんだろう?
「ん?・・・悠夜、それどうした?俺の模造刀じゃないよな?」
え?あ、刀・・・確かに、こんなの持ってたら気になるよね。でも、兄さんの雰囲気がいくらか真面目なものに変わったのを感じる。
「悠夜、何があった?本当のことを正直に話せ、お前と同じ日に居なくなったともかは一緒じゃなかったのか?」
真剣な兄さんの表情、それを見て僕は向うで起きたホントのことを話そうと決めた。
話をしている間、兄さんは黙って僕の話を聞いてくれていた。
「ちっ・・・そういうことかよ・・・・・・・・」
話を聞き終わった兄さんは何か考え込んでいる。
「悠夜、付いて来い」
そう言って僕に背を向けた兄さんは返事も聞かずに歩き出した。
無視するわけにもいかないので慌てて後を追う。
兄さんの後を追い、辿り着いたのは剣術の道場。
「花梨、いるか~?」
「なに?こんな早くにどうしたの?」
兄さんの幼馴染の家だったりする。
兄さんの幼馴染、夜上 花梨さん、兄さんと同じ大学に通っていて今も兄さんと仲がいい。
「道場借りるぞ、悠夜、来い」
「別に構わないけど、え?悠夜くん見付かったの?」
花梨さんに手早く挨拶を済ませさっさと行ってしまう兄さんを追う。
「花梨、空牙の修理終わってたよな?お、あったあった」
「ちょっと、真剣なんて持ち出して何する気なのよ?」
「試合に決まってるだろ?悠夜やるぞ・・・」
兄さんが道場に飾ってあった刀の一本を抜き僕と対峙する、花梨さんの言うとおり真剣みたいだ、え?真剣でやるの?
「待って兄さん、どうして今試合なの?それに真剣って、危険すぎるよ!」
「悠夜、俺に勝ったらこれをお前にやる」
そう言って懐から黄色い欠片を取り出した。あれって、心剣の欠片?え?なんで?
「色々と聞きたいことは有るだろうが、前から言ってるだろ?俺に勝ったら教えてやるってな」
僕が九薙流の剣を修めた訳、兄さんに勝って、兄さんが行方不明だった間の事を聞く・・・
でも、この状況って、まさか兄さんも僕と同じで向うに行っていたってことなんじゃないのか?
だとしたら・・・
「行くぞ・・・」
っつ!答えは後だ、勝てば全部分かる!兄さんは本気で来てる、迎え撃たないと!
兄さんの斬撃は速い、エルリオールでの経験が無かったらすでに負けていただろう。
切り下ろし、切り上げ、双薙、袈裟斬り、袈裟斬り、薙ぎ払い。
避け、流し、相殺する。いける、前までと違い兄さんと対等に渡り合えている。
未だ奥義には至ってないけど、エルリオールで得た兄さんの知らない技が有る、早々に決着をつけよう。
「兄さん、行くよ!神風!」
加速する、習得当初は突攻だった神風も、今ではだいぶ制御できるようになった。これで決める!
「お、知らない技だな。速さを得たか、九薙の領域に辿り着いたな・・・だがまだ甘い、雷光石火!」
な!?兄さんも加速した!速度を上げた僕と兄さんの攻撃がぶつかり合う、完全に押されてるわけではないけど、兄さんにも僕に教えてない技が有ったのか・・・
「さぁ、お前の神速と俺の光速、どっちが上だろうな!?」
く!後の隠し玉は無影刃だけど刀を鞘に納めている余裕が無い為、居合いは無理だ。
「風薙!神風!伍薙!」
「雷光石火!風薙!伍薙!」
レイとの試合の時にやった風薙からのコンビネーション、雷光石火であっさりかわされ真似される。
「神風!」
速さにアドバンテージが無いんだ、下手な小細工は自分の首を絞めるだけってことか。
神風で距離をとる、まぁ高速の戦いだし少し距離が開いたぐらいでは油断できないんだけど、今は兄さんも待ってくれてる。
「さて、これをやると言ったが・・・向うに戻れるかは分からないぞ、お前は知ってるか?欠片の能力は使う者によって異なる、俺がこの欠片を使っても向うには戻れない、お前が使って都合よく世界を渡る力が得られるかな?」
「・・・僅かな可能性でも、向うに戻る方法が有るんだね?だったら僕はそれに賭ける!兄さん、決着をつけよう!」
刀を鞘に納める、居合い無影刃、僕が兄さんに勝てる唯一の手札・・・構えから居合いであることはばればれだろうけど僕の居合いは全てを斬り裂く、問題無い!
「あぁ、終わらせようか・・・奥義の壱・・・刹那の内に無数に煌く斬撃・・・」
兄さんも構える、って!奥義撃つ気だ!え?勝てるの?いやいや!勝てる、勝てるって!負けるなんて考えない次の一撃に全てをかける!
「九薙流(居合い)、無影刃!」
「九薙流奥義の壱、九薙!」
居合いを放つ刹那、直ぐに回避行動をとる、僕の居合いが兄さんに届くかの確認は後だ、兄さんの放った奥義にやられては意味が無い。
―バキ―
刀が折れた・・・