七章3話 強制送還
やっと罠を抜け出せました。
かつて人間を滅ぼそうとした悪魔の魂を半身とする僕には抜けるのに相当な時間を要してしまいました。
「早く皆さんと合流しないと・・・」
心剣の欠片の気配が全て消えているのに気付く、代わりに心剣に似た気配が2つ・・・不味いですね、確実に何かが起こっています。
僕は心剣に似た気配を目指し駆け出す・・・
僕がそこに辿り着いた時、事態はとりあえずの終わりを迎えていました。
撤退行動をとりながら話を聞くと斬空の心剣の不完全さ、過去の厄災の復活、一時的な封印、トモカさん・・・ユウヤさんの妹の死を聞きました。
僕がもう少し早くその場に辿り着いていたなら、回生の心剣でトモカさんを救うことが出来たことを考えると申し訳なさでいっぱいになります。
「そんなの・・・アキラのせいじゃない、気にしないで・・・」
僕よりも辛いはずのユウヤさんに気を使ってもらい僕は何も言えなくなります。
僕たちはアクアリスに戻るとユウヤさんを宿で休ませ、他の者は教会に集まりました。
あのランドさんまで一緒に来ているから驚きです。
なんでも、マリアさんに命を救われた恩から、今回のことに協力していたそうです。
さて、過去の厄災、合成魔人の対策を話し合わなくてはいけません。
今はリジルさんとスノウさんの封印の結界魔法、悠久氷壁で時間を稼いでいますが、あまり長くは持たないとのことで、早急に手を打つ必要があります。
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「とりあえずマリア、教会からはどれぐらい戦力が割ける?」
「ごめんなさい、今教会から出せる戦力はあまり多くないの、フルールに派遣した一団と教会に駐屯する騎士くらいね、後10日ほどあれば空竜様の所に派遣した一団が帰ってくるのだけど・・・」
「ちっ、空竜の所に出した調査隊か・・・悪い、出す必要なかった。
あの爺、寿命で死んだらしいんだ」
「あら?誰から聞いたの?」
「精霊の女王だ、でもどうして爺の持ってた心剣の欠片が盗賊の手の渡ったのかが分からねぇ」
「あぁ、ごめんなさい、空竜様の持ってた欠片を盗賊に渡したの私なの・・・」
「・・・・・・はぁ、ってことはフルールの襲撃からマリアの計画のうちだったってことか?」
「ええ、私が寿命を悟った空竜様から欠片を預かっていたから利用させてもらったわ」
「ったく、クリスを助けたいってのは分かるが、他人に迷惑かけるなよな・・・
で、ランド、お前は手伝ってくれるのか?」
「ん?あぁ、マリアさんがそれを望むならな・・・
だが、戦力として数えられるのはオレだけだ」
「手下の盗賊共は?」
「あれは戦力にならねぇ、適当に寄せ集めただけの雑魚ばっかだ」
「そうか、しかたねぇな・・・
アキラはどうだ?」
「僕は当然協力しますよ、心剣と人の合成魔人、放って置く訳には行きません」
「私も、私も戦います。たいして役に立たないかもしれませんが・・・私にも何か手伝えると思います。何よりこれ以上、未来を悪くするわけには生きません!」
「仕方ないわね、散々引っ掻き回しといて逃げるわけにも行かないもの、アタシも行くわよ」
「姉さん・・・」
「リジル様、ただいま戻りました!」
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これでこっちの戦力は、ユウヤ以外の全員と教会の騎士団が少し・・・
「リジル様、ただいま戻りました!」
お、スノウが戻ってきたな、斬空の心剣が不完全なの機能がどこまで生きてるのか調べさせていたんだ。
「おう、で?どうだった?」
「はい、斬空の心剣は何故か不完全ですが機能が死んでいるわけではありませんでした。
時空を斬る能力は機能していませんでしたが、空間を斬る能力は使用可能です。
ただ、合成魔人がゆっくりと出て来たように、空間を斬るのにもかなりの時間がかかります」
無の空間を開くのに時間は掛かるけど、もう一度奴を封印することが出来るってことか。
「なら、やるしかないな、力押しになるが・・・
悠久氷壁の封印が解ける少し前に無の空間を開き、封印が解け次第奴を押し込む!そして再封印だ!」
方針は決まった、後はその時までどれだけ万全の状態に持っていけるかだな、今の俺とスノウは魔力スッカラカンだ、後8日でどれだけ回復できるか・・・
「あの・・・斬空の心剣、空間を斬る能力は使えるんですよね、だったら・・・」
レニィの提案は俺も考えていたことだった。
よし、やるか・・・・
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レニィたちに気を使われ、僕は宿のベッドで休んでいた。といっても眠れないで居る訳だけどね。
ともかは僕を庇って死んだ、僕に力が無かったからだ、あんな奴、軽くぶっ倒せるくらいに僕が強かったらともかは僕を庇うことも無かったんだ・・・
ところでともかの身体は何処に消えたのだろう?地球の人間はエルリオールで死ぬと光になって消えるのだろうか?
結局、僕は奴を許せないんだろうな、今直ぐにでもともかの仇を取りたい・・・
レニィの予知、結局当たっちゃったんだよな、はぁ、僕って本当に無力だ・・・
いろんなことを考えてみたけど、エルリオールの未来のためにも奴は倒さなきゃいけない、ともかの事は父さん達にもちゃんと伝えて謝ろう、謝って済むことでもないと思うけど・・・
「うん、こんなとこでぐずぐずしてられない、皆と話さなきゃ・・・」
―コンコン―
「ん?」
立ち上がり奴と戦う為に皆と話をしようと思った矢先、ドアがノックされた。
「ユウヤさん、起きてますか?」
「レニィ?どうしたの?鍵はかけてないよ」
「すみません、少し出てきて貰って構いませんか?」
外に?まぁ、これから皆の所に行こうと思ってたので問題ないか。
「わかった、今行くよ」
僕はこの時レニィの様子が微妙に変だったことに気付かなかった。
扉を開け部屋を出る、僕の目の前には見るのは3度目となる空間の亀裂が有った。
「な!?ええ?どういうこと!?」
「ユウヤ、お前は良くやってくれた、この世界の人間じゃねぇお前がこれ以上危険に巻き込まれることも無い、こっちは俺たちで何とかする、気にせず元の世界に戻ってくれ」
きた時と同じように亀裂は僕を中に吸い込もうとする。
「リジル!?どうして!僕も一緒に戦うよ!」
「いや、トモカが死んでしまい、お前にまでもしものことがあったら俺はあいつに顔向けできねぇ。
どうか、ユウヤだけでも無事に帰ってくれ」
ここに留まろうともがくけど亀裂の中に徐々に吸い込まれていく。
「ユウヤさん、思えば、出会ってからずっと私のこと守ってくれていましたね。
ここから先は私の夢見にも無い未来です。何が起こるかわかりません。
優しいあなたをこれ以上巻き込みたくない、どうか、平和な世界で無事に過ごしてください」
駄目だ、僕の抵抗も空しく、僕は亀裂に吸い込まれた。
「うあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
気が付くとここしばらく見ていなかった見慣れた街並み、時間は夜、いや朝日が少し見えている、もう明け方だ。
いったいエルリオールに行ってからどれだけの日が経ったのか分からないけど・・・僕は戻ってきた。
ふと、今までのことは夢だったんじゃないかと言う想いが湧いてくるけど、
手の中に有る刀、『闇夜』の存在が夢じゃなかったと教えてくれる。
僕1人居なくても戦力的には大差無いのかも知れない、でも皆、あいつを倒すために戦うのだろう。
リジルたちは、エルリオールで一緒に戦った仲間・・・
でも、今は僕だけ安全な所に居る・・・そんなの・・・
「納得、できるわけないだろおぉぉぉ!!!」
近所迷惑なんて知らない、僕は胸に残る想いを吐き出したくてがむしゃらに叫んでいた。
「なにが納得出来ないって?」
「へ?」
叫ぶ僕の後ろから聞きなれた声、振り返る・・・
「兄さん?」