序章2話 目覚めれば森の中
「悠夜、俺がお前に教えている剣術は実践用だ、使う機会なんてまず無いから辞めたかったら何時辞めてもいいからな」
兄さんはそう言った、それでも僕は兄さんに剣術を教わるのを辞めなかった。約束以外にも何回やっても兄さんに勝てなくて意地になっていたというのも有ると思う。
「今日はお前に九薙流剣術の奥義を教えようと思う」
「奥義?ってゆうか、九薙流って流派の名前あったんだ?九薙って家の姓だけど・・・」
「あぁ、俺が創ったからな」
「・・・・・・」
兄さん本当に何やってるんだよ、それにさっき奥義って言ったよな。
「あぁ~心配すんな奥義っても二つしかないしお前は俺より素質が有る」
「別に心配してる訳じゃないよ(兄さんの頭以外は)、でも奥義って漫画みたいなのまで有るんだ?」
「俺が創ったからな、いいかまず一つ目だけどな・・・」
ほんと、この人何やってるんだろ?
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ふむ、なんかどうでもいいちょっと前の兄さんとのやり取りを夢に見た・・・ふと、閉じていた目を開ける。森だな、周りの樹よりも一際大きな木の根元で倒れていた僕は慌てて起き上がり周りの様子を確認する。
「あ、鞄と竹刀だ・・・うん、僕のだ」
近くに落ちていた鞄と竹刀を拾いもう一度周りを見回す。うんやっぱり森なんだけど、なんだろう、見た事無い植物ばっかりじゃないか?
う~ん、ここどこだ?確かおかしな裂け目に吸い込まれて気が付いたら別の場所、ここに居たと・・・あ~、もしかして漫画やゲームでよく有るアレですか・・・いや、まだ決まったわけじゃないよな、気を失ってる間に別の場所に連れて来られたとか・・・なにその壮絶などっきり、それこそ無いだろ、そんなことしても得する奴が居ないし手が込みすぎてる。やっぱり・・・
「異世界なのか?ここ?」
あ、ともかは?まさか、こんな訳分からない状態ではぐれた!
「ん?」
近くの茂みが揺れる、ともかか?先に目を覚まして周囲を探索してたか?
「犬?」
犬に見えるが犬とは明らかに違う部分がある、頭に1本の赤い角、犬にはありえないであろう青い毛、最後に赤い眼・・・この犬もどきがただ散歩しているだけとかなら問題は無いのだけれど・・・
「やっぱり、僕のこと襲う気?」
「ヲオォォォォン!」
一声吠え牙を剥き出しにしながら僕に向かって飛び掛ってくる、逃げても足で犬に勝てる自信は無い、咄嗟に持っていた竹刀で打ち払い距離をとる。兄さんとの修練が役に立った!びっくりだ。
すぐに体勢を立て直す犬、一撃目を防いだことによって少し警戒しているようだが僕が攻撃を仕掛てもいいのか迷っていると襲い掛かってきた。
「これは、やるしかないか・・・」
武器が竹刀っていうのが頼りないけど、素手よりは断然いい。
飛び掛ってくる犬を最初と同じように打ち払うことに成功して気持ちに余裕が生まれる。相手の動きを良く見、犬の攻撃を避けるか打ち払うかして出来た隙に竹刀を叩き込む。
「グルルウウゥゥゥゥ・・・」
まだ倒れない、竹刀じゃ殺傷力が無いのは分かってる、だから逃げてくれるのを期待してたんだけど・・・こいつ丈夫過ぎないか?そろそろ諦めてほしいんだけど無理かな・・・仕方ないやってみようか
九薙流奥義の一つに至る過程で派生する技・・・
少し犬から距離をとる、犬も僕の様子に何か感じたのかすぐには飛び掛ってこなかった。僕は犬が仕掛けてくるのを待つ。やがて痺れを切らせ飛び掛って来た。
「九薙流、双薙!!」
九薙の剣術は速さを基本としている、この双薙も素早い二度の斬撃を一度の斬撃に見せかけて放つ技、今回は二撃共同じ場所に叩き込んだ
「ギャ!」
ふぅ、やっと逃げていった・・・
「・・・ヲオォォォォン!」
・・・遠吠え、それも一つや二つじゃない。やっと追い払えたと思ったら。
「囲まれてる、数は・・・たくさん!」
いや、別に数が数えられない訳じゃない、その余裕がなくなっただけだ。周りを囲まれているから逃げ場も無いし絶体絶命って奴か・・・さっきの犬の仲間だよな。
「くそ、無理だ!!」
叫びつつ襲い掛かってくる犬に竹刀を振るう、けど数が多すぎて対応が追い付かない。
「あ・・・」
バキッ!て音がして竹刀が折れる、お、終わった、殺られる!そう覚悟して構える。
「キヤウゥゥン!!」
僕に跳びかかってきた犬は僕に届く前に横殴りに吹き飛ばされる。
「やれやれ、そんな棒一本でこの森をうろつくなんて、お前自殺志願者か?」
「え?」
目の前に剣を持った男が現れた、助けてくれたらしい。
「え?じゃねぇ、自殺しに来たのかって聞いてるんだ?」
「いや、助けてほしい!」
「ん、わかった。スノウそいつのこと守っといてくれ、俺はこいつらを片付ける」
「はい、まかせてください」
うお!いつの間にか男の横に少女がいた何時の間に近づいたんだ?
まぁ、なんと言うか、男は強かった。僕が落ち着くまでに男はほとんどの犬を斬り倒していた。
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「まぁ、こんなもんか」
男は切り倒した犬をまとめた袋を背負い戻ってきた。
「さて、ここで話をするのもまずいし、一旦俺の家に来い」
そういった男と共に森を抜けて小さな村にやって来た、村だ、日本の田舎とかじゃない、ゲームとかで村って言われるような村だ。
「おっ、リジルお帰り大猟だったみたいだな」
男の家に向かう途中、畑で作物の世話をしていたおっさんが声をかけてきた。
「あぁ、後でみんなに分けに行くから」
「おぉ、んじゃお返しに新鮮な野菜を用意しとくよ」
男、リジルがおっさんと話してる間、さっきから隣で黙って居るスノウって娘に今の会話で気になったことを聞いてみる。
「ええっと、あの犬って食べるの?」
「?おいしいよ」
あ~食べるみたいだ、大丈夫なのか?まぁ、犬って食べられたはずだし、異世界だしなんだから僕の常識は通用しないか。
リジルの家、二人で暮らすには少々大きすぎる家だ、他にも誰かいるのかな?まぁ、今はその家の一室で大きめのテーブルを囲みだされたミルクをちびちび飲んでいた。何のミルクかは不明だが・・・おいしい。
「落ち着いたか?」
「あ、うん、ありがとう、ええと」
「俺はリジル グランツ、この村で狩人みたいなことをしてる」
「あたしはスノウ、リジル様の妻です」
妻?
「あ~冗談だから本気にするなよ」
「あたしは本気です!」
ここは流しといた方が良いのかな?とにかく二人が名乗ったんだ僕も名乗らないと。
「僕は九薙 悠夜、悠夜が名前です。危ないとこを助けてくれてありがとう」
「おう、で、ユウヤは森で武器も持たず何やってたんだ?」
「あ~、何してたんでしょうね、気が付いたらあそこに居たのでここが何処かも分からないんですが」
「・・・・・・」
沈黙。やっぱり信じてもらえない?そんな気はしてたんだけど・・・
「・・・・・・ここはフルールって村だ、さっきの森が召霊の森、この大陸名はウィザレスク大陸、この名前に聞き覚えは?」
全然ありません、完全に異世界なのが確定したか?
「・・・無い、・・・あの、信じられないかもしれないけど、僕はたぶん他の世界からここに来たんだと思うんだ」
「・・・あぁ、まぁ、そうなのか」
これは、やっぱり信じてもらえてないな、まぁ仕方ないって言えば仕方ないんだけど
「んじゃ、しばらく家に居ろ」
「え?」
「え?じゃねぇよ、この村に宿なんて無いし、何か訳け有りなんだろ?この先どうするか決まるまで家にいて良いぞ、部屋は無駄に余ってるからな」
正直右も左も分からない異世界でこの申し出はありがたい、リジルも良い人そうだし、ここは素直に甘えておくことにしよう。
「あの、ありがとう、よろしくお願いします」
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ユウヤを部屋案内して疲れているだろうと言って強制的に寝かせ(気絶させるとも言う)、居間に戻ってきた。
「スノウ、どう思う?」
「ユウヤさんの言ってることはたぶんほんとだと思います」
「まぁ、そうだな・・・クナギ ユウヤだしな」
「そうですね」
「・・・スノウ、世界は案外繋がり易いのかもしれねぇな」