四章1話 再会、現実、心剣
シルクとビャクガと別れを済ませ、風獣の丘を発ちアクアリスまで後半日ほどの所で、僕たちは盗賊に襲われていた。
「にしても、こいつ等しつこくねぇか!?」
そうなんだよな、前にフルールからアクアリスに向かった時に遭遇した盗賊は、僕たちに敵わないって分かったらすぐに逃げ出した。この盗賊たちは仲間がやられても、しつこく僕たちに挑んでくる、数もどこかに隠れている奴等がどんどん出て来るので今も増え続けている。
「きゃ!!」
「っ!風薙!」
魔法の詠唱に気を取られていたレニィに仕掛けた盗賊を、風薙でぶっ飛ばしレニィを庇える位置へ移動する。
「レニィ、気を付けて」
「はい、ありがとうございます」
レニィと同じ魔法使い系のアキラは旨く立ち回っているけど、僕はレニィを守る位置にいた方が良さそうだな。スノウも出てきてるけど、余裕はあまりなさそうだな。
「くそ!しつけぇ!どれだけ増えやがるんだ!ユウヤ!俺、ちょっと突っ込んでくる!」
「リジルさん!危険です!」
アキラの静止も聞かず盗賊の群れに特攻するリジル、あ、スノウも続いた。
「氷晶覇!」
うわ、盗賊の群れを丸々氷漬にした。その後もバンバン盗賊が吹き飛んでるし、無双だなぁ・・・
「アイツは相変わらずだなぁ、ったく、忌々しい」
「え?」
盗賊の一人?が僕の隣でリジルを眺めながら呟いていた。いつの間に近づいたんだ!ん?目付きの悪いこの顔どこかで見たような気が・・・
「よう、また合ったな」
リジルに向いていた視線を僕に向ける、う、思わず畏縮する程の殺気って言うのかな?他の盗賊とは比べものに為らない。こいつ、ヤバイ?
「お前は・・・」
どこだろう?どこかで見た顔なんだけど・・・
「ユウヤさん!気を付けて下さい!その人、裏路地で私を襲った男です!」
あいつか!慌てて男と距離をとり睨み付ける。
あの時は勝つのが目的じゃなくて、逃げられれば良かったからアキラと協力してなんとかなったけど、今の状況、勝たなきゃ不味いよね・・・リジルやアキラの助けは期待できないけど・・・
僕だってあの時より強くなってる・・・今は殺らなきゃ、殺られる・・・
「ふ、まぁオレの相手しろや」
「この状況なら拒否できないよね?」
「当然、せいぜいオレを楽しませて死ね」
男がいつの間にか短剣を両手に持ち、突っ込んでくる。その動きは修行前の僕でも対応できるほどに加減されている、油断しているのか?だったらその油断を突く!
「おら、どうだ!?」
「くっ!双薙!はああああああ!」
「っと、またそれか?オレには効かねぇぞ!」
そんなことは分かってる、でもこの男に警戒させない為に、今は前に見せた双薙だけで対応する。油断している状態のまま一気に殺る。
「はは、そんなもんじゃねぇだろ?もっと見せろよ!」
「・・・神風」
男の言葉にかぶせ、聞こえないくらいに呟く、ここからは全開だ、僕自身の持てる力を全部出し切る。
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ふう、だいぶ減ったか?スノウと2人で盗賊に突っ込み手当たりしだいぶっ飛ばしまくった。確実に数は減ってるはずだ、そろそろユウヤ達と合流するか・・・
「おぁ?」
ユウヤ達と合流する為その姿を探したんだが、ユウヤの戦ってる男、アイツまさか・・・
「やばい!スノウ、ランドだ急いで戻るぞ、あんな奴ユウヤ一人で相手出来るわけねぇ!」
「はい!」
ユウヤの元へ向かう俺たちを残っている盗賊が邪魔しやがる。
「だぁぁああ!退きやがれ!」
俺たちがユウヤと合流するのを阻むように次々盗賊が襲い掛かってくる、まさか、これを最初から狙われてたのか?
「スノウ!先に行け!」
「リジル様!でも!」
「俺は大丈夫だ!でもあの男は、ランドはヤバイ!俺と斬空の英雄になる前のあいつの2人掛かりでなんとか倒した相手だぞ!ユウヤ一人じゃ絶対負ける!」
「!!分かりました!すぐ行きます!」
スノウが姿を消して盗賊の間を縫って行く、これで少しは時間が稼げる、俺も盗賊どもを蹴散らして早くユウヤのとこに行かねぇと・・・
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「だあぁぁ!風薙!神風!旋風!伍薙ぃぃぃぃ!」
男に風薙を放つ、神風でそれに併走して男の横から旋風を放ち伍薙で追撃。
だが、風の刃は避けられ、避けた位置に放った渾身の連撃は両手の短剣で弾かれる。
「はは、なかなかやるじゃねぇか、こっちも行くぜ!」
くっ!今ので決められないのか?!風獣の丘での修行で強くなったと思っていたけど、この男とじゃ実力が違いすぎる!
男の攻撃を辛うじて受ける、休む間無く攻め立ててくるが、なんとか防ぐことが出来ている。いや、わざとギリギリで防げるように攻撃されてるのか?!
「っ!伍薙!神風!」
威嚇で放つ伍薙は当然のように防がれる、今は神風で男との距離を取れればいい。
「まだやるか?」
「はぁはぁはぁ、くそ(これはもう、青龍に頼るしかないか・・・)」
「まぁ、よくやった方じゃねぇか?けど、そろそろ死んどけ」
来た!青龍を呼び出すのに心剣の欠片を取り出そうと思ったけどそんな余裕が無い!
「行きます!氷柱降り注げ!!」
「…光よ、集いて撃ち貫け・・・『セイクリットブレイド』」
僕と男の間に巨大な氷柱が降って来た、今の声はスノウとレニィか?!とにかく助かった、男が周囲から降り注ぐ光の剣に対応してる今のうちに・・・心剣の欠片を取り出して、叫ぶ!
「青龍!頼む!」
『応!』
「な!?何!?」
欠片が光る、光が収まり僕の目の前には青い龍が姿を現した。しかも前に呼んだときの三倍位のサイズで出て来た。出てきたと同時に尾を男に叩きつける青龍、当たりはしなかったが男が後に下がる。
『ふむ、賊を片付ければよいのか?』
「うん、アイツは僕じゃ勝てそうに無いから、悪いけどお願いするよ」
『応、任せておけ』
「おぉぉ・・・さすがにこれはキツイか?」
そう言いつつ青龍に対峙する男、すごいな・・・勝つ気でいるみたいだ。
「ったく、英雄の剣技だけかと思ったらとんでもねぇもん出しやがるな・・・」
『どれ、試してやろう・・・流水刃』
青龍の周りに風水とか陰陽術っぽい紋が浮かび上がる、その紋から次々と水の刃が男に向かって放たれる、男は当然避けるが数が多すぎる。
「ちっ!
身に纏うは炎の外套
炎属性防御付加
もう一丁
我剣は炎の刃
炎属性攻撃付加」
あれが付加魔法か、男の剣と身体が微かに赤い光に包まれている、避けるだけだった男が水の刃を迎撃し始めた、徐々に青龍との距離を詰めていく。
『ほう、やるな・・・ならば、螺旋水流』
水の刃を放っていた紋が消え大き目の紋が青龍の前に1つ浮かぶ、紋から出てくる渦巻く大量の水が男に迫る。
「え?ちょ、流石にそれは無理だ!」
渦巻く水流は男とついでに残っていた盗賊を押し流して行った、あ、リジルも一緒に流されていった。
「リジル様~!!」
スノウが慌てて迎えに行った。
『こんなものでよかったか?』
「うん、ありがとう、本当に助かったよ」
『では、我は帰るぞ?』
「うん、それじゃあ(青龍送還)」
『うむ、悠夜またな』
青龍の送還を願いお帰りいただく。盗賊たちが残らず流されたのでこれで終わったかな、レニィが傍に寄って来た。心剣の欠片をしまい、一息つく。
「レニィ、さっきは助けてくれてありがとう」
「いえ、私の方こそありがとうございます」
―とす―
「え?・・・あれ?」
どうして?僕の胸に矢が刺さってる?
「ユウヤさん!!
白き奇跡の力
暖かな慈愛を纏う輝きのベール
光よ、かの者へ癒しの祝福を・・・『ヒールライト』」
慌てたレニィがすぐに矢を抜き治癒魔法をかけてくれる、けど傷はまったく塞がらない、治癒魔法を掛けるために矢を抜いた傷口からどんどん血が溢れて来る、あ痛みもだいぶ遅れてやってきた、なんか息もし難い・・・
「そ、そんな、どうして傷が塞がらないの!」
「矢に、呪いがかかってるの」
「「!!」」
女の子の声、僕もレニィも声のした方を向き、同時に驚愕する。それはそうだ、レニィの驚いた訳は分からないけど、声の主、僕のよく知ってる人物だ・・・
「と・・・とも、か・・・?」
手に弓を持って僕達に近付いて来るのは、僕の妹・・・ともかだった。どうしてここにいる?
「・・・・・・」
呆然とする僕の懐から心剣の欠片を取り出すともか、え?え?そしてそのまま無言で僕達に背を向けて去っていく、ちょっと!まってくれ、っつ!あ・・・駄目だ、血を・・・流し・・・すぎてる・・・
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様子のおかしいユウヤさん達に急いで駆け寄ります。ユウヤさんは気を失い胸の傷からは血が流れ続けている状態、レニィさんは呆然と立去る少女を見つめていました。あの子は誰なんでしょう?っと、それより今はユウヤさんです。
「レニィさん、治癒魔法を!」
「!ア、アキラさん?」
「はい、早くユウヤさんに治癒を!放って置くと危険です」
「だめ・・・なんです。矢に、呪いが・・・傷が・・・全然、塞がらないんです」
呪い!治癒魔法を受け付けない類ですか!リジルさんとスノウさんは見当たらないしレニィさんも呪いを解くすべを持っていないようですね、僕も呪いの類を解くすべはありません・・・
いや、べつに解かなくてもいい、奇跡の力はそんなもの意にも介さない!
「レニィさん、下がっていてください。ユウヤさんを治します!」
そう、僕は持ってる、本来の操剣者じゃないので命を生み出すことは出来ないけど、死んでなければ、どんな傷でも癒せる、奇跡の刃を・・・
僕はこの身に宿る心剣を使いユウヤさんの傷をふさぐ、呪いの方も心剣の力で消えたようです。
大丈夫、今回は誰も死んでない・・・仲間は皆無事です。
よかった・・・