三章2話 風獣の丘(到着)
アクアリスを出発して2日程で到着した。途中何度か魔物に襲われたけど至って順調な行程だった。
「さて、手分けしてここの主を探すか」
ここに居る主のおかげで危険な魔物も出ないということで皆ばらばらに探索を始める。集合時間は昼、昼食時には集まるようにってことだ。この丘を全て探索するには1日では終わらないだろうけど、僕も元の場所が分からなくならないように探索を開始した。
「あれ?ユウヤさんですか?」
暫く適当に見回っていると不意に声をかけられた。声のした方を振り向くと先日マリアさんの試験で戦った冒険者のシルクが居た。
「シルク?こんな所でどうしたの?」
「アタシは師匠と修行中です。ユウヤさんはどうしたんですか?」
「ここの、風獣の丘の主に用が有るんだ、今は皆バラバラに探索中だよ」
「ここの主ですか?それって師匠のことじゃないですか?それならもう少ししたら戻ってくると思うんですけど・・・」
主が師匠ってどういうことだろう?でもすぐに帰ってくるなら待っていればいいか。
「それまでどうです?もう一度試合ませんか?」
「うん、僕も強くなりたいから、お願いするよ」
リジル達への報告を後回しにしてシルクと戦う事にした、言っておくけど別に僕は戦闘狂って訳じゃないからな。
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「って訳で頼めるか?」
『まぁ、最近暇になって来たし、構わない』
「んじゃ、よろしく頼むわ、どうも今のあいつじゃ彼女に認められそうに無い、もう少し斬空の英雄に近づかねぇとな・・・」
『?取り合えず分かった、もう少しこの辺りを見回ったら戻るから待ってろ』
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シルクと再度試合をしていたけど、昼近くなったので一旦戻ることにした。
元の場所には僕以外皆戻って来ていた。
「戻りましたか・・・彼女がここの主ですか?」
シルクを連れて帰った僕にアキラが気付いた、そういえばシルクと合った時アキラだけはいなかったな。
とりあえず皆に説明してシルクも加えて昼をとることにした
「師匠なら待ってれば来ますよ、急いでるようなら呼びましょうか?」
「いや、かまわねぇ、どうせ今日だけじゃここの主には認めてもらえないだろうからな。最初から長期戦覚悟で来てる」
え?ちょっと待って。
「リジル、聞いてないよ?」
「言ってないからな」
少しも悪びれないな・・・まぁいいけど・・・
『相変わらずだな、リジル』
「ん?来たか白牙」
「師匠!お帰りなさい」
白い狼だな、言葉を話してる、エルリオールの動物は話すのか?リジルやシルクの反応から、ここの主=シルクの師匠=目の前の白い狼で合ってるみたいだ。
「これは珍しいですね、長年生きて精霊の力を得た霊獣ですか」
『あぁ、ここは風の力が強いからな、だが、お前のような者に珍しいといわれるとは・・・』
「はは、すみません」
「あ~そろそろこっちの用を済ませて言いか~?」
アキラと獣、ビャクガか・・・ビャクガを止め事情を説明するリジル。なんとなくそうじゃないかと思ってたけどリジルはビャクガと知り合いみたいだな・・・
『で、異界人ってのはお前か?』
「あ、うん、九薙 悠夜です」
『九薙・・・いいだろう試してやる、オレに一撃でも入れられたら心剣の欠片を渡してやる、かかって来い』
えぇ!いきなり戦闘開始!?慌てて刀を抜くけど相手は獣で力を持った霊獣と言う存在らしい。正直一撃入れられるかも怪しいけど・・・双薙をうまく撃てばいけるか?チャンスは初見の一発目だけだけどね。
「行くよ!」
『・・・来い』
双薙はいざって時まで撃たない、今の僕の最高速で連撃を続けるがどれも避けられる。
「始まっちゃいましたね」
「師匠に一撃入れるんですか、アタシだって稀にしか出来ないのに無茶じゃないですか?」
「ユウヤさんには双薙があります。うまく撃てば初見であれを避けるのは難しいはずです」
「まぁ、無理だろうな(初見じゃねぇし)」
下段中心に攻める、ビャクガの身体が浮いたところを狙い更に連撃を放つけど駄目だ、避けられる。
『ふ、さすがに速いな』
「余裕で避けておきながらよく言う!」
『仮にも風獣を名乗ってるからなそう簡単に捉えられると思わないでもらおうか』
「(これも試験だよな、だったら青龍を使う訳にも行かないか・・・)さてどうするか・・・」
『考えてる時間なんて無いぞ!』
くっ!避けるだけだったビャクガが攻撃に転じた。その動きは僕なんかよりずっと早い、目で追うのがやっとだ。動きについていけない。
『まぁ、次はもっと頑張れ』
気付けばシルクのときと同じ状況になっていた。
「双薙を出す前に終わりましたね、ユウヤさん大丈夫でしょうか」
僕の上にビャクガが乗っている、まぁ僕は直前に受けた一撃で・・・意識が・・・・・・
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『こんなものでいいか?』
ユウヤの上、おすわりの体勢でビャクガが振り返って問う。
「まぁ良いんじゃねぇの?」
『ん、じゃぁシルク、こいつ等を寝床に案内してやれ』
「あ、はい、分かりました師匠!」
そう言ってシルクが気絶したユウヤを片手で抱え上げた。改めて、すげぇ力だな・・・まぁあの大戦槍を扱うんだから力は有るか。
「てな訳でアキラにレニィ、ユウヤがビャクガに一撃入れられるまで暫くここに留まることになった。なんだったらアクアリスで待っててくれてもいいぞ」
取り合えず二人にはそう言っておくが・・・
「僕はいいですよ、付き合います」
「私もです」
とのことだ。
シルクの案内で1件の家くらいの巨大な岩の前に来た、この岩、中はくり貫かれていてビャクガの住居になっているが、人の住める環境も整っている。
「ユウヤさんはベッドに寝かせておきますね」
「あぁ、頼む」
いつの間にベッドなんて用意したんだ?知らない内に弟子まで取ってるしビャクガは何考えてるんだろう?まぁ暇潰しだとは思うが・・・
「凄いですね、下手な安宿よりよっぽどいい部屋がそろってますよ」
「良いじゃねぇか、野宿よりはずっと・・・深く気にするな、どうせビャクガの暇潰しだ」
「はい、そうですよ、もっとも用意したのはアタシだけど」
ユウヤを寝かせたのかシルクが戻ってきた。
「シルクちゃん、ユウヤさんは?」
「奥のベッドにちゃんと寝かせてきたよ」
「私、様子を見てきますね」
そう言ってレニィは奥の部屋に向かった。
「ふ~ん・・・レニィさんって・・・」
『シルク、明日からの修行はユウヤと組み手だからな。もちろん師匠命令だから拒否権は無い』
「師匠も戻ってたんですね。組み手はいいですよ、ユウヤさんと戦るのはアタシにとっても修練になるから」
「まぁ頼むわ」
さて、ここでユウヤがどこまで強くなれるかだな・・・