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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ざまぁの為に侵略したら、踏み躙ったその地に、超特大の地雷が埋まっていた件

作者: 昼型熊

5作目になります。

今回は婚約破棄の結果、巻き添えを食らい、大切なものを奪われた転生チート主人公の復讐のお話です。

割とガッツリやってます。

ちょっと長めですが、よろしくお願いします。


誤字報告ありがとうございます。

とても助かります。


皆様のおかげで、2023.9.22の日間ハイファンタジーの一位にランクインしました。

身に余る光栄です。

本当にありがとうございました。


「今日も今日とて地道に働く一日が始まるな!」


 俺の名前はアルフレッド・ノーマン。

クルツ王国の辺境にある男爵領の長男だ。

まぁ、辺境の地で男爵という事から、万年貧乏な弱小貴族なんだがな!

そんなパッとしない家に生まれた俺だが、実は大きな秘密を持っている。

そう、俺は転生者だ。


 物心ついた時に、俺は前世の記憶を思い出した。

いや~、マジでビックリだわ。

前世で転生とかしたいなーとか思っていたが、まさか本当に転生するとは。

そして転生者らしく俺にはチート能力があったらしい。

この世界には魔法が当たり前にあるんだが、その魔法の行使に必要な魔力が生まれつき高い上に、魔力消費も通常よりも低いのだ。

更に魔法のコントロール精度も抜群で、まさにチート転生者といった具合であった。


 当然俺は調子に乗る。

こんなチンケな男爵領を出て、冒険者としてチート能力を駆使し、最強モテモテハーレム生活を夢見た。

そんなクソみたいな甘い夢が砕かれたのは、俺が7歳になった時だった。


 チート持ちとは言え、調子に乗って馬鹿をやれば、死ぬことだってあり得る。

特に前世で読んだWEB小説では、チートで無双をする物語もあれば、逆にそのチートに溺れた結果、悲惨な最期を遂げるなんて物語も割とあった。

まぁ、そういうのは大抵悪役転生者だが。

しかしながら、今この世界で生きている以上、ここは現実だ。

あまり調子に乗ってやらかすことは危険である。

俺はそれを肝に銘じて毎日を過ごしていた。

経済的に凄い裕福ではなかったが、一応、男爵家の跡取りだからな、それなりの教育は受けたし、この世界の常識を学んだ。

そして7歳までは屋敷で暮らしていた。

何だかんだで外に出る事は無く、それなりに良い生活を送っていた俺は、ある日外に連れ出され、男爵領の現実を思い知った。


 貧しい生活で行き倒れ、毎年のように出る餓死者や外からの脅威によって、命を奪われる者の存在を知った。

病気や怪我で死を待つ事しかできない者達。

老人だけじゃない、自分よりも小さな子供達がそうだった。


 過酷な現実の前に、俺の甘ちゃんな思考は吹っ飛ばされた。

最早トラウマレベルでその惨状が脳裏に刻み込まれた。

俺がチートだ無双だといい気になって、屋敷でヌクヌクと生活をしている間に、どれだけの命が失われてきたのか。

今世では7歳だが、前世を合わせれば良い大人である自分が、甘い夢ばかり見ているだけの自分が心底情けなかった。

俺は決意した。

チート能力があるなら、前世の記憶があるなら、それを使って領民たちが腹一杯に飯を食えて、楽しく生きられるようにしてやると。


 こうして俺はクソガキ時代に持っていた甘い夢を捨て、現実を直視し、それに抗ってやると誓ったのだった。


 その後俺は両親に自分の素性を素直に伝えた。

正直に言ってしまえば、怖かった。

何せ跡取り息子の中身が、前世の記憶を持つ、転生者なんて胡散臭い存在だったのだ。

拒絶される事も十分あり得た。


 だが、ここで素直に話しておかないと、今後の活動に支障が出る恐れもある。

だから正直に打ち明けた。

下には弟もいる。

跡取りは彼に任せればよい。


 幸いにも俺は家族に受け入れられた。

元々周りからするとちょっと変わった子に見られていた事、持っている魔力が明らかに普通じゃない事から、すんなりと理解されたようだ。


 俺ってそんなに変なガキだったのかと少し凹んだが、家族に認められたのは嬉しかった。

そうなれば怖い物はない。

俺はチートを駆使して、領内の発展を目指した。


 先ずは何と言っても食い物だ。

衣料や住む土地は何とかなるが、食い物だけはどうしようもない。

男爵領は土地面積はそこそこあるのだが、大半は荒地だ。

これを開墾し、食糧自給率アップを目指す。

それと並行して今ある痩せた大地も蘇らせる。


 と言うのも、どうもこの世界の農業レベルはガチで低いようだった。

肥料? 何それ食べれんの? ってくらいだしな。

よって肥料を作り、土壌改良も行う事にした。


 落ち葉を集め、水と小麦粉精製の際に出る皮などのカスを混ぜる。

小麦のカスは発酵促進剤だ。

適度にかき混ぜ、暫く置いておくと腐葉土になる。

他にも、家畜の糞にオガクズなどを混ぜ込んで発酵させた堆肥も作った。

刈り取った雑草を焼いて灰にし、これも土に混ぜ込んだ。


 最初は両親も領民も、俺が何をやっているのか良く分かっていなかったが、俺は前世で聞きかじっていた農業知識を、自分なりに分かり易くまとめて説明した。

分かったような分からなかったような、微妙な反応をされたが、結果さえ出せば大丈夫だろうと思った。

得意のチート魔法で荒地を開墾するという作業も行っていたので、皆は素直に従ってくれた。


 そして次の年になると、肥料を混ぜて土壌を改良した畑の収穫量が、明らかに上がっていた。

瘦せ細り殆ど収穫が出来なくなっていた畑が、だ。

この結果に皆、目を丸くして驚いていた。

前世の知識チートがバッチリハマった俺は、渾身のドヤ顔をした。


 それからは肥料を皆でせっせと作り、土壌の改良を推し進めた。

連作障害を避ける為、別の食物を植える等の工夫もした。

5年も経つ頃には、領内で誰かが餓死して亡くなるという事も無くなった。

とは言え、まだまだ求める所には達していない。

これからもっともっと発展してやるぜ! と俺は兜の緒を引き締めた。


 

 俺は15歳に成った。

本来なら貴族の通う学園に通うべきなのだろうが、俺としては今の流れを止めたくないし、ぶっちゃけ学校とか、前世で十分なので入学を辞退した。

てか、入学料高いんだよ。

更に諸々の費用を考えると、学園期間の3年間で掛かる金額は、毎日の領民のおかずが2品増えるレベルだ。


 既に男爵領は、弟に継がせるべきだと思っていた俺にとって、学園生活なんぞ無用の長物だった。

両親や弟は何だか残念がっていたが、俺としては発展していく男爵領を見ていた方が楽しい。

苦楽を共にしたダチもいるしな!

それに、領内の生産量が上がり生活が豊かに成り掛けた所で、中央から税金の引き上げを食らったのもデカイ。


「クソが……。困ってる時は何にもしてくれなかった癖に、ちょっと景気が良くなったらいきなり増税吹っ掛けるなんてな……」


「仕方があるまい。むしろ、これまで御目溢しを頂いていたのだ。我々はそこに感謝するべきだ」


 貴族らしからぬ悪態を吐く俺を親父殿は諫める。


「ええ、分かってますよ。とは言え、漸く食える程度になったくらいですからね。もうちょっと位、待ってて下さいって感じですよ」


 御目溢しとは言っても、結構ギリギリの所まで搾り取られていたんだけどな。

全く、碌に助けてくれないくせに、みかじめ料だけはキッチリ取りやがる。

ヤーさんよか質が悪いな。


 ちょっとイライラが収まらない俺に対し、親父殿は頭を下げた。


「私が不甲斐ないせいで、苦労を掛けてすまない……」


「ちょッ、顔を上げて下さいよ、親父殿。俺は別に、そんな……」


 いきなり謝られてテンパった。


「お前ほどの力があれば、此処を出て、自由に生きて行けただろう。だが、私の力が足りないばかりに、お前をこの地に封じ込める事になってしまった……」


 悔しそうに親父殿は呟く。

いや、まぁ、昔はさっさとこの家から出て行って、チートハーレムだーとかやりたがっていたけどさ。


「俺は今の生活に、やり甲斐を持ってますよ。ていうか、昔のアレは若気の至りという奴でしてね……」


「だが、お前のチートの力は凄まじいものだ。本来であれば、お前は英雄と呼ばれる程の力を持った存在なのだ」


 褒め過ぎですよ、親父殿。


「そんなお前が、この家に縛られ、世に羽ばたくことなく燻っているの現状に、私は父として情けなく思う……」


 そう言う親父殿は、本当に悔しそうだった。


「男爵領もお前のお陰で何とか持ち直してきている。お前さえ良ければ、何時でも……」

 

「親父殿ストーーップ!」


 その先は言わせない。


「親父殿、さっきも言ったけど、俺は今の生活にやり甲斐を持っているんだよ。中央の奴等はムカツクけど、別にどうでも良い」


「ここの領民や、親父たち家族が大事だから俺は此処にいる。そこの所は、勘違いしないでくれ」


 要は俺が好きでやってるんだから、親父殿はそんなに気にしないでくれって事だ。


「そうだったな……。すまない。いや、ありがとう」


 そう言って、親父殿は微笑んだ。


 さて、親子の語らいも無事終わり、俺は今日も一日仕事に取り掛かる。

領内を駆け回り、領民と農地や建物その他諸々の打ち合わせをし、畑を耕すなり外敵を排除したりと大忙しだ。


 冒険者として大成し、稼いだ金を領地に渡せば、今よりもずっと生活が豊かになるという事も考えた事はある。

だが、それでは駄目だ。

俺に万が一あったり、もしくは故郷の事などすっかり忘れちまったりしたら、それでこの領は終わる。

皆がしっかり自分の足で立って歩かない限り、元の木阿弥になるからだ。

だから皆で頑張るのだ。


 最強チート持ちだからと言って、それだけで全てが上手く行くなんて、そんな甘い話は無いのだ。



 それから暫くの時が経ち、弟が学園に入学出来る年齢になった。

この日の為に入学費用やその他の費用を頑張って稼ぎましたよ。

領内が豊かに成るにつれ、それに比例して税金が上がるんだから参るわ。

だからと言って、此方に何かリターンが有る訳でも無い。

『働けどは働けどなお、わがくらし楽にならざり』とは良く言ったものだぜ。


 はぁ、と溜息を吐いていると、


「随分不景気な顔をしてるわね」


 後ろから声を掛けられた。


「んー、なんだ。サンディか」


「何だとは御挨拶だね~。幼馴染に向かってさ」


 ちょっと顔をむくれさせたこの女性の名はサンディ。

俺の幼馴染の一人だ。

因みに俺は、幼馴染達からはアルと呼ばれている。


「あー、悪いな。まーた税金が引き上げられてな。ちょっとやる気が削がれていた」


「ああ、そう言えばジャックもそうボヤいていたわね」


 ジャックというのはサンディの旦那で、俺のもう一人の幼馴染である。

サンディとジャックは幼馴染夫婦だ。

俺が領民を、腹一杯食わせてやると意気込んた時からの馴染みだ。


「まったく、昔よりかはマシだとは言え、税金が上がるせいで中々思うようにいかねー」


 そう愚痴を溢す俺に対してサンディは、


「でも、アルが頑張ってくれたおかげで、私達は今ここにいる。そしてこの子もね」


 そう言って、愛おしそうにお腹を撫でる。


「来月末だっけ? 予定日。男の子かな? 女の子かな?」


「うーん、どうかしらね~。最初は男の子が良いけど……」


「ほー、そうかい。お前に似てやんちゃで元気な子になりそうだな」


 ガッハッハと俺は笑う。


「はぁ? 何を言ってるのよ。私に似たら理知的でクールな男の子になるでしょ!」


「ハハ。ナイスジョーク、ゴハッ」


 脳天にチョップを食らった。


「いってーな。口の代わりに手が出るママン似じゃ、どう考えてもクール系男子とか無理じゃねーか」


 と抗議するも、


「アルが相手だからよ。他の皆には清楚な若奥様って見られてるんだから!」


 抜かしよるわ。

まぁ、コイツの本性知ってるのは俺とジャックだけだしな。

一応俺、男爵家長男の偉い人なんだけどなー。

相変わらずな態度で安心したぜ。

流石俺が惚れた女だ。


 俺はサンディに惚れていた。

ただ、出会った頃にはコイツの隣にジャックが居た。

ジャックは良い奴で、俺の親友だ。

アイツだからこそ、コイツを任せられた。

それだけの話だ。


 

 十数年前、まだ俺がチートだハーレムだとか頭転生者だった時に出会った。

ジャックとサンディに。

2人共、ガリガリですぐにでも死んでしまうのではないかと思った。

前世ではテレビのドキュメンタリーでそういう映像も見た事があった。

ただ、実際に目の前で見た事は無かった。

この時までは。


 2人は既に病で両親を失っており、男爵領の孤児院で暮らしていた。

貧しい男爵領での孤児院だ、その生活はお察しだ。

親父殿も頑張ってはいたようだが、流石にこんな末端まではどうにも出来ない。

たまに炊き出しをしてやるくらいが精一杯だった。

俺は男爵家跡取りとしての、慈善事業の一環で孤児院へと赴いていた。


 2人は孤児院ではそこそこ年長だった。

その為か、炊き出しは自分よりも小さな子達を優先していた。

その光景に、俺は涙が止まらなかった。


 こんな貧しい中で、あんなに瘦せているのに、それでも自分よりも小さな子供達を優先する、優しい2人の姿に心底打ちのめされた。

あんな素晴らしい精神の子供達を失ってはいけない。

 

 この出会いがあったから、今の俺がいる。

俺は親父殿に頼み込んで、2人を俺の従者として雇うよう働きかけた。

最初は難色を示していたが、2人の生活費は俺の分も削ってでも出すなど、普段の甘ったれなガキだったはずの俺の必死の懇願に首を縦に振ってくれた。


 それからは3人一緒だった。

最初にやるべき事は、ガリガリで衰弱していた2人を健康体にする事だった。

かと言って、いきなり栄養価が高い物を与えるのは逆にヤバイというのを、前世の医療漫画で読んだ記憶がある。

先ずは無理なく食べられるような食事を提供した。

その他、食べられる草や木の実なども俺はチート能力を駆使し、2人に与えた。

勿論俺も一緒に食った。


 親父殿達は草を食う長男に驚いていたようだが、その後俺の転生者としての告白などもあり、受け入れられたようだ。

因みに食べられる草を焙煎し、煮出してお茶にした所、普通に飲めるという事で我が家では常飲されるようになった。

紅茶って結構金がかかる嗜好品だったので、家の負担が少し軽くなった。


 色々と骨を折った甲斐あり、2人の健康状態は大分良くなった。

一応、俺の従者という立場上、公の場ではそれっぽく振舞うようにしてもらっていたが、他人の目が無い所では、そういうのはナシという事にした。

雇い主で貴族令息である俺に2人は恐縮していたが、俺自身は、彼等を尊敬していた。

だから、主従というよりは対等の友人として接して欲しかった。


 最初に順応したのはサンディだった。

サンディと気安い関係になっていたことで、ジャックとも気心が知れ、親友となった。


 それから土壌改良の為の堆肥作りを行うようにし、2人は正に俺の両翼として頑張ってくれた。

特に家畜の糞尿を集めての肥溜め作りとかでは苦労を掛けた。

堆肥が出来上がり、それを畑に混ぜ込み、苗を植える。


 この時点では、そこまで多くの肥料を作れなかったので、畑の面積など知れたものだったが、翌年の収穫で結果を出した。

この成功から、俺の前世知識について今一つ信頼することが出来なかった親父殿達も、全面的に協力をするようになった。


 そうして食料の収穫量がどんどん上がっていき、5年目で漸く餓死者が出ない程度に領内は潤った訳だ。


 その後俺は、領内での農業事業部を立ち上げ、より効率的に生産量が上がるよう尽力した。

2人は俺の従者という立場から、農業事業部のそれぞれの部門を統括する立場になった。


 領内の発展の為、3人で色々な所を駆け巡っていた。

そんなある日、俺はサンディに恋をしている事を自覚した。

汗と泥まみれで作業をするサンディ。

凡そ色気も何もあったもんじゃないのに、日の光に照らされたサンディの姿に俺は見惚れていた。


「まいったな……こりゃ」


 俺は参っていた。

まさかのガチ恋とはな。

成長したサンディは実に健康的で、スタイルも嘗てのガリガリな姿からは想像できない程グラマラスな物となっていた。

ボン、キュ、ボンではなく、ボーン!キュッ!ボーン!である。


 それに屈託なく、太陽の様な笑顔で誰とでも仲良くなれる彼女に憧れる男は、実は結構多い。

だが、彼女に声を掛ける者はほとんどいない。

近くに俺がいるからっていうのもあるが、それ以上に彼女に近い人物がいるからだ。


 ジャック、俺の親友にして恋敵である。


 これまた日々の農作業の賜物か、高身長、筋肉モリモリマッチョマンに成長したジャック。

マッチョなのに暑苦しさを感じさせない、爽やかな好青年といった風貌のジャックは領内の女性陣から憧れの存在として見られている。


 あのー、俺も一応貴族でイケメン男子なんですよー。

まぁ、性格は真面目で誠実、顔立ちも整っている上に内面の美しさが出ているからな。

パッと見、イケメン騎士みたいな感じである。


 こんな田舎じゃそう見られない、美男美女は正に阿吽の呼吸というか、長年連れ添った夫婦の様な雰囲気を醸し出しているのだから、誰も手は出せん。

だから、俺はこの恋心を表に出すことは無かった。


 ずっと3人でいたし、強い絆で結ばれていると俺は信じている。

だが、ジャックとサンディは俺と出会う前から、更に深い所で繋がっている。

そこは俺ですら立ち入れない聖域だ。

俺に出来るのは2人の仲を親友として祝福する、ただそれだけだ。

 

 18歳に成り、経済的にも年齢的にも十分な為、2人は結婚した。

幼馴染として、親友として、初恋にケリを付ける為、俺は盛大に2人を祝ってやったぜ!


 そして今に至る。


「身重なんだから無理すんなよー。ジャックが心配してるぜ?」


「うん、そうね。んじゃ、私はそろそろ戻るかな」


 そう言ってその場を立とうとするサンディ。


「あー、やっぱ俺も一緒に行くわ。万が一お前に何かあったら、ジャックに殺される」


「アハハ。何を言ってるの。無敵のアルがさ」 


 いや、ジャックは普段は温厚だけど、あの手のタイプは本気でブチ切れたら一番怖い奴だ。

つー訳で、俺はサンディをジャックの元までエスコートする事にした。


「おいーっス、ジャック」


 家に着いた所でジャックに会った。


「アル、わざわざサンディを送ってくれたのかい?」


 人好きのする柔和な笑みで迎えてくれたジャック。


「おうよ。もう臨月も近いんだから、自重して貰わんと困るわ。見ててこっちがハラハラする」


「なによー。別に大丈夫でしょ」


 サンディは不満顔だ。


「さっきも言ったが、お前に何かあったら、俺は領民から吊るされっちまうってーの。主に目の前のコイツに」


 そう言ってジャックを見る。


「いや、流石にそこまでは……。泣くまで殴ると思うけど」


 ニッコリと物騒な事をおっしゃる。


「カッカッカ。愛されてるね~。奥さん」 


 いつも通りの他愛無い話をするこの瞬間が、何だか掛け替えのない物に思えた。


「そう言えば、来週の遠征だけど、アルが行ってくれるのかい?」


「ああ、それなりに大きな取引になるしな。まぁ、本来ならお前が行った方が良さげではあるけど」


 遠征とは言ってるが、何の事は無い、要は隣の国に行商に行って、そこでちょっとしたビジネスの話をするだけだ。


「すまないね、気を使わせて」 


「気にすんなよ。サンディとの子供が産まれそうだってのに、父親のお前がいないのはアカンだろーよ」


「ありがとう。アル」


「おう!」


 隣の国とは言え、新幹線や飛行機などないこの世界では結構な時間が掛かる。

行って帰ってくる間に子供が生まれてましたーってのも何だかな。

それにこの世界での出産は、やはり命の危険が伴う。

そんな状況でジャックを隣国に派遣する訳にもいかん。


 俺のチート能力は攻撃や自己強化に特化していて、仲間の回復や補助といった能力はあんま無いんだよな。





「では、父上、母上、兄上。行って参ります」


 遂に弟のエルヴァンが学園のある中央に旅立つ。


「中央の奴等にノーマン魂を見せてやれ!」


 俺は弟を激励する。

温室でヌクヌク育った貧弱なガキ共よりも、この厳しい環境で育った雑草の方がTUEEEEE!!!って事を証明するのだ!


 中央へは馬車を使ってもかなり時間が掛かるし、金も掛かる。

弟は学園生活の3年間は中央にずっといる予定だ。

暫く会えなくなるのは寂しいが、一回り大きくなって帰ってくる事を期待している。

弟の乗った馬車が見えなくなったのを確認した所で、俺も隣国へ旅立った。


 隣国へは何事も無く着いた。

商会との商談は明日なので、宿を探す為に軽く街中を探索したが、やはり活気が違うな。


「うーん、やっぱこういうちゃんとした街を見ると、俺ん所はまだまだ田舎だよなー」


 ま、10年やそこらで大都会になる訳でも無いし、こっから10年後、20年後、100年後を見据えて行かなければな。


「うわ~、やっぱ都会ってスゴイっすね~」


 お上りさん丸出しの声を上げるのは、俺に従者として仕えるロッズだ。

弟と同世代で、ジャックとサンディに代わり俺の専属として仕えている。

今回は助手として連れて来た。

コイツもいずれは、領内の色んな事を仕切って貰うからな。

経験を積ませて、後進を育てるのも俺の仕事だ。


「あんまキョロキョロすんなよ。ロッズ。田舎者として笑われるぞ」


「いや、だってこんな人が沢山いる所なんて初めてなんスよ~。アル兄ぃは良く平気でスね」


 まぁ、前世の日本に比べたらなー。

繁忙期の観光地なんてこんなもんじゃないし。

ロッズは俺に付いて行って、近隣の領内を見て廻っていたが、どこも辺境だけにこじんまりとしていたからな。

隣国の都市部はそれ等とは比べ物にならんくらい発展している。

興奮するのも無理はないか。


「色々見て廻りたいのは分かるが、今日は早めに宿を取るぞ。明日の商談の為にもキッチリ休むんだ」


「了解でっス」


「商談が無事に終われば、少し時間に余裕が出来るからな。そん時は色々見て勉強して来い。小遣いもやる」


「ウッヒョー! マジっスか!? さすアル兄ぃ!」


 コイツ、偶に俺が出してしまう前世のノリにすっかり染まってやがる。

元々根が明るいというか、所謂前世で言う所の陽キャなんだろうな。

そのせいか、俺もコイツといるとついつい素が出る。

こういう事もあって、ジャックやサンディとはまた違った意味で過ごしやすいんだが。


 宿に着いた俺達は明日の商談の為の打ち合わせをし、就寝した。

翌日、俺達は一張羅の勝負服を着て、商談に臨んだ。


 俺達の商品、それはジャガイモを使った数々の商品である。

元々は小麦を育てていたが、土壌改良に成功したとはいえ、生産量10倍、100倍なんてなる訳もなく、改良の為の肥料も間に合わなくなっていた。

そもそも土地自体が貧弱だったし、領民の数もそこまで多く無い事から大量生産が難しかった。


そこで俺は小麦に変わる生産物が無いか、前世の知識を必死に思い出していた。

痩せた大地でも良く実り、主食になり得る食べ物、それがジャガイモだった。

俺は方々を回り、ジャガイモを探した。

ジャガイモと言ったら北海道。

ノーマン領は比較的、北海道に近い気候だから、結構育つと思うんだよな。

寒冷地であるこの地方に原種があるかもしれない。


 俺の予想は当たった。

領内の北、比較的標高の高い地にジャガイモらしきものがあった。

食用としては全く使われていない、そこらの野草と変わらない状態であったジャガイモを掘り起こし、畑に埋めた。

皆は何を埋めているんだ?と不思議な顔をしていたが、翌年それが歓喜に変わる。

小麦とは比較にならない量のジャガイモが採れたからだ。

俺は早速領民に、ジャガイモ料理を振舞い、調理方法を領民に伝授した。


 皆基本的に腹空かせていたからな、腹一杯食べられて嬉しそうだった。

ジャガイモがノーマン領の主力商品となった瞬間だった。


 それからフライドポテト、コロッケなどの定番メニューにビシソワーズなどの料理を開発する事で、ジャガイモは瞬く間に領内の主食になった。

前世よろしく、男爵領で栽培されたジャガイモは男爵イモという商品名になった。

近隣のウチと同じように貧しい領に、お値打ち価格で提供することで、利益を上げられるようになった。

薄利多売に近いんで、すっごい儲かったって訳では無いが。

そんで得た利益は、中央の奴等に持っていかれるんだからマジでクソだわ。


 俺が隣国にジャガイモ商品を売り出そうとしたのは中央への不信感が原因だ。

あいつらにジャガイモを売り込んだ所で見向きもされないか、下手するとノウハウだけ奪われる羽目になりかねないからな。


 この世界ではマイナーも良い所なジャガイモだが、前世の記憶でそのポテンシャルの高さは十分承知している。

ちゃんとした商会なら絶対にいけると俺は確信している。

とは言え、ただジャガイモをポンと出すだけでは微妙だ。


 そこで俺は考えた。

古今東西どの国でも売れる商品、それは酒である。

サツマイモを使った芋焼酎があるんだし、ジャガイモ焼酎だってあった。

ならそれを造り、売り込めば良いのだ。


 この世界の酒は基本的に、常温で飲むビール、エールと呼んでるそれと、ワインだからな。

ジャガイモ焼酎は革命的な商品になる。


 予想通り、商会の方々はジャガイモ焼酎に衝撃を受けている。

そのまま飲んでも良いが、水で割って薄めたり、果実水を混ぜてチューハイにするなどバリエーションは豊富だ。

更につまみの定番、ポテトチップスもあるぞ!


 ホロ良い気分で上機嫌なのか、商談はスムーズに纏まった。

ま、ジャガイモ焼酎なんてまだ世に出回ってない商品という珍しさと、その品質を実感すればそりゃ売れるわな。

相手方もかなり興奮している様だ。

もう少し吹っ掛けるべきだったか?なんて考えも一瞬浮かんだが、ここはやはり誠実にやらんとな。


「いやぁ、この焼酎ですか? 実に素晴らしい物です」


「お褒めに預かり、ありがとうございます」


「そして、このポテトチップスもまた……薄く切ったジャガイモとやらを油で揚げるというシンプルな調理法であるにもかかわらず、手が止まらなくなるほど美味だ」


 フフフ、やはりポテチは最強……。


「……これほどの商品を自国内ではなく、隣国の我々との取引に使うとは、やはり貴方も自国に対して思う所はあるようですな」


 まーね。

つか、隣国でも問題視されてるのか中央の奴等は……。

なんか、弟が心配になって来たな。

手紙でも出してみるか?

それとも開発中のアレを試してみるかな?


「王太子による婚約者との婚約破棄など、前代未聞の事ですからね……」


 しみじみとそう語る、商会の会長殿。


 ……え?! 婚約破棄?

何それ初耳なんですけど。

内心の動揺を隠しつつ、会長の言葉に相槌を打つ。


「正直な所、中央の考えは我々には理解できませんからね。辺境の我々は将来を考えると、貴国との関係を重視した方が良いと思いまして」


 頭の中は混乱して滅茶苦茶だが、何とか平静を保ちそれっぽく振舞った。


「相手は魔導帝国ですからねぇ。一体どうなる事やら」


 はああああああああああっっっ??!!

どういうことなんだよ?!

一体中央で何があったんだよ!


 こうして商談自体はスムーズに終わったが、とんでもない情報が出てきやがった。

俺はすぐさま街で情報を集めた。

中央とは半ば縁切りの様な感じでいたから、そこらの情報なんて全然入れてなかったのが仇となっていた。

そもそも僻地だから碌に情報なんて入らないが。


 調べた所、元々王太子と婚約者の公爵令嬢は余り仲が良くなかったらしく、その仲は学園生活において完全に破綻していたそうだ。

貴族のトップが何やってんだよ。

つか、隣国に醜聞広がってるじゃねーか!

一瞬ブチ切れそうになったが、こんな所で魔力暴走なんてしたら大惨事だ。

深呼吸して気分を落ち着かせる。


 そして資料を読み進めていると、王太子はどこぞの男爵令嬢と懇ろになり、最近あった卒業式で男爵令嬢を娶る為、婚約破棄を起こしたらしい。

理由は公爵令嬢の不当な虐めだとか。

馬鹿馬鹿しい、ホント何考えてんだコイツ。

前世日本人の俺でも、政略結婚の重要性はそれなりに理解している。

だと言うのに、将来の国王になる人物がマジで何やらかしてるんだよ。


 頭を押さえつつ、更に資料を読んでいく。

どうもその婚約破棄の直後に、来賓の魔導帝国の皇太子が出て来てその場を収めたらしい。

これってどう考えてもアレだよな。

前世のWEB小説で良く見た悪役令嬢の婚約破棄だよな……。


「クソ、マジかよ……」


「本当にそーっスね。アル兄ぃの言う通り、中央の奴等ってマジでバカしかいないんスかね?」 


 一緒に資料を読んでいたロッズも呆れ顔だ。


「少しゆっくりしていくつもりだったが、こうなると早めに帰らなければならんな」


「えーーー、折角来たのにもう帰るんでスかぁ?」


「気持ちは分かるが、こんな状況じゃあな。中央のゴタゴタに巻き込まれてはたまらんよ」


 ロッズは不満顔だ。


「まぁ、でも何だ。カレンへのお土産を買う時間位はやるさ」


「……なんでそこでカレンの名前が出てくるんスか?」


「あん? 何でってそりゃあ、お前なー」


「いやいやいや、カレンは唯の幼馴染っスよ。何でもないんスから」


 顔を真っ赤にして必死になって否定するロッズ。

初々しい反応であるが、このご時世だ、素直な気持ちになるべきだがなー。


「ロッズよぉ、自分の心に素直になれよ。お前がカレンに惚れているなんて、当のカレン以外はバレバレだぞ」


「んごっふ……何なんでスかそれはぁ……」


 己の恋心が周りにバレていた事実に変な声を上げて懊悩するロッズ。


「お前ももう15歳だ。適齢期の18歳までの3年なんてあっという間だぞ。しっかり覚悟を決めろよ」


 年長者としては若者の恋を応援したいところだ。

産めよ増やせよってな。


「そー言うアル兄ぃだってどーなんスか。サン姐の事、未だに引き摺ってるでしょ!」


「ウゴゴゴゴ……。ロッズてめぇ、それは言わない約束だろうがッ!!」

 

「はあ?! 最初に言ってきたのはアル兄ぃでしょうが!」


「既に決着が付いてる俺と、これからのお前を同列に扱うな!」


 こんな感じでぎゃあぎゃあ騒いでいたが、少し落ち着いた。


「ロッズ、真面目な話だが人生何が起こるか分からん。あの時ああすれば良かったとか、そういう後悔を抱くよりは悩んでもキッチリ決着を付けろ」


「……分かってるっス。ただカレンとその、付き合えるかなんてわからねーでスし」


「お前はこの俺が見込んだ奴だぞ。やれば出来る奴なんだよ、お前は」


 実際ロッズは要領も良く、物覚えも良い。

将来的にノーマン領を支えるに足る人材だ。


「まぁ、幼馴染っつー立場のせいか意識させるのは難しいかもしれんけどよ、先ずは一歩先を進んでみろよ」


「アル兄ぃ……そうっスね。俺、やるっス!」


「よーし、覚悟を決めたロッズに特別褒賞を出してやる。これでガッチリ乙女のハートを掴んでやれ!」


 そう言って俺は結構な金額をロッズに渡した。


「ありがとうございます! 俺、行ってくるっス!」


 走り去るロッズを見送り、俺は早速必要な物資を購入する為、街に出た。


 食料品に食物の種、衣料品に生活雑貨、薬などを買い揃えた。

そうした所で、ロッズが帰って来た。


「おう、帰って来たか」


「あ……すいません。カレンへの贈り物に夢中で手伝うの忘れちまって…」


「気にすんな。買いに行かせたのは俺だ。それよりもどうだ? 良い品は見つかったか?」


「うっス。そりゃあもう、気合入れて選びました!」 


 胸を張るロッズに微笑ましさを感じる。


「よし、それは大事に持っておけよ。明日の朝一番にここを立つ。準備をしておけ」


「了解っス!」


 こうしてノーマン領に帰るため、宿に戻ろうとした所で街中に大声が響く。


「号外だーーー!!!! 魔導帝国がクルツ王国に宣戦布告したとの事だ!!」


「魔導帝国軍は既に出陣して、国境付近にまで進軍しているそうだ!!」


 この号外を聞いた俺達は血の気が引いた。

魔導帝国が俺達の国であるクルツ王国に攻め入り、中央に向かうとしたら、ノーマン領は丁度通過点になる。


「アル兄ぃ……」


 顔を青くしたロッズが縋るような目で俺を見る。


「ロッズ、お前は予定通り明日の朝に馬車でノーマン領へ向かえ」


「アル兄ぃは?」


「俺は今から準備して直ぐにノーマン領へ行く」


 馬車では結構な時間が掛かるが、俺のチート能力であれば一日もあれば着くはずだ。

中央の弟に会うために開発していた高速飛行魔法。

まさかこんな時に使う事になるとは……。


 ロッズを宿に置いて、俺は最低限の保存食や医薬品を持って疾走する。

流石に街中で飛行魔法なんて使えないからな。

街を出て、人目に付かない広場で俺は高速飛行魔法を発動した。


 飛行魔法とは言うが、やってる事は魔力をジェット噴射してぶっ飛んでいく力技の魔法だ。

空気抵抗を減らすために前方に流線型の防御魔法を張り、高く飛んでいく。

後は慣性と自由落下を利用し、地面に落ちる前に魔力を噴射して推力を得て飛ぶ。

常に魔力を噴射して飛んでいたら、幾ら俺でもすぐに魔力が尽きちまうからだ。

ぶっちゃけこれは超高速の体当たり攻撃のそれだ。

それを移動に応用してるだけの頭がおかしい魔法である。


 だが、普通に飛んでいくよりも速く、常に全力で飛ばしていくよりも魔力の消費を抑えられるので、長距離移動に使える俺だけのオリジナル魔法だ。

上手く風に乗れればもっと良かったが生憎と逆風だった。

それでも俺は一刻も早く故郷に帰るべく疾走する。


「……大丈夫だ。あの魔導帝国が一々俺達の領へちょっかいかけるか? 通り過ぎて終わりだろ」


 そう独り言を言って精神の安定を図る。

医薬品などを持っているのは、万が一誰かが怪我をしていた場合に使うかもしれないからだ。

そうでなくとも元から必要な品だ。

大丈夫だ、俺の心配など杞憂だ。

そう自分に言い聞かせているが、胸の中の焦燥は消えなかった。


 ノーマン領へと入った。

中心から煙が上がっている。

嫌な予感が収まらない。

大丈夫だ……あれは誰かが飯の支度をしているだけだ。

嫌な予感から必死に目を逸らし、故郷へ着いた俺の目に映った光景は、無惨に破壊された町の姿だった。


「……誰か! いないのか!? 親父、お袋、ジャック、サンディ……みんなぁッッッ!!!!」

 

 彼方此方から火の手が上がる町中を俺は半ば呆然としながら歩いていた。

半日以上ぶっ通しで飛んでいた疲労感もあったが、それ以上に破壊された故郷の姿が俺を打ちのめした。

そして、其処ら中に倒れている人の形をしたナニかが目に映った……。


「ッッグゥ……」


 吐きそうになる。

そこに倒れてる誰かは、俺の知る誰かに間違いないからだ。

込み上げる胃液を無理矢理嚥下し、生き残った人達だけも救おうと俺は歩く。


「避難所……そうだ避難所だ!」


 前もって何かあった時の為に、領内には避難所を設けている。

男爵家の館や、孤児院、その他いくつかの施設にあるハズの避難所に俺は向かった。

だが……。


「何だよこれ……」

 実家の館、孤児院などの施設はボロボロにされていた。

たかが辺境の男爵領に対してここまで徹底的な破壊をするなんて、魔導帝国の奴等は何を考えてるんだ。

絶望的な気持ちになりながらも、それでも歯を食いしばって生き残りを探す。


 だが、何処も彼処も酷い有様で、生存者は見つからなかった。


「何で……こんな……クソッ」


 それでも諦めきれない俺は生存者を探す。

考えろ、此処には親父殿やジャックがいたんだ。

帝国の軍隊が来た時、何かしらの方法で領民を逃がす為の行動をとっているはずだ。


「そうだ……秘密基地だ!」


 昔、山を散策していたころに偶然見つけた洞窟。

俺が万が一の為の、隠し財産を保管していた場所でもある。

知っているのは俺以外では親父殿とジャックだけだ。

俺は意を決して、洞窟に向かった。


「サンディ……みんな!!!!」


 そこに居た。

十数人程度だが、サンディと領民や男爵家に仕えた者達が。


「アル……アルッッッ!!」


 俺はサンディを優しく抱きしめた。

俺の腕の中で涙を流すサンディ。

漸く生き残りと、サンディに会えた安心感で壊れかけた心に温かい物が溢れて来た。

だが、そんな暖かさもすぐに凍り付くことになる。

ジャックや、親父達の姿が見えない。


「サンディ、ジャックや親父達はどうしたんだ? 無事なのか?」


 だが、サンディは答えない。

嫌な予感がする。

そしてそれは当たっていた。

男爵家に長く仕えていた執事のトールが俺に事のあらましを教えてくれた。


「突然魔導帝国の軍隊が男爵領に現れ、一方的な宣告と共に攻め入りました……」


「あまりにも急な襲撃に我々は為す術なく、蹂躙されました」


「領民を避難所へと避難させていましたが、奴等はお構いなしに攻めてきました」


「旦那様と奥様は時間を稼ぐために、戦場へと……」


 トールの言葉がつまる。


「ジャックを先頭にこの場所まで避難していましたが、帝国軍の追跡は執拗なものでした」


「ジャックは敵の目を逸らす為に、単身帝国追跡部隊に挑み、それからの消息は……不明です」


 無茶しやがってバカヤロウ……。


「以上が、若が来るまでの間に起きた出来事です」


「分かった……ありがとう。トール」


 奴等は既に俺が来る一日前には攻め込んでいたのか……。

もっと早く情報を掴んでいたら…俺がここに居れば……。

許さねえ……魔導帝国……あいつらは絶対に許さん……皆殺しにしてやる……。

かつてない程の強い怒りと憎しみが湧き上がる。

どんな手を使ってでも奴等を滅ぼしてやると、俺は心に誓った。


 そうだ……奴等を、皆殺しにしてやる!

溢れる憎しみと殺意に呼応してか、体の中から凄まじい力が湧き上がっているのを感じた。

この力なら、やれる。

先ずは軍の奴等からだ。

怒りと憎しみのまま俺は、帝国のクズ共を殺しに一歩踏み出す。


「トール、この場は任せる」


「若?! 一体どちらへ?」


「決まっているだろ。俺達の故郷を滅茶苦茶にしたクズ共を皆殺しにしてやるんだよ!」


 そう言って俺は駆け出した。

十分距離を取った所で飛行魔法を発動させる。

先程とは比べ物にならない速度で俺は飛んだ。


 奴等の行き先は分かっている。それを追っていくだけだ。




 魔導帝国軍、軍団長のゼンツは退屈していた。

折角の戦であるのだが、相手が弱すぎたからだ。

相手は軍人でもない、只の民間人なのだから当然だが。


 部隊を複数に分け、3つの領を攻め滅ぼしたが、いずれも軍隊の無いチンケな所だった。

中央の方まで行けば、もっとマシな戦いが出来るか? と、そう思っていた。

部下たちは相手が強い弱い関係なく、血に酔っている様だが。


 新皇帝によるクルツ王国殲滅の命が下ったのはつい最近の事だった。

既に老齢に達した先帝に代わり即位した新たなる皇帝。

クルツ王国から自身の伴侶を連れて来てから、直ぐに戴冠した彼の最初の命令がクルツ王国殲滅だった。


 理由は自身の伴侶となる女性を永らく虐げていたという事らしい。

人によってはそんな理由で? といった内容だが、力こそ全てであり、その力でもって頂点に立つ皇帝の言葉は絶対である。


 かつて数百人の部隊で、万の軍勢を蹴散らした最強の帝国軍もその強さ故に挑む国も無く、退屈な日々を送っていたのだ。

どんな理由であってもゼンツ達からしたら、暴れられるのなら何でも良かった。

こうして新皇帝の名の元、クルツ王国にて殺戮の限りを尽くした、ゼンツ率いる魔導帝国軍は今日、消滅する。


 次の領へと進軍するゼンツ達の前に、1人の男が道を塞ぐように立っていた。

昏い目をした男だった。

ゼンツはそう言った目をした者達を知っている。

復讐者だ。

大方、先程潰した貴族領に住んでいた者達の縁者だろう。

最初に潰した所に、そこそこ腕の立つ者がいた。

恐らくその領の長だろう。

所詮はゼンツの敵では無かったが、弱いながらも最後まで必死に抵抗する様に感心し、苦しまぬよう一撃で屠ってやった。

この男は何処までやれるか?


 そう言えば、追跡部隊の中で一名、未帰還の者がいた。

もしかしたらこの男に敗れたか?

何にせよ、たった一人でこの世界最強の帝国軍の前に立った男だ。

その無謀な勇気に敬意を表し、ゼンツ自らが相手をしてやろうと思ったその時、全てが終わっていた。


 ゼンツが意識を取り戻した時、帝国軍は壊滅していたからだ。

何が起きたか分からなかった。

混乱する中で何とか立ち上がろうとしたが、起きる事は出来ず、頭から倒れ込む。

右腕が無かった。


「な……何が起きたのだ…」


 ゼンツには分からない。

だが、彼とて帝国軍の軍団長を任された身だ、必死に冷静さを取り戻そうとし、本国にこの事を伝えなければならない。

状況から察するに、先程の男が何かをしたのは確実だ。

何かしらの兵器か、または魔法によるものかは判断出来ないが、この何かが帝国本国に使用されれば、いったいどれほどの被害を被るか。

故に彼は愛する帝国の為、自身の誇りを捨てでも生き延び、帝国へと帰還しなければならなかった。

しかし、そんな彼の決意は、あっさりと炎に焼き尽くされた。


 



「ふん、まだ何匹か生き残っていやがるか」


 クズ共の前に立った俺は、目の前に広めの防御結界を展開した。

そして超高速飛行魔法を使い突進する。

音速を遥かに超える超スピードのタックルだ。

如何に精強を誇る帝国軍でもひとたまりもない。

一瞬で、1,000匹のクズ共がバラバラに粉砕される。

一匹たりとも逃がさぬよう、何度も往復し念入りにブチ壊してやった。


 身体能力の強化を施す。

五感を特に強化する事で、生き物の気配を察知する。

そうするとやはり何匹か息がある奴等が見つかった。


 夥しい死体が彼方此方に散らばっているし、生き残りの止めと消毒を兼ねて俺は極大の火炎魔法を放つ。

周り全てが火に包まれ、そこに風魔法で酸素のみを送り込んでやる。

そうする事で燃焼が加速され、大きな火柱が上がる。

死んだクズも生き残ったクズも纏めて焼却処分をした俺は、帰路へと就いた。

犠牲者を弔うために。


 強化された身体能力を用い、辛うじて原型の残った実家の広場に、犠牲者を集める。

親父、お袋、昔からの馴染みや、子供達の遺体を一人ずつ、確認する。

その中にはカレンの姿もあった。


「……すまない、ロッズ。皆……」


 トールや他の残った領民達と、犠牲者を弔う準備をする中で、ジャックだけは見つからなかった。

もしかしたら、帝国兵を攪乱した後、何処かに潜伏しているかもしれない。

俺はトール達に後を任せ、ジャックの捜索に出た。


 より五感を集中し、山の中を走る。

此処は俺達の庭のような所だ、それにジャックとは長年の付き合いだ、アイツならどうやって帝国兵を誘導するか分かる。

かくれんぼも良くやった。

あの時と違い、今回はチートってズル使ってるからな、直ぐ見つけてやるよ。


 僅からながらも期待を込めて山の中を駆ける俺の前に、どうしようもない現実があった。


「ジャック……」


 既にジャックは事切れていた。

その近くに帝国兵の死体が転がっている。

相打ちだったのか……。


 俺は帝国のゴミを魔法で粉砕し、そのまま消し炭にした。

そうしてジャックの遺体を背負い、山を下りた。


「重てーな、ジャック……」


 初めて会った時は俺よりチビでガリガリだったのに、いつの間にか俺よりもデカくなってるんだもんな。

しかも、めっちゃマッチョになってさ。

高身長イケメンで頭の回転も速く、周りに気を配れる優しい性格のジャックは領内でも人気者だった。

一時期それに嫉妬はしたけど、ジャックの人柄もあってそういう気持ちは無くなった。

そんなジャックだからこそサンディとの仲も祝福出来た。

子供も間も無く産まれ、これからだって時に……。


「なんで死んじまうんだよ……お前……」


 涙が止まらない。

隣国との取引も上手く行って、これからもっともっと領内は発展するはずだった。

弟のエルヴァンが後を継いで、両親はのんびり隠居して、ロッズとカレンも結婚して、お前達は二人目か三人目を授かって、領民の皆が笑って過ごせるようなそんな時が来るはずだったのに……。

全て奪われた。


 生き残った者達で死んだ皆を見送る。

ジャックの遺体を見たサンディは、取り乱すことなく、ただ静かに泣いていた。

皆の葬儀を終え、俺達はまず、領の立て直しをすることにした。

今は悲しみに伏せるよりも、身体を動かさないとやっていけないからだ。

そうした中、突然それは起こった。


「若、サンディが産気づきました」


「なんだと?!」


 既に臨月に近かったサンディだったが、このタイミングで破水した。

俺は直ぐに作業を止め、サンディの元に駆けつける。

だが、男の俺に出来ることなど無く、ただ右往左往しているだけだった。


「若はお湯を用意してください。それと清潔な布を!」


 そう言われて俺は、川から水を汲みに行った。

井戸はあのクズ共に破壊されていたからだ。

大量の水を汲み、お湯を準備する。

更に魔法で水を沸騰させ、布を煮沸消毒する。

出来る限りの事の準備はしたが、いざ出産となると俺はまるで役に立っていなかった。


 苦悶の声を上げるサンディと、彼女を必死に励ます女性達。

彼女達の中に産婆の経験がある者がいたのは僥倖だった。

俺は何も出来ずただ、サンディを励ましてやれと言われ、そこに居るだけだった。


 情けない……。

1000匹のクズ共を一掃できる力を持つ俺が、ただ此処にいるだけで、サンディに声を掛ける事しか出来ないなんて。

己の無力感と、苦悶の声を上げるサンディに焦燥感を抱くだけだった。

どれくらいの時間が経ったのか。

遂にその時が来た。


 大声で産声を上げる赤ん坊。

その声を聞いて俺はへたり込んだ。


「産まれた……」


 赤ん坊を産湯に浸ける女性陣をただ茫然と見ていた。

そして赤ん坊はサンディの腕に抱かれていた。


 サンディの腕に抱かれ眠る赤ん坊。


「ほら、抱いてあげて」


 サンディから赤ん坊を受け取る。

壊れないように、そっと、そっと抱き上げる。

眠る赤ん坊の顔を見た時、俺の目から涙が溢れた。


「ジャック……産まれたぞ! お前とサンディの子供だ!」


 天を見上げ亡き親友に子供の生誕を告げる。

絶対にこの子を守る。

この子も、サンディも、生き残った領民も絶対に守る。

皆を脅かす者達を、皆殺しにしてでもだ……。





 魔導帝国新皇帝、グラードは苛立っていた。

クルツ王国殲滅の為に派遣していた、ゼンツ率いる帝国軍からの定時連絡が途絶えてから、幾らかの時間が経っていたからだ。

あの程度の国に敗れる様な事は無いだろうし、いくら殺戮をしようとそれは構わないが、戦果の一つも送らないのは問題だ。

まさか本当に苦戦しているのか?


「ふん、まさか最初の一歩で躓いているとはな」


 呆れと苛立ちから強めの口調になる。

クルツ王国を滅ぼすのは、彼の最愛の伴侶である、アグネスを長年無能な王太子の婚約者として縛り付け、彼女を苦しめていたそのツケを支払わせる為だ。

ただし、これはあくまで理由の一つで切っ掛けに過ぎず、彼本来の目的は世界征服にある。


 長い寿命と極めて高い魔力、強靭な肉体を持った魔人である彼等は、時の宗教国であるマシュー神聖国家に魔族と認定された。

マシュー神聖国家主導の元、世界の敵として、遂には数十万の兵に囲まれるも、若き先帝率いる魔導帝国軍はそれを打ち破った。

この戦いでマシュー神聖国家は急激に求心力を失い、帝国は周辺国を支配下に収める事になった。

それから世界各国は魔導帝国を恐れ、決して彼等に危害を加えないようになった。


 一方魔導帝国も、実は無傷ではなく、表立ってはそう見せなかったが、内面はボロボロであった。

長命種故に繁殖力が低い為、国の立て直しに長い時間を要する事になった。


 先帝バルザックは自身に代わる後継者を望んでいたが、中々現れる事は無かった。

そして力も衰え始めたその時、帝国に麒麟児が誕生する。

それがグラードだった。


 圧倒的な魔力と明晰な頭脳、強靭な肉体を持つグラードは、先帝の期待を大きく上回る成果を出していた。

このグラードが皇帝として即位した時、魔導帝国はこの世界を制するだろうと先帝は思った。


 当のグラードも自分こそがこの世界の頂点に立つべき存在であると自負していた。

そんな彼だが、悩みがあった。

至高の存在である自分に相応しい伴侶の不在である。

帝国内にも力と美しさを持つ令嬢は多数いたが、どれもグラードの目には適わない。

皆、グラードの前にひれ伏すからだ。

求めるのは自身の隣に立つべき伴侶であり、足元で蹲る有象無象ではなかった。


 そんな彼は遂に出会ってしまった。

自分に相応しい伴侶と。

彼女はクルツ王国から魔導帝国に留学に来ていた、公爵令嬢だった。


 公爵令嬢らしく、美しく気品に溢れたその姿と、深き英知。

そして只の人の身でありながら帝国民を凌駕する魔力の強さ、美しさに目を奪われた。

彼女こそが自分が探し求めていた女性だと、グラードは確信する。

そんな彼だったが、直後に冷や水を浴びせかけられる。

彼女は既に誰かの婚約者だったからだ。


 考えてみれば当たり前の話だ。

公爵令嬢という身分の者が、婚約をしていないなど普通にありえないのだから。

だが、その程度の事で諦めるつもりは無いし、いざとなれば力尽くで奪う事も可能だ。

まぁ、それは最終手段である。

まずはどういった手段で、彼女を手に入れるかだ。


 それからグラードはあらゆる手を使って彼女やその周りの情報を調べた。

それによると、彼女が幼い頃、クルツ王国の王太子と婚約を結ぶも、その男とは不仲であるという事だった。

王太子の方が彼女を遠ざけているという話である。

何とも馬鹿な男がいたものだと呆れたが、グラードは直ぐに看破する。

彼女が余りに優秀過ぎるが故に、王太子は劣等感を刺激され、結果彼女との仲が上手く行かないでいる事を。

ならばそれを突く事で、合法的に彼女を手に入れる事が可能であると気付いた。


 それから交換留学生という形で送り込んだ部下達に、工作を命じた。

王命である以上は、本人達の意志でこの婚約を破る訳にはいかないだろう、普通ならば。 

やる事は単純だ、馬鹿な王太子の劣等感と承認欲求を増大させ、婚約関係を破綻する方向に持っていくだけだ。

丁度良く、あの男の周りにおかしな小娘が纏わり付いているという。

態々こちらから捻じ込む必要もない。

部下を使い、それらを煽っていくだけだ。


 そしてクルツ王国で行われた学園の卒業式にてそれが起きた。

婚約関係を破綻させる所まで行くとは思っていたが、式中で婚約破棄をやらかすとは予想外だった。

だが、問題ない。

直ぐに馬鹿共の主張を真っ向から否定してやった。

そして多少早いが、アグネスにその場で婚約を申し込み、劇的な展開でもってその場を収めたのだった。


 そして今に至る。

クルツ王国への侵攻は、世界征服の為の足掛かりに過ぎない。

なのに、そろそろ中央である王都の陥落の報が届いてもおかしくないはずなのに、未だ何の連絡も来ないのであった。

荒廃した王都にアグネスと赴き、馬鹿共に身の程を知らせてやろうかと思っていたのだが、これでは埒が明かない。

しびれを切らしたグラードは自ら軍を率い、クルツ王国へと乗り込もうと、帝国の重鎮達を集め会議を行っていた。


 グラードは知らなかった。

野望の為に踏み出したその第一歩に、超特大の地雷が埋まっていた事に。

魔導帝国を消し飛ばす程の、怒りと憎悪を纏った破滅の化身が間も無く帝国に現れる……。


 



 サンディの出産が何とか無事に終わった。

領内の復興と、生き残った者達が何とか住めるよう、俺は尽力した。

雨風や外敵を防げるような結界魔法を、長時間展開できるように設定し、建物も何とか使えるレベルに建て直した。

創造魔法とかそういうチートがあれば一瞬だが、残念ながらそういう力は無かった。

自分を最強チート転生者だと思っていたが、こうしてみると出来ない事は沢山ある。

出産の時なんて何も出来なかったし。

正直自信が無くなる。

そう凹んでいる俺をサンディが励ましてくれる。

自分だって本当は辛くて仕方が無いのに、子供を守る母として気丈に振舞っている。

他の皆もそうだ。

俺だけがヘタレている訳にはいかない。


 それから少しして、ロッズが帰って来た。

ノーマン領の惨状と、カレンの死を伝えた時のロッズの顔が忘れられない。

昼間は領の復興の為に働いてくれているが、夜はカレンの墓の前で泣いているのを知っている。

なんて声を掛けていいのか分からなかった。


「これから魔導帝国を襲撃してくる」


 朝、俺は皆の前でそう宣言した。

流石にその宣言に皆驚いたが、俺は構わず話を続けた。


「最初に来たクズ共は俺が全て塵にしてやった。だが、恐らくは後続の軍を派遣してくる恐れがある」


 そう言うと、領民は恐怖と怒りで顔を顰めた。

また、奴らが来るのかと。


「だから、そうなる前に奴等を潰す。徹底的にな。二度と此処が襲われるような事は無い」


 そういう俺に対して、トールは心配そうに聞く。


「若……大丈夫なのですか? 若の力は私も存じております。ですが魔導大国に単身攻め入るなど自殺行為です!」


 相手は世界最強の軍事国家だ。

幾ら俺がチートだからと言って、一人でどうにかなるなんて思えないのだろう。


「大丈夫だ。問題ない」


 俺は何でもないかのように応える。


「今、俺の力はかつてない程に高まっている。それこそこの大陸全土を焦土と化すことも出来る程にな」


 そう言って我ながら凶悪な笑みで、


「俺はあのクズ共を許さない。全て殺す。老若男女全てな」


 魔導帝国抹殺を此処に誓った。

俺の誓いを受け、トールも折れたようだ。


「安心しな。ちゃんと戻ってくるよ。まだまだやらなければならない事が沢山あるんだからな」


 そう言って旅立とうとする俺の前に、2つの影が揃う。

サンディとロッズだ。


「行っちゃうんだね。アル……」


「ああ、また帝国軍が此処に押し寄せてくるかもしれないからな。元を叩いてやる。安心しろ。お前達に危害を加えようとするクズ共を殲滅してくるだけだ」


 何かを言いたげなサンディだったが、結局は何も言えずに口を噤んだ。


「アル兄ぃ……俺も連れてってくれ! カレンを、仲間達を殺した帝国が許せないッ!」  


 今までのロッズとは全く違う、昏い目でそう言った。

敵を討ちたいのは分かるが……。


「悪いが俺の飛行魔法は一人用なんだ」


「でもッ!!」


 食い下がるロッズだが、連れて行くわけにはいかない。

ロッズの力は実の所、並では無い。

もしかしたら、帝国兵ともやり合えるくらいの腕前はある。

だからこそ、此処に残って貰う。


「俺が不在の間、お前には此処を守っていて欲しい。最近は減ったが、魔獣共が湧いてくるかもしれんからな」


 魔獣とは、所謂モンスターだ。

過去に随分と狩ったが、絶滅した訳ではない。

守り手の殆どが亡くなってしまった現在、領を守れるのはロッズだけだ。


「留守を頼む」


「…………わかりました」


 忸怩たる思いだろうけど、魔獣共の事を考えると俺に付いて行く事は出来ないとロッズは理解した。


「じゃーな、行ってくる」


 そう言って俺は、皆の元を去った。


 ロッズに言った事は嘘じゃない。

だが、それだけじゃなかった。

帝国での俺をあまり見られたくなかったからだ。

皆の手前、表に出さなかっただけで、俺の中では煮え滾るマグマのような怒りと憎しみが渦巻いていた。

もう、男爵領は見えない。

だから、隠す必要なんてない。

この怒りと憎しみのまま、帝国の汚物共を綺麗に処理してやる……。


 進軍ルート上を飛びながら地上を注意深く見ていたが、どうやらまだ帝国軍の第二陣は出ていない様だ。

それに少し安堵する。

いた所で殲滅するだけだが、入れ違いにならなくて何よりだ。

超高度を飛ぶ俺は帝国の警戒網に引っ掛かることなく、中心部の帝都へとあっさり着いた。

帝都を見渡すと、一発で分かるくらいに分かり易い、城が見えた。

あそこが、クズ共の総本山な訳だ。

直ぐにでもぶっ潰したい処だが、我慢する。

帝都全体を見渡し、あらゆる施設を確認しなければ、効率的にぶっ壊せないからな。


 確認も終わり、後は超広範囲爆撃魔法でも打ち込んでやれば、終わる。

だが、それだけでは気が済まなかった俺は、敢えて城に殴り込みを掛ける事にした。

訳も分からないまま終わるなんて、そんな楽な死に方をさせたくなかったからだ。

軍のクズ共は怒りに任せて速攻で絶滅させてやったからな。

今度はもう少しジックリと復讐してやる。


 城の形状から察するに、あそこに玉座がありそうだ。

俺はそこに突貫する。

居なければ居ないで、城内を荒らして誘き出せばよい。

そう思っていたが、ビンゴだった。


 玉座に踏ん反り返ってる奴がいた。

他にも何だか偉そうな奴らが揃っている。

我ながらナイスタイミンングだ。


「よーう、初めまして、クズ共。てめーらを皆殺しに来てやったぞ」


 心の底から侮蔑を込めて宣言する。

クズ共は突然の爆発と共に現れた俺の姿に大分、泡を食っている様だった。

そんな中、一人の騎士っぽいのが俺に斬りかかる。

判断が早いな。

少し感心したが、所詮はクズだ。

速やかに処理をする。

極限の身体強化を施した俺にとって、クズの剣を躱すことは容易い。

剣を躱し、カウンターを決める。

強化と防御結界を纏った俺の拳は、一撃でクズの頭を粉砕した。

ふん、他愛無いな。


 騎士っぽいのを屠った俺に、魔法攻撃が放たれた。

尤も、既に防御結界は発動しているので問題ない、全て防ぎ切った。

土埃も収まった所で、まったくの無傷な俺に、先程魔法を撃った魔導士は驚愕の表情を浮かべる。

すぐさま次の魔法を撃とうと、詠唱をしていたが、遅い。

俺は指をピストルの形にし、無詠唱で魔弾を放つ。

マシンガン並みの高速連射された魔弾を全身に受け、穴だらけになって魔導士は倒れる。


 さっきの騎士っぽいのといい、魔導士といい、随分と手応えが無いな。

アッサリと死にやがった。

いや、今の俺が強すぎるのか。

ちょっと前の俺だったら苦戦していたかもしれない。

軍を粉砕したり、多分実力者っぽい奴等を瞬殺するなど、昔憧れた俺TUEEEEEってのを体験したが、思っていたよりもつまらないな。

ま、いっか。

お偉いさんっぽいのは、俺の起こした惨劇に顔が青褪めているし、しっかりと恐怖を味わってくれよ?





 グラードは戦慄していた。

玉座の間に重鎮達を集め、クルツ王国の侵攻の遅延に対して、叱責をしようとしていたその時、爆発と共に何者かが現れた。

その者は不敬にも、自分達を皆殺しにしに来たと宣った。

単身、帝都の皇城に乗り込むその胆力は中々のものであったが、流石に大言壮語が過ぎた。

賊を排除しようと、近衛騎士団長が斬りかかる。

彼はグラードの剣の師匠でもあった。

今でこそグラードが上回っているが、嘗ては帝国一の剣技と謳われたその必殺の一撃は、賊を一刀両断するだろうと思っていた。

だが、次の瞬間、近衛騎士団長の頭部が吹き飛んでいた。

信じられない事だった。

グラードの目を以てしても、その動きを完全に捉えることが出来なかった。


 次いで、宮廷魔術師が賊に対して魔法を放つ。

高速詠唱による連続魔法攻撃だ。

彼もまた、グラードの魔法の師匠であり、嘗ては帝国一の魔導士でもあった。

凄まじい破壊力に、粉塵が巻き上がる。

あれを受けきれるのは、帝国でもグラード一人であろう。

それ程の攻撃魔法を受けたのにも関わらず、賊は全くの無傷であった。


 宮廷魔術師は、その様を見て驚愕に目を開くも、すぐに立て直し高速詠唱を始めた。

が、それよりも早く、賊が突き出した指先から放たれた魔弾が宮廷魔術師を蜂の巣にしていた。


 数分にも満たない僅かな時間で、この国の最高戦力が殺された。

この悪夢のような事実に、流石のグラードも心胆を寒からしめた。

重鎮達も恐れおののいている。


「……馬鹿な……」


 そう呟くのが精一杯だった。

それから間も無く、賊は何かしらの魔法を発動させた。

攻撃用の魔法ではない。

これは防御魔法……結界か?

玉座を覆う、ドーム状の結界が施された。

これは守るためのものではなく、恐らくは……。

そうグラードが思案したところで、


「もう逃げられねーなぁ!」


 狂気じみた笑みを浮かべながら、賊は言う。

やはりこの結界は我々を閉じ込める為の物であったかと、グラードは察した。

相当に強固な結界だ。

騒ぎを聞きつけ、兵が来ようともそう簡単に突破は出来ないだろう。

その間に、此処にいる全員を始末するという訳である。


「舐められたものだな……」


 賊の意図を察したグラード。

だが、彼も自らを世界最強と自負し、実際にそれだけの力を持つ。

重鎮達も過去の大戦を生き残った猛者だ。

最高戦力の2人を倒したからと言って、良い気になるなと、玉座から立ち、一歩踏み出そうとしたところでソレは起きた。


 素晴らしい反応速度で防御結界を発動させる。

凄まじい轟音が響き、粉塵が舞い上がる。

辛うじてソレを防ぐことが出来たが、場が落ち着いた時、眼下に移った光景は惨憺たるものであった。


 重鎮達は皆、先程の攻撃らしきものに反応できず、手足が吹き飛ばされていた。

不甲斐ないと一喝したい処ではあったが、グラードですらガードするのが精一杯だったのだ、無理のない話であった。

この惨状に、賊は大笑いしている。


「あっはっはっはっは、情けねーな。真面に反応出来たの、そこの皇帝っぽい奴しかいねーじゃねーか。さっきのクズ共といい、本当にお前ら、世界最強国家なのかー?」


 嘲りと侮蔑をこれでもかと込めた挑発に、グラードは思わず乗りそうになる。

だが、隣にいる最愛を置いてはおけなかった。

賊の強さは想像以上であった。

グラードですら、攻撃方法が分からなかった。

魔法の発動ではあったが、それがどういう魔法なのか見当もつかなかった。


 実の所、アルフレッドの使った魔法は至極単純な物であった。

そこらに転がっている石礫を、飛行魔法を用いて超高速で飛ばす、ただそれだけの話だった。

あまりに単純すぎて、逆にそれが盲点になっていた。

加えて、石ころを飛ばすだけにしては威力が高すぎる所もある。


 アルフレッドに聞けば、『例え石ころでも超音速で飛ばせば、威力なんてそこらの魔法より上だろ』と言うだろう。

敵の手が分からない以上、下手に動けないグラードを尻目に、アルフレッドは苦しむ帝国重鎮達に止めを刺す。

炎魔法による焼却だった。

即死しない様、火力を抑えた為、炎に包まれた重鎮達は苦しみ、藻掻きながら死んでいった。

悍ましい断末魔と、肉の焼ける嫌な臭いに、アグネスは口元を抑えていた。


 グラードは決死の覚悟を決めた。

目の前の敵は、嘗てない程の恐ろしい存在である事を認識した。

愛する者を守るため、一切の油断と慢心を捨て、グラードは目の前の敵に対峙する。


 そんな悲壮な決意を持って立つグラードを、アルフレッドは心底見下した目で見ていた。





 クズの焼ける悪臭と耳障りな音が響く。


「チッ、うっせーな」


 防音の魔法とか使えれば良かったな。

まぁ、いいか。

クズ共の総大将サマが玉座から下りて来た。

隣にいた女は防御結界を張ってるようだし、巻き添えを気にしてんのか?

心配しなくても皆殺しなんだがな。

つーか、あの女、クソバカ王太子に婚約破棄されたマヌケか。


 考えてみれば、発端はクソバカ王子とこのマヌケの婚約破棄なんだよな……。

そこにこのクズが出て来てアレコレだったんだっけ。

全くもってムカツク話だ。

コイツ等の痴話喧嘩のとばっちりで俺達の故郷は潰されたんだからな。

ああ、許せねえな。

また一段と怒りが膨れ上がるのが分かる。

先ずは目の前のクズ大将をブチ殺すか。


 そう思っていた矢先、クズ大将が魔法を放ってきた。

さっきの奴よりは鋭いが、どうって事は無いな。

俺は防御結界を纏った右手で、攻撃魔法を打ち払った。

牽制の為に放った魔法がまるで意味を為さなかった事に、驚愕の表情を浮かべるクズ大将。

だが直ぐに表情を引き締める。

真面な打ち合いでは不利だろうから、牽制してから近接戦闘を仕掛けるつもりだったのかね?

まぁ、どうでもいい。

一々尋常な勝負とやらをするつもりは無い。

礫を飛行魔法で飛ばす。

クズ大将はそれを搔い潜り、剣の間合いまで一気に詰めた。

その一撃は最初の奴よりは速い。

一歩前に出て躱さずに片手で受け止める。

素手とは言え、防御結界を纏っているし、受けた所は鍔元だ。

これでは大して威力は出ない。


 鍔迫り合いみたいな状態になるが、すかさず俺は、空いた手でクズ大将の腰のベルトを掴んだ。

そのまま体ごと入って相撲の何とかって投げ技をイメージしてブン投げ、地面に叩き付けた。


「ガハッッッッ??!!」


 受け身を取れずに地面に叩きつけられたクズ大将は、一発でグロッキーになったようだ。

ま、今の俺に投げられたら、常人なら即死ものだ。

全身に広がるダメージで起き上がれないクズ大将に、俺はとっておきの魔法を使った。


 魔力強制燃焼魔法だ。

ゲームでいう所の、MPダメージ攻撃と言える。

この世界の魔獣は、兎に角デカくて強い。

筋力と骨格が頑強だからというのもあるが、それだけでは説明できない強さがあった。

その強さの秘密、それは魔力だ。

魔力によって常時強化状態だからこそ、アイツらはデカくて速くて強かった。

んじゃ、その魔力が無くなったら?

言うまでも無いな。

身体のデカさに、筋力と骨格が追い付かず、パワー半減どころか下手すると自滅する。

この魔力強制燃焼魔法は、対魔獣用の俺のオリジナル魔法だ。

人よりも高い魔力を持った魔族は、逆に言えば魔力の依存度も人より高いハズ。

俺の予想は大当たりで、強制的に魔力を燃焼させられたクズ大将は、大声で悲鳴を上げる。

そしてスッカラカンになったクズ大将は、見た目が随分と老けたようだ。





 アルフレッドに対峙したグラードは牽制の魔法を放つ。

先程の魔法を見る限り、撃ち合いは不利である。

流れ弾がアグネスへ向かう危険性も考慮しなければならない。

ならば近接戦闘で仕留めるしかない。

それでも近衛騎士団長を倒すほどの腕前だ、簡単にはいかないだろう。

そう思っていたが、まさか片手で魔法を弾くとは、グラードも予想していなかった。

牽制とは言え、一発一発が鎧を着た兵士を粉砕する程の威力を持つというのに。


 化け物染みた力に驚愕しつつも、気を引き締め接近戦を挑む。

渾身の一撃を、またも片腕で受け止められる。

両腕で斬りかかったのにビクともしない。

一端離れ、間合いを取ろうとした時、腰のベルトを掴まれた。

何をするかと思った瞬間、グラードは地面に叩きつけられていた。


「ガハッッッッ??!!」


 今までにない衝撃に体が痺れて動かない。

決定的な隙を晒してしまった所で、勝負が決まる一撃がグラードを襲った。


「ぎゃああああああああああああああッッッ!!!!」


 全身が焼かれ、引き裂かれるような痛みがグラードを襲う。

嘗てない程の苦痛に、流石のグラードも悲鳴を上げる。

実際の経過時間はそこまででもなかったが、グラードにとっては延々と続く、地獄の如き苦痛だった。


「あ……が……」


 息も絶え絶えといったグラード。

一気に魔力を燃焼させられた結果、グラードは別人の様になっていた。

肌や髪がガサガサになり、まるで老人の様に萎んでしまった。

魔族は長命で、肉体的にも頑強であるが、それは生まれ持った魔力の影響が極めて大きい。

この魔力こそが、魔族が魔族たる所以である。

魔力依存度が高い魔族が、強制的にそれを燃焼させられた結果、残ったのは搾りかすのような肉体だった。


「あ……ぐ……」

 

 もはや息も絶え絶えのグラードに、アルフレッドが止めを刺そうとしたところで、悲痛な声が上がる。

グラードの最愛、アグネスが駆け寄って来たのだ。


「もう、お止め下さい! どうか、どうかお慈悲を……」


 グラードを庇うように前に立ち、頭を下げ必死に懇願するアグネス。

公爵令嬢でもあり、この魔導帝国の妃にもなる、アグネスが恥も外聞もなく、愛するグラードの為に敵に命乞いをしているのだ。

高貴なる者がこうして頭を下げるという事は、大きな意味がある、本来ならば。


 だが、アルフレッドにとってはそんな事は心底どうでも良かった。


「ああッ!? てめーら、クズ共が頭下げた所でどうにかなる訳ねーだろ? オイ」 


 と、このように全く意に介さない。


 アグネスの顔が絶望に歪む。

どうあっても許されない。

命懸けの懇願も全く意味を為さない。

残された道は、絶対的な死だけであった。





 目の前で這い蹲るクズ共が、いい加減目障りになった。

とっとと焼却してやろうとした時に、


「何故……何故このような惨いことを為さるのですか?」


 マヌケがサンディのそれとはまったく違う、不細工な面で抜かしやがる。


「テメーらクズ共が俺の故郷を滅ぼした。俺の大切な領民達の命を奪った。だから復讐に来たんだよ、マヌケが」


 イラつきながらもちゃんと答えてやった。


「クルツ王国の辺境にあるノーマン領だ。てめーも元公爵令嬢サマなら、名前くらいは知ってるだろ?」


 俺の言葉に対し、マヌケの元公爵令嬢は困惑した顔になる。

ああ、名前すら知らねーのか、それとも覚えていないのか。

いや、別にそれは仕方が無いだろう。

俺だって前世の日本の都道府県はともかく、市町村なんて知らん方が多い。

だから仕方が無いで済ませてやる。

だが、


「ハッ! 中央にいた奴にとって、俺達辺境の弱小貴族の事なんて心底どうでも良かったんだろうな。だから、踏み躙る事に何とも思わないのか」

 

 ワザとらしく溜息を零しながら語る。

そんな俺にマヌケは、


「そんな……違います。そんな事はありません! 私達は常に民の安寧を願って……」


 そう抜かすマヌケの綺麗事をシャットアウトしてやる。


「じゃあ何で俺達のノーマン領に攻め込んだんだよ、クソボケがッ!」


 激高する俺にマヌケは押し黙る。


「そもそも婚約破棄とか上のゴタゴタなんて知った事じゃねーんだよ、俺達にはなッ!!」


「税金を取るだけで何の助けも無い中央なんぞ、とっくに愛想を尽かしている!」


「此処のクズ共が中央のクソバカ共を皆殺しにしたって心底どーでもいいッ!!!!」


「俺が許せねーのは、関係無い俺達の故郷を滅ぼし、領民達を殺した事だッッッ!!!!」


「どーせ、中央に対する見せしめを兼ねての行動だったんだろ? そんな軽い気持ちで俺達の故郷を滅ぼした。この世界では自分達が強者だっていう傲慢さを持ってるが故になぁ!」


「だから、より圧倒的な強者である俺が! てめーらクズ共を皆殺しに来たんだよ」


 俺の言葉に血の気の引いた顔で絶句するクズ共。

軽い気持ちで侵略した結果、踏み躙った地で俺という特大の地雷を踏んじまった事に気付いたようだ。


「中央だけやってれば、こんな事にはならなかったのになあ?」


 怒りと憎しみ、侮蔑と嘲笑を込めて、クズ共のやらかしを突いてやる。

絶望に歪むマヌケの前に、息も絶え絶えなクズ大将が寄って来た。


「私の首をやる……だから、我が妻と、帝国民の命だけは……」


 自らの命を掛けて、伴侶と国民の命乞いをするクズ大将。


「グラード様……貴方を亡くしては私も生きてはいけません。どうか一緒に……」


 で、雁首揃えて命を差し出そうとするマヌケ。

普通の人なら美しい愛の物語だー! って感じな感動的なシーンだろうな。

だが、俺には陳腐な三文芝居にしか見えん。


「馬鹿か? テメーらクズ共の命と、俺の大切な者達の命が等価な訳ねーだろッッッ!!!!」


 一蹴してとっとと滅ぼすか。

いい加減、本気で目障りだ。

俺は火炎魔法を放った。


 マヌケが咄嗟に防御魔法を張ったようだが、その程度の防御に意味は無い。

魔法そのものは防げても、熱までは完全にシャットアウト出来ないからだ。

数千度を超える熱によって蒸し焼きになって終わりだ。


 炎が収まり、其処には2匹の焼死体が転がっていた。

それを確認した所で、結界を解く。

すぐさま、クズ共が乗り込んできたが、問題ない。

爆裂魔法で全て吹っ飛ばす。

断末魔すら上げることなく、雪崩れ込んだ有象無象は消し飛んだ。


 その後俺は、飛行魔法で城に入る時に開けた穴から外に出る。

そして帝国の上空に飛んだ俺は、極大の破壊魔法を展開する。

皇城で起きた爆発に、クズ共が慌てふためいている。

先ずは真下の城に破壊魔法を落とした。

凄まじい爆発は、半径百メートルを一瞬で更地にする。

これによって、クズ共は益々パニックに陥ったようだ。

更に、連続で破壊魔法を打ち込む。

前世の漫画の様に、帝国の彼方此方に撃ちまくった結果、帝国は跡形もなく消え去った。


 「ふん、漸く片付いたな」


 完全に破壊され、更地になった土地を確認し、俺は帰路に就いた。





 ノーマン領に戻った。

帝国を滅ぼす際に撃ちまくった、極大破壊魔法の余波が此処まで届いたそうだが、そんな化け物染みた俺を領民達は暖かく迎えてくれた。

サンディには、五月蠅くて赤ちゃんが泣きだしたと怒られた。

 

 中央は、帝国が攻め入るという話でゴタゴタしていたようだが、帝国軍が忽然と姿を消した事、更に本国が消滅した報を受け、安堵している様だった。

滅ぼされた俺達の故郷と近隣の領については、ノータッチだった。

中枢のクソバカ共も事の発端なので、落ち着いたら目にもの見せてやる予定だ。


 マシュー神聖国家という落ち目の宗教国家が、帝国消滅を神の奇跡だ、神罰だとほざきながら、魔族打倒を表明したらしい。

帝国の支配下にあった諸国がこれに呼応し、大陸全土で魔族狩りなんぞをやっているそうだ。

 

 これを契機に、嘗ての力を取り戻していったらしいが、調子に乗って俺達の所で霊感商法みたいな怪しげな行動を起こしたり、領民に危害を加えたので、首都に神罰とやらを喰らわしてやった。

結果、神の裁きを受けた悪辣なカルト国家と認定されたマシュー神聖国家は急激に衰退し、解体された。

帝国の圧政から解放された諸国は、何にもない更地の帝国領土を巡って年中ドンパチをやってるそうだ。


 俺は残った領民と、帝国軍の被害にあった他の村や領民を搔き集めて、復興作業に従事した。

ノーマン領の民だけじゃあ、人数が少なすぎるからな。 


 暫くして、弟から手紙が届いた。

王都で起きた婚約破棄から、帝国の進軍の噂についての内容だった。

俺は直接、中央の弟の元に飛び、詳細を話した。

弟は泣き崩れたが、残った領民達の為にも、学園で学び、立派になって帰ってくると約束した。


 それから数年が経った。





「ただいま、戻りました」


 弟のエルヴァンが学園を卒業し、ノーマン領に帰って来た。

俺は飛行魔法を使って、何度か直接会いに行っていたが、エルヴァン自身は学園のある中央に留まって居た。

弟なりの決意の表れである。


 ここ数年で、ノーマン領は復興していた。

人口の殆どは別の土地から来た者達だったが、今は領民として纏まっている。

特にトラブルなく落ち着いたのは幸いだった。

焼け出された人達に対しての、中央からの人道的支援は無かった。

なので行き場の無かった民を俺達が拾い、一緒に復興の為に頑張ったのが良かったのだろう。

ノーマン領も大分荒らされていたが、ジャガイモは完全には潰されておらず、収穫できた為、食糧問題がそこまで深刻化しなかったのは僥倖だった。


 因みに滅ぼされた所はノーマン領以外は、中央の管理下に入った。


 何もしない中央に、完全に見切りを付けた俺達は隣国の商会と取引をし、利益を上げていた。

漸く形になって来た所で、中央のクソバカ共が介入してきた。

税金以外にも、まあ色々と要求してきやがった。

エルヴァンも無事に帰って来たし、俺が我慢することなどない。

俺は中央のクソバカ共に積年の恨みをぶつけに行った。


 以前と同じく、クソバカ共が集まっている城に襲撃を掛けるべく、中央へ向かった。


 弟から中央の情報は得ているからな、簡単だった。

偉いさん方の前で、何人かの騎士やら魔術師を血祭りに上げると、皆ビビリ散らかしやがった。

更に城を吹っ飛ばし、遠方の特に何もない地に破壊魔法をブッパした所で、俺がクズ帝国とカルト国家を滅ぼした張本人だと伝えてやった。

どいつもこいつも無様に命乞いをしてきやがった。

こんなのが今まで俺達の上にいたと思うと、情けなくて涙が出そうだった。


 気を取り直し、嘗ての婚約破棄の元凶であった、バカ王子とクソビッチの事を聞いたんだが、既に死亡していたそうだ。

バカ王子は幽閉後、病死という名の毒殺、ビッチは処刑されたんだとさ。

直接手に掛けられなかったのが心残りだったが、まぁいい。

さっさと粛清をするとするか。


 弟は優秀だった。

学生としての本分を全うしつつ、国内の色んな事を見聞きしていた。

そして、汚職などの黒い噂のある貴族共の情報を集めていた。


 その中の一人で、俺達の領地から不当に搾取していたクソボケをジックリと炙って殺してやる。

コイツは勝手に税金を引き上げ、その差額を懐に入れていたマジモンのクソゴミだった。


 粛清をクソバカ共の目に焼き付け脅す。

こうやって死にたくなければ、国内を腐敗させているだろう悪徳貴族共をひっ捕らえろと。

猶予は一か月。

それを過ぎれば、帝国同様この国を更地にしてやると、駄目押しの破壊魔法をもう一発ブチかまして、俺は中央を去った。


「ただいま~」


 中央でやったような声色とは別の、我ながら優しい声で、愛しの家族達に帰還を告げた。


「おかえりなさい」


「とーさま、おかえり~」


 俺を出迎えてくれたのは、妻・サンディと息子のジュニアだ。

去年の頭に、俺は思い切ってサンディに告白をした。

一世一代の大告白だった。


 生活もそれなりに安定してきた事や、やっぱりサンディの事を諦めきれなかった、俺は勝負に出た。


 サンディは随分と驚いていた。

それに俺だったら自分よりも良い女性なんて沢山いるだろう、と俺の告白を断ろうとしていたが、俺は絶対に引かなかった。


「ジャックは俺の生涯の友だし、そんなあいつとお前との間に生まれたジュニアは俺にとっても宝物だ。お前にとって2人が一番であっても俺は一向に構わんッッッ!!!!」


 もう絶対に引かない。

サンディ以外の女と添い遂げるつもりは全くないという事を強調しまくった。


「俺が、お前の全てを愛しているという事実に、一点の曇りも無いッッッ!!!!」


 と、まぁ、熱弁を奮いまくった俺の告白にサンディが遂に折れた。


 こうして俺は目出度くサンディと結ばれた。

ジュニアも赤ん坊の頃から面倒を見ていた為か、俺を父親と認識している。

将来的にはジャックの事も教えてやるつもりだが、ジュニアは俺にとっても大切な息子だ。

家族や領民達の未来の為にも、ここで目障りな輩は排除しないとな。


 一か月が経ち、俺は中央に向かった。


「約束の一か月が経ったが、状況はどうなった?」


 俺の質問に、この国の新しい王太子が恭しく頭を下げ答えた。


「……ハッ。貴殿の命令に従い、リストにあった貴族達は全て捕えております」


 王太子……実は第一王子であり、あのバカ王子の腹違いの兄だそうだ。

弟によると、側室との間に生まれたが、その後に正室からバカ王子が生まれた為、王位継承権を下げられた過去を持つ。

学生時代は、本人が控えめな性格もあってあまり目立っていなかった。

国王が俺の襲撃後、心労で倒れた際、先頭に立って俺の命令を履行したらしい。

なかなか優秀だな。

俺の好感度が少し上がった。


「更に、此方で調査した結果、リストにある者達と同等の罪を重ねた者達を捕縛しております」


「ほー、優秀だな」


 いや、めっちゃ凄いやん。

今ので俺の好感度は爆上がりですよ。


「見事なもんだ。結果如何によっては、此処にいる奴等も纏めて殺処分を検討していたが……、良かったなお前ら。優秀な主がいてなあ?」


 ニチャアっといった擬音が出る様な貌で、俺は周りのお偉いさん方を見回す。

皆、顔を青くしてやんの。


「いいだろう。フレデリック王。アンタに任せる」


 王太子を敢えて王と呼んだ。

その意図を速やかに理解した新しい王様は、


「ハッ、必ずやご期待に沿えるよう、精進いたします」


 頭を下げ、そう答えた。

俺はそれに満足して、踵を返した。





 あれから結構な年月が経った。

フレデリック王は、俺の期待に応えてくれた。

随分とゴタゴタがあったが、そういう時は俺が一発ズドンとかましてやった。

喧しいクソバカを数人、その場で血祭りに上げてやると、全員黙りこくるからな。

馬鹿共にはちゃんと力を見せつけて躾けてやらんとな。


 その点フレデリック王は俺の力を上手く利用してくれる。

あくまで国内の安定化に努め、侵略戦争に俺の力を利用しようとしなかったという事が素晴らしい。

何だかんだで王とはそれなりに親しくなった。


 ノーマン領は弟のエルヴァンが継いだ。

複数の領を統合する事で、子爵領になり、その後も発展を遂げた結果、最終的に辺境伯になった。


 これまでの冷遇が嘘みたいな程に中央から援助を受け、更に辺境伯はやり過ぎじゃないかとも思ったが、国としては何としても取り込みたかったのだろう。

俺の戦闘力を抜きにしても、ノーマン領で採れる作物やその他の製品は国内外でも評判が良いからな。


 エルヴァンは急激に上がる爵位や領地に悲鳴を上げていたが、何だかんだで辺境伯としてやっていってる。

やっぱスゲー優秀だな、我が弟は。


 ジュニアも大きく成長した。

ジャックの面影を残す彼には、色々な事を教えた。

ジャックとサンディ、俺という両親を持ったジュニアは、ノーマン領にて大きな成果を残す程に成長した。


 そうそう、俺とサンディの間にも娘が産まれたんだよ。

これがまた可愛くてな。

目に入れても痛くないって意味、言葉だけじゃなく魂で理解出来たわ。


 そんな可愛い娘のウェンディもお年頃になり、そろそろ結婚も考える時期になった。

そのお相手だが……。


「なんでお前なんだよッッッ!!!!」


 まさかのロッズである。

長年俺の右腕として頑張っていたし、カレンの事が忘れられずに、この歳まで独身だった事には、俺なりに気を使っていたがッッッ!!!!


「いや、ホント、何でなんスかね……」


 ロッズもロッズで困惑気味である。

そりゃあ、赤ちゃんの頃から知ってる娘……親子ほどに年が離れたウェンディが、逆プロポーズを仕掛けて来たんだから、そうなるのは分からんでも無いが。


「ウゴゴゴゴゴゴ……何でなのウェンディちゃん、パパ、わけがわからないよ!」


 年の差婚自体を否定するつもりは無いが、いざ自分の娘がそうなると冷静ではいられないんですよ。


 ウェンディ曰く、何時も明るく朗らかなロッズが、時折見せる影の有る所にキュンと来たそうだ。


「マジかよ~。つーか、ロッズ君よぉぉぉぉぉ~、何でお前、押し切られてるんだよッッッ!!!!」


 割と絶望とマジ切れ状態の俺に対して、


「いや、その、何と言うか……どう言っても引いてくれなくて……」


 んで、お前の方が折れたってか。


「ぐぬぬぬぬ、いや、如何にお前であっても、俺の可愛いウェンディちゃんはぜった、ガハッ!?」


 『絶対にやらぬ!』と言おうとした俺の脳天に衝撃が走る。


「はいはい。そこまでにしなさい。アル」


 サンディが、木刀を片手に出て来た。

いや、俺だから平気だけど、普通の奴なら頭カチ割れるからな、それ。


「サンディ~、何でそんな事言うんだよ~」


 頭を擦りながらサンディに対して、我ながら情けない声で泣き言を言う。


「そりゃあね~、昔あんたに告白された時の事を思い出すと、ロッズが押し切られるのも分かるし」


 え、俺の告白ってそんなだったの?


「何より、私達の娘が見染めた男よ、ロッズは」


 うぬう……そりゃ確かにそうだが。


「だが、パパとして、分かる訳にはいかんのじゃああああああああッッッ!!!!」


 理性で分かっても、心が追っつかない。

可愛い娘が誰かに盗られるなんて、許せるかド畜生!

俺の魂の叫びは、領内に大きく響き渡る。

その後、妻と娘のダブルパンチを食らい、文字通り農業用の溜池に沈んだ俺だった。

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[良い点] 容赦なく皆殺し!最高でした!
[一言] 次は主人公ですね。確かに主人公が復讐するのも当然ですが、主人公のやってる事も悪事である事には変わりありません。ほかの奴らはやらかしのツケを払ったので主人公も自分のやったツケを支払わなきゃ。
[良い点] 最初の部分の展開やストーリー [気になる点] 描写されて無いだけで、主人公に対する恐怖で壊れたり、変な信仰に目覚めたりした領民がいっぱい居そうだなと思いました。 気づいてないだけで身分、…
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