表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

守護の家~山頂から来る何か~

作者: 妖言 幻燈翁

私がオカルトライターをしていた頃にある方から紹介していただいた人物と喫茶店で待ち合わせていた。

その人物は三郎(偽名)さんという方でナイスミドルという感じのスーツの似合う男性だった。

「故郷の事あまり話さないんだけど・・・。」と話してくれた。


------

あの日は「まさかこんな急に帰省する事になるとは・・・」と実家に向けて運転する車内でため息が止まらなかった。

その日の朝に代理人さんから叔父さんが亡くなったという電話を受けてすべての予定をキャンセルして急いで実家に向かっている。助手席で不安そうにする妻に「大丈夫。自分は三男だしまだ実家を継ぐことにはならないよ」と話しかける。「そ、そうよね?」と言う妻に頷きながら頭の中は他の兄弟に実家を継がせる方法を考えるのでいっぱいいっぱいだった。


葬儀場に着き叔父さんの名前を見た時に叔父さんが亡くなった事を実感させられた。

葬儀場には小さな村総出という人数が集まっていた。そのほとんどが老人だ。

俺を見るなり「あら、三郎君。大変だったわね。」とか「ご愁傷様に」とお悔やみを言ってくれる。ペコペコと頭を下げながら進むとそこには暗い顔をした兄弟が揃っていた。


うちは兄弟合わせて5男1女だ。みんなすでに村を離れそれぞれの生活を営んでいる。わかりやすくする為、男兄弟は一郎から五郎、唯一女性の長女を花子と呼ぶ事にします。

長男の一郎が「大変な事になったな。死因は心筋梗塞だそうだ。最近は元気がなかったらしいが・・・。」と声をかけてきた。「ああ、急な知らせで驚いたよ。叔父さんいくつだっけ?」というと花子が「まだ50代。実家を継いでもらって12年にもなるのね・・・」と言った。四郎が「家庭菜園で倒れてるのを新聞配達に来た人が発見したそうだよ」と他人事のように言った。


なんとか葬式を終えるとその日は麓の実家で通夜もかねて一晩過ごす事になった。長男の一郎だけが車で実家に向かっていった。

わかりづらくて申し訳無いが『麓の実家』はさっきから出てくる実家とは別で村の中にある日本家屋で小さい頃自分達はこちらに住んでいた。さっきから話に出てくる実家は山の中腹に有り、周りは木々しか無い。こちらは『実家』と言う事にします。


そして、翌日朝から実家に向かう事になった。向かう道中はみんな口が重かった。

山の中腹にある実家には歩いて行くと時間がかかるが車道が整備されているので車で行ける。

兄弟と村役場の人と代理人さんで役場が貸してくれた小型のバスに乗って実家に向かった。一緒に来ていた俺の妻や兄弟の家族は実家には行かず麓の実家に残る事になった。


沈黙の続く車内で二郎が場を和ませる為か「昨日の夜に小さい頃の懐かしい夢を見たよ」というと花子も「私も久々に両親の夢見た」と便乗した。五郎も「俺は叔父さんの夢を見た」と言った。何故かみんな昔の夢を見ていた不気味さからまた沈黙が場を支配した。

実は俺も昔の夢を見ていた。あれはまだ俺が小学生の時に両親と麓から実家を眺めている時の夢だ。父親が

「お前は前から守護の家って何なの?と良く質問したね。もうそろそろ中学生になるし教えておこう。実家の奥にある山の山頂から来る何かから村を守ってるんだよ。あの家に住む人は守護者と言って知っての通り今はおじいちゃんが住んでる。

え、山頂から何が来るのかって?それはお父さんもわからないんだよ。戦争やお侍さん達がチャンバラする時代よりずーーとずーーーと前から我々は代々あの山頂から来る何かからあの場所で村を守っているんだよ。村の人が私たち家族を見かけると色々と良くしてくれるのはその恩返しみたいなもんなんだよ。守ってくれてありがとうってね。

え、カッコイイから僕もやりたい?でも、大変だよ。旅行にも行けないしなるべく家にいなくてはいけないし・・・。

それでも?うーん、今はおじいちゃんが実家を守ってるしその次は僕だしその後は一郎だろうから三郎はまだ先じゃないかな」

夢を思い出していると車は実家についていた。昨晩実家に泊まった長男が出迎えてくれた。


実家の居間に流れる沈黙を「お父さんお母さんが事故死してから幼い私達には酷だと12年も実家を守ってくれた叔父さんには感謝しか無いわね」と言って花子が破った。

実家に住んでいたおじいちゃんが亡くなったという知らせを受けて両親は実家での生活に必要な物を街まで買いに行く為に車で出かけた。そのまま帰ることはなかった。警察から両親が事故にあったと連絡があって家はてんやわんやだった。

両親が事故死したので兄弟の誰かが実家を継ぐことになる。本当なら長男の一郎が継ぐはずだったが葬式に出席した叔父さんが「若い君達には荷が重いし酷だろう。自分があの家で暮らすよ」と言ってくれたのだ。今回もそんな奇跡を少し期待したがさすがに2回目はなかった。


代理人が「決まりに従って誰かにこの家の守護者として暮らしてもらわないといけない。すでに外での生活があるあなた達にお願いするのは申し訳無いが今日からこっちで暮らしてもらう事になります」と言った。

代理人はこの家を管理してくれている弁護士さんで色々と調整してくれる有難い存在だ。

少しの沈黙の後に五郎が「あの、僕。ここで暮らします」と言った。

血で血を洗う争いを覚悟していた他の兄弟は度肝を抜かれた。

「いや、あの・・・。僕、東京で暮らしてるって言ってたけどそれは数年前までなんだ。投資に失敗して借金抱えちゃって今は違う場所でバイトしながら暮らしてたんだ」と言った。

五郎はパソコンに強い子で東京で財を成して悠々自適な生活を送っていると思っていた。

「あの、駄目かな?」沈黙をどう捕らえて良いのかわからず再確認した五郎にみんな頭を下げ口々にお礼を言った。叔父さんが死んだという連絡を受けてから言い争いの為に用意した様々な言葉が泡のように消えて行くのを感じた。


五郎は住む代わりに携帯とインターネットを使えるようにしてほしいとお願いした。

一緒に来た役人は役場に連絡して「少し時間はかかりますが出来るそうです。」と返事が返ってきた。


そこから兄弟総出で叔父さんの私物を整理をする事になった。気になる物は五郎に残すか聞きながら叔父さんの私物を次々とゴミ袋に入れていった。


整理している最中に俺はある部屋に入った。そこは書斎なのか本棚に小説などが並んでいた。机にはノートが3冊置いてあった。そのノートの表紙には日記と書かれていた。


片付けに疲れていた俺は日記を要るものかいらないものか判断する事を言い訳に椅子に座り日記を読み出した。


日記は実家に移り住んだ日から始まるがかなり不定期で数年開くときもあれば毎日こまめにかいている時期もある。それで12年なのに3冊に収まっている。

日記にかかれているのは家庭菜園、食べ物、テレビ、小説の事ばかりだ。後は村の人が良くしてくれた事などが書いてある。

そして、3冊目に入った時それが目に飛び込んできた。鉛筆で縦に線を沢山書いたような物体が描いてあった。なんて言えば良いのか黒いムックとかサバイバルゲームのギリスーツを真っ黒にした感じでした。

今まで文字しかなかったのにいきなり絵がでてきたので驚いた。その横のページには「左のページにかいたような物体が家庭菜園の端っこにあった。動かないしなんだか分からない。不気味だから無視した」と書いてあった。

その後も時々黒いその物体が日記に出て来た。その頻度はどんどん増えて行った。

そして、「今日は家庭菜園に行かなかったがあの黒い物体が廊下に居た。家の中で見たのは初めてだから驚いた。」と室内でそれを見た事が書いてあった。

そこから日記は黒い物体をどこでどれだけ見たかと言う事が中心になった。

廊下、台所、居間、寝室、トイレ。見る場所も頻度も増えていった。

亡くなる数か月前には車で何時間もかけて街の総合病院まで行って脳の検査も受けたらしいが異常がなかったと書かれていた。

それ以降は「いっぱいいた。いっぱい見た。」としか書かれなくなった。最後の日記は亡くなる数日前で同じく「いっぱいいた。いっぱい見た。」とだけ書かれていた。


俺は無言でその日記をゴミ袋に捨てました。これを五郎が読んで実家に住む決意が揺らいでしまう事が怖かったからだ。


俺はあれ以来実家には行っていないので、あの黒い物体は何だったのか?今でも分かりません。

------


話が終わった三郎さんに私は「その後、実家はどうなったのですか?五郎さんはまだ『実家』に居るのか教えてください」と聞いた。「五郎は今は別の場所で暮らしていますよ。実家のある村が廃村になってしまって。そのタイミングで実家から出ています。」と言って一息つくと「実家から五郎が出た夜に実家の山で大きな山崩れが有りましてね。あの村は今土砂の下ですよ。五郎が実家を出たのが最後だったんで村人が全員引っ越した後で被害者が居なかったのが不幸中の幸いでした」と言った後に「逆に質問しても良いですか?」と言ってきた。私は「答えられる範囲だったら」と答えた。

三郎さんは姿勢をただすと「あなたオカルトライターですよね?なんかこれを聞いて『山頂から来る何か』に心当たりはないですか?」と聞いてきた。

デイダラボッチなど様々な怪異について語ったが三郎さんはピンと来なかったようで少しガッカリしたようだったが最後はお礼を言って去っていった。


ちなみにこの事を書いた記事は没になったんですよ。記事に自信はあったんですが理由は教えてくれませんでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ