誕生記念パーティー
「本日は私の誕生記念パーティーに来てくださりありがとうございます。トドルク公爵家次女ミシャラル・トドルクです。本日は楽しんで行ってください」
私は、練習した言葉を間違えずにスラスラ言うことが出来た。
言えたあと、庭に置かれた少し段のある舞台を降りた。降りた先の、家族やフィマ達に褒められて、楽しい一日になろうとしていた。
私は、主役として相応しい、華やかな白いカスミソウのビーズが散りばめられた水色のドレスをまとい、髪は二の腕ぐらいまでの髪をふんわりと巻いて、ハーフアップにした。全てフィマが準備してくれた。
その後、庭にあるフルーツのソースがかかったスコーンや、クッキーを隙間時間に食べながら挨拶に回った。
少し休憩していると一人の男の子がやって来た。
「ミシャラル嬢、誕生日おめでとうございます。ルアクリス・アリクストールです」
ルアクリス・アリクストール。彼は、アリクストール王国の王太子殿下だ。
「ルアクリス殿下。本日はお越しいただきありがとうございます」
彼は、王太子殿下だからか同い年でも一際礼儀がなっていた。とても綺麗なお辞儀、言葉づかい、彼の所作は指先まで一つ一つ完璧だった。
「王太子殿下だわ!いつ見てもカッコいいわね」
周りの招待客が殿下を見るとすぐ騒ぐ。だが、無理もないだろう。
殿下のスラッとした体型。とても整ったお顔。櫛を通しても引っ掛からないであろうホワイトシルバーの髪の毛。六歳にしては慣れすぎている礼儀作法。
加えて、火魔法の適正持ち。
「今日が適正検査ですよね。よい結果を願っております。それではこれで。」
「ありがとうございます。本日は是非お楽しみください」
お辞儀をし、殿下はその場を離れようとした。
すると、私の隣から、やけに甲高い声が響いてきた。
「殿下ー!私と共にお茶しません?」
隣に現れた子は、淡いピンクで、裾にフリルの付いたドレス。少し暗い金髪を二つに結んだゆるふわっとした女の子だ。
確か、彼女はリーリア・マリクート男爵令嬢だ。
「あの、リーリア様」
「なんでしょう、ミシャラル様」
「えっと……」
「ミシャラル様!鑑定士が到着致しました!」
「分かりました。すみませんリーリア様。なんでもございませんので、お気になさらず」
貴族間の身分関係は厳しい。
男爵令嬢が王太子殿下に声をかけるのはご法度とされている。身分が上の人から声をかけられて話すのがルールだ。
つまり、リーリア様は世間知らずとされるだろう。
まあ、関係ないことだ。
「これから、ミシャラル様の魔法適正検査を始めます。こちらへ来て、この水晶に触って下さい」
「はい。よろしくお願いします」
私が丸い水晶に触れると、透明な水晶の中心に色が見えてきた。
それは白っぽい色そして、その周りを覆うように少し紫が入った淀んだ黒が見えてきた。
やがて、守るように白の全体を包みながら、黒だけが膨らんで行った。
そして、水晶全体が黒一色になった。
「や、闇属性魔法に、適正があります」
鑑定士が声を震わせながら言った言葉には、ところどころ恐怖心が滲み出ていた。
「闇属性?」「裏切り者の属性じゃないか!」
周りからは、恐怖の声、怒りの声。
中には「ミシャラル様は、これから大丈夫かしら」と、心配する声もあった。
でも、私は怒り、軽蔑、嘲り、異物を見るような、様々な視線が辛かった。
その中から、ある視線を感じた。視線の元を見るとその先にはルアクリス殿下がいた。怒りに満ちた、冷めた目。
「なんで……その目で見ないで」
私は、そう呟いたところで意識がなくなった。