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隠された死体


 「死体を埋めたって……それ、どういう意味だよ」

 「ここからは、仮の話よ」


 今までも全て仮の話だったはずだが、恋は声をひそめて

 「仮に、ある人物が、殺人を犯し、桜の木の下に、死体を埋めたとしましょう」

 「おいおいおいおい」


 いきなりぶっそうな仮定が飛び出してきたぞ。

 「彼、あるいは彼女は、当初は、自分の犯した罪が、いつかばれるのではないかと、びくびくしていたことでしょう。でも、一向に警察はやって来ない。安心した彼、あるいは彼女は、それをいいことに、やがて、スリルを求めだした」

 「スリル? 」

 「何か特別なことをしたときに、自分の功績を自慢したくなるのは、誰にでもあることでしょう? この犯人も、自分が犯した殺人について、誰かに自慢したくなったのよ」

 「殺人を自慢って……」

 せっかくばれていないのに、そんなことしたら捕まるじゃないか。

 「そう。そのまま自分の犯行を自慢するだけだと、捕まってしまう。だから、こういうとき、大概は、迂遠うえんな方法を取るものなの」

 「迂遠な方法? 」

 「ぎりぎりのサスペンスを楽しめる方法よ。あくまで自分を安全圏に置きながら、それでも、真相に肉薄にくはくした話を披露する方法」


 僕は、恋がその言葉に込めた意味を、ようやく悟った。

 「おい、まさか」

 「そのまさかよ」

 恋は頷いて

 「犯人は、桜に関する推理ジャンルの作品をたくさん集めた。その中に、『殺人に関する本当の話』を紛れ込ませたのよ。たくさんの桜の木の中に、本当の死体が埋まった話を投じたの」


 そして、フィクションとして楽しんでいる読者の姿を想像して、ばれないギリギリのスリルを味わっている。


 ぶっそうな『真相』を語るれんのその姿は、なぜかきれいに輝いて見えた。

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 「……まあ、冗談はこのくらいにしておきましょう」


 息がつまるような沈黙は、間の抜けたれんの声で、唐突に破られた。


 「じょ、じょうだん? 」

 「最初からそう言ってるじゃない。これは遊びだって」

 

 だいたい、と恋はくすくす笑って

 「この推理だと、フィクションの中に、本当の殺人の話を紛れ込ませようとした犯人は、小説投稿サイトの運営ということになる。でも、運営会社はまさか一人ではない。日本の会社では、企画一つとっても、実現にこぎ着けるまでに、相当手間がかかるものなのよ。そんな危険な思惑を、社内中に広めるわけないじゃない」

 「あ、ああ……」

 

 恋があまりに真に迫った様子で語るものだから、思わず僕も、惹きこまれてしまっていたらしい。

 「企画の趣旨は、書かれてあるとおり、単純に推理ジャンルを盛り上げるためでしょうね」

 恋はからからと、耳に響く笑い声をあげて

 「まあ、私にかかれば、こういう推理もお手の物、というわけよ。どう、ちょっとは『推理』の魅力が分かったかしら? 」

 そのからかうような視線に、僕は気恥ずかしさが体にほとばしるのを感じて

 「ま、まあまあかな」

 思わず、ぷいっと目線をそらしてしまった。


 奇妙な時間だった。

 やがて、僕は当初の目的を思い出して

 「そ、そうだ。推理に協力したんだから、そっちもちゃんと、約束には応えてくれよな」

 「ええ、もちろん」


 恋は美少女ぶりにますます磨きをかける声音こわね

 「この素敵な企画に合わせた、楽しい『フィクション』の『プロット』を、作ってあげるわ」


 どこか含むものがあるように、そう言ったのだった。


 ー了ー


 

当然ですが、このお話はフィクションです。実在の人物、団体名等とは一切関係ありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 推理ジャンルの企画でテーマを『桜の木』にした時点で、『死体を埋める』作品が多数出ることが予想できたと思います。また、純粋なミステリーだけでなく、ホラーっぽい作品もでることも。 つまり、運営…
[良い点] ここまでフィクション云々のセンテンスが効いているお話は初めてです。恐れ入りました。
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