推理ジャンルの低迷は本当か?
「『推理』っていっても、そもそも何をすればいいんだ? 」
普段、それほど推理小説を読むわけではない僕は、こんな遊びで自分が予想以上に戸惑っていることに驚きながら聞いた。
恋は怪しげな、放課後の夕日によく映えた笑みを返すと
「それこそ、このサイトの運営にたずねてみればいいわね」
恋は自分のスマートフォンの画面をスクロールして
「ほら、Q&Aにあったわ。『事件などを推理し、謎解きを行う過程を主体とした小説』が推理小説と定義されてる。ようは、『謎を解く』ということをすれば、それが推理になるのよ」
「じゃあ、今回は」
「『なぜ運営は、「春の推理2022」という企画を立てたのか』、というのが『謎』になるわね」
「いや、でも、そんなの」
僕は今さらながら、恋の目的がいまいち読めなくなって
「答えは書いてあるじゃないか。『推理ジャンルを盛り上げよう』として、企画したんだろう? つまり、今のサイトには、推理ジャンルの作品が少ないから、活気をもたせるために、企画したことなんだ」
「『小説家であろう』では、推理ジャンルの作品は、本当に少ないの? 」
「ええと……」
僕は『小説家であろう』の検索ページにとんで
「厳密な検証はできないけど……例えば、『あろう』の代名詞の『異世界』ジャンルの作品だと、55,134作品ある。『ハイファンタジー』ジャンルだともっと多くて、117,800作品。一方、『推理』ジャンルの作品は、8,492作しかない。全投稿作品が、今の時点で951,624作らしいから……」
「全投稿作品のうち、『ハイファンタジー』ジャンルが約12パーセント。『異世界』ジャンルは6パーセント。『推理』ジャンルは、せいぜい1パーセントってとこね」
「計算早いな……」
「推理小説好きだから当然よ」
その事実と暗算の速さにどういう因果関係があるのかは分からなかったけれど、僕はとりあえず無視して
「『純文学』ジャンルの24,542作品より少ないくらいだから、まあ、お世辞にも推理ジャンルの作品が、活況とは言えないんじゃないかな。もちろん、推理ジャンルの作品でも、書籍化、メディアミックス化されるような人気作品はあるけどね」
「なるほど。今後のサイト発展、開拓の余地として、推理ジャンルに取り組む意義は、一応ありそうね」
恋はそう言って、一応納得したように頷いた。
「ほら、やっぱり、答えはもう出てるじゃないか。『推理ジャンルを盛り上げよう』として、サイト運営は、この企画を立てたんだ。これは、そもそも推理をする対象の、『謎』になってないよ。問いが適当じゃない」
僕はそういって、さっさと本題である推理小説のプロットを恋に考えてもらおうとした。
でも、恋はまだ納得がいっていないようで
「なぜ、『春』なのかしら? 」
「はあ? 」
問いの意味が分からず、思わず聞き返してしまった。
「あなたのーというより運営の理屈は、よく分かったわ。確かに『小説家であろう』には推理ジャンルの作品が全体的に不足している。だから、盛り上げるために推理ジャンル限定の企画を立てた。論理は通っているわ」
「というよりその論理しかないと思うけど……」
たかが、といったらなんだけど、小説投稿サイトの企画1つに、そんな壮大な謎が隠されているわけがない。
すっかり名探偵になりきった恋は僕のそんな言葉は聞かず
「さっきの理屈だと、なにもわざわざ『春』にこだわる必要はないじゃない? なぜ、『春の』推理に限定しているの? しかも、テーマとして、『桜の木』まで指定されている。なぜ、『春』で、なぜ『桜の木』なのかしら? 」
恋のいたって真面目なその口調に、しかし僕は軽く眩暈を覚えた。
深読みがすぎる……