とにかく推理をしたい少女
提示された条件があまりに突飛だったので、僕は思わず言葉を反復していた。
「なぜ、運営は『春の推理2022』を企画したのかに関する推理? 」
「そうよ。この『小説家であろう』というサイトの運営会社は、なぜこの企画を立てたのか、という事に関する推理よ」
「な、なんでそんなことが気になるんだ? 」
「あたしね、推理をするのが好きなのよ」
緋色恋は、その抜群のスタイルをううんと伸びで見せつけるようにして、席を立った。
それから、何かを考えるように、野球部やソフトテニス部が喧騒を奏でている窓外を見やる。
「推理小説の魅力って、謎を、卓越した論理で解き明かすという様式美にあると思うのよね。密室とかの不可能犯罪であればより面白いけれど、謎自体が平凡でも、その推理が面白ければ、それはそれで、一つの作品になる」
恋は僕が話しかけるまで読んでいた文庫本を手に取って
「これなんかもそう。謎自体は些細なものなんだけれど、それを解体する論理が面白いのよ。そういう推理を、私もやってみたくなったの」
「それで、運営の意図を推理する……ってことを? 」
「ええ。この際だし、やってみようかなって」
いたずらっぽい笑みを浮かべる恋を見て、やはり、この少女は変わっていると思った。
顔の造りがはっきりしているタイプの美少女で、長い体躯もあいまって、男子人気は高いのに、推理小説をところかまわず読む、変わった癖を持つ。
授業中にも本を取り出して読んでいるのには、さすがの僕もひいた。
「推理なんて、そんなの、一人でも出来るんじゃ……」
「あら、あなたの提案と同じよ。コンビ作家がいるように、名探偵には、ワトスンがつきものでしょう? ワトスンの的外れだけど、少しだけ本質を突いた推理を基に、名探偵が華麗な推理を披露するのよ 」
「自分が名探偵なのは確定なんだな」
「当然。私の明晰な頭脳を持ってすればね」
「まあ……そんなことでいいのなら」
小説執筆のためだ。
僕がしぶしぶ頷くと、恋は笑みを広げて
「なら、 さっそく取組みましょう。この難解な『謎』にね」
そうして、僕たちは、『なぜ「小説家であろう」の運営会社は、「春の推理2022」という推理ジャンルの作品を盛り立てるための企画を試みたのか? 』という謎に、挑むことになったのだった。