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 緋色恋ひいろれんは、気だるげな顔をして、僕がリンクを送った、その特設ページの文言を読んでいた。

 

 僕もあらためて、企画文に目を通す。


『「春の推理」は小説投稿サイト小説家であろうが主催する、春季の期間限定企画です。「小説家であろう内の推理ジャンルを盛り上げよう」という趣旨で、2022年より新規の公式企画として開催いたします。』


 『小説家であろう』は、日本国内でトップの集客力と知名度を誇る小説投稿サイトだ。WEB小説サイトの中でも老舗にあたる。あまたの素人が作品を投稿し、凌ぎを削ってきた。

 WEB小説の最前線で、流行は、いつもこのサイトから生まれている。

 

 「『春の推理2022』ねえ……」


 れんは、もう一度その企画名を読み上げてから、かすかに首をかしげて

 「……で、これがどうしたの? 」 

 「決まってるだろう。僕もこの企画に参加したいんだ」

 「ならすればいいじゃない」

 「僕には文才はあってもアイデアがない。だから、キミにプロットを練ってほしい」

 僕は誠意をこめて、いきおいよく頭を下げた。


 「『文才はある』という随分おこがましい前提も気になるけれど……なんであたしなの」

 「『推理』小説と言えば、緋色恋、キミしか適任者はいない」


 僕は、このサイト、『小説家であろう』の登録者だ。元々本を読むのが好きだったから、高校進学を機に両親に買ってもらったPCで、サイトに登録した。以来、ひまな時があれば、サイトにアクセスして、作品を読み漁っている。『あろう』の常連といってもいいだろう。

 

 そしていつの間にか、書く側にも回っていたというわけ。


 「どうして私が適任者だって思ったの? 」

 「僕は、自分でも何冊か推理小説を読んだことはある。けど、誇れるほどの読書量じゃない。一方で、キミはしょっちゅう推理小説を読んでるだろう? 」


 朝の読書の時間、授業と授業の合間、放課後。


 忙しい高校生活の合間を縫って、彼女はいつも自席で推理小説を読んでいる。


 「僕は、このサイトで名を挙げたい。いつかは作家としてデビューできればとさえ思っている。 でも、いくつか作品を投稿してはみたけれど、ブックマークも、評価ポイントも、誰も何も入れてくれないんだ」

 「よくそれで自分に文才があるって思えたわね」

 「いや、それは間違いない。僕の文章は素晴らしい。ただ、既にサイト内で人気のジャンルは確立されている。そんな激戦区にあって、たまたま、僕の作品が埋もれてしまっているだけなんだ」


 僕はそれから、いぶかしげに僕を見つめる恋に笑顔を向けて


 「でも、この企画は違う。まだまだ『小説家であろう』内で推理ジャンルの作品の地位は高くない。推理ジャンルを盛り立てるための、この企画で目だつことができれば、今後の作品投稿にも、大きくプラスになると思うんだ」


 僕は、作品投稿を呼びかけるサイトの企画ページをスクロールして

 

 「ほら、投稿作品のうち、1作はピックアップで、ラジオで紹介されるとも書いてある。こんなまたとないチャンスを逃す手はないだろう? 」

 「まあ、動機はどうあれ、書きたければ書けばいいと思うけれど……」

 恋は呆れたように息をついて

 「よくそれだけの理由で、面識のなかった同級生に話かけ、連絡先を交換し、あまつさえ、小説のプロット作りを頼めたわね」

 「それだけ僕にとっては本気のことなんだ」

 「本気なら自分一人でやってほしいのだけれど」

 「いやいや、有名な推理小説家の中には、プロット作り専門と、文書を書く専門で活躍しているコンビだっているじゃないか。あれと同じだよ」

 「無理やりあなたの夢に巻き込まれるこっちの身にもなってくれないかしら」


 恋はまだ何かいいたそうだったが、僕のゆるぎない意思を見てとったからか、あるいは、放課後にこんな話を持ってきて、自席の前から動く様子のない僕にはまともな反論は通じないと思ったからか、嘆息して

 「……分かったわ。協力する。企画に合った作品のための、プロット作り」

 「ほ、ほんとに? いいの? 」


 ずっと『なんだこいつ面倒くさい』というオーラを発していたので、望んでいたことのはずなのに、思わず耳を疑ってしまった。

 恋は頷くと、しかし、指を1本立てて

 「でも、条件がある」

 「協力の条件? 」

 「ええ」


 そして恋は、ぞくっとする笑いを浮かべた。

 

 「『なぜ、『春の推理2022』は企画されたのか?』。それについて、私の推理を聞いてくれたらね」


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