表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

第1話『ルール通りの世界なら』

―――**―――


 物語は無数にある。


 ときに数多の人生が、ときに数多の作品が、この世界を物語で満たしていく。


 それが形を成すための媒体は様々だ。

 本で、テレビで、映画で、インターネットで。

 思考で、感情で、魂で、想いで、物語は紡がれていく。


 そしてそのどれもがキラキラと輝いてそこに在る。


 また、そのストーリーに、その登場人物に引き付けられ、人の目も、キラキラと輝き、世界は光で満ちているのだ。


 純粋無垢な子供たちに限らず、その美しい物語はページをめくられるたび、人の心を躍らせ、人に何かの意味を持たせる。

 そうやって、世界を輝かせ続けるのだ。


 だから世界は優しくできている。


 ただ。


「……ぉ、……うっ、お」


 幼少の頃より、物語を追い続けた人物がひとり、ここにいる。

 つい10日ほど前、見事に大学入学を果たしたばかりの18。

 イメチェンでも計ってみるかと若干茶を入れた髪は入学の際に軽く整えているが、簡素なシャツとジーンズ、そして適当に羽織っただけの上着も少々ほつれており、ずぼらな性格が見え隠れしている。


「く……う……」


 物語は世界を輝かせる。

 だが仮に、人が目を輝かせるのに年齢制限があるとすれば、彼はそれを過ぎているかもしれない。

 インターネットにはまり込み、昼夜を問わずネット小説を読みふけっていた彼は、大学入学自体危ぶまれていたほどだった。


 確かに物語は世界を輝かせる。

 ただそのせいで、本来とは逆に目を曇らせる者―――生活リズムを崩す者も少なくはないのだ。


「……や、ば……」


 残念ながらその一例である彼―――ヒダマリ=アキラも不健康な生活リズムを繰り返し、例に違わずその目もやや濁っている。


 その、日常。


 昼夜が完全に反転した入学前の準備期間の名残が徐々に薄まってきた頃。


 その、日常。


 そろそろ大学で、どの授業を取るのかを考え始めなければならなくなってきた頃。


 その、日常。


 そこからアキラは。


「落ち……る。落ちるって……マジ、で……!!」


 何故か、高度100メートルはあろうかという塔の頂上付近に張り付いていた。


―――**―――


 青空の下。

 この村のシンボルでもある、高く天を突くような塔の前。


 そこでは“結婚式”が行われていた。


 さらさらと風が流れ、若草の匂いが舞うその草原は、村の中にそのまま自然を残した協会の庭の一部でもあったりする。

 周囲はそれ自体が敷居のような背の高い木で囲まれ、その中心の芝生には正方形に整えられた大理石の白く大きな足場。

 純白に塗られた木製のベンチが数列一糸乱れずに整列している。

 そこに集まった者の一部は正装とでも言うべきスーツやドレスを着て、優雅に腰を下ろしている。


 だが残りの者は、頭から漆黒のフードをかぶり、塔の真下の高い台座を取り囲んでいた。

 その光景からは怪しげな雰囲気が漂っているが、その中央、台座の上に凛とたたずむひとりの女性の存在は、その陰りをかき消すように輝きに満ちている。


「天にまします我らが主よ、お聞きください」


 白を基調とした花嫁のようなドレスには、彼女なりのアレンジか、橙色のラインが入り、かえって白を映えさせていた。


 神聖な空間の中、彼女は指を胸の前で組み、祈りをささげる。

 長く赤い髪を頭でまとめ、若干切れ長の瞳も長いまつげと共に伏せ、言葉を紡いでいく。


 “必死”に。


「この身、エリサス=アーティを、こっ、この心を、おみっ……御身のそばに」


 さっと血の気が引いた。

 参列している彼女を見守る家族たちも、びくりと背筋を凍らせる。


 噛みかけた動揺から次の台詞が真っ白に消え去ったが、揺れ動く眼を懸命に抑えつけ、きつくとじると、何とか雑念は振り払えた。


 今、自分は“神に求婚”しているところだ。

 絶対に失敗はできない。

 この形式をとる“入隊式”を乗り切れば、自分はようやく国を守る魔術師隊になることが出来る。


 幼いとき、自分は両親を失った。

 残された自分と妹は、この村の孤児院で長く育ち、今ではその手伝いをしている。

 だけどそれでは駄目だ、稼ぎが無い。

 魔術師隊になれば国仕えとなり、身寄りのない自分たちの面倒を見てくれた育ての母に楽な暮らしをしてもらえる。

 自分の妹にもだ。


「たとえこの身が砕けようとも、たとえこの身が枯れようとも、心はあなたに捧げ続けることを誓います」


 去年16となり、試験を受け、1回落ちて、今年ようやく資格が取れたのだ。

 この儀式は真実の場。

 この場での嘘は許されない。下手に噛もうものなら、自分はいったい何を宣言してしまうことになるのやら。


 昨日遅くまで丸暗記したその言葉を慎重に紡いで、自分は今から結婚する。


 古くからある“しきたり”とはいえ、思った以上に厳格なものだ。

 魔術師隊に入るものは例外なくこの場で誓いを立てさせられる。

 参列している者の中にはもうすぐ自分の先輩となる魔術師たちもいるのだから、正確に、この儀式を遂行しなければならない。


「では、誓いの口づけを」


 自分とは違い、落ち着き払った声で進行役の魔術師の声が聞こえた。

 固まり切っていた肩がようやくほぐれる。

 なんとここまで辿り着けた。


 あとは、ツン、と、空に向かって軽く口を突き出すだけ。

 それで入隊式は完了し、ばっちり給料ゲットとなる。


「……ん」


 万全を喫して目をきつく閉じ、雑念を振り払って口を空へ向けた。

 すでに儀式を追えている同期の輪に、自分も入っていくことが出来る。


「……ぁ……」

「……?」


 何か後ろから聞こえた。

 失敗を恐れて再びガチガチに固まり始めたのは、よくなかったかもしれない。後ろのギャラリーが、またひとり、またひとりと騒ぎ出す。


 早く終わって欲しいと祈るばかりの自分には、どうすることもできない。


「危ない!!」


 飛んできたのは鋭い悲鳴のような叫びだった。

 流石に目を開くと、


「……は……?」


 目の前に、人が、“ふわふわ”と落ちてきた。

 自分と鼻を突き合わせるほどの目の前、魔術師たちと自分しか許されていない場所で、正装とはかけ離れた出で立ちの男が通過していく。

 自分はその男と、しっかりと目が合った。


 いや、それどころか。


「人……人か……!?」

「ど、どこから―――」

「……上、上か……!?」


 現れた男は気を失っているのか、目の前で倒れ込んでいる。

 ギャラリーの声が次第に大きくなっていくが、自分は同じように騒ぎ出さなかった。

 何故ならいきなり目の前に人物が落下してきた衝撃よりも、自分の唇への感触が強く残っているのだから。


「う……そ、でしょ」


 乾いた呟きを漏らす唇に、恐る恐る指先で触れると、ようやく動きを取り戻した身体がわなわなと震え出す。



「それより、今……」

「あれって……口……」


 その声で、自分の感じたそれは、ばっちり参列者にも見られていることが分かった。


「うそ……、うそ、うそよね」

「君、無事か?」


 魔術師たちに身を案じられても、身体の震えが止まらない。


「はは……はははは……」


 最後に。

 不気味に笑って。


「……うーん……」


 ぱたりとその場に倒れ込んだ。


―――**―――


 妙な夢を見た。

 自分が高い塔の上に張り付いているという夢を。


 必死にしがみつきながら、それでも周囲の様子を探って見えたのは、壮大な大自然。草原が広がり、遠方には見渡す限りの山々と樹海。

 眼下の村だか町だか分からない場所は、RPGのように自然の中孤立しているようだ。


 そしてその眼下は、時代錯誤でもしているのかはたまた日本ではないのか、木製の家屋が並び、ところどころ露店があるのか赤や黄色の作物のようなものが見えた。


 ここは、異世界だ。


 感覚的にそう感じ、そしてそこから始まる大冒険を連想させる。

 自分は“勇者”となり、この世界を滅ぼさんとする“魔王”と勇猛果敢に戦うのだ。

 まるで自分が好きなネット小説のように。


 だが、夢であってもらわなければ困る。

 現実の場合、ほどなく自分は落下して死ぬことになるからだ。


 “この夢”は、どうやら随分とリアルのようで、力を入れた指先の痺れも、じわじわなくなってくる体力も、そしてあっさりと落ちたときに感じた浮遊感は、本物のそれだった。


 叫び声すら上げられない。

 目をきつく閉じた顔に暴風が叩きつけられる。


「……?」


 だが、何故か自分は目を開けた。

 はっきり見えてきたのは人の集まりと、黒に囲まれた白い空間。

 その白い台座の上に、ひとりの女の子が花嫁姿で立っていた。


 目を開けていてよかった、と思った。

 目前に迫る死の恐怖よりも、全身の身体が震えるような感動を覚える。

 理由は分からない。だが、身体が震え続ける。


 その少女は目を閉じ、自分を待っているかのように顔を上げていた。


「!?」


 死を待つだけだった自分の身体に、奇妙な光が付着した。

 その“銀”の光は、加速していくばかりだった身体の速度を急速に緩めていく。


 未知の体験に身体が泳ぎ、顔が前に出るように身体が反転したところで、その少女は目を開き―――


「……?」


 アキラはそこで目を覚ました。

 身体は薄っすらと汗ばみ、頭はずしりと重い。


「……っくあ……、まじかぁ、俺。……まじかぁ……あああああ……」


 手元にあった掛け布団を頭からかぶり、大きく息を吐き出した。

 案の定夢だったらしい。

 だが、なんという夢を見ていたのか。


 日頃からそういう話をネットでよく読んでいたが、まさか夢に出るほど脳を侵食しているとは。

 誰に訴えようもないが、物凄く恥ずかしい気持ちになる。

 しばらく身体をもがかせ、ときおり思い出したようにベッドを殴っても、胸の奥のむず痒さは取り切れない。

 これからは時間も忘れて小説に没頭するのは控えた方がいいかもしれない。

 目を固く閉じながら誓いを立ててみたが、過去何度もその誓いは破られていることも知っていた。


「―――、―――」

「……?」


 布団の外から何かが聞こえた気がした。

 そのせいなのか、ざわついた心がすっと落ち着いてくる。


「……へ?」


 ようやく違和感に気づいた。いや、匂いに気づいたというべきか。

 眠りから目覚め始めた身体が、この場所が自分の部屋ではないことを認識しだした。

 被った布団を勢いよくどける。


 最初に見たのは天井だった。

 暗さに慣れた目は、自分の知っている黄ばんだ白ではなく、木造の木目の粗い茶色の天井を捉える。

 ぶら下がっている電灯も、裸に近い豆電球のようなものに変わっていた。


「……あれ?」


 身体を起こせば案の定、見慣れない、清潔そうな部屋だった。

 ベッドの脇に小さな机が置いてあるだけの簡素なその部屋には、起きてすぐに手元にあったパソコンは乗っていない。


「どこだ……?」


 パソコンがではない。

 この場所がだ。

 昨日は知り合いの家に泊めてもらった記憶もないし、何よりこんな避暑地にある別荘のような家に心当たりもない。


「―――、―――」


 そしてまた、どこからか、何かの声が、いや、唄が聞こえる。

 それを聞くたびに、自分はこの異常事態でも、徐々に冷静さを取り戻していく。


「……」


 しばらく硬直していたが、このままではらちが明かない。

 なれないベッドから転び落ちそうになりながらも、その脇にきちんと整えられていた自分の靴を見つけ、そのままの動きでドアへ向かう。


 まずはここがどこなのかを把握しなければ。


―――**―――


「素晴らしい!!」


 裕福にひげを蓄えた男が大口を開けて唾をまき散らした。

 広いテーブルを囲うこの会合に集まった者たちはその様子に顔をしかめ、自らのカップを手で守る。

 この村の長であるこの男には、皆一応敬意を表し、咳払いして誤魔化すが、重苦しい表情を変えようとする者は誰ひとりとしていなかった。


「聞けば、そのお方は見慣れぬ出で立ちをしていたそうではないか!」

「はあ」


 恰幅のいい女性、エルラシアは、相槌ともため息ともつかない声を返した。

 エルラシアは、本日の主役、いや、もう被害者と言った方がいいかもしれない、“あの珍事件”の最前列にいたエリサス=アーティの育ての親であり、そしてこの村長のお目付け役のような損な役回りをする羽目になることが多い。

 今日の緊急会合も、昼の真っただ中に忙しい村の面々を集めようとした村長をたしなめ、この時間にずらすことが出来たのだ。


「いよいよか。我が村から輩出できるぞ……“勇者”を!!」

「待って下さい!」


 思った以上に感情がそのまま声に出た。

 しかしこの村長の考えていることは、この場にいる全員が知っており、そしてこの場にいる全員が不幸になることであるとも知っていた。


「何かね?」

「また“繰り返す”おつもりですか!?」

「少しは落ち着きたまえ」


 落ち着くのはお前だ。

 喉元まで出かかった言葉を何とか飲み込み、エルラシアは立ちかかった腰を下ろした。


「それに繰り返すとは心外だな。今までの輩は“勇者”ゆかりのこの地を欺き、私腹を肥やさんとした不届き者よ!!」


 ついこの前町まで行ってみてきた劇の影響か。

 芝居がかった台詞を聞き、今度はエルラシア以外からもため息が漏れた。


「村長。お言葉ですが、“ひとつ前の勇者”のときも同じことをおっしゃっていませんでした?」

「あのときは私の目が曇っていた」


 今度は全員からため息が漏れた。


 この村、リビリスアークは、かつてこの世界を滅ぼそうとする“魔王”を撃破した“勇者”の出身地である。

 当時は聖地として崇められ、多くの人がこの地を訪れたことでさらに発展していったそうだ。

 だが、“第2”、“第3”の魔王が現れ、世界各地でも新たな勇者が誕生し、現在世界を脅かしている“百代目の魔王”ともなってくると、今では知る人ぞ知る、という程度に成り下がっている。


 人と魔王一派との戦いは、長い歴史があるのだ。


「だが今回は違う。その者は神々しい光を放ち、まるで降臨するかのように舞い降りたのだ。今度こそ、“勇者の地”がどこなのか世界に知らしめることが出来るな……!!」

「魔王を倒すことが目的でしょう? 決して、この村を、繁栄させるのが、目的ではありません!!」


 なぜこんな男が村を治めているのか。

 かつて初代の勇者を手厚く保護し、旅に出させて以来、ずっとこのファリッツ家が村を治めているそうだ。

 過去どういう方々がいたのか知らないが、この現在の村長、リゼル=ファリッツは酷い。

 村を繁栄させることしか頭に無いのは、あるいは村長としてのあるべき姿なのかもしれない。

 だが、“不審”な人物を見つけるたびに勇者として崇め、強引に旅立たせているのはいかがなものか。

 エルラシアが知っているだけでも8人はいた。

 年端もいかない者も、はた目から見ればファリッツ氏の強引な勧誘で旅立たせ、その後の消息を聞いたものはいない。

 今頃魔物の餌か、どこか遠くの村で日々を送っているであろう。エルラシアとしては、後者を祈るばかりだ。


 それだけでも問題なのだが、それよりも深刻な問題がある。

 旅の資金だ。

 ファリッツ氏も無慈悲に放り出しているわけではなく、むしろ手厚く旅の資金を用意し、万全の状態で旅に送り出すのだが、むしろそれが問題で、廃れているこの村の懐事情からして、決して小さくは無いのだ。


「だが……、ふむ。分かった」

「は?」


 ファリッツ氏は不服を隠さない視線が集まっていることに気づいたのか、意外にも、居住まいを正して頷いた。


「今、勇者様は?」

「……私の孤児院でお休みなっています」


 エルラシアは、突如現れたあの人物を勇者と呼ぶことをわざわざ否定しなかった。

 風向きがよくなってきている気もしているのもあるが、確かに彼は、今までにない現れ方をした。

 彼は、空から“ふわふわ”と降りてきたのだ。

 自分はあまり詳しくはないが、明らかに、魔術的な何かが働いていた。

 その場にいた国仕えの魔術師に聞いても、彼のことは知らないという。

 そしてこの村で見かけた覚えもなく、出で立ちもこの辺りのものではないだろう。

 ファリッツ氏の言う通りというのも癪だが、確かに感じるものがある。


「ではこうしよう。彼にはテストを受けてもらう」

「は?」


 エルラシアは背筋に冷たいものが当たるような感覚を覚えた。

 自分が最も懸念している“娘の問題”もあるのだ。

 これ以上妙なことを言ってもらっては困る。


「そのテストを受けていただき、合格すれば、援助する。それでいいだろう?」

「まず、その内容はなんですか?」


 続く言葉を聞いたとき、エルラシアはカップを投げつけようとする手を止めるのに必死になった。


―――***―――


「……こっち、だよな?」


 アキラは薄ぼんやりと月下が照らす廊下を慎重に歩いていた。

 ぎしぎしと鳴る床も、ただただ質素にドアが並ぶ壁も、やはり全く見覚えは無く、アキラの足を恐怖で鈍らせるが、すでに元の部屋に戻るという選択肢は頭から消えていた。


「―――、―――」


 また聞こえた。“この歌声”。


 時間も場所も分からない中、あの唄に導かれるようにアキラは足を動かした。

 何の言語かも分からないが、どこかで聞いた唄―――その、声の主。

 その人物を、探す必要がある。


「……!」


 階段を進み、3階に到着したアキラは、さらにその上にあるドアが半開きになっていることに気づいた。

 頬をくすぐる外気。ドアの向こうは、屋上にでも繋がっているらしい。


「―――、……」


 屋上に出ると、少女が、いた。

 可愛らしい顔立ちをしているが、物静かさを思わせるその表情は、妙に愁いを帯びており、その容姿よりも近いような遠いような、妙な現実感の無さが印象的だった。


 少女は、小さく胸の前で手を合わせ、屋上の縁に上り、すっと広がる街並みを見下ろしながら、透き通る声で歌っていた。

 髪ごと羽織った漆黒のマントをはためかせ、天高くそびえる高い塔に正面から向き合い、月下で、祈るように。


 そこにいる彼女は、すぐそこにいるのにどこか遠く、現実感の無い、神秘的な空気を纏っていた。


「……、もう、目覚めたんすか?」

「……へ?」


 その雰囲気にのまれ、アキラは唄が終わっていたことも話しかけられていることに気づくのも遅れた。

 目の前の少女は眠気があるのか、半分閉じたような眼の顔を向けてくる。

 急に現実に引き戻されたような気がした。


「……あ。え、お前はっ」

「……」


 正面で向かい合ってようやく気付けた。

 目の前の少女は、自分の夢に出てきたあの花嫁だ。


「こんばんはっす」

「…………こんばんは」


 少女はふわりと縁から飛び降り、アキラの元までとぼとぼと歩み寄ってきた。


「自分はマリサス=アーティ。マリーっす」

「……あ、ああ。俺はヒダマリ=アキラ。よろしく、マ、マリス」

「……マリーっす」

「? だからマリス、だよな? よ、よろしくな」


 とりあえず手を差し出してみると、マリスはどこか不機嫌そうに取り、軽くゆすった。

 銀の髪に同じような色合いの瞳。どうやら日本人ではないらしい。


「……日本語上手、だな」

「……」


 マリスは小さく首をかしげた。

 胸の高さから見上げてくるその瞳は、この位置からだとほとんど閉じているようにも見えた。


「悪いけどここがどこか教えてくれないか? 気づいたらここにいて」


 アキラはちらりと村を見渡した。

 先ほど夢で見た通りの姿をしたこの場所は、やはりどう見ても自分の生活圏ではない。

 徐々に冷静になる一方で、ふつふつと身体の中で生まれ始めた予想を、ぬか喜びは避けるようにと抑え込む。


「リビリスアークっす」

「リビ……、え?」

「リビリスアークっす」

「リビリスアークス……。やっぱ聞いたことないな。国は?」

「にーさん。その調子だと間違った情報がどんどん増えていくっすよ」


 歌声の主とは結び付かない気だるそうな声を出しながら、マリスは塔屋の壁に背中を押しあてて座り込んだ。

 アキラもそれに倣って遠慮がちに隣に座る。

 どうもマイペースそうな少女は、小さなあくびを噛み殺しながら、置いてあった布の袋から分厚い本を取り出した。


「にーさん。自分も聞きたいんすけど、昼間、あの塔に張り付いて何をやってたんすか?」

「……見てたのか? ……分からないんだよ、そこから」


 塔に張り付いて何をしていたのか。

 そう問われてもアキラには心当たりすら無い。

 何の予兆もなく、気づいたらあの場所にいたのだ。


「記憶障害、っすかね」

「……かも、しれない。目が覚めたら……、あれ……?」


 アキラは頭に手を当てる。


 記憶が、無い。

 自分が何者で、出身地はどこか、という質問になら答えられる。

 だが、あの塔に張り付いて意識を取り戻した、直前。

 その記憶が、霞がかって蘇らないのだ。

 頭を何度か振っても、答えは出てこなかった。


「もし、それが本当なら、にーさん」

「?」


 マリスはパラパラと分厚い本をめくって、とあるページを開いた。


「本当に“勇者様”かもしれないっすね」

「?」


 聞き慣れない―――いや、聞き慣れ過ぎているその単語を自然に発したマリスは、童話のような挿絵のあるページをアキラに向ける。


 ひとりの青年が巨大な闇の塊に大きな剣を振りかざし、勇敢に立ち向かっているその絵は、月下でも映えた。


「……!」


 マリスが手を差し伸べてくる。

 その表情は、アキラの脳が芯から震えるような笑みだった。


「ようこそ。“異世界”へ―――」


―――***―――


 太古。


 この世界ではとあるふたつの種族が存在していた。


 天高く存在する輝かしい“神族”。

 地中深く存在する禍々しい“魔族”。


 いや、禍々しいというのは語弊がある。

 それは、神族を基準として考えた場合に、魔族の使役する魔物が異形なだけなのだ。

 ただ、使い魔として自身に近い姿を使役した神族から見て、異形の使い魔を使役する魔族が禍々しいと表現されるに過ぎない。


 その存在の始まりがいつからかは知られていない。

 ただ、そのふたつの種族が存在しているという事実があっただけだ。


 ただ、たったそれだけならば問題はなかった。

 乖離して存在していた領主族は、自分の居場所を守ることに専念しているだけで事足りたのだから。


 問題だったのは、神族が住む天界と、魔族が住む魔界の中間に、地上という場所が発見されたことだった。

 そこから闘いの歴史が始まる。

 神族と魔族は、もともと互いに存在を知っていたものの、友好的に思い合っていなかったこともあり、地上を我が物にせんと争いを始めた。


 しかし両者の戦いは拮抗し、硬直状態となる。

 これ以上の戦闘は、舞台となった地上そのものを破壊しかねないと思われ始めたとき、地上にいた種族が均衡を破ることになった。


 人間である。

 魔族は非力なその存在を戦場にいる動物程度にしか思っていなかったのだが、神族は“可能性”として認識し、味方につけることを思いついたのだ。


 人間からしても地上で行われる常軌を逸した戦闘に終止符を打つのは望むべくことであり、また、異形の魔物を使役する魔族に比べれば、まだ神族の方が味方として協力しやすかった。


 神族は自らの力を人間に分け与え、また人間も神族に地上の知恵を分け与え、神族の戦力は徐々に伸びていった。

 人間が戦力として認識される程に教育が進むと、魔族は多量の敵軍の猛攻を受け、魔界に撤退することになる。


 これを受け、魔族は“神族に染まった人間”を本格的に敵だと判断。

 魔族は未だに地上侵略を目論み、“魔王”と呼ばれる実力者が乗り込んでくるが、そのたびに人間によって防がれている。


 その、魔王を撃退する人間。


 それを人は勇者と呼ぶ。


「ちょ~う、中二。って感じだな」

「もう少しましな感想は無いんすか?」


 そんなことを言われても。

 教わったのも悪いが、アキラは自然と出てくる大欠伸を止めることはできなかった。

 確かに自分はトリップものの小説が特に好きだ。

 このシチュエーションも、あったらいいなと思ったくらいなのだから。


 だが本当にその“異世界”に迷い込んだ今、アキラが浮かべたのは陳腐な感想だった。


 ここが異世界だというのは、流石にそろそろ納得せざるを得ない。

 初めて見る地。非現実的な街並み。記憶が不確かというありがちな状況。日本語しか話せない自分が目の前の少女と自然に話せているという便利さもある。

 ドッキリなんてことも考えられるが、自分の人生は、ここまで大掛かりなものを仕掛けてもらえるほど楽しくできていないことをアキラは知っている。


 定番なら自分は勇者様ということになるのだろう。

 打倒魔王を決意し、この後旅に出ることになるのかもしれない。

 少しは燃えるものはあるが、それよりも、恥ずかしさの方が先行しそうだった。

 必殺技でも叫んでいる自分の姿を思い浮かべるのが特に。


「その勇者様の記録では、異世界からの来訪者の比率が高いみたいっす。半分は超えているとか」

「ちなみに、ま、“魔王”? とかいうのはどれくらいいたんだ?」


 実際に口に出すのはやっぱり恥ずかしかったが、親切にこの世界の歴史を説明してくれたマリスに親近感を覚えてきた。

 マリスがくつろいでいるように座っているか、緊張も薄れてきたらしい。


「今回で百代目っすね。……魔族側からしたら、そこまで“人間すら”突破できないのは屈辱かもしれないっす」

「人間すら?」

「魔族が本当に戦うべきなのは神族のはずなんすよ。自分たちを“悪”に仕立て上げた神族。人間は神族の防波堤。魔族を魔界に閉じ込めておくための」

「……」

「同時に発見したはずの地上。そこの人間を“洗脳”した神族。それは面白くないんじゃないっすか」


 人間は神族の“洗脳”を受けた。

 善悪の判断基準は、自分の立ち位置だ。

 人間の立ち位置をはるか昔に神族側に付けたというのであれば、なるほど確かに人間は神族に洗脳されていることになる。


「さっきからやけに、ま、魔族側の肩持つな」

「今のは、“中立説”。よく考えるとこの争いはこういうことなんじゃないか、って思う人もいるんすよ。まあ、自分は“神族説”も“魔族説”もどうでもいいから、“中立説”を説明しただけなんすけどね」


 そこでマリスはまた、小さく欠伸をした。

 時間は相変わらず分からないが、もう夜も更けている。


「眠いのか?」

「いや、なんか、にーさんといると和むんすよね」

「は?」


 ちょこん、という擬音が似合うように、マリスは小さな頭をかしげてアキラの肩に乗せてきた。

 甘い匂いがする。

 距離感を見失いそうな気がしたが、アキラにとっては当然不快ではない。


「それより、ええと、その、」


 必死に平常心を保とうとしてみるが、あるいは塔の上にいたとき以上に頭が働かない。

 RPGだと思っていたらギャルゲーだったような衝撃を受けていた。

 初対面の女性にここまで距離を詰められているのは初めてだ。状況問わず、気分が高揚してくる。

 何かあると勘繰りそうになるが、彼女と話していて、そうは思えなかった。あるいは自分が騙されやすいだけなのだろうか。


「そうだ、そう。なんで俺のこと“にーさん”って呼ぶんだよ?」

「……ん? にーさんだからじゃないっすか」


 誤魔化すようになんとか話題をひねり出したのだが、何の情報も増えないまま話が終わってしまった。

 本人の言う通り、妙に和んでいるマリスを追及するのは今以上に疲れるだけだと判断したアキラは、風にめくれた本を流し見る。

 書いてある文字は、全く知らないものだ。

 だが何故か、その意味が理解できる。

 言語の問題もあるが、あまり深く気にしないことにすべきだろう。


 ご都合主義、というやつだ。


「それで、俺は、勇者とかいう存在なのか?」


 鼻腔をくすぐる甘い香りを極力意識しないように、身体を固めたまま次の話題を探る。

 これ以上は理性が持たなそうだった。


「多分、ええと、そうっすね。……やっぱり自分、なんか変っすね。にーさん、もしかして……」

「そうだ、魔法! 魔王があるんだろ? 見せてくれないか?」

「へ?」


 ようやく身体を起こしてくれたマリスは、半分の眼のせいで、より一層まどろんでいるように見える。

 好意的な行動というより、猫にマタタビでも与えたような様子だった。


「それならもう見せたじゃないっすか」

「……え?」

「にーさんが落ちてきたときに、ほら」


 アキラは再びあの銀の光に出逢った。

 発行したのはマリスの分厚い本だ。

 その光に包まれた本は、アキラの目の前でふわふわと浮かび始める。

「わ、分かった……。分かった……!!」


 目の前で怪奇現象が起こったアキラの口から、本から一切目を離さず情けない声が出た。

 マリスが小さく頷くと、その本はやはりふわふわとしながら、アキラの膝の上にぽとりと落ちる。

 まだ現実感の無かった“異世界”の力が目の前で展開され、アキラは感動よりも恐怖を覚えた。


「これでいいっすか?」

「あ、ああ、ああ……。そうだ、あ、ありがとう……」


 マリスは満足げに微笑んだ。

 アキラにとっては超常的なことでも、マリスにとっては片手間にできる些細なことでしかないらしい。

 まったく動機が収まらなかった。


「そうか、お、お前が助けてくれたんだな、そうか、ありがとう、そうか」

「にーさん、面白かたっすよ。発光しながらゆっくり降りてくるの見てたら、笑いそうになったっす」


 マリスは目をこすって微笑んだ。

 自分がそんな天使が降臨するような登場をしたとは。

 ほとんど気を失っていて自覚は無かったが、さぞかし神々しく見えたのだろう。


「……そういや、全然印象違うな」

「?」


 アキラは盛大に息を吐き出した。


「いや、ドレス来てたときとなんか違うなって思ってさ。下でなんかやってたんだろ? 大丈夫だったのか?」

「…………ああ」


 マリスの目が少しだけ大きくなった。


「にーさん勘違いしてるっすよ。ドレスを着ていたのは自分じゃないっす」

「は?」

「あれは“ねーさん”っすよ。自分の双子のねーさん。ほら、丁度……」


 ギッ、という音が響いた瞬間、反射的に振り返ったアキラの目に飛び込んできたのは、背後にいる“マリス”だった。


 いや、そのはずはない。

 容姿、背丈ともマリスと同等だが、切れ長の瞳。服装もローブを纏うマリスと異なり、シャツとジャージにも似たズボンとラフな姿をしている。

 そしてその雰囲気は、ずっと鋭く感じた。


 屋上のドアの前、赤い髪を夜風になびかせ、その少女はその目ですっと自分たちを見下ろしていた。


「……」

「……」


 不思議な感覚だった。

 夢の世界の住人のようなマリスより、ずっとありふれた姿の彼女を見たとき、ずん、と激情ともいえる衝撃が、身体中を駆け巡った。

 あるいは異世界に来たという事実より、目の前の存在と出逢ったことが、心の奥に強く刻まれる。


「……エリサス=アーティ。自分の双子のエリーねーさんっす」

「…………あ、ああ」


 どこか遠く聞こえるマリスの声に何とか返事をしながらも、アキラの目は、目の前のエリーを捉えて離さなかった。


「? にーさん?」

「にっ……」


 マリスがアキラの身体をゆすったところで、初めてエリーから声が漏れた。

 その声を聞くだけでも、また心の奥が揺さぶられる。


「にーさんですって!?」

「なっ!?」


 放たれた怒号に、身体の震えが瞬時に収まり、吹き飛ばされた。


「あ、あなた、誰!? 人の妹に、なんて呼ばせ方……、って、何させてんのよ!?」

「は!?」


 びしっとエリーが指さしたのは、いつの間にか再びマリスが頭を乗せていたアキラの肩だった。


 夜、彼女から見て不審者が、自分の妹に兄と呼ばせ、密着している。

 なるほどなるほどと思うほど、警察沙汰だった。


 冤罪を訴えようとした者の、冷静さを取り戻せたアキラの脳裏に、異世界ものの定番の出来事が蘇る。

 すなわち、女性からの理不尽な暴力。


「っ、待て!!」


 伸びてきた手にびくりと身をこわばらせたが、その手はマリスを掴み、ぐっとエリーの方へ引かれていった。

 そのままの勢いでマリスを庇うように立ったエリーは、完全に犯罪者を見るような目でアキラを睨んでくる。

 殴られていた方がましだったような冷たい瞳だった。


「マリー、大丈夫!?」

「大丈夫っすけど……。それよりねーさん、目が覚めたんすね」


 夜空に響くエリーの声と、夜空に溶けるようなマリスの声。

 同じ姿形をしたふたりを交互に見ながら、アキラは恐る恐る立ち上がった。


「こ、ここは夜間、男性立ち入り禁止よ!! あなた何者!?」

「あ、ああ。俺はヒダマリ=アキラだ」

「誰が自己紹介しろって言ったのよ!?」

「お前だろ!?」


 どうやら暴力は避けられたようだが、定番の理不尽の方は避けられないらしい。

 エリーの声に反発するように大声で返したアキラは、しかしじりじりと後ずさった。


「マリー、誰なの?」

「え。だからにーさんっすよ」

「そんな呼び方しちゃだめ!!」


 自分の妹の正気を疑っているのか、マリスを何度もゆすり始める。

 そしてエリーは、顔を真っ赤にしてアキラを睨む。


「あ、あなた。人の妹に何を吹き込んだの!?」

「おま……、一体何を想像してんだよ!?」


 マリスの言う通り寝起きなのか、エリーは怒鳴るばかりで会話が成り立つ気がしなくなってきた。

 埒が明かないエリーから視線を外し、マリスに助けを求める。


「ね、ねーさん、揺するの、止めて、欲しい……っす……、た、たす、け……」


 助けを求めたマリスは揺すられて意識が朦朧としながら助けを求めていた。

 駄目だ。

 この異世界の言葉は分かるらしいのに、話し合いで何とかできる様子ではなかった。


「と、とにかく出ていって!! 今、すぐ!!」

「わ、分かった、分かったから、」


 その剣幕に押され、アキラは手を上げながらゆっくりと屋上を後にした。

 背中を煌々とした殺気に押され、階段を降りかかったところでエリーの悲痛な声が聞こえた。

 きっと彼女の中では神族が人間にしたように、自分がマリスをたぶらかし、洗脳したことにでもなっているのだろう。


「な、なんだってんだよ……」


 苦々しげに呟き、元の部屋に戻ろうともせず、アキラはとぼとぼと会談を下った。

 1階まで下りると、分かりやすく出口があり、投げやりな気持ちで外に出る。


 異世界に来て、塔から落下し、気を失って、目が覚めれば美少女に理由もなく好かれ、その姉には理不尽にも追い出される。

 もう少し間隔を開けてくれればよかったのだが、その定番イベントたちは、1日に凝縮されると脳の整理が全く追いつかないらしい。


 だが、建物を出るとき、そんな混乱の中でも、ジンと胸の奥が熱くなるのを感じていた。

 熱が芽生えたのは、あのとき。


 あのエリサス=アーティを見たときからだ。


 何故か、妙に気になる。

 そうとしか言えなかった。


 気取った言葉を使うなら、運命の出会い、というやつなのだろか。


「な、なんだってんだよ……」


 最後にもう一度呟き、アキラは当てもなく歩き出した。


―――**―――


「ごほっ……、……っくし」


 急激な寒気と共にアキラは覚醒した。

 昨日の夜とは打って変わって光と活気が包まれる村の中、アキラは頭を押さえて蹲る。


 アキラはもしかしたら初めてかもしれない野宿をする羽目になっていた。

 昨夜、当てもなく自暴自棄になって外に飛び出したアキラは、しかし所詮金も土地勘もないことに気づき、村をうろうろと徘徊してみたあと、結局昨日の建物の門前に座り込んだのだった。


「あー、あ~、ごほっ、……ああ、喉痛……」


 咳ばらいを何度しても違和感がぬぐえない。

 ふらふらと立ち上がり身体を伸ばすと、身体からパキパキと音が漏れる。

 身体の節々が痛み、立った後もしばらく身体を壁に預けざるを得なかった。


「……?」


 ようやく痛みが引いてきたころ、アキラは足元に毛布が落ちていることに気づいた。

 寝返りを打ったためにそうなっているのだろうが、元々はアキラにかかっていたのかもしれない。

 どうやらこの異世界も春先らしい。

 やけになって寝ようとした昨夜も少し冷えていた。もしこの毛布が無ければもしかしたら凍えて死んでいたかもしれない。


 僅かばかりの思考の後、恩人である毛布を丁寧にたたむと、アキラは周囲を見渡した。


 昨日の建物は夜にも見上げたが、この辺りの家屋のどれよりも大きかった。庭もあり、暗がりからも整備が行き届いているように見える。

 あのふたりの姉妹はお嬢様だったのだろうか。と思ったのも束の間。明るくなった今、可愛らしい表札のような看板で、ここが孤児院だったと知った。

 彼女たちはここの孤児院に預けられているか働いているかなのだろう。


 民家がぽつぽつとあるだけの周囲に人通りは無く、離れた表通りから僅かな喧騒が聞こえる程度で、自分が完全に孤立しているような錯覚に陥った。

 遠目に飲食店のような店も見えるが、あいにく閉まっており、なによりアキラは金を持っていない。


 異世界で、たったひとりだ。

 ここがどういう文化を持った世界なのかという情報も、宿も、先立つものも、知恵も、何もかもが無い。

 加えて言うなら無理な野宿のせいで絶不調。それなのに空腹というおまけ付きだ。


 異世界に漂流した主人公は、その世界で手厚く保護を受け、徐々に世界に慣れていくものではないのだろうか。

 昨夜そのガイドらしき少女に出逢えたというのに、同じ顔をした少女に追い出され、最早詰んでいるのではないかと自分の運命を呪った。


「……、おはようっす」

「!?」


 突如話しかけられて振り返り、アキラの頭がずきりと痛んだ。本格的に頭痛が酷くなっている。

 だがそれよりも、アキラにとっては神の使いとの再会だった。


「ガ、ガイド!!」

「……マリーっす」


 昨夜アキラが再びここに戻ってきてから、触れようとも思わなかった門がいつの間にか開いている。

 当たり前の日常のように開かれたそこに、いつの間にか半分だけ開いた眼の少女がぽつんと立っていた。


「あ、ああ、マリス、お、おはよう」

「……」


 太陽の下でも、月下の下でも、マリスの気の抜けたような雰囲気に変わりはなかった。

 だがそれでいい。

 彼女が姉に感化され、自分を敵視していたら本当に終わっていた。

 今は変わりなくそこに立つ彼女に、縋りついてでも当面の補助を頼まなければならない。


「……この毛布、お前がかけてくれたのか?」

「そうっすよ。本当は運んでもよかったんすけど、ねーさんに見つかったらまずい気がして」

「まじで助かった。ありがとな」

「ねーさん、滅茶苦茶機嫌悪かったっすからね」


 この少女にはお礼を言ってばかりだった。

 この世界で唯一といっていい味方に、アキラは鼻の辺りがジンと熱くなる。


 理不尽にも怒鳴り散らして自分を追い出した姉。

 理由もなく好いてくれる妹。

 選択問題にもならない姉妹の善悪は、アキラの中で確かに構築されつつあった。


 もしこの異世界が、アキラにとってご都合主義にまみれているとなれば、現実世界では叶いはしないアキラの“とある目標”も夢ではなくなってくる。

 そうなったらマリスには是非“メンバー”に加わってもらいたい。


「ねーさんは過保護、って言うんすかね。昨日は特に酷かったっすけど、“妹”のことになると、あんな調子で。自分はよく守ってもらっているんすよ」


 マリスの表情が緩んだのを感じた。過保護と言いつつ、マリスは姉を好いているように感じる。

 ただ、追い出されたアキラからしてみれば、エリーからは底冷えするような寒気を覚える。


「でもあれは酷いだろ……。訳分かんないこと怒鳴ってくるし、殺されるかと思ったぞ」

「……あんまりそういうこと言わない方がいいっすよ、“にーさん”」

「?」


 マリスは門の横のポストからいくつか手紙を取り出すと、門にゆっくりと歩を進める。

 来い、ということらしい。


 今度こそ落ち着いた場所で事情を説明してくれるのだろう。

 そしてきっと、暖かな食べ物と暖かなベッドで休ませてくれるだろう。

 そんな安堵が身を包んだアキラは、意気揚々とその後を追った。


 しかし、やっと運気が上向きになったように感じたアキラに、


「だって、」


 マリスが爆弾を投下した。


―――**―――


「お母さん、今の本当に!?」

「え、ええ……」


 エリーは野菜を洗いながら、隣でそれを切っている育ての親、エルラシアによく通る声を返した。

 一応は業務用、ということもあり広い台所だが、結局料理をする場所は限られており、ふたりして並んで調理を進めるのはこの孤児院のいつもの朝の光景だった。

 コンロには大きな鍋が設置され、野菜を投げ込まれるのを今か今かと待っている。


 孤児院の朝は早い。

 子供たちが起きてくる前に食事の用意を済まさなければ、幼さゆえの不満で、この建物は大混乱するだろう。

 昔は自分も混乱させる側の人間だったが、今となってはなだめる側の人間だ。

 雑談をしながらも、手際よく調理を進めていく。


「あのお方が“今回”の勇者様。昨日の会合でそう決まったわ」


 それでか、とエリーは辺りを見渡す。

 集められた食材は野菜だけにとどまらず、この孤児院では珍しい肉も魚も並んでいる。

 朝からどうかとも思うが、母のエルラシアは村長から頼られることが多く、その勇者様をもてなす料理を作れと依頼されたのだろう。


 あのお方とやらのことを、それを手伝うエリーはあまり覚えていない。

 だが、おぼろげに、入隊式のときに突然落ちてきた男のことを指しているのであろうとは容易に想像できた。


「ん……?」


 眉が寄った。

 朝すぐに母に相談しようと台所に降りてきて、この食材を前に言葉を飲み込んだが、この孤児院で昨夜事件が起きた。

 不審者、というか、侵入者、というか、ともかくそうした男が、この孤児院に現れたのだ。

 あの男が、そうした経験のないはずの自分の大切な妹をたぶらかしているように見えた途端、爆発するような感情が身を襲った。

 一晩経った今も、まだ気が落ち着ききっていない。

 昨夜は見事撃退できたのだが、今から考えると、あの見覚えのない男に見覚えがある気がしてきた。


「まったく、ファリッツ氏も毎度毎度……」


 ぶつぶつと野菜に向かって呟くエルラシアを見て、エリーは一旦頭から悪寒を追い出した。


「……あ。そうだ、そう。あたしの入隊式はどうなったの?」

「それは……、そうね。ごめん、聞けなかったわ。あなたが気を失ったあと、凄い騒ぎだったのよ」

「そんなぁ」


 せっかくの晴れ舞台は丸潰れになったらしい。

 やっとの思いで1年越しに合格した魔術師試験だったのに、入隊が流れたらどうなるのか。

 同期になるはずだった者たちもとっくにこの村を立ち、今頃魔術師隊の先輩方に向かい入れられているだろう。

 それなのに、自分がやっていることは芋の皮むきだ。


 寝不足も相まって泣きたくなってくる。


「でもね。それどころじゃないのよ……」

「それどころって」


 割と本気で取り組んでいたことにそう言われると流石に傷つく。

 魔術師になるのを反対されていた時期もあったが、合格のときには一緒に泣いて喜んでくれたというのに。

 しかしエルラシアは表情を落としたまま、発火装置に手をかざした。


「やっぱりまだ反対してたの?」

「そういうわけじゃないんだけど……、はあ。エリー、気を確かにね」

「?」


 火をつけた母は、あるいは入隊式のとき以上にうるんだ瞳を向けてきていた。


「あなた、入隊式のしきたり、覚えている?」

「しきたりって」

「『あの場所での嘘は、絶対に許されない』」

「覚えているわよ。しきたりは試験科目だし、大体あたしが何度入隊式について調べたか」


 正直、調べていて、どうかとも思った。

 神族は心を読む術を有しているという。

 ゆえに、嘘はすぐに暴かれるが、心を読まれる側としては気持ちのいいものではない。

 だからこそ、神族と人間は儀礼の際、神族は心を読むことを、人間は嘘を吐くことをそれぞれ強く禁じ、互いの礼儀とした。

 それが入隊式のしきたりの由来だそうだ。


「でも何も問題ないでしょ? 決まったことを決まった通りにやるだけなんだし。それが何か関係あるの?」

「大ありなのよ」


 エルラシアがはっきりとしたため息を吐いた。


「まさかエリーを魔術師隊に送り出す心の準備をしたばかりで、こっちの心の準備もしないといけないなんて」

「え……、な、なによ」


 正面から見て、母の眼もとにクマが出来ていることに気づいた。

 寝不足は自分もだが、母は眠ってすらいないのかもしれない。


「エリー。あなたはね、その決まったことを決まった通りに―――誓いを立てて口付けしたのよ。あの勇者様に」


 気絶、だけは避けた。


―――**―――


「だから言っていたじゃないっすか。“にーさん”だって」

「……」

「……」


 ようやく話が通じるようになったとでも言わんばかりに、マリスがややはっきりとした口調で酷いことを言った。味方だと思っていたのに。


 アキラは改めて招き入れられた孤児院の一室で、テーブルの向かいの双子をぼんやりと眺めていた。


 どうやら自分を保護してくれたらしい妙齢の女性は、暖かに迎え入れてくれたが、昨夜自分を追い出したこのエリサス=アーティをこの場に残し、慌ただしく厨房に戻っていった。朝食の準備で忙しいのだろう。


 応接室らしいこの部屋には、開け放たれた窓から爽やかな風が吹き込んできていた。

 若干乾燥している空気と日差しの強さを見るに、今日はいい天気になりそうだ。

 だが、室内は、どんよりとした、じめじめとした、ずしりと重い空気が漂っていた。


「ヒダマリ=アキラです……。……よろしく」

「エリサス=アーティです。……昨日はどうも失礼しました……」


 一応昨夜怒鳴り合った仲ではあるが、互いに全く覇気はなかった。


「あたしさ。……ふふ。夢があったんだ」


 エリーから漏れた声には、哀愁が満遍なく漂っていた。


「魔術師になって……、国を守るの。その給料をここに入れて……、孤児院のみんなに美味しいものたっくさん食べさせてあげて……、今よりずっといい日々を過ごしてもらうの。お母さんももっと楽をしてもらいたいし……。ふふ。素敵でしょう?」

「ねーさん? ねーさーん?」


 目の前でマリスが手を振っても、エリーの乾いた瞳はそれについていかなかった。


「それでいつかあたしも素敵な人と一緒になって……、この村で幸せな家庭を築くんだ。協力して子供たちの世話をするの。……ちなみにそれは今じゃダメ」


 最後の台詞は妙に力が込められていた。

 自分の夢、というよりも将来設計を口にしたエリーは自虐的に微笑んだ。


「でもさ。もうそれ、叶わないんだよね……。こんな見知らぬ人の妻になって、あたしは人生の墓場に早々に入るの……。あたしが何をしたっていうんだろう。悪いところがあるなら言って欲しい。治すから」

「ねーさん。『勇者様へは最大限の敬意を払わなければならない』っていう“しきたり”、知らないわけじゃないっすよね?」

「ああそうね、幸せだなぁ。ふふ」


 付け焼刃のように出てきたエリーの賛美は、乾いた笑いに溶けていった。


「……」


 一方で、アキラもほぼ呆然としていた。

 異世界に訪れ、どうやらそこには魔王という人類共通の敵がおり、自分は勇者のようで、それに立ち向かうらしい。

 そして贔屓目なしに美少女の姉妹と出逢い、縁が出来た。

 まさに順風満帆のように思える状況なのだが、アキラにとっては、その縁が問題だった。


「俺さ、夢があったんだ」


 アキラは浮かされるような頭をふらつかせながら、エリーのようにぼそりと語り始めた。


「昔からさ、ハーレムに憧れてて……」

「ストップっす」


 マリスから静止がかかった。

 顔を上げると、じめじめとした空気が少しだけ、ひやりとしたものに変わっている。


「なんだよ。もう少し語らせろよ。今そういう時間だろ?」

「…………聞き間違いなのかな。もう1度お願いできる?」


 不審者を見る目から、得体の知れない何かを見るような目になったエリーに促され、アキラは話を進めた。


「だからさ。昔からハーレムに憧れていてさ。異世界に来たんだからそれも夢じゃないって思ったんだよ」

「…………」

「だから結婚しちゃダメなんだ。ほら、不倫って良くないだろ?」


 じっくりと言葉をかみしめているのか、エリーはゆっくりと頷くと、彼女の態度は元の不審者を見る目に戻った。

 まったく活力を感じられなかったエリーは今、昨夜のように、隣のマリスを庇うように引き寄せ始めている。


 アキラは頭に手を当てた。

 そういう物語が特に好きで、異世界に来られたのだ。

 それくらい夢見て罰は当たらないと思ったが、それが現実のものとなっているとなれば、口に出すようなことではなかったかもしれない。


「もう1度いいか?」

「さっきチャンスはあげたでしょう」


 エリーは警戒態勢を飛び越え臨戦態勢になっているように見えた。

 マリスの半開きの眼の奥にすら少しだけ冷たいものを感じ、アキラはむしろ破れかぶれになって言葉を続けた。


「なんだよ。いいじゃないか、男の夢」

「女性の前でそういうこと言わないでくれる? ……変態」

「へっ、変態っ、って、ゴホ、ゴ、……ああ、んん」

「風邪っすか?」

「マリー、色々うつるかもしれないから近づかないの」

「どこかの誰かが外に追い出したせいなんだがな……」


 やはり寒気がするし、せっかくの初めての異世界の朝だというのに活力が湧かない。

 だが、ぼうっとする頭に誘われてうわ言のように吐き出したのは、アキラの本心だったりする。


 そもそもアキラがネット小説にはまり込んだのは、そうした物語が多いからだ。

 来訪者は異世界で多くの美女たちに好かれ、毎日楽しく暮らしていく。

 定番の嬉しいイベントも盛りだくさんだ。

 少なくともアキラの経験上、あるいは剣や魔法で戦うこと以上に、そうしたシチュエーションは現実世界では起こり得ない。


「と、とにかく!」


 アキラの話をこれ以上深掘りする気はないようで、エリーは凛として切り出した。


「あたしたちは、お互い納得してない……!」

「ああ、それだけは同感だ」


 とりあえず最低限の共通認識だけ整えると、エリーは縋るようにマリスを見た。


「ねえマリー。婚約破棄する方法ってないの? できれば、年内にあたしが魔術師隊に入る方法も」

「んー……」


 姉の熱い視線を受け、マリスはアキラの方をちらりと見てきた。

 思い当たることでもあるのだろうか。唸るように首をひねり始めた。


「……てかさ、そもそも“しきたり”? よく分からないけど、無視しちゃいけないのか? それにこいつが誤爆したのが原因だろ? 俺は被害者じゃないか」

「正式な場でのことだし、破ったらどうなるかなんて知らないわよ。酷い目に遭うとは聞いてるけど……。それより、あんたが落下してきたのが事の発端でしょう!?」

「……魔王討伐」


 言い争いになりかけたとき、マリスから声が漏れた。


「“しきたり”は神族が定めたルール。理屈だけで言えば神族なら正式に取り消せる。でも神族に会うなんてまずできない。……だけど、魔王討伐をした勇者には特権が与えられるんすよ。神族が願いを叶えてくれる、っていう」


 魔王討伐の特権。それはつまり報酬だ。

 その偉業に対する報酬ともなれば、それこそ人知を超えた願えさえ叶えてくれるかもしれない。


「……待てよ。まさかその特権を婚約破棄に使えってか?」

「自分に思い浮かぶのはそれくらいっすね……。あの場での言葉じゃ、すぐ離婚、っていうのも許されないだろうし……」

「……う、ううううぅ……」


 眉を寄せて唸り始めたエリーだが、アキラも何となくは察してくる。

 代々魔王を討った勇者たちは何を叶えてもらったろうか。

 現在は百代目とのことだが、嘘を吐いたのでなかったことにしてください、と頼むことになるのはおそらく史上初だろう。

 そんな理由で討伐を目指される魔王側も冗談ではないだろう。


「まあ、どの道今更無視はできないっすよ。正式な場所で、村の人も、魔術師隊も、多くの人が、ちゃんと見てたんすよ、ふたりの口づけ」

「忘れようとしてるのに言うなーっ!!」


 悲痛な叫びが響いた孤児院の朝。

 村長であるリゼル=ファリッツが訪ねてきたのは、朝食後のことだった。


―――**―――


「おおっ、神よ!! この出逢いに感謝いたします!!」

「……はあ」


 孤児院の玄関口で迎え入れた中年の男性に、大げさに跪かれた。

 アキラの目の前で深々と頭を下げるファリッツは、それこそ劇場の舞台にでもいるかのように声を張り、余りある活力を漲らせている。

 ファリッツの背後には、ややその活力に押されているものの、彼が連れてきた付き人と思しき男性がまたふたり、アキラに向けて同じように跪いてきた。


「この日を今か今かと待ちわびておりました。昨夜はお疲れであろうとご挨拶を遠慮させていただきましたが、今後はご協力を惜しみません!!」


 異世界にて、英雄としてもてはやされるのに多少は憧れてきたが、目の前でここまでやられると胡散臭さを感じてくる。

 隣に立つエリーに視線を送ると、彼女は呆れたようにファリッツを眺めているだけだった。


「自己紹介が遅れました。村長のリゼル=ファリッツと申します」

「……あ、ああ。ヒダマリ=アキラ、です」


 立ってもアキラより背が低く、それでいて恰幅のいいファリッツは、いつまでもにこやかに笑っている。

 この笑顔を素直に受け取れないのは、隣のエリーが微塵にも笑っていないからだろう。

 何か嫌な予感がする。


「アキラ様……、とお呼びすればよろしいですかな?」

「あ、はい。ええ」

「では、アキラ様!! 今後ともよろしくお願いいたします」


 感極まった様子で手を差し出してきたファリッツに応じると、思ったよりも力強く手を掴まれた。

 ちらりとふたりの従者を流し見ると、メモのようなものを取り出して何かを書いていた。自分の名前を残しているのだろうか。


「ご無事で何よりです。ご機嫌はいかがですかな? 小さな村でして……、こちらの施設が勇者様のお身体にあったかどうか」

「いや、ま……ゴ、ホッ、んん、ゴホッ」

「!? エルラシア、エルラシア!!」


 ファリッツの怒鳴るような大声が頭痛を悪化させた。

 ファリッツが睨む先を見ると、奥の部屋から先ほどの朝食のときにも話したエリーたちの母、エルラシアがうんざりとした顔で現れた。

 部屋のドアの向こうにちらりと見えたのは、アキラたちと時間をずらして朝食をとっている子供たちだろう。好奇心にあふれた多数の目を、何とかマリスが押し止めているように見えた。


「どうかされました?」

「勇者様の具合が悪いようだ。どうなっている。勇者様への不届きは重罪だぞ!?」

「だから今日は遠慮してくださいと言っておいたのに……。アキラさん、やっぱり休んでいた方がいいんじゃないですか?」

「いや、大丈夫です。ちょっと咳払いしただけなんで。ありがとうございます……」


 先ほどの朝食のときも気を遣ってくれたエルラシアに、鼻の奥がジンと熱くなった。

 やはりこの異世界は自分に優しくできているらしい。


「なによ」


 アキラの視線に気づいたのか、例外が冷たい視線を返してきた。

 紆余曲折あったが、一応自分と彼女は共通の目的が存在している協力者という関係で手を打っている。


「では……、ひとつお願いしたいことがあるのですが」

「ちょ、村長!! 日を改めてください!!」

「昨日決まったときに君もその場にいただろう。それに、君たちの意見を汲んだ結果じゃないか」


 機嫌よさげに笑うファリッツは、アキラに並びたち、誘うように孤児院の庭へと歩き出した。


「実は最近、困ったことがありましてな」

「? はあ」


 足取り不確かに進むアキラは、ファリッツがわざとらしく寄せた眉をぼうっと眺めていた。


「この辺りに、とある魔物が多く出没するようになったという話はお聞きになりましたか?」

「いや聞いてないですけど……」


 そもそも、この世界で自分が見た非現実的なものはマリスの魔法くらいだった。

 神族や魔族とやらはおろか、魔物すら視認していない。

 皆が当たり前のように話すのだから、もう疑ってはいないのだが。


「それでしたら……。エリサス。説明して差し上げられるか?」

「え、あたしが、ですか? ……できなくはないですけど」

「そうか! それならそうした方がいい。親睦を深められる。うむうむ」


 厚ぼったい身体に心地よい、ひんやりとした空気をエリーから感じたが、特に騒ぎ出しはしなかった。

 目的がはっきりした今は、面倒なことになる否定よりも無視を選択した方がよいというのは互いの共通認識だ。


 そうとは気づかず上機嫌のファリッツは、庭を進み、孤児院の前に停めてある台車に向かっていく。

 茶色いカバーがかかった台車には、荷物番なのだろう、もうひとり付き人がおり、ファリッツの姿に気づくと姿勢を正した。


「まあ、詳細はともかく、お願いしたいのはその魔物の討伐なのです。是非勇者様にお力添えをしていただきたく……。開けてくれ」

「……おおっ」


 初日にケチが付いたせいで、あまり現実感の無かった異世界。

 体調不良も相まってあまり気持ちが高ぶっていなかったのだが、流石にこれは気持ちが上がった。


 台車の中には、武具がずらりと並んでいた。

 剣、槍、弓、刀に、兜や盾、そして鎧のような防具までも、実際には見たことのない有名な装備が勢揃いしている。

 他にも小剣というかナイフのような投げ道具と思われるものや、アキラが名前を知らない奇妙な形状の武器まである。


 思わず目を輝かせて覗き込んだ。


「村一番の職人が作りました。どれでも好きなものを好きなだけお持ちください」


 いよいよようやく勇者としての恩恵を受けた気がした。

 色々と問題はあったが、大冒険が今から始まるのだ。


「こ、これで魔物を倒せばいいんですね?」

「ええ。お気に召したようで何よりです」

「ちょ、ちょっと」


 吸い込まれるように台車の武具に伸びていった手をぐいと引かれ、ファリッツから隔離されるように離されると、目の前には怪訝な表情のエリーがいた。


「あんた本当にやる気? 明らかに口車に乗せられてるのに?」

「は? 何言ってんだ。村長はいい人だ」

「単純すぎるでしょう……」

「最悪最初の装備はこん棒とかになるかもとか思ってたんだよ……。それなのに、見ず知らずの俺にこんな装備を色々と用意してくれて……」

「あんた魔物と戦ったことあるの? あんたの世界の話聞いてないけど、魔法は使えないのよね?」

「平気平気。最初の村の魔物なんてスライムくらいだろ? 楽勝だって」

「……え、……本当に……?」


 エリーの手が緩んだのを好機ととらえ、アキラは早速武器の物色を始めた。

 分かりやすいのはやはり剣だ。槍も捨てがたいが、これこそ勇者の武具に相応しい。

 あとは投げナイフか何かを適当に選べば万全だろう。


「本当にこれ、貰っていいんですか?」

「当然です。勇者様への貢献は最大限に。これは“しきたり”なのです」


 また“しきたり”か。

 しきたりとやらではひと悶着あったが、こんなしきたりならば大歓迎だ。

 先行き不安だったが、エリーが例外なだけで、これから出会う人々は、きっとそういう風に扱ってくれるのだろう。

 そういう後付け設定はどんどん来て欲しい。


「ところでエリサス。勇者様との婚姻の儀はいつにする? あの騒ぎだったのだからもう1度やるのだろう。村を上げて祝わせてもらうぞ」

「っ……」

「いつがいいか……。サミエル!! 私の予定を持ってきてくれ!!」


 ファリッツの叫びに応じ、先ほどメモを取っていた付き人のひとりが建物から飛び出してきた。

 村長が恐ろしいのか慌てて駆け寄るその男の前に、割って入ると、エリーは毅然として言い放った。


「ま、魔王討伐が何よりも優先です!! 今はそれしか考えられません!!」

「おお、では、エリサスも魔王討伐に向かうのか?」

「ええ、ええ。もちろんです」


 なんとかファリッツの気を逸らすことに成功したらしいエリーは、肩で息をしながらいらだちをそのまま視線に込め、アキラに向けてきた。


「……あ、お前も来るのか」

「仕方ないでしょう……、この村でぼさっとしてたらいつ結婚させられるか分かったもんじゃないわ。とりあえずは何かやってないと、あたしの人生プランがどんどん後ろ倒しになっていく」


 “しきたり”とやらは、この世界ではどうやら随分と重要なもののようだ。

 たった今恩恵を受けただけのアキラには実感は湧かないが、彼女も、そしてファリッツも当たり前のように重く捉えている。


 とはいえ、今アキラの頭はまもなく始まる最初の冒険でいっぱいだった。

 ため息を盛大に吐き出しながら並んで武具を物色し始めたエリーを横目に、アキラも物色を再開する。


 定番中の定番である魔王討伐につながる第一歩を、ようやく踏み出せるのだ。


―――**―――


「グランドマイアンドロスガーディックス~~(略)~~ギガミュータントマーチュ(笑)?」

「なに。腹立つ」


 アキラとエリー、そして当たり前のようについてきてくれたマリスは、村の周囲に広がる大草原を歩いていた。


 塔の上からかすかに見えたここは実際に歩くと、踏む荒らされた道が出来ていたが、元の世界ではこんなものは道ではない。草むらを歩くより多少はマシとはいえ、スニーカーでは凸凹とした地面は歩きにくかった。

 あのファリッツの持ってきた物品の中に靴もあったのだろうか。そう考えても時はすでに遅く、アキラが選んだ洋風の剣が嘲るように背中でガチャガチャと鳴った。


 ずっと遠くには、岩山が見える。

 目に見える目標であるから多少の救いはあるが、元の世界では間違いなく交通機関を利用するだろう距離だった。

 苦もなく歩くエリーとマリスを連れながら、しかしアキラは体力の消耗以上にうんざりとしていた。


「なっが」

「正式名称よ。やっと覚えたと思ったら。なにその腹立つ顔……。通称マーチュ」

「ねーさんも覚えるの苦労したっすからね」


 エリーはわざとらしく咳払いした。


「まあ、試験に出るからちゃんと覚えないとね」

「先に通称の方を教えろよ」

「マリーが言ったでしょう。覚えるのに苦労したって。同じ苦痛を味合わせてやりたいと思うのは自然なことでしょう」


 断片的な会話から分かったことは、どうやらエリーはついこの前まで受験生というやつだったらしいということだ。口ではそう言っていても、教えたがり、というやつなのかもしれない。

 だが、同じく直近まで受験生だったはずのアキラなのに、その感覚は分からなかった。真面目さの度合いによるのかもしれない。


 異常なまでに長い名前が付いている理由も説明を受けた気がするが、そちらの方は名前の長さに押し流されて消えてしまった。どうせ寿限無寿限無のような理由なのだろうから覚えなくともいいだろう。


「それで、あの山にまっすぐ歩いてるけどそれでいいんだよな?」

「ええ。あそこが住処らしいわ」


 エリーの話だと、そのマーチュなる魔物が出没したのは、別に最近のことではないらしい。

 昔からときおり山の方から出現して悪さをするらしく、それが最近、少々数が増えてきたとのことだ。

 別に緊急性は高くないようだが、勇者としての冒険の第一歩に胸が躍り、体力とは裏腹に足取りが軽くなってきた。


「てか正式名称からして相当強そうなんだけど、どんな魔物なんだよ」

「だから正式名称は強いとかそういうことじゃないって」

「分かった、分かったよ」


 また授業が始まりそうだったので、先手を打ってなだめた。

 孤児院で子供の面倒を見ているらしいが、それも手伝って何かを教えるのが好きなのかもしれない。

 だが、それが勉強となるとアキラには水と油だ。


 アキラは使った脳を癒すように目的地の山を壮大な景色と共に眺めた。

 太陽が真上から照り付けるが、草原を通り抜ける涼やかな風が心地よい。

 こういう景色は心現れるものがあった。


「そういやさ。魔物ってこういう場所で出てこないのか? てっきり村の外で普通に出てくると思ってたんだけど」

「普通なら、ね。……ほら、いるでしょ?」

「へ? ……!?」


 エリーが指差した背の高い草むらを見ると、風ではない何かが草木を揺らしていた。

 自然動物だと思えばその程度のサイズなのだろうが、草の間から時折見える影は、どうやらアキラの知っている生物ではないらしい。

 不気味にうごめくそれを見て、アキラの背筋が冷えた。


「…………、は。はは。勇者様に恐れをなしてるのか」

「はあ」

「おい」

「まあ、半分正解だけどね。恐れられているのは、あんたじゃないわ」

「?」


 困ったように振り返ったエリーに倣うと、魔物を見ても全く様子が分からないマリスが、相変わらず眠そうに半分閉じた眼で見返してきた。


「ああ。自分、魔物に怖がられるんすよ」

「なんだって?」

「マリーはね。“数千年にひとりの天才”、なんて言われてて……。よく家に魔術師隊の人が勧誘に来てるのよ」


 なんと。そんな後付け設定もあったとは。

 言われてみればだが、マリスの雰囲気には同じ容姿のエリーとは異なる何かを感じた。

 怪しくうごめく何かたちは、そのよく分からない雰囲気とやらをもっと敏感に感じているのだろう。


「……え。スカウト受けないのか?」

「それはダメ!」


 浮かない顔をしていたと思っていたエリーが、即座に睨んできた。


「もしマリーがそんなの受けようものなら、もっと危険な遠隔地に飛ばされちゃうわ。……そんなの、ダメ」


 身内贔屓の可能性もあるが、エリーが受験までしてなろうとしていた魔術師とやらにスカウトされていたとなると本当なのだろう。

 異世界来訪者でよくある、最初から強力なお助けキャラ、というやつだろうか。

 乗る気になったとはいえ、いきなり魔物討伐を依頼されて内心怖がっていたが、そんなキャラクターがいるのであれば安心できる。

 やはりこの異世界は優しくできているようだ。

 風向きがどんどん良くなってきている。


「……それより。あんた、そんな恰好で大丈夫なの?」


 元々着ていた服のまま歩くアキラは首を傾げた。

 つい今しがた靴は変えるべきだったと思っていたが、代わりに剣を背負い、一応腰には貰い物の投げナイフが数本ケースに入ってぶら下がっている。


「お前だって大して変わってないだろ」

「あたしは用心してるわよ」


 エリーは身体に吸い付くようなアンダーウェアの上に、半そでのローブとハーフパンツのような軽装をしていた。

 拳や膝に動きを損なわない程度の防具が付いているが、長い赤毛を1本にして背中に垂らし、せいぜい運動でもするような恰好をしているだけだ。


 そしてマリス。

 こちらは本当に変わっていない。

 中は変えているのか知らないが、身体をすっぽりと隠す漆黒のローブを羽織っているだけで、出かける前からまるで変化が見られなかった。

 魔法使い、と言われればそうなのかもしれないが、あくまでこの世界における一般服の範疇のように思える。

 こんな様子を見ると、気合を入れているのはエリーだけのように思えた。


 双子だからとはいえそっくり同じとはいかないだろうが、容姿が同じということも相まって、随分と差があるように見える。


「あたしたちはいいの。魔力を使うから。でもあんたはできないんでしょ?」

「いやいいだろ、これで」


 アキラは軽く剣に手を当てて足を速めた。

 アキラのイメージする異世界来訪ものは、身体中を兜や鎧でガチガチに固めるものではない。

 あくまでファッション重視だ。盾すら不要だと思っている。

 重い防具は似合わないし、なによりそれを付けたらおそらく重さで動けなくなりかねない。


「まあ自分がいれば何とかなるっすよ。マーチュが相手だし」


 そして頼れるサポーターもいる。

 何を恐れる必要があるのか。


「ならとっとと終わらせようぜ」

「了解っす」


 間延びした、のんびりとした声に応えられ、気分良くアキラは歩を進めた。

 やはりマリスはその姉と違い、アキラのことを悪からず思ってくれている。

 ご都合主義万歳と言ったところだ。


 エリーは、そんな様子を驚いたような目で見てくると、怪訝な顔つきになって囁いた。


「……マリー。この男だけは止めておきなさい」

「大丈夫っすよ。にーさんはねーさんのっすからね」

「それだけは止めて」


 思った以上に冷たい声をエリーが発したとき、山のふもとが見えてきた。


―――**―――


「レベルがひとつも上がらないで最初のダンジョンに到着したか」

「たまには意味の分かることをしゃべりなさいよ」


 山のふもとに着くと、人が数人は横並びで通れるほどの巨大の穴が開いていた。

 これから山登りになりかねないと思っていたアキラは胸を撫でおろす。

 意気揚々と村を出たはいいがここまでの移動でほとんど体力が残っていない。

 都会育ちで大して運動もしていなかったアキラと、この大自然に囲まれて育ってきたらしい双子では根本的に体力が違うのかもしれないが、年下の女の子が息も切らさず立っているという事実がアキラにやせ我慢を強要させていた。


「ふー」


 ピリ、とエリーから鋭い気配が流れた。

 ここはマーチュの巣だ。マリスがいるとはいえ、侵入者に対しては当然撃退してくるらしい。

 草むらでやり過ごしていたあのうごめく影とは違い、今度こそ出遭えば戦闘が始まる。


「……まずはお手並み拝見ってところね。ほら、行ってよ」

「暗いな」


 やせ我慢をしていても、ぽっかりと開いた暗がりの洞窟に飛び込むのは、正直怖い。

 しかし苛立ち始めたエリーの方がもっと怖くなってきたので、アキラはしぶしぶ持ってきたたいまつに明かりを付け、ゆっくりと奥を照らす。

 片手が塞がっているという不安感もさることながら、ごつごつとした岩肌の通路が見えるだけのそこは随分深いようで、奥に闇が広がっていた。


「ぃ!?」


 だが、照らした先、岩陰で何かがうごめいた。

 即座に退避を考えたが、意地を張って手を剣に伸ばす。

 慌てて何度もつかみ損ねていることに気づいていないのか、エリーは神経をとがらせたまま冷酷に言った。


「ほら、いたわよ。行って」

「お、押すなって……!」


 ぐいぐいと洞窟に押し込まれ、アキラはようやく剣を抜いた。

 片手にはずしりと重い金属の感触を受け止め、じりじりと慎重に、今何かがうごめいた岩陰に近づいていく。

 あんなに軽かった足が重いのは、疲労ではなく恐怖が勝っているからだろう。未知の生物に出遭うというのは、現実世界だとしてももちろん怖い。


「……!? う、うぉ……?」


 それは、アキラを待たずに、ぴょこっと出てきた。


 大きさは子犬くらいだろう。

 アキラの膝にも満たないサイズのそれは、きつね色のリスのような生物だった。

 くるっと丸い瞳に、額や肩にチャームポイントのような渦巻き模様が付いており、後ろに見える短い尻尾も、ふぁっさふぁっさの毛でおおわれている。

 昼寝でもしていたのだろうか、瞳を潤ませ、目の前のアキラに対し必死に震えながら二足で立った。

 突然の侵入者に怯えているようで、ぷるぷると震えていた。

 愛玩動物としか思えないそれを見つめていると、小さな前足にどんぐりでも持たせてやりたくなる衝動にかられた。


「マーチュよ。倒して」

「できるかぁっ!! お前に人の心はあんのかよ!?」

「って、来てる来てる!!」


 この異世界で、魔王を倒す勇者の物語より、こうした生物を育てるスローライフ方向へ舵を切りかけるほど愛らしいそれは、アキラの大声にもびくりと震えている。

 ここで、きゅう、とでも鳴かれでもしたら、アキラは装備なんかより、おやつを持ってこなかったことを悔やむことになる。


 しかし。


「キューッ!!」


 想像していた以上の鳴き声が響いた。

 目の前の小さな生物が俊敏に跳ぶと、アキラ目掛けて突進してきた。


「ばっ!?」


 渦巻き模様の額に眼前まで迫られるも、転がるように回避できたアキラの耳に、ドゴ、と重々しい音が響く。

 振り返ればアキラを捉え損ねたマーチュの突撃が、岩の壁にひびを入れていた。


 再び、マーチュは懸命に立ち上がる。

 パラパラと落ちる小石の中、またアキラを潤んだ瞳で見つめてきた。


「きゅう?」


 おやつをあげる気にはならなかった。


「えっ、こ、こいつ、えっ!?」

「背を向けないで!! また跳んでくるわよ!!」


 何もかもを投げ捨てて逃げようとしたアキラは、エリーの言葉にピタリと止まる。

 パニックになった頭を必死に落ち着かせ、回避の際に投げ捨てた剣をゆっくりと拾った。


「やっ、やるか!!」


 こうなったらもう勇者の物語に本腰を入れるしかない。

 アキラは慣れない手つきで剣を構える。

 あまりに小さいその生物が、先ほどよりもずっと巨大に見えた。


「突撃は速いけど、普段は遅いわ!! 集中して!!」


 洞窟内に響くエリーの指導の下、アキラはマーチュにじりじりとにじり寄った。

 戦闘のチュートリアルにしてはある意味見た目も、そしてその力もアキラの手に余りそうな存在だ。

 下手をすれば怪我では済まないだろう。


「っし、らぁっ!!」

「馬鹿!!」


 剣を大きく振り上げた瞬間、エリーの怒号が響いた。

 人間に備わっている第六感か、はたまた防衛本能なのかは分からないが、一瞬遅れて、アキラも自分が以下に危険なことをしたかに気づく。


 岩をも砕く突撃をするマーチュが目の前にいて、自分は無防備に腹部をさらしているのだ。

 すべての時間がゆっくりと流れる。

 マーチュの瞳が、いたずらでも思いついた子供のように見え、そして同時に悪魔のような力強さを感じ取った。

 慌てて離脱しようにも、ふらつきながら剣を上げた身体は言うことを聞かない。


「キューッ!!」

「―――、」

「……!?」


 死を覚悟したアキラは次の瞬間、目の前で怪奇現状が起こった。

 突撃を仕掛けたマーチュが空中でぴたりと止まる。

 マーチュの小さな身体は空中で淡い光に包まれ、まるで水の中に浮かんでいるかのように短い手足をばたつかせていた。

 一瞬理解が遅れたが、アキラはこの光を昨夜見ている。


「にーさん、今っす」

「あ、お、おう!!」


 アキラは言われるがまま振り上げた剣を勢いよく振り下ろした。

 空中で身動きが取れていないマーチュを見ると強い罪悪感を覚えたが、殺されそうになったばかりとなれば躊躇はしていられない。


「っ―――」


 ガギ、と嫌な音が響いた。

 腕に強い痺れが走る。

 いつの間にか瞑っていた目を恐る恐る開くと、マーチュは、未だ光に包まれたままふわふわと浮かんでいる。

 涙目になって、額の渦巻き模様をさすっているが、大してダメージは入っていないようだった。

 それどころか、アキラが振るった剣の方が、先が折れて軽くなっていた。


「馬鹿な……」

「馬鹿はあんたよ!! なんでそのまま振り下ろしてんの!?」


 自分が全力で振り下ろした結果、小動物すら傷つけられず、武器を失ってしまった。

 あまりのショックに呆然としていると、小さな影がアキラの脇を鋭く抜いていく。その瞬間、目の前のマーチュが吹き飛ばされた。


 目に焼き付いたのは、洞窟の闇を吹き飛ばすようなスカーレットの光。

 マーチュは壁まで吹き飛ばされ、倒れ込んでピクリとも動かなくなった。


「あああっ、マーチュ!?」

「ばっかじゃないの!?」


 無残にも撃破されたマーチュに思わず叫ぶと、たった今アキラの目の前で小動物を殴り飛ばしたエリーの怒号が返ってきた。


「いくらマーチュだって正面から切りつけたら魔力で身を守るわよ。その上適当な切りつけ方して……、それ、もうくっつかないわよ」

「わ、分かってるよ」


 折れた剣先を拾い、壊れた箇所をつなげようとしてみたが、勿論直りはしない。

 最初の一刀で、あっという間に丸腰になってしまった。

 その上なんの戦果も挙げられていない。


「…………ま、まあ。にーさん、反射神経は良かったっすよ。それに、剣もきれいに折れてるし、結構力あるじゃないっすか」

「ありがとうマリス。その優しさで俺泣く」


 フォローしてくれているみたいだが、逆に惨めになってくる。

 アキラは滲んだ景色の中、壊れた剣を持って倒れたマーチュに近づいていった。


「それにしてもお前、よくこんな愛らしい生物殴れたな……」


 アキラの脳裏には、先ほど眼前で見たエリーの攻撃がこびりついていた。

 エリーが拳を見舞ったかと思った瞬間、火薬でも仕込んでいたかのように爆発し、アキラが全力で切りかかってもほぼ無傷だったマーチュが軽々と吹き飛ばされたのだ。

 これがこの世界の魔法というやつなのか。

 その破壊力に身震いしたが、何もできなかったというショックの方が大きい。


 今のアキラにできることといえば、


「あんたは斬りかかってたでしょう……。って、ちょっと、何するつもり?」

「この剣はこいつの墓にする。俺が出来るのはそれくらいだ」

「え、あ、ちょっと!!」

「危ないっす!!」

「え?」


 珍しくマリスの大声が響いたと思った直後、不用意に近づいていったマーチュから、ばちばちと、グレーカラーの電撃のようなものが走った。


 と、思った瞬間。


「―――っ!?」


 目の前のマーチュが小規模な爆発を起こした。

 容易く吹き飛んだアキラは軽く吹き飛び、身体を地面に強く叩きつけられた。


「か、かはっ、いだっ、づづづづづ……!!」

「魔物はもともと魔族の使い魔。魔力で作られていて、戦闘不能になると身体の中で暴走して爆発するのよ。分かった?」

「だ、だ、い……っ、ぅ、」


 もしかしたら生涯で最も痛みを覚えた瞬間かもしれない。もがき苦しむほどの痛みに我を忘れて地べたを転がり回っているのに、エリーは決して手を差し伸べてくれず、代わりに冷ややかな視線と共に状況を説明してきた。


「なんか、ああ、ぐ、なんか、……づ、」

「にーさん、じっとしてて欲しいっす」


 未だ爆風の痛みも熱も引いていないアキラに、優しい声が聞こえてきた。

 マリスが手をかざすと、銀の光が今度はアキラの身体を包み始める。


「ぐ……、う、あ、え……?」


 されるがままにしていると、冷却シートでも貼られているように、身体から熱や、そして痛みさえも引いていく。

 光が徐々に弱まり、洞窟内の光源がアキラが投げ捨てて転がっている松明だけに戻る頃には、アキラの怪我は完治したようだった。


「具合はどうっすか?」

「マリス。好きだ。大好きだ」

「ふざけてないで立ちなさい!!」


 エリーの言葉にすぐに応じられるほど、身体が軽くなっている。

 この世界の魔法のお陰なのだろう。

 詳しいことは分からないが、アキラは、地獄のような痛みから救ってくれたマリスを、今後何があっても信頼すると決めた。


「……教えといてくれよ。爆発するって。分かるわけないだろ、そんな後付け設定」

「あたしたちはあんたが魔物の墓を作ろうとする馬鹿だってことを事前に教えておいてもらいたかったわ」

「マリスはすごいなぁ、怪我まで治せるなんてさ」

「こっ、のっ……!!」


 エリーは拾い上げた松明を投げかけたが、どうやら思い留まってくれたらしい。

 代わりに冷ややかな目と共に、盛大にため息を吐き出してアキラに提案してきた。


「ねえ。あんたの実力は何となく分かったから、あたしたちの後ろで隠れながらついてきなさい。外でひとり待たせるわけにもいかないし……、武器も無いんでしょう?」

「いや、まだあるぞ。投げナイフが」

「…………投げてみて」


 言われるがままにエリーが指さした壁に向かってひとつ投げてみた。

 だが投げた直後、アキラのイメージとは違い、まっすぐ飛ばず、くるくると回って壁に刺さることなくぶつかって落ちた。

 殺傷能力はあまりなさそうだ。


「思ったより難しいな」

「もう1度言うわ。大人しく、後ろから、着いてきて。大丈夫だから」


 昨日は怒りの、今日は冷ややかなエリーの瞳の色が、今は憐みを帯びたものになっていた。

 アキラのことは、勇者様どころか共通目的のある存在ですらなく、保護者対象だと認識した様子だった。


 アキラの手に松明を押し当て、エリーはずんずんと奥へ進んでいく。

 彼女がかざした手には、先ほども見たスカーレットの光が浮かんでいる。

 明かりを灯す魔法か何かなのだろう。


「ま、まあ、これからっすよ」

「マリス。この辺りで声出して泣ける場所知らないか?」


 夢にまで見た異世界の最初の冒険。

 レベル1のまま進行し、どうやらこの先も、アキラの介入は無さそうだった。


―――**―――


「そこだ!!」


 襲い掛かってくるマーチュは、奥へ進めば進むほど、数が増えていった。

 身体のサイズに多少の差こそあれ、精々犬程度しかないが、数がいるとなると厄介になってくる。


「行くぞっ!!」


 だが、冷静に見れば対処できる。

 3体同時に撃破すると、今度は突撃態勢を取っているやや大きいマーチュに視線を走らせる。


「はっ!!」


 攻撃前に撃破しつつ、しかしそれ以上の隙は見せない。

 逆サイドに回り込もうとしたマーチュを鋭い魔術が寸分たがわず捉えた。


「こいつで最後だ!!」


 群れの最後のマーチュを捉えると、時間差で、撃破されたマーチュが爆発していく。

 先ほどのような愚は犯さない。

 十分な距離を取って、戦闘終了のBGMに酔いしれた。


「相手が悪かったな……」

「うるさいっ!!」


 年下の女の子に本気で怒られた。

 見事マーチュの群れを撃破した姉妹の、いつも怒っている方が、ずんずんと歩み寄ってくる。


「あたし大人しくついて来いって言ったわよね? 大人しく、よ。いちいち茶々入れられると集中できないんだけど……!!」

「さ、次だな……」

「話を聞け!!」


 アキラも、最初の数回は姉妹の魔法を使っての戦闘に驚き、言われた通り大人しくしていた。

 しかし洞窟を進むたびマーチュの群れは現れ、何度も見ていると流石に慣れてくる。

 自分があたかも戦っているように応援というかイメージをしていたのだ。何もできない現実から目を背けて、少しでもこの異世界の気分を味わいたくなってきたのだ。


「なあ、そろそろ俺戦えないかな? 強くなって来たと思うし」


「見ていただけで何を言う」

「ほら、経験値ってば馬車の中にも入るじゃないか」

「たまに意思疎通する努力をしてよ……」


 怒りと呆れが入り混じった表情を浮かべ、エリーはすたすたと歩いていく。

 どうやらアキラの応援はお気に召していないらしい。

 離れていく背中が、妙に大きく見えた。


「にーさん。今回は仕方ないっすよ。にーさんの世界はどんな感じかも聞いてないっすし、戻ったら、色々教えるっす。今は慣れることを優先した方がいいっす」


 たびたびマリスは気にかけてくれ、その優しさが残酷にもアキラの心を抉っていった。

 自分より年下の女の子に付き従うだけの最初の冒険は、自分自身に嫌気が差す。

 村で真っ先に手に取った剣は今はもう無く、誰でも扱えるような松明だけがこの手に残っていた。


 だが、それを差し引けば、確かに異世界。

 ふたりの戦闘は、アキラの興味を大いに引いた。


 姉のエリーは、武闘家、とでも言えばいいのか、拳や蹴りの応酬で敵を討っていく戦闘スタイルのようだ。

 鋭く距離を詰め、そして鋭く攻撃を見舞う。

 ただ、アキラよりも細いその腕や足の筋力はたかが知れている。

 アキラが力いっぱい振り切った剣をも防いだマーチュを容易く葬っているのは、その大部分が彼女の魔法によるものだ。

 攻撃の瞬間、スカーレットの光が爆ぜ、容易くマーチュは吹き飛んでいく。

 威力の高さは、ほぼすべて一撃で戦闘不能に陥らせていることから容易に想像ができる。


 一方、妹のマリス。

 こちらは見た目通り、分かりやすい魔法使いだ。

 戦闘が始まってもエリーとは違いほとんど動き回らず、敵に向かって手のひらを向け、銀の光を放つ。

 その分かりやすい魔法の、光弾とでも表現できる攻撃で、やはりマーチュを容易く葬っている。

 姉があれだけ動き回って撃破している敵を、マリスはほとんど立ち止まったままで戦闘不能に陥れていた。

 外から見ているだけでも、そうしたマリスの方が多く敵を討っているように思えた。

 “数千年にひとりの天才”。誰が言い出したのかは知らないが、エリーがそう表現したマリスの異名は、まさしく素人目のアキラにも信憑性が高く感じた。


「……はあ、……はあ」


 また幾度目かの戦闘が終わり、双子の姉妹は歩いていく。

 エリーの荒い息遣いが、妙に耳に残った。


「……なあ。お前、大丈夫なのか?」

「は? 何がよ」


 振り返りもせずエリーが足を速めた。

 魔法だなんだのと思ってみていたが、アキラも実感した通り、単純に歩き続けるだけでも疲労する。戦闘で暴れ回っているのであればなおさらだ。


 涼やかに歩くマリスを見ていると忘れそうになるが、もうずいぶんと、移動と戦闘を繰り返している。


「にーさん。今はねーさんをあんまり刺激しない方がいいっすよ」

「……そう、だな」


 優し気に接してくるマリスは、さり気なくアキラのそばにいて、身を守ってもくれているようだ。

 酷い中傷を受けたが、もしアキラが漏らした通り、本当にハーレムが築けるのであれば、マリスには是非ともメンバーにいてもらいたい。


 だが、何故か。

 前を歩くエリーのことが妙に気になった。

 きつく当たってくるし、いつも怒っているし、今では最早そこらの子供と同じような扱いを受けつつある。


 それなのに、昨夜出逢ったときに感じた衝撃は、未だに思い越せば身体を振るわせることが出来るほどだった。

 アキラの人生で、ただの1度もないほどの衝撃を生み出した彼女を、いつまでも目で追ってしまうのだ。


 再び飛び出してきたマーチュは、今度は1体だけだった。

 マリスが手を下すまでもなく、エリーが即座に殴り飛ばす。

 鬱憤を晴らすために暴れているようにも見えるが、まさに手も足も出ないアキラには口を出す権利もない。


 彼女の様子を見ていると、今まで以上に、ふたりに守ってもらっている自分が情けなくて仕方がなかった。


「……なあ。どこまで行くんだ?」

「とりあえず奥までよ。そこまで行けば文句も出ないでしょう?」


 アキラならもう奥まで行ったことにして帰っているかもしれない。

 根が真面目なのかエリーは本当に奥まで行くつもりのようだ。

 相変わらず平気な顔をしてとぼとぼと歩くマリスとは違い、エリーは流石に疲労がたまってきているように見える。

 それほど疲弊しても、未だにアキラより役に立つのだから、アキラの現状は目も当てられないことがよりよく分かった。


「……なんかないのかな。勇者の隠された力とか。そういう設定」

「だから意味の分かる……、あ」


 そう言いかけたエリーの向こう、曲がりくねった道の先に小さな光を見つけた。

 進めば進むほど大きくなる光に、吹き込んでくる風。

 どうやら洞窟というよりトンネルのような巣らしい。

 向こう側は、一体どこに繋がっているのだろう。


「はあ。もう終わりかな?」

「そうみたいっすね。結構数がいたのは気になるっすけど」


 本当に終わりのようだ。

 とうとうただの1匹も倒せず、最初の冒険は幕を閉じてしまうらしい。


 だがそれも、今さらなのだろう。

 この異世界はきっと優しくて、自分は勇者なのかもしれないが、流石にそこまで甘くできていないのだろうか。

 この異世界への文句や、それ以上の自分への落胆が混ざり込んで心に影を落としたが、所詮、今さら、だ。


「はあ……」


 ため息ひとつ、光へ向かっていった姉妹を追い、アキラも洞窟の外を目指す。

 暗さに慣れた目を庇いながら、アキラは洞窟を抜けきった。


「……、?」

「……」

「……」


 目が慣れず、ふらふらと歩いたアキラは目の前の背中にぶつかりそうになった。

 先に進んでいたふたりが、仲良く並んで立っている。


 出た場所は、山の中にしては妙に広々とした空間だった。

 巨大なホールのように丸みを帯びたその空間の周囲は、高い山々に囲われ、まるで自然にできた檻にも見える。

 真上から照り付ける太陽が照らすのは、踏み荒らされた足元の草木で、それが元の世界で見た人工芝の野球場のように惹かれていた。

 そして、その中央では、誰が置いたのかこの場を埋めるように、巨大な岩石が、ずん、と待ち構えていた。


「何やってんだ? 戻るんだろ?」

「グ……、」


 呆然としているふたりに声をかけたら、低い、地鳴りのような声が返ってきた。

 気楽にふたりに並ぼうとしたアキラの足がぴたりと止まる。


「グ……、グ、……グ」

「……な、なん、だ?」


 どう考えても良からぬ何かが起こっている。

 アキラは身をすくませ、凍える子犬のように周囲を見渡した。

 しかし、その音源に気づき、身体をぴしりと硬直させた。


 目の前の、自然物としか認識していなかった、いや、自然物でなければならないほどの巨大な岩石。

 それが、動き出した。


「は……?」


 自然物としても大きいのに、生物となれば規格外だ。

 アキラの身長など、四足歩行らしいその生物の前足よりもはるかに小さい。せいぜい、小指程度だろう。

 まるで岩そのものに命を吹き込まれたように、ごつごつとした皮膚。

 肩や背には、鉄板だろうが容易に砕けるであろうドリルのような棘が装備されている。

 丸まった尾はその全貌を表してはいないが、伸ばし切れば今まで歩いてきた洞窟の長い道にさえ相当しそうだった。

 のっそりと動き始めたと思ったら、まるで竜のように鼻が突き出た獰猛な顔立ちがアキラたちの正面に向けられた。

 そしてその額には、天をも貫かんとする渦巻き模様の角が生えている。

 どう見てもまっとうに人生を送りたければ出遭ってはならない存在だった。


 だが、その、渦巻き模様の角に、アキラは見覚えがあった。

 具体的に言うのであれば、つい先ほど。

 あのマーチュとかいう愛らしい生物の額も、同じような渦巻き模様が付いていなかったろうか。


「グランドマイアンドロスガーディックス~~(略)~~ギガミュータントマーチュ(笑)?」

「え、……ええ。グランドマイアンドロスガーディックス~~(略)~~ギガミュータントマーチュ(大)よ?」

「グランドマイアンドロスガーディックス~~(略)~~ギガミュータントマーチュ―――ッ(焦)!!!?」

「グ―――、ギィィィィィィァァァァァァ―――ッ!!!!」


 巨大な岩石が、吠えた。


 その叫びで、この山に存在するすべての生物が即座に離脱を開始した。

 飛べるものは飛び、駆けるものは駆け、持てるすべての力を使ってこの危険区域を後にする。

 残ったのは、この場に現れてしまったこの3人だけだった。


「―――ふたりとも、下がるっす!!」


 即座に反応したアキラは、エリーと共に元来た洞窟に全力で駆け込んだ。

 転がり込むように洞窟に飛び込むと、転がったまま背後の化け物を視認する。


 比較にすらならないが、あの巨大過ぎるマーチュは、この洞窟でアキラが最初に出遭ったマーチュと同じように、突撃を繰り出してきていたようだ。

 地響きに揺れる視界の先、マリスが両手を突き出し、巨大マーチュの突撃を、広範囲に盾のように展開した光で抑え込んでいた。

 だが、マーチュはじりじりと前進を続け、銀の光も徐々に突破されつつある。


「な、何なんだあれは!?」

「し、知らないわよ!!」


 まるで理解が及ばない。

 もしマリスがいなければ、間違いなくふたりともあの突撃で死んでいただろう。


「あ、そう、そうだ。マーチュは成長すると大きくなる魔物で、」

「真ん中のサイズの奴いなかったじゃねぇか!!」

「だから知らないわよ!!あんな巨大な魔物、見たこともない!!」


 試験とやらのために鍛錬は積んでいただろうが、エリーも、アキラより数段強いとはいえ村で平和な暮らしをしていた一般人に過ぎないのだろう。

 もしエリーがあんな異常生物を見て、いつものことだと顔色ひとつ変えなかったらアキラは今度こそこの異世界で生き抜いていく自信がなくなる。

 だが、今まさに、その命の危機が迫っていた。


「マリス!! こっちだ、逃げるぞ!!」


 とにかく逃げ出すことは決定していたアキラが叫ぶが、予断を許さないのかマリスは巨大マーチュを抑え込んだままだった。

 しかし、マリスの魔法と押し合いをしていた巨大マーチュは、巨大な爪を振り上げ、マリスに向かって振り下ろした。


「―――っ」


 ひ、とエリーから声が漏れた。

 しかしマリスが何かを小さく呟くと、今度はマリス自身の身体が光りを帯び、つむじ風のように飛翔した。


「きゃっ!?」


 バゴン!! と大地が揺さぶられた。マリスが回避したマーチュの攻撃は大地を砕き、地鳴りを起こす。

 目の前で発生した地震で、アキラとエリーの背後に岩が崩れ落ちてきた。


「みっ、道が!!」

「お、おいおい、どうすんだよこれ!?」


 落石から命からがら逃げ出すと、現状が正しく理解できた。

 自分たちが来た洞窟は崩れ、周囲は険しい山に囲われている。そして目の前には最早話に聞いただけの魔王などより恐ろしい、明確な危機が暴れ回っているのだ。

 もはや命運尽きている。


 唯一希望があるとすれば、今も魔法で巨大マーチュの周囲を飛び回り、気を引いているマリスだけだった。


「―――ふたりとも、どこかに隠れて!!」


 珍しいマリスの叫びを聞き、アキラは恐怖に震える足を強引に動かした。

 せめて邪魔にならないことだけが、今の自分に出来る最大の貢献だ。

 落石で出来た岩の窪みにエリーと共に身体を滑らせ、身じろぎひとつせずこの厄災が過ぎ去るのを待った。


「レイディーッ!!」


 マリスが叫びながら腕を振ったかと思うと、落雷のような先行が巨大マーチュに直撃した。

 小型のマーチュを葬っていたときとは比較にならない爆風に、身を隠していたアキラも爆風に身体が泳ぐ。

 巨大なマーチュから比すれば米粒のような小さな少女は今、さながら戦闘機のように高速で飛び回り、巨大マーチュへ猛攻を仕掛けている。

 先ほどまででも、彼女たちの戦闘は目を輝かせて見ていたが、あんなもの、前哨戦にもなりはしないものだったようだ。

 この世界の魔法とやらを全く把握していないアキラにとって、閃光と熱風が埋め尽くすこの戦場は、この異世界への恐怖を際立たせた。


「……ぁ……」


 隣のエリーが小さく声を漏らす。アキラと似たような表情を浮かべていた。

 アキラから見て異次元のこの戦闘は、彼女にとっても同じく次元の違う何かなのだろうか。


「……すげえな」

「…………すごい、でしょう」


 思わず漏れた言葉に返ってきたのは、怒号ではなかった。

 だがそれはきっと、妹への賛辞を受けた姉の様子でもなかったようだった。

 手に汗握る超常的な戦闘を前にしているのに、アキラはやはり、エリーの様子の方が気になった。


「!」


 周囲を飛び交う虫を払うように暴れていた巨大マーチュが、突如動きを止めた。

 そして身体からバチバチと、グレーカラーの光を漏らし始める。

 何か危険な気がしてエリーを見ると、同じように顔が青ざめていた。


「に、逃げるわよ!!」

「なんだ、何が起こってんだ!?」

「あれ、魔術だ……、マーチュが魔術を使ってる……!!」


 要するに、姿だけで危険な存在が危険なことをしようとしているらしい。

 危険な空気だけを感じ取ったアキラは、即座に退路を探す。

 だがこの空間の逃げ道は、どうやら自分たちが入ってきた入ってきた洞窟だけらしく、それもすでに埋もれてしまっている。


「逃げるって、どこにだよ!?」

「どこかによ!! 離れないとまずい!!」


 こうしている間にも、巨大マーチュを覆う光は強さを増していく。

 もしアキラの予想が正しければ、この空間を覆いつくす“何か”が放たれようとしていた。

 巨大マーチュは、膨大な光を迸らせると、臨界点を迎えたのか身体をぶるりと震わせる。


 そして、次の瞬間。アキラの視界は光に染まった。


―――**―――


「ええいくそ、山が邪魔で見えんな……!!」


 エリーの育ての親、エルラシアは、村長リゼル=ファリッツとその付き人と共に、アキラが最初にへばりついていた塔の上に上っていた。

 ファリッツが顔を押し付けるように双眼鏡を覗き込み、今朝方エリーたちが向かった岩山を食い入るように見つめていた。


「いったいなんだ、あの地鳴りは……。勇者様にもしものことがあったら……くそっ」

「だから危険と申しましたでしょう!?」


 ファリッツの言葉にエルラシアは躊躇せずに怒鳴りつけた。

 エリーとマリスは幼い頃から孤児院に預けられており、エルラシアにとってはかけがえのない大切な娘だ。

 昨日だって、当初反対こそしていたものの、ようやく辿り着けたエリーの夢の第一歩に、あるいはエリー以上に喜んだ自信がある。


 だがそれも不慮の事故で流れてしまい、心を案じていたというのに、このファリッツの下らない思い付きで今度は身を案じることになってしまっていた。

 やたらと勇者排出にこだわるこのファリッツは、過去数名の“勇者候補”にも、こうした危険なことをさせた前科がある。

 とはいえこの村の周囲など平和なもので、多くの場合大したことはなかったのだが、よりによって自分の娘が向かった先で良からぬ何かが起こるとは。

 多くの先駆者たちには悪いが、今回だけは何事もなく終わって欲しかったというのに。


 草原いっぱいに地響きのような音が響いたのは昼食の準備が終わりかけたときだった。

 子供たちには決して孤児院を出ないように言いつけ、その世話を心許せる近所の者に頼み、大急ぎでファリッツの屋敷へ向かった。

 すでに使いの者を出したとファリッツが言ったのはエルラシアにとっても幸運だった。何もしていなかったら自分は傷害ないし殺人の罪を犯しかねなかったからだ。そういう事態の対処については流石に村長、といったところだろう。

 それから居ても立ってもいられず、ファリッツと行動し、この村の最も高所に向かい、今に至る。


 その地響きらしきものは、やはりエリーたちが向かった岩山から響いているようで、大分距離のある村まで届くとなると、想像もできない事件が起こっているに違いない。

 地鳴りのように聞こえはしているが、エルラシアにはどうも、それに混ざって叫び声のようなものが聞こえた気がした。


「魔術師隊……、いえ、魔導士隊への依頼は?」

「すでにしている。むうう、ダメだ。私も行くぞ!! サミエル!!」

「はっ、はい、今すぐに手配します!!」


 慌てて塔を駆け下りていったファリッツの付き人は、エルラシアが把握している限り、意外にもそうした仕事が早いファリッツとは違い、あまり要領がよくない。

 エルラシアもついていくつもりだが、あまり期待はできそうになかった。


 相変わらず見えもしないのに食い入るように双眼鏡を覗きこむファリッツに並び、エルラシアは祈りながら岩山を眺めた。


 ファリッツが気にし続ける、勇者様。

 あのヒダマリ=アキラという青年も、岩山へ向かっている。


 エリーの入隊式を台無しにした人物でもあるが、不慮の事故であろう、仕方がないことだ。

 だから同じ王に身を案じる。


 勇者様とのことだが、失礼ながらも、エルラシアには妙に頼りなく見えた。

 だがそれは決して悪いことではない。

 これこそ失礼かもしれないが、彼は、そしてエリーもマリスも、孤児院で面倒を見ている子供たちと同じだ、知らないことは知らないし、出来ないことは出来ない。


 彼にしてみれば異世界から訪れたばかりで、作法も分からずファリッツに言われるがままあの岩山に向かってしまったのだ。


 だが少しだけ意外だったのは、エリーも彼についていったことだ。

 口で何を言っていても面倒見のいいエリーだからあり得ぬことではないが、昨日、やっとたどり着いた魔術師隊の入隊式が流れてしまい、もっと気落ちしていると思っていたのだ。

 エルラシアはまったく詳しくないが、魔術師試験はそうとう難しいのだろう。不合格も経験し、努力で突破したエリーにとって、昨日は一世一代の晴れ舞台だったはずだ。

 しかも、冗談めかして言ってはみたが、いきなり婚約しているというのも、エリーにとってはもっとショックな出来事だろう。


 だが、出かけるときのエリーは、落ち込むどころかいきり立っていたようにも見えた。

 正の感情か負の感情かは定かではないが、立ち直るのにそれほど時間は要らないらしい。

 それが彼女の成長なのか、あるいは、彼の存在が理由なのか。


 高い塔の上、エルラシアは、3人が無事で戻ってくることだけを祈り続けた。


―――**―――


「―――……、え……?」


 アキラは、自分が絶命していないことが不思議でならなかった。

 巨大マーチュがグレーの光を強めたと思った瞬間、破滅の光とも思える何かがこの空間すべてを包み込み、アキラの身体塵芥になるはずだった。

 だが、何故自分は無傷で、その上、ふわふわと浮いているのか。


「う、浮いてる!? 浮いてるぞ俺!?」

「ええ、ええ……」


 隣にエリーも、同じように浮いていた。

 気づけば自分たちは、シルバーの光に包まれ、巨大マーチュを眼下に収めている。

 何度見ても信じられないが、アキラはこれを経験していた。


「あ、危なかった、すね……」


 次いで、自分たちの少し下に、マリスが一筋汗を垂らして飛んでいた。

 足元につき出した両手の先には、最初に巨大マーチュの突撃を防いだと思われる銀の光の盾を展開している。


 その、先。

 アキラはうっと声を漏らした。


 映え茂ってきた緑は崩壊した地面に飲まれ、耕されたように消え去っていた。

 周囲の岩山にも亀裂が走り、自分たちが入ってきた洞窟の場所など最早見当もつかない。

 先ほどまでいたこの空間は、あの一瞬で、見たこともない荒廃した大地に様変わりしていた。


 いったいどれほどの衝撃があったのだろう。

 マリスが展開していた盾が砕けるように光に溶けていくと、マリスは小さく息を漏らした。


「今、何があったってんだよ……」

「多分、ギガクウェイク……、あのマーチュ、土曜の上位魔術が使えるみたいっすね」


 アキラにはほとんど理解できない言葉を呟いて、マリスはちらりと上を見た。


「やっぱり、これ以上の高さにはいけそうにないっすね。もう少し待ってて欲しいっす。とにかくあのマーチュを倒さないと、自分たちの村だって危ない」


 そう言って、マリスはアキラたちを空中に残したまま、再び巨大マーチュに飛び込んでいった。


 優しく、親切で、それでいて戦闘でも頼り切りになれるほど優れたマリスを、アキラはほんの少しだけ怖くなった。いや、怖くなったのはマリスのことではないだろう。


 味方にいるにはあまりに心強い存在だが、その力の底がまったく見えない。

 余りあるその力をもってして、アキラをいつだって救ってくれる。

 自分にそれだけの価値があるのか。それだけが、本当に怖くなった。


「……あいつ、本当に強いな」

「……そうでしょう。チート、ってやつかしらね」


 やはり見ているだけになったアキラの軽口に、エリーは再び言葉を返してきた。


「なんでもそう。あたしなんかより何でもできるのよ、あの子は」

「……」


 エリーは、自虐的に自信を覆った光を眺めていた。

 もしかしたら彼女も、自分が今漠然と感じたその恐怖に近い何かを感じているのだろうか。


「あたしが受けた魔術師試験。本人は興味ないっていうから受けてないけど……、あんな試験、マリーなら簡単に突破できるわよ」


 ここまでくる道中、エリーが得意げに教えてくれた話は、その試験の勉強の成果らしい。

 長々とした正式名称とやらも、彼女は必至で覚えて、その試験を通過できたのだろう。

 アキラには、あんな試験と表現するエリーに妙な寂しさを覚えた。


「あんたも分かるでしょう? マリーがあんなに頑張ってるのに、あたしはあんたと一緒に落石を必死で避けてただけ」

「……しょうがないだろう。それに、マリスは“数千年にひとりの天才”って言ってたじゃないか」

「そうね。でもさ、……その双子の“ねーさん”はそうじゃないのよ? 逃げることすら満足にできなくて、結局マリーに守ってもらってる」


 ここに来るまでの道中、ただ後ろから付いてきただけのアキラには、たったそれだけの時間で、ふたりともずっと遠く離れた存在に見えていた。

 情けなさと同時に、ふたりには羨ましさも覚えた。

 しかし、エリーから見たマリスは果たしてどうだろう。


 この世界に慣れていないアキラですら思った。マリスの力は異常だ。そしてそんな天才の姉は、長く共に暮らしてきた姉は、どう見えているのか。

 エリーにとって、最愛の妹であるマリス。

 そんな怒りも憎しみもぶつけられない相手は、自分と同じ姿をしているのに、自分とはまるで比較にならない存在だとしたら、どう見えているのか。


 おこがましいのだろうが、彼女も、アキラと同じ悩みを持っている。


 多かれ少なかれ、そうしたコンプレックスは誰にでもあるのだ。

 総てに恵まれた人間など存在しないと考えれば、誰にでもあってしかるべき感情だ。

 ただ、それを前にして、起こす反応が人それぞれ違う。


 見つけた劣等感と真摯に向き合い、振り払う努力をする者。

 ただ単純に思考を停止し、諦める者。


 アキラがどちらの人間かと言えば、当然後者だろう。妙な自信すらある。

 テストで悪い点を取ったときも、体力測定で平均値を下回るものがあったときも、自分は何かの言い訳をして、それと向き合うことはしなかった。


 幼い頃から勉学に励んだり、スポーツに没頭したりしていれば、きっとそういうことはなかった。

 そんなできもしないことを考えて、その場の劣等感をやり過ごしてきたのだ。

 だから、今からやろうと、思い立ったことは無い。

 きっとそうしても、自分より前に劣等感に向き合った者には敵いはしないのだろうから。


 だから自分は仮想の世界に思いを馳せ、そんな自分を忘れられるような物語に没頭した。

 その仮想の世界では、読者の分身である主人公が、英雄で、優秀で、たくさんの美女に囲まれているのだ。

 そんな世界を夢見ない者は、多分存在しない。


 いかに現実主義者で、後悔の無い人生を送ったと言い切れる者でも、夢を見ることを拒絶することは出来ないはずだ。

 どんな人生を送った、ということと、夢を見る、というのは、離れて存在するものなのだとアキラは思う。

 もしそれが一致する人物がいたとしたら、きっと眩しすぎるほどキラキラと輝いていて、自分とは最も遠い位置にいる存在だろう。


 だが、アキラは今、そんな日常から離脱している。

 空想でしかなかった異世界が、今現実として目の前にある。

 自分は“主人公”になれるチャンスをもらったのだ。

 そのはずなのに、自分は今マリスが戦っている魔物と比較にもならない小型のマーチュすら倒せない。


「悔しいな」

「え……?」

「いや、まじで悔しい」


 人生で初めて、人前で口にした言葉かもしれない。

 だが、心の底からそう思えた今、止まらなかった。


「お前もそうなんだろう。だったらなんか出来ないのか?」

「何とかって……、あたしとあんたじゃ何もできないわよ」

「いやなんか……、お前も魔法は使えるし」

「魔法? あたしが使えるのは魔術よ」

「同じだろ」

「違うの」


 妙なところで地雷を踏んだらしい。

 草原を歩いてきたときのような表情になったエリーは、むっとした視線を向けてきた。


「あんた、魔力も知らないんでしょう。まずそこからね。魔力には属性があって、あたしは火曜属性。マリーは月輪属性ね」

「分かった分かった、それで、なんだ、その火曜属性ってのは何が出来るんだ?」


 若干興味が引かれる話ではあった。

 先ほどマリスは、マーチュが土曜属性の上位魔術を使ったとも言っていたことから、おそらくその属性とやらは7つあるのだろう。魔力とやらの色合いがそれぞれ違うのも、その属性によっての差なのかもしれない。

 お決まりのパターンというやつだ。


 だがそんな授業は後でいい。

 今はマリスが巨大マーチュと交戦している間に、こちらでは何か別の手を考え始めるべきだ。


「むぅ……。そうね、破壊力はあるわね」

「そうか。その破壊力があれば何が出来る」

「何かを壊す、とか」

「じゃあ何を壊したらいいと思う?」

「……あ。これ全部あたしが考えるやつだ」


 それは仕方ない。アキラは魔法ならぬ魔術とやらで出来ることなど全くと言っていいほど把握していないのだから。


「じゃあさ、隙を見て、塞がれた洞窟を殴りまくって掘り進めるのはどうだ? マリスがあれを倒しても、結局ここから出られないんだろ?」

「それ、よく考えなくともあたしだけがやるのよね?」

「……あ、声援がいるなら遠慮なく言ってくれ。あと崩れるかもしれないから気を付けるんだぞ」


 エリーは、その岩をも砕かん拳をアキラに軽くぶつけてきた。

 どうやら身体は四散せずに済んだが、エリーの機嫌は悪くなったようだ。

 だが、見ていられないほどの曇った表情は、治まってくれたようだった。


 それだけで、アキラはほっと息を吐く。

 もしかしたら、自分は。


「―――危ないっす!!」


 アキラがその声に反応し、思わずエリーの手を掴んで身体を動かすと、たった今自分たちがいた場所をマーチュの巨大な尾が薙いだ。

 岩山を抉るように振りぬかれた振動で、またも大岩が山の上から降ってくる。


「あっ、あんたよく空中で動けるわね!?」

「あ、ああ、自分でもびっくりだ!!」


 マリスが自分たちに施したこの光がどういう力なのかは知らないが、マリスに操作してもらわずとも動くことは出来るらしい。

 だが、空中で動くような経験はもちろん無い。

 それなのに自分は、反射的に空中移動を行っていた。


「こ、これ、来たかも……。勇者の力が目覚めたんじゃね!?」

「言ってる場合じゃない!!」


 マリスに大分攻撃をされたからか、巨大マーチュが暴れに暴れ、落石が一気に酷くなる。

 だがそれをエリーの手を引いて器用に避けたアキラは、自分の動きに戸惑いを感じた。


 自分は、“戦い方を知っている”。


「な、なあ、俺まじで勇者かも!?」

「じゃあ何とかしてきてよ!!」

「あいつの相手早すぎんだろ!! って、うわっ!?」


 落石を避けるばかりに高度がどんどん落ちていく。暴れ回った巨大マーチュの爪や尾が、幾度となくふたりを襲ってきていた。

 あれだけマリスが猛攻を仕掛けているというのに、巨大マーチュは未だ弱った様子は無く、暴れ回っている。


「ちょっと、もう少し上に行けないの!?」

「やろうとしているけど、ええと、どうする!?」


 反射的になら動けるが、意識してやろうとすると上手くいかない。

 マリスが巨大マーチュの気を引いているうちに、元の高さに戻りたいが、思うように動かせなかった。


「あ……!」

「どうした!?」

「マッ、マリーが疲れて!!」

「は!?」


 そう言われて飛び続けるマリスを見たが、アキラには何も変わっていないように見えた。

 相変わらず無表情に近い涼やかな表情で、巨大マーチュに猛攻を仕掛けてる。


「本当か!?」

「あたしには分かるの!!」


 双子ならではというやつなのだろうか。

 握ったエリーの手が僅かに震えるのを感じた。


「撹乱するように必要以上に飛んでるし……、さっきの防御魔術もあんなに大きくして……、ど、どうしよう。あたしたちがいるせいだ……」

「お、おま―――、いっ!?」


 顔面蒼白になっていくエリーへの言葉は、身体に起こった異変にかき消された。

 身体に纏う、今まで空を自由に飛べたシルバーカラーの光が、徐々に弱まり、淡く溶けていく。


「ふたりとも!! 今―――っ、」


 マリスの魔術のタイムリミットでも来たのだろう。

 再びこちらに向かおうとしたマリスが、巨大マーチュの突撃によって遮られる。


 とうとう光が完全に消え、アキラとエリーは地面に降り立ってしまった。


「ギィィィィィィァァァァァァアアアーーーッ!!!!」


 狙っていたのか、あるいは偶然なのか。

 そのタイミングで、巨大マーチュが再び身体中にグレーカラーの光を迸らせた。


「わっ、ま、まずい!!」

「さっきのか!?」


 最早見ている意味のない巨大マーチュから目を切り、マリスを探した。

 生き残るには、マリスに再び守ってもらう以外に手段が無いのだ。


 だが、そんな唯一の希望のマリスは、タイミング悪く、巨大マーチュの尾に行く手を阻まれていた。

 絶対的に、距離がある。間に合わない。


「っ―――」


 ぐ、と手のひらに力を感じた。

 アキラも強く握り返す。


 手のひらから、エリーの鼓動を確かに感じた。


 音が消える。

 世界がモノクロになる。


 すべての時が止まり、アキラだけが動ける世界で、分かりやすい死が、今目の前にあった。


 現状、打つ手はない。

 だが、手のひらから感じる鼓動が、諦めることを許さない。


 なんでもいい。

 アキラは必死に活路を求めた。


 この異世界への来訪。双子の姉妹との出逢い。村から勇者として崇められるという設定。

 細部は微妙にずれたが、ここまでベタ尽くしなのだ。

 それならば、今ここで、“勇者の力”とやらが目覚めていいではないか。


 先ほどから感じる、妙な感覚。

 これは絶対に、エリーに呆れられるようなアキラの妄想なんかではなく、何かがある。

 その感覚だけが、現状縋れる唯一のものだ。


 もしこれが物語の体をなしているとすれば、自分がここを訪れた意味がきっとある。

 ならばここを切り抜ける術もまた、絶対にあるはずなのだ。


 アキラはそう願った。

 少なくとも、隣で震える女の子を、自分は、どうしても助けなければならない。


 あるはずだ。


 ルール通りの世界なら―――


「―――、」


 “来た”。


 音が戻った。

 世界が色を取り戻す。


 それと同時、身体の奥底から、熱い何かが湧き上がってくる。

 右手には、浮かんできた感覚を。

 左手には、エリーの手を。


 それぞれ強く掴む。


 ベタな展開でいい。

 後付け設定と言われて構わない。


 だから今こそ、その力を。


「っ―――」


 帯びた熱は、光となってアキラの右手に宿った。

 色は、オレンジ。

 その光は未だ差し込める太陽と混ざり、キラキラと輝いていた。


「そ、それ……」


 アキラは右手から強い光を放ちながら、巨大マーチュを睨んだ。

 奇跡が起きた。

 自分の右手には、何かが宿った。

 正体不明だろうが、この状況を切り抜けられるのであればなんでもいい。


 それに、本能が訴えるのだ。

 この光には、絶大な信頼を寄せていいと。


「はあっ!!」


 アキラは勢いよく、巨大マーチュに向かって右手を突き出した。


「ぇ」


 カラン、と。

 今まさに必殺の一撃を放とうとする巨大マーチュに向かって飛んでいったのは、アキラの放つ絶大な威力の魔術、ではなかった。


 転がっていったと言った方が正しいだろう。

 アキラの手から生み出されたのはどうやら固形物のようで、数歩先の地面に落ちている。


 筒のような形状をしていた。

 普通の竹を切り取って、横から短剣でも突き刺せばこうした形になるだろう。

 オレンジとクリムゾンレッドの色合いで、筒の端の片方は、竜の顔を模しているような装飾になっていた。


 客観的に見て、変わった銃の玩具にしか見えなかった。


「な、なによ、それ……」

「い、いや、」


 あれだけ願った結果、確かに何かは起こってくれた。

 なんでもいいと思ったのも認める。

 だが状況がまるで変わらない何かが起こっても仕方が無いのだ。


 アキラは一応縋るような思いで転がった銃に駆け寄っていく。

 こんな土壇場で出てきたあれには、とにかく何かが無ければそれこそ死んでも死にきれなかった。


「……ぅ」


 落ちているそれに触れ、アキラの身体を絶望だけが支配した。

 軽い。

 造りがいいのか手によく馴染むが、中に弾薬らしきものも入っていないようだ。


 間もなく放たれる巨大マーチュの強大な魔術を前に、アキラは。

 諦めと共に、カチリ、と引き金を引いた。


「―――……」


 エリサス=アーティは、その壮絶な光景を前に、絶句した。

 ここに来るまでただ後ろから着いてくることしかできなかったあのヒダマリ=アキラという青年。

 彼が、生み出した“何か”の引き金に指をかけた瞬間、眼前を強大な光が染め上げたのだ。

 妹のマリスの想像を絶する戦闘ですら霞むほどの光は、巨大マーチュを丸々飲み込み、線上にあった山々すら飲み込んでいく。

 そのまま天に伸びていき、太陽の光と混ざり合うまで、エリーは指ひとつ動かせなかった。


 そして、その色。魔術の属性ごとに異なる魔力の色。


 エリーの火曜属性はスカーレット。妹のマリスの月輪属性はシルバー。マーチュが放つ土曜属性はグレー。


 そして眼前に広がったオレンジは。


「“日輪属性”」


 マリスがふわりと隣に降り立った。

 つい先ほどまで壮絶な戦闘を繰り広げていたはずなのに、マリスの表情は緩んでいた。

 月輪属性は日輪属性の魔力を特に好むらしい。

 マリスが妙にあの男を気にかけるのは、もしかしたらそれが理由だったのかもしれない。


「ふ……、ふふ」

「ねーさん?」


 思わず笑みが零れた。

 窮地を脱した緊張のほぐれが、口から漏れる


「本当にあるじゃない。勇者の力」


 エリーがそう呟いたところで、光に飲まれて消し炭になりかけた巨大マーチュが倒れ込み、最後の地鳴りを響かせた。


「……あれ。にーさんは?」


 気づくと、破壊の出所にいたアキラの姿が無かった。

 荒れ果てた大地の上、ふたりの姉妹だけが立っている。


 勇者様は、忽然と姿を消していた。


「……ふ」


 昨日会ったばかりなのに、彼とは色々あった。


 入隊式を台無しにされ、最愛の妹をたぶらかし、ここまでの道中も役に立たず声援と称して訳の分からないことを叫んでいただけだ。


 だけど、この窮地で、彼は藻掻いてみせた。

 不安と妹への葛藤を口から漏らした自分の手を引き、ついには巨大マーチュを撃破してみせたのだ。


 それだけで丸々許すつもりは到底ないが、遠い未来、笑い話になるかもしれない。

 自分の日常に、ほんの少しの変化があっただけだ。

 だからきっと、忘れることはないだろう。

 もし次に出会えたら、お礼のひとつくらい言ってもいいかもしれない。


「不思議な人……だったわね」

「ね、ねーさん!! 違うっす、あっち、あっち!!」


 この奇妙な冒険を締めようとしていると、マリスの叫びが遮ってきた。

 慌ただしく駆けていく妹を視線で追うと、岩壁の下に“何か”が倒れ込んでいる。

 身動きひとつしない“それ”は、血だらけの顔を苦痛に歪ませ、手足も変な方向に曲がっている気がした。


 どうやら人らしいそれは。


「……グロッ」

「にーさん!! にーさん!!」


 マリスが必死に手をかざして治癒を始める。

 どうやら自分の攻撃の反動で後ろに吹き飛んでいたらしいアキラは、嗚咽すら漏らせず刻一刻と死に向かっていた。

 吹き飛ぶ方向が少しでもずれていれば、隣の砕かれてとがった岩に突き刺さり、より目を覆いたくなるような死体になっていたかもしれない。


「……あ、が、……が」


 マリスの治療を浴び続け、ようやくアキラは意識を取り戻したようだった。

 順調に傷が癒えるのを見ていると、彼のうつろう目がエリーを捉え、安堵の色に染まったようだった。


「……ど、どう、な、なった……?」

「もう大丈夫。あんたが何とかしてくれた」


 彼の近くに転がる玩具の銃のような何かをちらりと見て、エリーは多分初めて、彼に微笑んだ。


「本当に……、勇者様みたいね」


 最後まで格好付かないのには、目を瞑ることにした。


「……あ、あ、マリス、か、ありが、とう」

「大丈夫っすか? 治癒魔術はあまり得意じゃないんすけど……」

「い、いや、……お前が、いなかった、ら、死んで……、さっきも、助かった、し……、さっき……? ……!?」


 これ以上悪くなることはないと思っていた彼の顔色が、一層悪くなった。

 まだ呂律が回らないのか、途切れ途切れに言葉を紡ぐアキラが、震えながら指をさしてくる。


「!?」


 即座に彼の差す方を見る。

 そこには先ほど彼が葬った巨大マーチュの亡骸があり、それが、バチバチと、グレーカラーの光を纏っていた。

 復活したわけではない。

 これは。


「まずいっす!!」


 治療を切り上げ、マリスが自分たちを庇うように前へ出た。

 魔物は戦闘不能になると爆発する。

 そしてその威力は魔物の有する魔力に依存するのだ。


 あれだけ小さなマーチュですら、不用意に近づいたとはいえひとりの男性を吹き飛ばす威力があるのだ。

 もはや同種であることを疑いたくなるほど巨大なこのマーチュが爆発すればどうなるか、その威力の想像すらできない。


「ねーさん、下がって!!」


 マリスは防ぎきるつもりのようだが、姉として、これ以上妹が無理をするのは見過ごせなかった。

 とはいえ手が無い。

 だが、彼がそうしたように、なんでもいい、足掻かなければ。


「そ、そうだ、これ!!」


 エリーはアキラのもとに転がっている銃に飛びついた。

 巨大マーチュを一撃で葬るこの威力、推進力として活用できないだろうか。

 マリスの魔術と組み合わせれば、この山に囲まれた檻を脱出できるかもしれない。


「って、え、」


 拾い上げようとしたその銃は、地面に張り付いているように動かなかった。

 奇妙な感覚だった。“重い”のではない。“持てない”、だ。

 理由は分からない。だが少なくとも、エリーにこの銃は装備できなかった。


「ちょっと、起きて!!」

「あ、ああ、いや、まだ身体が」

「いいから!!」


 ならば持ち主に使わせるしかない。

 エリーは、よろめいているアキラの手を強引に取り、銃に近づける。

 するとどういう原理か、あれだけびくともしなかった銃は、アキラの手に吸い付くように拾われた。


「よし。マリー!! 逃げるよ!!」

「! 了解っす!!」


 展開し始めていた防御魔術を止め、マリスはアキラの手を取った。

 立ち上がることすらままならないアキラを姉妹で担ぐようにして立たせ、マリスが小さく呟くと、3人の身体は再び宙に浮かび上がった。


「マリー、どこまで飛べる!?」

「もう少しなら」

「いい!? 合図したら打つのよ!?」

「……わ、分かったよ!!」


 直前にその銃を撃って、自分がどういう目に遭ったのかを当然覚えていたらしいアキラは、それでもしぶしぶ了承した。

 すでに巨大マーチュの魔力の光は臨界点を迎えている。

 バチバチと迸るグレーカラーの魔力の前には、躊躇している暇はない。


「……こ、ここまでっす!!」

「今よ!!」

「お、う。ギ―――」


 マリスの魔術で山の中間ほどまで浮かび上がり、アキラが禁断の引き金を再び引いた。

 その瞬間、再び放たれる強大なオレンジの光。

 飛翔というより吹き飛ばされた3人に、経験したことのない速度が襲う。


「後ろ!!」


 なるがままに飛ばされていたエリーの目に、落石が飛び込んできた。

 アキラの銃の方向が悪かったのか、落石が激しい岩山の肌すれすれを高速で飛んでいる。


「今―――」

「あたしがやる!!」


 マリスが手をかざそうとしたが、彼女はこの空を飛ぶ魔術の維持に全精力を注いでもらいたい。

 巨大マーチュは規格外だが、彼が言っていた通り、岩を砕くくらいのことなら自分には出来るのだ。

 エリーは拳を突き出した。


「っ!!」


 生きていたのだから、成功したのだろう。

 未だかつてない速度で繰り出された拳は、スカーレットの光を輝かせ、跡形もなく落石を排除してみせた。


 もう遮るものは何もない。

 あれだけ高く見えた岩山を、間もなく超える。

 スカーレットとシルバーに輝く飛行物体が、オレンジの奇跡を残して空を行く。


 山を越えたところで、無人となったマーチュの山が、グレーの光に包まれる。

 檻のようだった岩山は崩れ続け、あの空間は、名残すら残っていないだろう。


「―――上手くいったっすね」

「……ええ。……はは、よかった……助かった……」

「づ、づ、づ、肩、がっ、折れ!?」


 飛び出てきた方向は、運よくリビリスアークの方向のようだ。

 少々うるさい悲鳴が聞こえるが、功労者だ、労わろう。


 マリスが着陸地点を探している中、エリーは心穏やかに天空からの景色を眺めていた。


―――**―――


「これでどうっすか?」

「……あ、ああ、ありがとう。随分楽になった、よ?」


 アキラは、恐る恐る右手を上げてみた。

 肩が骨折だか脱臼だかしたようで、マリスの治療を受けても妙に違和感があった。


 心配そうにしながらも、相変わらずマリスは疲労を感じさせない表情をしている。

 彼女の姉に言わせると疲れているそうなのだが、アキラの目にはやはりそうは映らない。

 とはいえ、これ以上頼るのも控えた方がいいだろう。

 身体中は未だに痛むのだが、死の縁から生還したのだからこれだけでも十分だと思うべきだ。


 マリスに降ろされたそこは、最初に向かった道とは少し離れた地点らしい。

 とはいえ、草原が広がるだけのこの場所では、アキラに違いは分からなかった。

 ここを歩いていたときには想像もしていなかった大事に巻き込まれたが、自分たちはなんとか生還できたらしい。


「ま、名誉の負傷ってやつね」

「そりゃどうも。……お前もな」

「む」


 エリーは唸るが、拳を抑えていることはとっくに気づいていた。

 拳を守っていたプロテクターが、無残にも破れている。

 大方、最後に岩を砕いたとき、想像以上の速度で衝突し、拳を痛めたのだろう。


 マリスが迷わず手を差し出すと、エリーは渋々拳を突き出して治療を受けた。

 複雑かもしれないが、幾度もマリスの治癒を受けているもっと情けない奴がここにいるのだ。我慢できるだろう。


「やっぱ砕けるじゃないかよ」

「そりゃ洞窟掘り進むよりは出来るわよ。……ああマリー、ありがとう。もう大丈夫」


 エリーは大げさに拳を動かした。

 やせ我慢も少々入っているだろうが、見逃すことにした。


「とりあえず、村に戻るか」

「そうね。今度こそ村長に文句言わないと……!!」

「だよな。……最初のボスであれは無い」

「だから意味の分か……る、え?」


 エリーの視線を追うと、アキラの足元に転がっていた銃が、いつの間にか光を帯びていた。

 そして、あれだけ確かなものとして存在していたのに、空に溶けるように透けていく。

 その光の残滓は、アキラの胸に吸い込まれていった。


「……そうだよ。結局これ、何だったんだ。必殺の武器、みたいな?」

「“具現化”。……多分にーさんの表現通り、立派に必殺の武器っすよ」


 マリスが優しい表情で教えてくれた。

 具現化、というものらしい。

 この世界の魔法だか魔術だかはまるで分からないし、分からないことだらけだが、この異世界が自分に見せた分かりやすい優しさに、アキラは目を輝かせた。


「妙に身体が熱いのもこの銃の力か……」

「……いや、にーさん。やっぱり風邪ひいてるっすよ」

「え?」


 言われて、アキラは額に手を当てる。

 熱い。だがこれはあの戦場にいたからだ、と思ったのも束の間、景色がぐわんぐわんと揺れ始めた。


「……ご、ほっ、ごほっ、が、」

「何急にせき込み始めてんのよ」

「いや、あれ……? 気にしたら、急に、ごほっ」


 咳をするたびにその振動で頭痛が酷くなる。

 そういえば朝からずっとこの調子だった。今までもったのは、戦闘でのアドレナリンかなにかだったらしい。

 少し気を抜いたら、身体にまるで力が入らなかった。


「だ、だめだ、……あ、……座ってもいられない……」

「ちょ、ちょっと」

「病気は治せないんすよ……」


 少しでも楽になろうと倒れ込んだアキラの視界に、青空の下、同じ顔のふたりが映った。

 それを呆然と見て、アキラからますます力が抜けていく。


 もしかしたら、これは、風邪のせいだったのかもしれない。


 出逢ってから、ずっと親切に接してくれたマリス。

 魔物からも守ってもらい、傷すらすぐに癒してくれた。

 彼女には感謝してもし足りない。


 それなのに、何故か。


 出逢ったばかりなのに理不尽に怒鳴られ、何かするとすぐに怒り、それでも、少しだけ感情が理解できた女の子。

 アキラは、マリスより、そんなエリーのことを目で追っていた。


 やはり風邪のせいだったのだろう。

 今、急速に意識が遠のいていくのも。

 今朝方、よりによって女性の前で素直過ぎる自分の夢を語ってしまったのも。


 そして、自分がこの異世界に来て、最初に出逢った花嫁姿の女の子。


 エリサス=アーティに一目惚れをした、なんてことを思ったのも。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ