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【第1話】

子どもの頃から両親は毎日のように喧嘩が絶えなかった。両親の喧嘩が終わるのをじっと一人で終わるのを待っていた。

母親も父親も好きなのに、その罵声をただただ我慢して必死に耐えていた。

特に母親は自分を見るとゴミでも見るかのように不機嫌だった。いつも何か機嫌を取らないといけないと思って怯えながら暮らしていた。

構ってもらいたくて行くと、無言で頭を殴られた。無理矢理腕を引っ張っていかれて、押し入れの中に閉じ込められた。暗くて怖くて耐え切れずに泣き叫ぶと、母は押し入れのドアがひっぺがえした。

「泣く子は嫌いよ!」

それだけ叫ぶとまたバタン!と押し入れが閉まって暗闇に戻った。

母に見捨てられるのが怖くて泣くのを我慢して目元を拭った。

それからだった、涙を流すことが悪い事だと思うようになったのは。押し入れのドアの向こうで勝ち誇った笑い声がした。

「ふふっ」


まだ幼かった頃、好きなことだけしていたせいで、幼稚園の担任の先生から嫌われてしまった。自分とだけ遊んでくれなかったのが悲しかった。みんなと同じように遊んでもらいたかったので、必死に背中を追いかけたが、相手にされなかった。

「せんせい!いっしょにあそぼう!」

しきりに先生の前に回り込んでいたが、無視されては避けられていた。それでも磁石のように遊ぼうとせがんだが、満面の笑みで・・・

「―向こう行って。」

自分は邪魔者扱いされていると思って、ショック過ぎてその場から逃げだした。

大好きだった先生だったが、いつからか笑顔が苦手になってしまった。朝、幼稚園でその先生を見ても、嫌われているんだと思い出して悲しくなった。

その先生には遊びにはもう行かなくなった。


その日、幼稚園に駄々をこねて行かなくなった。

母に連れて来られたのは、こじんまりした喫茶店だった。店内は煙の臭いが立ち込めて、観葉植物がところせましと飾られている。お客さんは誰もきておらず、お世辞にも綺麗とは言えなかった。

どうやら母の古くからの知り合いが経営しているようだったけれど、茶髪に厚化粧をした女性が出迎えてくれた。・・・もともとヤンチャだったらしい。

喫茶店のカウンターに肘をついて2人は煙草を吸い始めた。自分は煙草の匂いが苦手だったので店内の隅に座っていた。

「この子、本当に父親に似て全然言う事を聞かないのよね。」

まだ父親が家にいた頃、両親は何かと腹を立てて、いつもお互いのせいにしては罵り合っているのを見て育った。

母親は父親がいないのを良いことに陰口を言うなんて常だった。ストレスが溜まると、決まって友人は話し相手になってもらっていたという。

母の友人は元ヤンキーのような佇まいをしている。上下ヒョウ柄の派手な格好が決まっていた。カウンターに肘をついて、母とその友人はお互い向き合う形で煙草を吸っていた。

「あんたが叩くからじゃないの。」

それを母親は遠くを見つめながら、煙草を吹いてこう言い放った。

「子どもなんか産むんじゃなかったわ。」

母親のその一言を聞き、ショックで心臓がチクっと痛んだ。母の友人が気にかけてこちらを見て怪訝そうな表情を浮かべる。

「ちょっと、目の前に自分の子どもがいるのに何言ってるの。」

この時に、母親に見捨てられるのが怖いと思ったが、嫌われるのが怖くて言い出せなかった。母の友人が自分を弁護するように付け加える。

「それに・・・虐待児は虐待児を生むっていうの知らないの。虐待を受けた子供は自分の子どもにも虐待するかもしれないのよ。」

母の友人のほうが、自分の味方のように思えて嬉しかったが、母はこちらを向いて見下すような感情を向ける。

「あんたは私の言う事だけ聞いていれば良いのよ。」

この時から嫌とか辛いとかの感情が麻痺してしまっていたのかもしれない。

最初から自分なんていなかったみたいだった。


また、冬のとある寒い日に、風邪をひいてしまい、身体が熱っぽくなった。自分の部屋でベットに横になって寝ていたとき、母がお盆にお粥と蓮華を持ってきてくれた。勉強机の上にそれらを置いて、だるそうにこっちを見てはため息を付いた。

「病院代の方が高くつくんだから、やめてよね。」

おぼろげな頭で上半身を起き上がらせるが、あまり食欲がわかなかった。だけど、ここで食べなければ、また怒り心頭するのも嫌だった。

(ちょっとくらい心配してくれると思っていたのに・・・)

こちらの体調を気遣う素振りも無く、母がお粥をスプーンですくって、無理やり口の中に入れようとしてくる。

「食べて。」

本当はまだ食べたくなかったけれど、機嫌を損ねるのが怖かったので口の中に食べ物が残っていたけれど、無理やり食べようとした。

「むぐ―もう食べれない。」

苦しくてたまらなかったが、母親はこちらの返答を聞いてイラっとしたように睨んできた。

「ま、まだ食べれる。」

「よし。」

そう言って、母はまたお粥を無理やり口の中に詰めてきた。胃の中に押し込んで吐きそうになった。カラになった皿を見るなり満足そうな母を見て、内心呆れてしまった。

「これで残った冷ご飯は全部無くなったわ。」

大きな音を立てて扉を閉められる。バタン!と音の振動で部屋の物が響いた。自分でも呆れてベットに横になった。

(風邪をひいてもこんな扱いなんだ・・・。)


 小学4年生の1学期が始まった頃、人見知りをして緊張して誰とも喋らないでいると、真後ろの女子に嫌がらせを受けるようになった。

なぜか後ろから机を押して、机と椅子に体を挟まれて肺を圧迫された。とても苦しかったが、怖くて何も言えなかった。やめてもらいたくて、振り向いてジッと見たが、その子は逆切れして大声を出してきた。

「何なんよ!?」

さらに怒っては、後ろから机を強く押して込められてしまって、辛くてたまらなかった。

「やめ―」

苦しくてたまらなかったので何度もやめてと言ったが、やめる気配すら感じなかった。

ずっと無視し続ければ、反応が無いと分かればやめてもらえると信じていたが、追い打ちをかけるように真後ろから頭を殴られてしまった。

「イタッ!」

涙が出るくらい痛かったが、それでも必死になって耐えていた。後ろの子がこちらの表情を覗き込んでくると、ニコニコと笑顔で顔を見られて、大笑いをされてしまった。

「先生に言ったらダメよ!」

もっと虐められると思うと怖くなって、その女子の言いなりになってしまった。教壇に立った先生に、目で必死に訴えたが、気付いていないのか何も答えてくれなかった。

毎日のように後ろの席の子から机を押されて、肺を圧迫されたが、言い出すとさらに虐められる気がしてが、ひたすら我慢を繰り返していた。クラスメイトも怪訝そうに見て見ぬふりをされてしまった。

母親から嫌われていると思っていたので、電車で数十分先にある祖父母の家に預けらることになった。

連日、虐めから耐えている頃、ベットから目が覚めると、吐き気を催して思わず起き上がると同時に嘔吐してしまった。祖母が異変に気付いてふすまを急いで開けると、嘔吐した中で茫然とする自分がいて、驚きを隠せない状態だった。

「あら、大変!」

祖母は急いで自分を風呂場まで連れて行って、服を脱がして、シャワーを浴びさせた。最初は冷たい水だったけれど、だんだんぬるま湯になっていった。

「自分で洗っておいき。」

祖母は風呂場に残して粗末な部屋を掃除しに行った。風呂場では嘔吐してすぐだったからか、眩暈がしたものの、穢れを落としながら心の底から申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

風呂からあがって寝巻に着替えると、祖母は心配そうに声を掛けてくれた。

「大丈夫かね。」

濡れたままの髪の毛を祖母は後ろからドライヤーをかけて乾かしてくれた。その後、別の部屋に布団を敷いて、そこで休ませてもらえることになった。息も絶え絶えで頭痛もひどい・・・。

「学校には風邪と連絡しておくからね。」

祖母の優しさに触れて、あの後ろの女子と会わずに済むと思うと気持ちは晴れ晴れとしていた。

祖母の看病のお陰で数週間後には風邪もほとんど治ってきた。風邪を引いたらテレビは見てはいけないルールがあったが、解禁してくれるようになった。主に音楽番組を見て、癒しを求めていた。

その様子を祖母は安心したように学校に登校するよう促されるようになった。

「そろそろ学校に―」

あの女子から机を後ろから押し込まれるのを思い出して、とにかく仮病を装って行きたくないアピールをした。

「頭が痛い。」

本当はあまり痛くなかったけれど、虐められるのが嫌だったので学校に行きたくなかった。

「そうかい・・・。」

祖母から疑いの容疑がかかりながらも学校に休みの連絡を入れてくれた。それを見て嬉しくてあからさまに喜んでしまった。

(家にいた方が虐められずに済む)

しかし、何度も同じ方法が通用するわけもなく、祖母から疑心暗鬼されるようになって、仮病を見抜かれてしまった。

数日後、蒸発したはずの父親が様子を見に来たときに嘘がバレてしまった。

「そこに正座しなさい!」

父親の怒鳴り声は初めて聞いて、恐ろしくなって正座した。祖母が連絡をしたのだと思うが、あまりの突然の出来事に頭が付いていかなかった。

「毎日毎日、おばあちゃんに嘘付いて・・・もう風邪は治ってるだからいい加減に学校に行けぇ!!」

その罵声がひどく怖くなって、涙が出そうになったが我慢した。一部始終を見守っていた祖父が気遣って意とすることを言ってくれた。

「・・・学校で虐めにあっているんじゃないのか。」

突然、祖父から図星を突かれてドキッとした。しかし、その様子にさらに怒りが蓄積したようで父親の剣獏が高ぶったのが伝わって来た。もっと凄い怒号でも言われたら、生きた心地がしない。明日、無理やりにでも登校しようと固く誓った。

「あした、学校行きます。」

たちまち怖くなったので敬語で返答したが押しつけがましく叱責してきて、だんだん嫌になってきた。

「絶対だな!絶対行けよ!絶対だな!絶対行くんだぞ!」

父親が見ている目の前で、明日、学校に行く準備のためカバンに必要なものを揃える。後ろには腕くみをして見下ろしていた。

一度逃げた父親まで現れたのだから、自分のやったことが怖くなってただ反省した―ただ、プライドが邪魔して学校で虐められていることは知られたく無かった。


翌日、戦々恐々で学校に行って、自分の席に行くと後ろの席で音がしたので緊張が走った。それで、後ろの席の女子は何もしてこなかった。逆におどおどとしていると、それを見計らたようにクラスメイトのひとりが駆け寄った。

ほとんど話したことがなかったのでビックリして固まってしまった。

「あのね・・・。」

自分が休んでいる間、担任の先生に虐められていたことが報告されたらしい。自分が学校に来ても、何もしないという約束事をしてくれたらしい・・・。

ホームルームが始まって先生がこちらに近づいて心配そうに言った。

「あなただけ、あちらの席に移動しなさい。」

後ろの子から離れた席から移動してもらえることになって、やっと虐められてきた日々から解放された。

その子からは何の詫びも無いまま、急によそよそしくなった。それを見てもの凄く腹立たしい気持ちになったがとにかく嫌いになったただ、席が離れられただけでも嬉しかった。


祖父母の家にいるとき、ことの顛末から毎日のように「勉強しなさい」と強要されるようになった。いつの間にか市販の勉強用のワークがテーブルの上に用意されるようになってしまった。学校から帰って来た後と土日の夕方になるとワークをやらされるようになった。

「なんでこんな問題もできないの!?」

小学校4年生だったが、よくよく解いていくとまだ習っていないだったので、時間が経っても解くのが難しかった・・・。

問題が難しくて手が止まったとき、背中にコツンと何かが当たった。恐る恐る振り向くと、祖母がニコニコしながら包丁を背中に突き立てていた。

「勉強しないと殺すよ。」

勉強用のワークが用意されている、背中には突き立てる包丁がある・・・。自分が何をされているのか分からなかった。

そのワークを指しながら「これが分からないんだけど」と聞くと、顔を覗かせて問題を解こうとしてくれたが・・・。

「おばあちゃん、ここが分からないんだけど・・・。」

「こんな簡単な問題もできない子はこうだ。」

勉強していたワークを包丁を突き立てられた。料理で台所でしか見たことが無かった包丁が目の前に刺さってある。

怖くて何も言えないでいると、祖母はニコニコしながら包丁でワークをぐりぐりとさせた。


 祖母に無理強いを強いられて勉強を押し進めていたとき、気持ちに限界が来てしまった。

仕事に出て、あまり家にいなかった祖父に甘えたかった。家でテレビを見ているとき、遊んでもらいたくてわざとイタズラを繰り返していた。それを見て、祖父は私を台所に連れて行って、真正面に向かい合ったと思ったら、握りこぶしを作った。

私が茫然としていると頭を軽く小突かれた。

(―?)

自分の身体が少しよろけたけれど、何をされたのかがよく分からず、漠然としていた。普段見ない真剣な祖父が少し怖かった。小突いた箇所に手を当てて優しくそっと撫でてくれた。

「・・・痛かった?」

気を遣ってくれたのが嬉しかった。祖父が怒っていないと分かり、すぐにニコっと笑った。

「ううん、大丈夫だよ。」

祖父の目がキラキラと輝いて見えた。

その後、一緒に遊んでくれるのかと期待していたが、不機嫌そうにテレビを見ていた。自分もずっとテレビを見て過ごした。


小学5年生の頃、クラスでの馴染みや成績の悪さが目立ってしまって友達から嫌われるようになってしまった。

卒業までに友達が欲しかったが、積極的にグループに入ろうとしたらみんなから嫌そうな顔をされてしまった。

クラスメイトから嫌われて、内心焦って苦しくて辛くなった。そのクラスメイトの一人が、朝、教室に入って来た先生に告げ口をした。

「先生!朝からいきなりこっちに来ようとして・・・」

先生はこちらを睨んで吐き捨てるように告げた。

「あなたがいるとクラスのみんなが嫌な気持ちになるのよ!」

頭の中が真っ白になった。学校の先生は、友達を作るのを助けてくれるものだと思い込んでいた。クラスメイトから痛い視線を浴びた―

傍観していたクラスがドン引きするのが気配で伝わったが、怒られるのが怖くて何も言えなくてただずっと耐えていた。


翌日、噂はすぐに流れたようで祖父母の家でテレビを見ているときだった。

「ちょっと!」

母親が突然玄関を開けてすごい剣幕であがりこんできた。

「学校で泣いたって本当!?泣く子は嫌いって言ってるでしょ!?」

こっちが家にいると邪魔そうにしてくるのに、怒るときだけ会いに来て、一体何なんだろうと感じがした。そんな母を内心、他人事のように軽蔑してしまった。同席していた祖父母は、見て見ぬふりだった。

「泣いたらもう家に帰ってこなくていいから!」

また心の中で気持ちの整理が出来なくて辛くなったが、怒られるのが嫌だったので涙はもう流さないと決めた。


その日の学校の帰り道、近所にある神社に立ち寄った。老舗が並ぶ古い商店街を通り過ぎれば、神社までの数百段ある階段が見えてきた。地元のお年寄りや他校の制服を着た生徒をすり抜ける。

神社までの境内に行くまでに、今までの辛かった出来事を思い出していた。月城神社にまで辿り着いたときには、自然と頭が痛くなって、息もあがって・・・本当に苦しかった。

「・・・はぁ・・・はぁ・・・。うぅ・・・。」

両親からも祖父母からも学校の先生から、同級生からも見捨てられて、自分は何のために生まれてきたのだろうと考えた。

誰かに認められたい、誰かどうすれば良いか教えて欲しい。

毎日、誰かに認められたいと思った。それに、勉強が苦手だったので夜遅くまで勉強に取り組んでいたのに、成果も上がらない、認めてくれないと失望していた・・・。

神社の境内を見渡して、舞台上の広間を見て思い出した、父親に肩車してもらいながら神楽を見ていた。華やかな巫女が3人可憐に舞い、太鼓の音が響いて、荘厳な雰囲気を子どもながらに感じていた。当時、多くの観客が行き通っていたが、もうこの数年は見に来ていないので分からなかった。

もう、父親からも見捨てられているというのに。

「あ・・・。」

懐かしかった思い出に浸っていると勝手に涙が出て頬をつたった。

いつの間にか大雨が降って、全身びしょ濡れになっていた。涙を誰かに見られる心配が無いとも思った・・・

ただ、神社の神様に願った・・・誰か代わりにやってくれないかな―


※一部修正しました。

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