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004 祭り

 あれから一年。


 早朝から夕暮れまで師匠の元で剣の修行を受ける日々だった。体がはち切れそうになり、毎日血反吐を吐きながらも死ぬ気で剣の研鑽を重ねた。

 そのおかげで、俺は強くなった。


 レオというライバルに負けたくなかったのか、はたまた剣の才能に恵まれていたのかは分からない。だが一年間その剣を受け続けた俺の体はやがて師匠の剣筋を読んで無意識に動くようになっていた。

 レオに関してもそうだ。

 師匠の話によると、俺がここに来てから凄まじいスピードで成長し始め、まるで別人かのように変わったという。


そして今、まさにそれを試す絶好の機会に直面している。


「お前ら、一年間よく厳しい修行に耐えた。

これからその成果を見せてもらう。最終試練だ」


 師匠が刀を肩に乗せ、片手をポケットに突っ込んで言う。その顔にはいつもの軽快な雰囲気は一切見られない。


「今からお前らには二人がかりで俺と手合わせしてもらう。遠慮はいらない、全力でかかってこい」


「二人で、ですか?」


 レオが不思議そうな表情でそう問うのも無理はない。なんせ今までは一対一での手合わせしかしてこなかったのだから。


「あぁそうだ。個人の強さはもう散々見てきたからな。お前らが力を合わせて本気できたらどんなもんなのか、この目で確かめておきたいってわけだ」


 どうやら本気で言ってるらしいな。二人で協力か……

 全くはじめての経験だが、なんだかレオとならうまくやれる気がする。


「分かりました、本気で一本を取りに行きます」


「よく言ったレイ! やはり勇者候補はこうでなくてはな!」


「僕も…… こんなところで立ち止まっている訳にはいかないんです!」


「よし、行くぞレオ!」


「うん!」


 掛け声に合わせて同時に走り出す。向かう先は我らが師匠メイザース。


「よし、こいお前ら! 一年間の努力の成果を見せてみろ!」


「「うおおお!!」」


 まず初めにレオが左手から全力で斬りかかり、その息に合わせて逆方向から斬り込む。師匠はその剣を自らの剣で受け止め、受け流す。

 その顔にかつての余裕そうな面影は一切なかった。


 両方向から続け様に剣を振るうが、全て受け流される。

 目で視認してないのに、どうやって分かるんだ? やっぱり動きを読まれてるのか?


「クソッ!」


「レイ、一旦下がって!」


 掛け声と共にレオは後方へと大きく下がり、俺もそれに合わせて師匠の背後から横へと走り抜ける。


「金属魔法、鉄剣創生!」


 剣を前方に突き出し魔法のスペルを唱えると、地面の砂がサァーっと音を立てレオの周囲の地面から灰色の魔法陣が浮かび出てきた。

 その魔法陣には見知らぬ言語の文字がずらりと描かれており、微かに光を放っている。一説によるとそれははるか昔に使われていた古代文字で魔法の効果や源が書かれているようだが、その詳細については未だに分かっていない。


 レオの周りからギリギリと金属音が鳴り響き、何も無い空間から鉄の刃が四本現れる。


「さぁ、覚悟してください。師匠!」


「ほぅ、金属魔法か…… 面白い。撃ってみろ!」


 生み出された刃は鋭く回転し波を描きながら一斉に師匠へと襲いかかる。

 あいつ…… いくらなんでもこれはやりすぎだ!


「すぅ……」


 メイザースは瞳を閉じて大きく息を吸い、腰を深く落としながら鞘に収めた刀の柄に手を添えた。

 そして、自らの身を裂こうと迫ってくるの鉄の刃をものともせず、静かに一言放つ。



「神速」



 その言葉と同時に、師匠の姿は突然目の前から姿を消した。

 目元をなぞるように映った、赤い残像だけを置き去りにして。


 しかし、その事実を脳が認識したときにはもう遅かった。



「レイ……」


 呼び声に振り向くと、首元に刀を添えられたレオが、大量の汗を流してこちらを見つめていた。

 そして後ろには、さっきまで十数メートル先にいたはずの師匠の姿が。そして、その手にはボロボロの鉄剣が四本握られていた。


「おいうそだろ、今の一瞬で……」


 コンマ一秒で迫りくる鉄剣を全て受け止めて、レオの背後を取っただと? 人間業じゃない。それに魔法陣だって見えなかった。この人は一体……


「お前たち、この一年で本当に強くなったな。

合格だ!」


レオから刀を引き、刃を鞘に収めてニヤリと微笑む。


「だがまだまだだ。

自分の実力をよく見極め、常に最善の手を打つ事を怠るな! 勇者選抜試験はこんなもんじゃないぞ。気合入れていけ!」


「「はい!!」」


「やったね、レイ!!」


「あぁ! 本当に長い一年間だった。色々とありがとうな、レオ」


「こちらこそ、レイがいたから僕は負けじと強く慣れたのさ。感謝してもしきれないよ」


「お前……」


「あ、そうだ。師匠から合格もらったって、ロイさん達にも伝えに行かないと。レイも行くでしょ?」


「この体力馬鹿め、俺は少しだけ休んでから行くよ。先に入って報告しといてくれ」


「分かった! じゃあまた聖堂で!」


 こちらへ手を振りながら、レオは聖堂の方へと走って行った。あいつ、本当に体力あるな……


 ……


 確かに、ここ一年で俺は劇的に成長した。まともに振るうことすらできなかった剣も自由に扱えるようになったし、修行でなら師匠とだって良いところまで戦えるようになった。


 ……でも、今はレオに負けたという悔しさの方が強い。

 なんたって、俺には魔法の才能が一切ないのだから。


 この世界には、一般的に火・水・風・土の四属性をベースにした多種多様な魔法な存在する。

 そしてどの属性のどんな魔法を身につけるは個人によって異なっている。


 だけど、俺にはどの属性の特性も無かった。魔法を使えないので、潜在魔力があるかどうかさえ分からない。


 それに比べてレオは金属魔法という立派な魔法を身につけて、師匠に奥の手を使わせた。きっと今の俺じゃレオには敵わないだろう。


 だからこそ、俺も師匠のような技を身につけないと……



「わぁ!」


「うわっ!」


 突然耳元で大きな声が響いたので、ついひょうきんな声が出てしまった。


「うふふ、変な声なの」


「なんだ、メアリーか。びっくりさせるなよ」


「ごめんごめん、なんか神妙な表情してたから、つい和ませたくなっちゃって。もしかして怒っちゃった?」


「いや、全然。

いつもありがとな、気を使ってくれて」


 そう言うと彼女は恥ずかしそうに目を逸らし口を紡ぐ。


「そういうところだよ、もう……」


「ん? 何か言ったか?」


「言ってません、もう!

それよりみんなに合格のこと伝えに行くんでしょ! 私も行くから一緒に行こ?」


「あ、あぁ。そうだな」


 メアリーに手を取られ、駆け足で聖堂へと向かった。


 ***


 時も少し経ち、太陽も沈みきった頃。

 掲げられた松明の灯りが、村中から集まった大勢の人たちと聖堂前の門を照らしている。

 周りの人間達が円を囲い見守る中、中央に置かれた大きな木箱の壇上に男が一人上がる。この村で最初に会った、門番のオーバルだ。


「さぁ皆さん。今宵は昨年より待ちに待った、二人の男を送る宴の日でございます。

勇者選抜試験まで残り十日。二日後に旅立つ我らの英雄を称えるために、全力で楽しんでいきましょう!!」


「「「「おーー!!」」」」


 百人はいるであろう村人達の声が響きわたり、宴の幕が下される。オーバルのやつ、最初は俺のこと殺そうとしてたのに、今じゃすっかり丸くなったもんだ。

 机に並べられた沢山の食べ物と、そこらで聞こえる笑い声や歌声。

 これが宴か…… こんな盛大な行事に参加するのは初めてかもしれない。


 「レイだ!」


 「おぉ、勇者だ!」


 「おいレイ! よく頑張ったな、この調子で試験も頑張れよ!」


 「レイ様、私の息子を見つけてきて!」


 気がつかないうちに周囲には大勢の人間が集まり詰め寄ってくる。


「お、おいちょっと」


 まぁでも無理もないか…… 一応救世主ということになってるし。


「レイ、こっち!」


 人に揉まれている中、腰のあたりで服を引っ張られる感じがした。振り向くとそこにはメアリーの姿があった。


 白く細い手に掴まれ、引っ張られるままに人混みを抜けて聖堂の反対方向へと走る。


 息が切れるまでしばらく走り、大きな木のある広場まできたところで立ち止まる。


「だめ、これ以上は走れない……」


「はぁ……はぁ…… すまん助かった」


「ふぅ……どういたしまして。

それにしてもみんなはしゃぎすぎなんだから。二人が明後日には出発するからって、その前にパーっと盛り上がろう! だなんて」


「確かにそうかもしれないな。

でも、みんなが応援してくれてるんだから俺は嬉しいよ。そのお陰で頑張ろうって思えるし」


「……なんかレイって、ここ一年で変わったよね」


「そうか?」


「そうだよ。

なんかちょっとだけ砕けた喋り方するようになったし、ちょっとだけ優しくなった気がする」


「なんだそりゃ」


「えへへ」


 遠くを見ながら、照れくさそうに彼女は笑う。



 そういや、もう一年経つんだな。


 最初は本当になにがなにか分からなかった。

 急病で死んだと思ったら変な魔法使いに世界を救えとか言われるし、転生したらしたらでいきなり勇者様って崇められるし。

 使命感に押し潰されそうな夜もあった。

 でも、慣れたら案外すんなりと受け入れられるもんだ。


 これからの事だって……

 そう! 魔法は使えないけど、師匠が使ってるような特技なら俺だって覚えられるかもしれないし。


「ーーねぇ、聞いてる?」


「!? すまん、ちょっとぼーっとしてた

どうした?」


「もう、人の話はちゃんと聞きなさいよね!

ならもう一度だけ言うわ。


明日、レイとレオに案内したい場所があるの」


「案内したい場所? この村の中ならほとんど知ってるが」


「違うの。もっと特別で、私たち村長一家とごく一部の人間しか知らない秘密の場所」


「……というと?」



「『赤の勇者』が使っていたとされる、伝説の聖剣ヴァーミリオンが隠された神秘の泉よ」

最後まで読んでいただきありがとうございます!

次話以降はもっと早い投稿ペースで頑張ります。よろしくお願いします。

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