プロローグ:折れない『凡夫』
どうも、プロローグ最後です。
「なあ親友。俺の戯言を少しばかり聞いてくれ」
夕焼けが辺りを包む放課後。部活が終わるまで待っててくれた親友二人の後ろを歩く。俺は二人のことを信用も信頼もしているので、素直に相談することができる。
それはもう、血のつながっている両親よりも。
親友たちはそれまでしていた雑談を止め、静かに俺の次の言葉を待っていた。全く、いい親友を持ったものだ。
「推薦蹴って、二人と同じ高校行く」
「今から成績かなりあげなきゃ行けねぇなぁ」
「提出物は出してるし授業も一応聞いてるから、ほんと勉強するだけだね……え?」
親友二人は最初こそ何気ない感じでアドバイスをしてくれていたのだが、俺の言葉を理解した瞬間、立ち止まって振り返る。
その顔は信じられないいった感じで驚き一色に染まっており、どれだけ予想外のことを言ったのかが容易に想像がつく。
事実、恐らく誰もこんなことを俺が言い出すなんて想像もしていなかっただろう。少し前の俺ですら、考えたことなかっただろう。
「悪いもんでも食ったか? 確かに今日の給食はクソ不味かったかもしれねぇけどよぉ」
「大体、入ろうにもお金の問題とかあるじゃないか。僕の場合はあの時の慰謝料で通えるし、明弥はまず間違いなく特待生制度で授業料無くなるだろうけどさ……」
「一応あそこの学校にもスポーツ推薦ある。そこは心配してない」
「いや、それもそうだけどさ……確か洋輝が推薦貰ったトコって、県内でもトップクラスの強豪だよね? 行かない理由なんてないじゃん」
俺以上に焦る親友二人を見て、改めて俺が周囲にどう見られていたかがわかる。同時に、こいつ等と言えども俺のことを完全に理解できるのではないと感じ、そっと安堵する。
以心伝心なら問題ないが、筒抜けは非常に都合が悪い。俺にだって、こいつら二人にすら隠したい本心はある。
俺は道の端により、電柱にもたれかかって空を見上げる。夕焼け空は情熱の色。誰かがそんなことを言っていたが、それが本当だとしたら、今の俺にこれ以上に合わない光景だろう。
「……あそこに行っても、先が分からない。少なくとも二人と同じとこなら、それなりの学力が付いてくる。 俺も我儘ばっかりは言えない」
脳裏をよぎるのは、大学受験を控えた自慢の兄貴と、思春期入りかけの才能にあふれた弟の顔。そして、毎日仕事に家事にと追われる両親の顔。
やはり、少しでも両親に安心させてあげたいというのが俺の本心の一つでもある。
二人はそんな俺の様子を見てはっとした表情を見せる。思ったことが顔に出にくい俺としては、実のうらやましい限りだ。
「バレーボールで食っていけるならは話は早いんだけ……そうとも限らない。俺はあくまで『凡人』」
夢で飯が食えるなら、これ以上のことはない。好きなことで生きていけるのであれば、壁にぶつかっても自分で落としどころもつけられる。
しかし、まずその『好きなことで生きていく』こと自体の難易度が恐ろしいほど高い。
才能、実力、環境、経験、運……さらに多くの要因が一定以上無いとそのスタートラインにすら立てない。
実に理不尽な世界だが、実力が物を言う世界なんてそんなものだ。
気持ちで飯は食えない。
「……とりあえず、親とか先生とかに説明する。二人には勉強教えてもらう」
「……無理矢理にでも聞いてくるくせに」
「はぁ……お前がそこまで現実主義者だとは思わなかったよ」
「うるさい。だからといって夢を諦めるわけじゃない」
電柱から離れ、先ほどよりわずかに沈んだ夕日に背を向ける。目の前の地面に俺の影が長く落ちる。どうやら、俺の道のりはこの影の様に果てしなく長いのかと、ぼんやり考える。
……なるほど、確かに俺には、夕焼けがよく似合う。
「バレーボールなんて、何処でもできる」
これは。
俺が『英雄』に近づく物語。
ご閲覧ありがとうございます。バレーボールの地上波放送もっとされないかなーとずっと思っています。
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それでは、また次回。