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プロローグ:呪われた『天才』

どうも、一日二回行動です。プロローグはもう一話ありますが、それはまぁ後々。




 誰も居ない美術準備室。

 これまでは何度も何度も通っていたはずのこの教室に来るのは実は二週間ぶり。恐らく、俺が今後この教室に入ることはもうないだろうと笑いつつ、自分の特等席に向かう。


 所狭しと美術の授業で使う教材や美術部が使う備品がある中、描かれることを待っているかの如くたたずむ真っ白なキャンパス。

 そうだ、前にここに来たときは、人物画にも挑戦してみようかと考えている最中だった。その時脳裏に浮かんでいたのは、たった一人の少女だった。




「……もう二度と、会えない、のか」




 間違いなく、俺は彼女に恋心を抱いていた。中学生の初恋なんて大抵は実ることなく、実ったとしてもそれは儚く散っていくものだ。

 そういう意味では、俺の初恋も間違いなく散っていったし、そういう意味では『普通』なのだろう。


 しかし、なぜだろうか。


 どうして、彼女がこんな選択を取ったのか。


 自らの命を絶ってしまったのか。


 どうして俺の告白の次の日に死んでしまったのだろうか。


 何一つ分かることなく、彼女の葬儀は終わってしまい、彼女はただの灰となってしまった。どこか遠かった死が、自分の隣に突然やって来た。

 やっと自分の中で整理がつき、学校に来れたのが一週間前。しかし、彼女との思い出の残っているこの場所には中々来る踏ん切りが付かず、今日やっと来れたというわけだ。

 彼女が俺のことをどう思っていたかなど分からない。しかし、いつまでも彼女のことを引きずっていたら、彼女にこれ以上なく失礼だろう。

 そう悩んでいた時、彼女の親友の女の子が、『美術準備室に、君に宛てた手紙があるらしい』と教えてくれた。中身までは知らないらしく、彼女が死ぬ数時間前に直接言われたらしい。




「……あった」




 キャンパスの裏。そこに無地の便箋が一つ挟まっていた。差出人には、しっかりと彼女の名前が、宛名には俺の名前が書かれており、間違いなく彼女が俺に宛てた遺書であることが分かった。



「……何が書いてあんのかな」




 彼女がこの世に生きていた証を得たような気になり、少しだけ胸の中が温かくなる。彼女と話しているときは、いつもこんな感じだった。

 その懐かしさに少しだけ浸りながら、便箋をあけ、中身を確認する。

















 呪いだった。


 俺が彼女にかけてしまった呪いが。そして、彼女が死の間際にこの世に、俺に向けて残した呪いが。

 このたった二枚の紙に込められていた。




「……は……はは……なんだよこれ……」




 パサリと遺書を落とし、それを追うように跪く。自分の顔を見ることは叶わないが、恐らく今の俺の顔は絶望一色に染まっているのだろう。

 

 俺がどれほど能天気に生きていたのか。


 どれほど彼女が追い詰められていたのか。


 彼女が死んでしまった原因が俺にあるのだということ。


 それらに全く気付くことなく、俺は今ものうのうと生きていた。


 この才覚を、遺憾無く発揮してしまっていた。



「……ああ、そうか」




 この時、俺は気付いた。

 自分が常人ではどれだけ努力したとしても届かないモノを最初から持っている存在であるのだと。

 その事実に気付いたということは、その事実そのものが俺を縛る『呪い』となった。


 恐らく、天国の彼女も俺が苦しんで本望だろう……いや、今頃賽の河原で石でも積んでいるのか。

 親より早く死んだ親不孝者だから。

 まだまだ、幼い子供だったのに。




「……きっと、俺は地獄行きだな」




 力なく呟いた声を聞いていたのは、そばに佇む石膏でできた彫刻だけだった。しかし、彼はうんともすんとも言わず、ただただ俺を見ていた。

 そんな訳ないのだが、今の俺にはその彫刻が俺を責めているようにしか見えなかった。




「……ブルータス、お前もか」




 彼女に言っていたような冗談を吐いてみるが、彫刻の目つきが変わることはなかった。

 俺は床に落ちた遺書を拾い、ポケットの中に丁寧にしまう。俺は一生、この十字架を背負っていくのだろう。

 その決意を忘れないために、この遺書は大切にしまっておこう。

 もう二度と、他の誰かを彼女と同じ目に合わせないためにも。

 

















 これは。























 俺が『普通』を騙る物語。

















ご閲覧ありがとうございます。実際問題、天才ってどんな感じなのですかね。羨ましいと思う反面、そうだったら面白くなさそうだなとも思います。


感想、評価、ブックマーク等して頂けると幸いです。


それでは、また次回。

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