表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

8話 衝撃!俺がお前でお前が俺で…国王暗殺犯になっちゃった!?

「どういうことだ! ふざけているのかお前!」


 俺は眼前に立ち尽くすその男に、動揺を隠せずにいた。何故ならその男は、俺とまったく同じ顔をしているからだ。


「い、一体どういうことですか……。ゆきとさんが、二人? もしかして、変態能力――あ、変身能力では……」


 アイリーンが額に汗を滲ませる。


「ああ、そうかもな。確かめてやる」


 誰かが化けているだけなら、この世で最も強いこの俺と、対等に戦うことは不可能だ。


「止まれ!」


 俺は『時間停止』能力を発動した。

 一瞬にして周囲は静寂に包まれ、アイリーンも偽物野郎もピタリと動きを止めた。


「ふん。呆気ないぜ」


 俺は偽物野郎に『拘束魔法』を掛けようと、そいつに向かって一歩踏み出した。


 ――次の刹那だった。


 国王に突き刺さっていた日本刀がカタカタと音を立てる。

 馬鹿な、停止した時間の中でそんなことが……。


「――ッ!?」


 日本刀は驚くべき勢いで俺に向かって飛来してきた。横薙ぎに振るわれた刀身を、俺は寸前のところで回避した。日本刀はそのまま偽物野郎の方向へと飛んでいった。停止していたはずの偽物野郎は、その日本刀を何食わない顔でキャッチした。


「なっ……時間は止まっていたはず!?」

「いいや違うね。厳密には時間を停止しているわけではなく、そう見えるほどのスピードで動いているに過ぎない。俺も同じスピードで動いているだけのことだ」


 偽物野郎はニヤリと笑った。

 俺と全く同じ顔で、あくどい笑みを浮かべた。


「うわ、俺って意外とイケメン……」

「それめっちゃ思った。俺もお前を見て、俺ってけっこうイケメンだなって」

「…………」

「…………」

「「でへへ」」


 駄目だ、こいつ。

 思考パターンまで俺とそっくりじゃねえか。

 そう思いながら、偽物野郎をじっと見る。


「俺たち考え方までそっくりだな」


 偽物野郎がそう言った。


「お、おう……」


 やめろ、気持ち悪い。

 緊張感が台無しになる。


「で、なんの話をしてたっけ?」


 偽物野郎はそう言った。


「今週の名探偵コナン」

「ああ、そうそう。まさか安室さんが――はっ! しまった!」


 引っ掛かったな!


「お前! やっぱり……。名探偵コナンを知っているってことは、俺の元いた現代日本を知っているってことじゃねえか」

「ふ、そう言えば俺も、同じ手段で引っ掛けたな」

「はあ?」

「まあいい。悪いが俺の正体については話せない」


 なんじゃそりゃ。


「どういうことだ」

「ただ一つ言えることは、俺はお前で、お前は俺だってことだ。そして俺は――お前の敵じゃない」

「信用できない。『異世界召喚』される前に、アイリーンとそっくりの女の子を殺して、俺を襲撃したのは、あんただよな」

「悪いな。それについては、現時点で言うべきじゃない」

「だったら言わせてやる」


 俺は右手に『火魔法』、左手に『雷魔法』を宿らせた。まずは右手の『火魔法』を偽物野郎に向けて放った。偽物野郎はそれを回避すると、こちらに向かって驀進してきた。俺は左手の『雷魔法』を偽物野郎の方向へと広範囲に放った。

 広範囲攻撃なら回避はできまい。


「分かる分かる。俺もそうするからな」


 偽物野郎は広範囲に放たれた『雷魔法』を――日本刀で切り裂いた。


「なっんじゃそりゃあ」


 偽物野郎が日本刀を振るうと、漆黒の斬撃が飛んできた。


 ――駄目だな。これは避けるしかない。


 俺は横方向にローリングして斬撃を回避した。漆黒の斬撃は背後の壁を粉々に破壊した。これはおそらくバリアでも防げていなかった。

 まともじゃない俺でも、まともに食らっていれば危なかった。

 偽物野郎は俺との間合いを一気に詰めると、日本刀を勢いよく振るった。


「分かった。やめよう」


 俺の言葉を受けて、偽物野郎は日本刀の動きをピタリと止めた。


「分かってくれたか」

「ああ、俺たちの力はおそらく互角だ。このまま戦い続けたら、俺たちは無事でもこの国の人間に被害が出る」

「そういうことだ」

「どうやらあんたは、本当に『俺』なんだな」

「そういうことだ」

「召喚前に起きたことは……」

「すまないが、それについては言えない。本当に。言わないじゃない、言いたくても言えないんだ」


 どうやら嘘ではないらしい。

 これ以上追及しても無意味か。


「わかった」


 俺たちは『時間停止』を解除した。

 時計の針は進み始め、アイリーンが再び動き出す。


「え!? えぇえええええええええええええええ!?」


 無理もない反応だ。

 俺の放った『火魔法』や、偽物野郎もとい本物野郎(?)の放った斬撃で、部屋の中はボロボロだ。


「な、何をやってるんですか!?」

「いやちょっと……喧嘩しちゃった」

「喧嘩しちゃった! じゃないですよ! あ、また『時間停止』を使いました!?」

「まあな。それよりもアイリーン、どうやらこいつは、本当に俺そのものみたいだ」

「ど、どういうことですか? じゃあゆきとさんが偽物……」

「なんでだよ! 俺もこいつも本物――ん? いや、結局お前何者なんだ。まさか未来から来たとか、そう言う感じか」


 本物野郎はやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。


「人間の想像力とは不思議だよな」

「訳の分からないことを言うな。お前が俺本人なのは理解した。その場合、未来から来たと考えるのが妥当だ」

「まあ、そうなんだけど」

「そうなんかい! なんでさっき誤魔化そうとしたんだ!?」

「そのほうがミステリアスでかっこいいかと思って」

「そういうのいいから! ちゃんと答えろ! 馬鹿!」

「おまっ……俺に馬鹿って言ったら、お前自身にも馬鹿って言ってることになるからな。なんなら俺のほうが未来な分、お前よりわずかに賢い。つまりお前はより馬鹿ってことに――」

「んなことどうだっていいんだよ!」


 俺ってこんな馬鹿だっけか。


「とりあえず今からいくつか質問する」

「いいだろう。これは冗談抜きで、答えられる質問と、答えられない質問がある。それについては分かってくれ」

「いいだろう」


 ええっと、何から聞いていこうか。


「国王をやったのはあんたか?」

「答えはイエスだ」


 未来ゆきとは、あっさりと国王殺しを認めた。


「何故そんなことをした? 今殺されるのは非常に困るわけだが」

「『タナトス』を終息させるためだ」

「『タナトス』は自然発生したウイルスだぞ? どういうことだ……」

「じきに理解できる。因果関係ってのは、奇妙なもんだ」


 いやはや。因果関係は不明だが、国王を殺害することが『タナトス』の終息に繋がるということらしい。


「じゃ、じゃあ……わたしから質問! いいですか?」


 アイリーンが手を上げた。


「どうぞどうぞ! なんでも聞きな、アイリーン」


 未来ゆきとは優しく微笑んだ。


「あの、あなたは未来から来たんですよね。それは……『時間移動』は1万年以上前に封印された『古代の禁術』のはず。いくらあなたでも、そんなものを使えるはずが……」

「そうだな。封印された技術は、そもそも習得しようがない。だけど一つだけ手段がある。アイリーン、あんたにも分かるはずだ」

「まさか……アリエス!?」


 なるほどな。そういうことか。

 アリエスは古代の魔女を封印された少女だ。

 つまりこいつは、封印を解いたということか。


「なんてことを……あんた、自分が何をしたか分かってるのか! アリエスに封印されている魔女は――あれは、人間の勝てる相手じゃないぞ」

「ああ、だが『時間移動』をするためには必要なことだった」

「…………」

「悪いな。そろそろ時間だ。最後に伝えておくことがある」

「なんだ?」

「スラム街の『レインボー』というバーに行け。そこのカウンター席の右から3番目に座って、バーテンに三回『ファックミー』と言うんだ」

「???」

「俺は伝えたぞ」


 未来ゆきとは緩慢な動きでアイリーンに歩み寄っていった。

 アイリーンの頬に手を当てて、弱々しく笑みを浮かべる。


「もう一度、あんたに会えてよかった」

「え……あ……」

「気にするな。なんでもないさ」


 そう言うと、未来ゆきとは青白い閃光を発し、姿を消した。


「行っちまったか」


 いつまでもここにいるのは危険だ。おそらく何らかの手段で人払いをしたのだろうが、いつまでも効果があるとは思えない。


「戻ろう」

「はい!」


 俺とアイリーンは王室を出て、『ワープゾーン』へと歩を進めて行った。すると、前方から5人組の集団がやってきた。


「いやはや、魔王を倒して平和な世界が来たと思ったら、たった10年でこの有様だ。しかし私は礼を言おう。あの男を殺してくれて、ありがとう」


 淡々とした口調で銀髪の男がそう言った。黒いコートを身に着けた20代後半くらいの男性で、端正な顔立ちをしている。


「ルーシャス様……」


 アイリーンが驚愕の表情を浮かべる。


「ルーシャス……国王の息子か!」


 そう言えば、国王には一人息子がいた。俺もこうやって顔を合わせるのは初めてだ。こう言ってはなんだが、国王とは似ても似つかない。


「そうだ。法律上、私はあの男の息子だ」


 含みのある言い方だな。

 というか――


「なんで国王が死んでることを知ってる!? というか俺は殺してねえ!」


 いやまあ、殺していると言えば殺しているのだが。


「何故知っているのか。そんなことはどうでもいい。そして実際にお前が殺したかどうかも、どうでもいい。重要なのは何を事実とするかだ」

「勇者が魔王を殺した、そう発表する気満々じゃねえか」

「そうだ。私は王の座につくことができ、国民のヘイトは更にお前たちに向く。そうしない手はない。一石二鳥だ」

「なるほど。確かに……」


 アイリーンが感心した様子でそう言った。


「おいおいおい、こっちは堪ったもんじゃないんだけど!?」

「そう悪いことばかりでもないさ。あの男はウイルスを集団免疫で終息させようとしていた。そんなことをすれば数百万人の国民が犠牲になる。自粛要請をしながら、補償もロクに出さないのも、そもそもまともなやり方で感染を止める気がないからだ」

「…………」

「私はそうではない。使えるものは最大限に使って、『アルカディア王国』を――そしてこの国に住む人々を救う。お前はそのための犠牲となれ。ヘイトに食われろ」

「おいおい、誰に向かって言ってんだ?」


 確かにこいつは国王よりかはマシかもしれないが、そのための犠牲になる気は毛頭ない。


「お前にだよ、勇者。無理にでも従わせるさ」

「俺に勝てると思ってんのか?」

「さあな。ただ、私は好きなのだよ。破滅のかかったギャンブルがね」


 ルーシャスがニヤリと笑う。

 次の瞬間、ルーシャスを除く残りの4人が一歩前に踏み出した。


「一度殺してみたかったんだよね~。勇者って生き物を」


 14,15くらいの可愛い系の男の子が、薄っぺらい笑みを浮かべる。

 全身を『雷魔法』のオーラが覆い、眩い光を発している。


「あはは……死なない程度に殺してあげる、ペテン師きゅん」


 オッドアイの赤髪の女が、ウインクをした。

 全身を『火魔法』のオーラが覆い、こちらにまで熱が伝わってくる。


「殺してくれと泣きわめくところを見せてくれ」


 パキパキと拳を鳴らしながら、ムキムキの男がそう言った。

 圧倒的な無属性のオーラが、男を覆い尽くす。


「……………………早く済ませよう」


 口許をマスクで隠した目付きの悪い男がそう言った。

 全身を『風魔法』のオーラが覆い、空気を切り裂く音が聞こえてくる。


「さあ勇者、この国の精鋭たちだ。お前の力が本物なら、こいつらを倒してみろ」


 ルーシャスがニヤリと笑う。


「おいおい……この国のレベルはここまで堕ちたのか? そこらへんの一般人かと思ったぜ」


 俺はキメ顔でそう言った。

 さて、死なない程度に殺すとするか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ