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5話 本当の敵は〇〇!?かつての仲間との激闘!!……のはずが、強過ぎちゃってごめんなさい

「いやアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 アリエスの悲鳴が、開戦の合図となった。


「止まれ!」


 俺は『時間停止』魔法を発動した。

 一瞬にして、地獄と化した世界は静寂に包まれる。


「やってくれたなまったく」


 とりあえず味方陣営の状態を確認だ。


 ギャレス――片腕をスッパリと切断されている。放っておけば大量出血で死亡するな。俺は『治癒魔法』を使って切断された傷口を塞いだ。

 よし、ひとまずはこれで大丈夫のはずだ。


 アリアドネ――既に『雷魔法』が発動している。完全に戦う気満々だ。

 特にこれと言ってダメージはなし。大丈夫だ。


 アリエス――血まみれになっているが、本人の血ではない。

 全てアイリーンの血しぶきだ。

 精神的なダメージはあるが、生命の危険はない。


 アイリーン――非常にマズい。頸動脈が切り裂かれている。既に意識はないようだ。

 このままではあと数秒で死ぬ。なんとかしなければ。


「シャリー ふざけてんじゃねーぞ! 間抜け野郎!」


 俺はかつての仲間、シャリーの方向に視線を馳せた。

 シャリーは停止した時間の中で、殺意の眼差しを前方に向けている。


「なんでこんな真似を……ん?」


 シャリーの口許が、わずかに動いた。

 停止した時間の中で、わずかに動いたのだ。


「なるほど。さすが国一番の魔導士だ」


 俺の『時間停止』は厳密には時間を止めているわけではない。止まっているように見えるほど高速で移動し、情報を処理しているだけだ。


 それに対する対策をシャリーは行ったのだ。


 どうやら攻撃する直前、俺に対して『スロー魔法』を掛けていたようだ。それによって、俺のスピードが僅かに殺されたと言ったところか。


「やってくれるな」


 俺は『治療魔法』で全ての状態異常をリセットした。それによって、シャリーの『スロー魔法』も完全に無効化された。


「気付くのが遅ければ、残り数秒の命であるアイリーンが、更に死に近付いていた」


 あの数秒で、そこまで考えて立ち回ったということか。


「とにかく、やるべきことをやるんだ」


 俺はひとまずシャリーに飛び切り強力な『拘束魔法』を掛けた。国一番の魔導士であろうと関係ない。これを自力で解除するのは不可能だ。


「問題はアイリーン、か」


 俺は最上級の『治療魔法』を発動した。多少の傷なら容易に治療ができるが、アイリーンのこの状態は、ほとんど死んでいるようなものだ。人を殺す魔法は比較的敷居が低いが、人を救う魔法というのは一筋縄ではいかない。

 なんとも厄介だ。


「戻ってこい、アイリーン」


 アイリーンの傷は徐々に塞がっていった。なかなか魔力を消費する作業ではあるが、これでひとまず死ぬことはないはずだ。

 咄嗟にしてはよくやったが、攻撃に転じたのは悪手だったな、シャリー。

 一通りの対応を終えた俺は、『時間停止』を解除した。


「ぐっ――」


 言わずもがな、『拘束魔法』をモロに食らったシャリーは、その場に崩れ落ちた。


「さすが勇者様……相変わらずの化物ですね」


 10年前とは別人のような目つきだ。一体この10年で何があったんだ。


「ぐああああ……ぐっ! シャリーてめえ!」


 ギャレスが苦悶の表情を浮かべる。


「ひっ、ひっ……ぐっ――」


 アリエスは溢れ出る感情を抑え込むように、手で顔を覆った。


「おい、勇者さん! やばいぞ!」


 アリアドネは焦燥した様子でアイリーンに駆け寄った。


「ああ? アイリーンなら俺が治療――ッ!?」


 ふとアイリーンの方向に視線を向けると、全身に『呪いの印』が広がっていた。蛇のような形状をした漆黒の印だ。


「本命はこっちか!」


 頸動脈への攻撃は、呪いを植え付けるための手段か。『スロー魔法』に関しては、完全なるブラフだ。『呪いの印』は植え付けた対象の魔力を、空になるまで吸収する効果を持つ。そして人間は、魔力が完全に尽きると――やがて死に至る。


「シャリー、闇の力を……そこまで堕ちたか!」


 ギャレスが怒声を上げた。


「勇者さんよ! おいおい! このままじゃまずいぞ!」


 アリアドネがなんとかしろと言わんばかりに俺を見る。


「あははははははははは! その女は死ぬ! 呪いの印は『治療魔法』じゃ消せない! そして勇者様、あなたに消す術がないことは分かってる!」


 シャリーは勝ち誇ったように目を見開いた。


「…………」


 まずい。完全にしてやられた。『呪いの印』はアイリーンの全身を完全に覆い尽くした。これは対象の魔力を完全に吸い尽くしたことを意味する。

 あと一分もしないうちに、アイリーンは死ぬ。


「おい、どうす――」

「『転生魔法』を使う」


 アリアドネの言葉を遮る形で、俺はそう言った。


「なっ、マジで言ってんの!?」

「嘘でしょ……おにいちゃん」

「ゆきと、よせ……」


 その場にいた全員が、困惑の言葉を漏らした。


「いや、それしかない」

「『転生魔法』は自分の魔力エネルギーを送る魔法なんだよ!」


 アリアドネが言った。


「分かってる。死んだ人間を生き返らせることはできない。だが、アイリーンはまだ死んでない。今なら救える」

「そういうことを言ってんじゃないって! アイリーンの魔力は完全に尽きてる。この状態で『転生魔法』を使ったら、発動者は普通に死ぬ!」

「大丈夫だ。俺は普通じゃない」


 俺はアイリーンに対して『転生魔法』を発動した。

 俺は全力でアイリーンに魔力を注ぎ込み続けた。アイリーンの全身を覆っていた『呪いの印』が、徐々に消えていく。

 短時間で連続して魔法を使い続けた上に、『転生魔法』まで発動することになるとは。


「さすがにちょっとキツイな……」


 額に汗が滲む。

 これが済んだら、覚悟しろよ、シャリー。

 そう言えば、最初に攻撃を仕掛けたとき、シャリーは妙なことを言っていたな。確か、小さな声で「殺せ」と言っていたような。


「まさか……」


 ビュン!

 と、先ほどと同じ、風を切り裂く音が聞こえる。

 俺は全神経を集中させて――


 アリアドネの全身にバリアを張った。


「なっ!」


 衝撃音が響いて、バリアがバラバラに砕け散る。


「狙いはあんただ、アリアドネ! この部屋にシャリーの呼び出した『召喚獣』がいる! 最初の攻撃もそいつのだ!」

「なるほどな」

「俺からの援護は期待するな! なんとかしろ!」


 アリアドネは瞼を閉じると、深呼吸をした。


「勇者さん、確かにあんたはめちゃくちゃ強いよ。だけどね――」


 アリアドネは空中に雷の槍を生成した。


「わたしは魔王の娘だ」


 雷の槍は特定の方向に向けて勢いよく発射された。


「ぐげえええええええええええええ!」


 断末魔の声が聞こえたかと思うと、何もなかった空間に、槍に貫かれた怪物が姿を現した。アリアドネによる容赦のない攻撃で、既に対象は絶命している。どうやら透明化していたようだが、僅かな物音でアリアドネは居場所を見抜いたようだ。


「ここの床、よく軋むもんでさ」


 アリアドネは魔王を思わせるあくどい笑みを浮かべた。


「ちくしょお……」


 シャリーが声を漏らす。

 どうやら俺の手を封じた状態で、召喚獣にアリアドネを狙わせる作戦だったようだ。

 というか、あの一瞬でどこまで考えてんだ、こいつは。


「残念だったなシャリー」


 アイリーンを蝕んでいた『呪いの印』も、完全に消え去った。魔力も満タンとまでは言わずとも、一定以上は溜まっている。これなら命の心配はないだろう。


「うう……」


 アイリーンが小さく声を漏らした。


「ゆ、ゆきとさん……ごめんなさい、わたし……助けてもらってばかりで……」

「俺は勇者だぞ。何度だって助けるさ」


 俺はアイリーンを安心させるため、口許に笑みを含んだ。


「くぅ~、染みるね」


 アリアドネが茶化す。


 さて、と。


「シャリー、お前……一体何があった?」


 シャリーは観念した様子で溜息を漏らした。

 ギャレスとアリエスが、かつての仲間に哀れみの目を向ける。


「勇者様……私は結局、自分の知識に意味を持たせることができたんでしょうかね?」

「シャリー……」

「勇者様、ギャレス、アリエス、私は――うっ」


 唐突に、シャリーが目を見開いた。

 今まで見たことがないような、苦痛に歪んだ表情を形作る。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! やっ! やめてくだ――ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっはああああああああああああ! お願いします! やめっ! ひっひっひっ! 私は――いやあああああああああああああああああああああああああああああ!」


 シャリーがこの世のものとは思えない、壮絶な悲鳴を発した。


「シャリー!」


 俺は『拘束魔法』を解除すると、急いでシャリーに駆け寄った。

 どういう類の攻撃かは不明だが、ひとまず『治療魔法』を試そうとした瞬間、シャリーが俺の腕を力強く掴んだ。

 その瞬間、シャリーの伝えたい情報の全てが、伝わってきた。


「かあ、さん……」


 それがシャリーの最期の言葉だった。


「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


 そうか。

 そういうことだったのか。


「あの、おにい……ゆきと、君?」


 アリエスが心配した様子でそう言った。


「全部わかったよ」

「どういうことだよ」


 と、アリアドネ。


「シャリーが何故こうなったのかも、本当の敵がなんなのかも」

「ど、どういうことですか?」


 アイリーンが、苦しそうに上体を起こした。


「本当の敵は魔王なんかじゃない。魔王は死んだ。本当の敵は」


 本当の敵は――


「『アルカディア王国』、この国そのものだ」

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