表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

12話 女装して変態親父の屋敷に潜入!?消えた少女を探せ

 世にも恐ろしい感染症――『タナトス』の広がった世界においても、しかし眠らない街『フォールヴァング』に静寂が訪れることはなかった。若い男女の話し声や笑い声が、そこら中から響いてくる。

 愛憎渦巻く夜の世界が、俺たちを迎え入れる。

 この街から俺たちは、仲間であるアリエスを見つけ出す必要がある。


「この人込みからアリエスを見つけるのは、現実的に考えて無理だろ」


 魔法を使えばいけるかもしれないが、3日後の戦いに備えて、なるべく魔力の消費は抑えていきたい。


「そもそもなんでアリエスはこんなところに来たんだ」


 と、アリアドネ。


「見当もつきません……探し出して聞くしか」


 と、アイリーン。


「待っていてって言ったのに、どうして来ちゃうかなー」


 と、アリエス。

 ん?


「って! アリエス!?」

「「ええ!」」


 アリアドネとアイリーンも驚きの声を上げる。


「えへへ、アリエスだよ!」

「えへへ! じゃねえよ! 逆によく見つけたな!」


 まさか逆にアリエスのほうから見つけられるとは。ええっと、俺たちはアリエスを見つけ出すために、この街に来たわけだから……。


「か、帰るか……」

「その前に!」


 と、アイリーンが力強い言葉を発した。

 そして、一呼吸の間を置いてこう続けた。


「どうしてこんなところに来ていたんですか?」


 アリエスは気まずそうに視線を逸らすと、おもむろに口を開けた。


「ニエルズに会いに行く」

「はい!?」


 アリアドネが素っ頓狂な声を上げた。


「いやいや、何言ってんのあんた! ニエルズがどんな男か分かって言ってんの!?」

「分かってるよ、アリアドネちゃん」


 アリエスは冷静に答えた。


「なんのために奴に会うんだ?」


 ニエルズは夜の街『フォールヴァング』の帝王とも言える男だ。そんな危険な人物に、理由もなくただ会いに行くなんてことはないはずだ。


「ニエルズが今夜、ルーシャスと密会をするという情報を掴んだから」

「なに!? ルーシャスと!?」


 ルーシャスはこの国――『アルカディア王国』の次期王だ。いや、既にこの国の王は未来の俺によって殺されたから、実質的に今はこの国のトップということになる。そんな男が、父を殺されたその日に、夜の帝王と密会をしているだと?


「それは……妙だな」

「確かに妙だけど……革命の三日前に気にするようなことなわけ?」


 アリアドネが釈然としない表情で肩を竦めた。


「そうだね。じゃあ、その密会の内容が――革命について、だったらどうする?」

「――ッ!?」


 その言葉を聞いた瞬間、その場にいた全員が凍り付いた。当たり前のことだが、革命のことをルーシャスが知っていれば、ナオミたちの作戦は崩壊する。


「そんな馬鹿な! なんでルーシャスが革命のことを知ってんだよ!? ていうか、仮に知っていたとして、ニエルズと密会する理由って何? あいつは夜の世界の帝王だよ。一体革命と――この国とどういう関係があるわけ?」


 アリアドネが困惑した様子でそう言った。


「それは本人に直接聞くしかないねー」


 アリエスは嘆息を漏らした。


「なるほどな。事情は分かったよ。それで、どうやってニエルズと接触するつもりだ? まさか殴り込むわけじゃないだろ?」

「ニエルズは定期的に『フォールヴァング』にいる女の子を手下に集めさせてるの」

「女の子を集めるだ? アイドルグループでも結成するつもりか?」

「あいどるぐるーぷってなあに?」


 ああ、この世界にはアイドルという概念は存在しないんだった。そこそこ異世界生活は長いのに、稀にこういうミスをやらかしてしまう。


「まあ、それはいいよ。なんのために女の子を集めてるんだ?」

「…………言わなきゃ、駄目?」

「あ」


 そうか。

 ゲスな男が若い女の子を集めてやることは一つだ。


「クズ野郎が……それで、アリエスはうまくそれに乗っかって、ニエルズの屋敷に行く作戦ってわけか?」

「そうだよ」

「なんて危険な真似を」

「だから巻き込みたくなかったの」


 そこは頼って欲しいところだが、アリエスらしいと言えばアリエスらしい。


「過ぎたことはいいよ。こうなった以上、俺も参加する。一緒に手下のところに行って、ニエルズの屋敷に潜入するぞ」


 とはいえ、『転生魔法』の反動もあって、魔力の回復は見込めない。いつも以上に慎重に立ち回る必要があるな。


「もちろんわたしも行く」

「わたしもです」


 アリアドネとアイリーンも乗っかってきた。


「まあ、そうなるよな。分かったよ」


 ここまで来て「帰れ」と言うわけにもいかない。そもそも、二人とも言ったところで聞き入れるタイプではない。


「でもゆきとさん、手下は女性を集めてるんですよね? であれば、ゆきとさんは無理なんじゃ……」

「あ」


 そうじゃん。


「それなら、わたしにいいアイデアがある」


 アリエスが得意げな笑みを浮かべ、俺の腕を掴んだ。


「ちょ!」


 アイリーンが謎のリアクションをする。


「こっちだよ! ゆきと君」


 アリエスは俺を引っ張って、服屋へと入っていった。店の中には客は一人もおらず、カウンターには眠そうな目をした女性がいた。木製の椅子に腰掛け、無言でこちらを一瞥すると、ばかでかい欠伸をした。


「あの! すいません!」


 アリエスが女性に声を掛ける。

 おいおい、一体何をする気だ?


「んー? なんだ?」


 女性はめんどくさそうにそう言った。

 いや、ナオミのときも思ったけど、客に対して「なんだ?」とか言います?


「ええっとね」


 アリエスは女性に近づくと、耳許でボソボソと何かを話し始めた。すると、ダルそうにしていた女性の表情が、見る見るうちに活気に満ちてきた。


「お願いできます?」


 アリエスの問いに対して、女性は悪戯に口許を歪めた。


「勿論いいよ! わたしに任せて! 芸術を見せてあげる」


 ん?


「ちょっと待て。一体なんの話だ」


 言っているうちに、店員の女性が立ち上がって、俺に近づいてきた。

 その瞬間、俺はコレから何が行われるか――全てを察した。



 ――10分後。



「はぁ……どうしてこうなるかなぁ」


 俺は試着室の中で、鏡に映る自分の姿を目にした。

 そこには、自分で言うのもなんだが、思わず見惚れてしまうような――そんな、美少女が立っていた。


「ぐぬぬ……」


 そうだ。アリエスの言ういいアイデアとは、俺を女装させることによって、ニエルズの屋敷に潜入可能にするというものだ。ニエルズは手下に女を集めさせる。だったら女に変装すれば、男であっても潜り込むことができる。シンプルな作戦だが、実際にやろうとはなかなか思えない作戦だ。


「もう! 早く出てきてよ! ゆきと君」


 言いながら、アリエスは許可も取らずにカーテンを開けた。


「えっ……」


 俺を一目見た瞬間、アリエスがなんとも言えない表情で固まった。


「おいおい、固まるのはやめろ! 何それ? どういう感情なの!?」

「か」


 か?


「かわいい~~~~~~~~~~~~~~! えっ! なにこれー! なにこの可愛い生き物!? お人形さんみたい! お~よしよし!」

「だぁあああ! やめろ! 俺に触るな!」


 俺は試着室から出ると、アリエスから逃げるべく店を出た。店員の「まいどあり~」という悪戯っぽい声が聞こえたが、もちろん無視した。


「へへへ! ゆきと君、逃げないでね~」

「へいへい、逃げませんよ、と」


 ここまで来た以上引き返すわけにはいかない。それに、女装して潜り込むというのは、確かに作戦としては悪くない。俺は観念してみんなの許に戻っていった。


「ん?」


 アイリーンが何やらガラの悪そうな若い男女と話している。


「アイリーンちゃん、どうしたんだろ」

「絡まれてるのか……」


 いや、それにしては様子がおかしい。

 まるで知り合いと話しているような……。


「おーい! アイリーン!」

「――ゆきとさっ!?」


 俺の存在に気づいた若い男女は、アイリーンに軽く頭を下げると、どこかに歩いていった。どうやら絡まれていたわけではないようだ。


「なんだよ、知り合いか?」

「い、いえ。知らない人です。ちょっと話を聞いていて……」

「……そうか」


 明らかに誤魔化しているが、誰にでも秘密の一つや二つあるものだ。これ以上追及するのはやめておこう。


「お姉さん、あの子たちが友達?」

「そうそう! みんなかわいいよ~」


 アリアドネの声が聞こえてきた。

 そちらに目を向けると、媚びたような表情のアリアドネと、チャラそうなお兄さんが、こちらに近づいてきていた。


「ゆきと君、覚悟を決めて。あ、声でバレるからなるべくしゃべらないようにね」

「お、おう……」


 チャラそうなお兄さんは俺たちに近づくと、爽やかな笑顔でこう言った。


「君たちもニエルズ様のところに行きたい?」

「は、はい! わたしたちみーんな! ニエルズ様にお会いしたいんですぅ~」


 アリエスが営業用と思われる高い声でそう言った。


「いいよー! 運がよかったら、ニエルズ様に気に入られるかもな。そうなりゃ一生くいっぱぐれることはない」


 一生、食いっぱぐれることはない。

 それは即ち、ニエルズの所有物として生きていくということだ。

 女性が権力を持ったクズ男の所有物となり――モノとして扱われる世界。


「腐ってる」

「ん? なんか言った?」


 しまった! まずい!


「あはははは! なんにも言ってないよね!? それよりも、早くニエルズ様のところに連れていってください~」


 慌ててアリエスがフォローを入れてくれた。


「お、おう。それじゃあみんな! 楽園に向かおうか」


 こうして、俺たちは用意された馬車に乗り、ニエルズの住む屋敷へと向かうことになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ